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2020年に見たブルーレイ3D


変換3Dは好まないので、ステレオカメラで撮影された映画ばかりです。


←2019年に見たブルーレイ3D →2021年に見たブルーレイ3D


201220


「モンティ・パイソン ある嘘つきの物語~グレアム・チャップマン自伝」
A Liar's Autobiography: The Untrue Story of Monty Python's Graham Chapman 2012

これはモンティ・パイソン映画ではありません。グループ創始者の一人グラハム・チャップマン(金髪の人)の1980年の自伝本を本人の死後に映画化したものです。監督もメンバー以外の人が務めています。ただチャップマンは生前にこの本の朗読を録音しており、映画はすべて本人のナレイションによって進行していきます。
それでこれ、アニメなんですね。そのことはよく知らなかったんですが、どういうわけか日本盤ブルーレイ3Dが出ていて、とにかくモンティ・パイソン関連には違いないし3D仕立てなら見てみるか、ということにしました。

パッケージ絵からは、「空飛ぶモンティ・パイソン」でのテリー・ギリアムの切り絵コラージュアニメみたいなのが途中途中に出てくるようなものなのかなあと思ってました。実際はほとんどすべてがアニメであり、ところどころ当時の実写映像が挿入されるというものでした。
しかもそのアニメイションというのがまあ贅沢というか、十四もの制作スタジオに自由に作らせていて、場面ごとにまったく違ったタッチのアニメが展開されるところは「イエロウ・サブマリン」みたいです。一貫したストーリーがあるわけではない回想録だからこういうやりかたができるんですね。

ケンブリッジ在学中にコメディサークルでジョン・クリーズと知り合い意気投合、共同で多くの脚本を書き次第に名が知られるようになります。しかし自伝はモンティ・パイソンの話よりも、自身がゲイであったことをわりと早い時期にカミングアウトしたことで大きな反響があったこと、また深刻なアルコール依存症とのかかわりなどといった生々しい話のほうが中心で、むしろそっちのほうが面白いってもんです。
始めに、ここで語られるのはでたらめばかりだというナレイションがありますから、どこまで本当でどこからがジョークなのかは判然としません。ケンブリッジ時代のエピソードのひとつ、王太后(エリザベス二世の母)が大学のお茶会を訪れた際チャップマンは王太后に酌をして、オーストラリアに留学すべきか悩んでいると話すと王太后から行きなさいと進言され決意したという話はさすがにでっち上げだろうと思いきや、メイキングを見るとどうも実話のようです。なにしろその時の8ミリ映像(カラー!)があります。
どうやら自伝は、大筋で事実・末節で誇張という感じのようです。

それにしてもそれぞれまったく違ったタイプのアニメイションがシークエンスごとに切り替わっていき、せわしないことと言ったらありません。手描きのがあればCGアニメもあるし、切り絵アニメをコンピューターで動かしたようなものもでてくるなど雑多で、面白いといえば面白いです。
その趣向はいいとして、しかしやはりディジタル仕様のアニメイションというものは、あんまりありがたみがありません。実はこれまで見る機会が無かった「ダンボ」(1941)を最近になって初めてブルーレイディスクで見たんですよ。やはりこれが動きから色彩から、圧倒的なんですね。低予算かつ短期間で作ることができるようになった利点は大きいことでしょうけど、CGIてのはやっぱりなにか大事なものが欠けているように思えてしまいます。

とはいえ、目まぐるしく変化する映像はたしかにモンティ・パイソン的と言っていいでしょうし、チャップマンのナレイション以外はエリック・アイドルを除く残りの全員が集結して声を当てているところも嬉しいですね。さらにゲスト声優としてキャメロン・ディアズが呼ばれてフロイトを演じています。
もう少しモンティ・パイソンのテレビシリーズや映画の裏話を聞きたかったねというところです。

ああそれでこれ3Dなんですよね(笑)。なんのために3Dにしたのか不明という感じで、たぶんただのジョークです。フルCGアニメはかなり古くて素朴なモデルによるタッチながら、当然空間はできています。しかし平面の絵を組み合わせたアニメでは、やはりそれぞれのパーツは書き割りのようになっていて、3D化は無意味に思えます。日本盤ブルーレイ3Dが発売されたことをもって画期的と言うべきでしょうか(笑)。





201213


「クボ~二本の弦の秘密」
Kubo and the Two Strings 2017

ストップモーションの人形アニメの分野では並ぶ者の無い境地に達しているライカ、去年新作の「ミッシング・リンク~英国紳士と秘密の相棒」というのがリリースされましたから、「クボ」はそのひとつ前の映画ですね。同スタジオはこれまでに「コララインとボタンの魔女」(2009)・「パラノーマン~ブライス・ホローの謎」(2012)・「ボックストロール」(2014)と順調に新作を作り続けています。
人形アニメというとなんといってもティム・バートン制作の「ナイトメア・ビフォー・クリスマス」(1993)であり、その素晴らしい出来ばえには度肝を抜かれたものです。その後もストップモーションの技術はますます高度化していき、バートンの「コープス・ブライド」(2005)でアニメイションを請け負ったライカは、もはやCGと見分けのつかないくらいのものすごい動きを作り出しています。

本作では舞台は江戸時代くらいの日本。主人公は三味線語りに身をやつした、侍の息子の少年です。祖父はなぜだか悪の権化である魔人で、母の姉妹もゾンビかキョンシーみたいになって母子を襲ってきます。
父・ハンゾーはすでに祖父 “月の帝” に殺されていて、どうも月の帝はクボも抹殺することでなにか強大な力が得られるというような理屈になっていたみたいです。後半飽きてきて字幕もよく見てなかったんでテキトーですけども(笑)。

そもそもなんでライカがこんな日本を舞台にした映画を作ったかというと、制作者たちが「日本が好きだから」ということがメイキングで語られています。これはおそらく本当なんだろうと思います。ディズニーがインディアンやポリネシア・中国などさまざまな異文化をテーマに制作しているのは、あくまでビジネス上の理由の世界戦略なんだろうと思えるのに対し、ライカのスタッフたちはみんな日本のアニメおたくに違いないからです(笑)。
ライカのリードアニメイターであるトラヴィス・ナイトが今回初めて監督を務めているところからも、その力の入れようはわかるんですね。なにしろ規模がものすごくて、ピングーみたいな手作り人形アニメとは隔絶した世界です。

でも、やはり見ているといろいろなところが気になってきて、がんばってはいるんだけど、なんだかなあ…という感じがぬぐえません。当然ながらせりふが英語だというのはまだいいとして、なにか描かれている風俗がちぐはぐなんですね。公卿と武家の装束の区別がついてないし、地べたに下駄を履いたままで正座するし、盆踊りで流れてくる音楽は炭坑節だしで(笑)。でも手を合わせてぺこぺこおじぎしたりしていないところなどは、多少は勉強したんだろうなとも思えます。
しかしなんといっても最大の違和感は主人公の名前ですね。クボは姓じゃなくて少年の名前なんですよ。苗字と名前の区別がついてないということだろうし、なにか日本人の名という感じのする響きがあるのかもしれないですね。「ガン・ホー」よりはましですか(笑)。

そういう日本人の観客にとってビミョーなところもあるうえ、人形アニメのありかたについても考えさせられてしまいます。
これまでのライカ作品はというと、ひとことで言うと「すごいけど面白くない」んですね。ストップモーションのアニメイション自体は、まったく信じられないくらい精緻で高度なものです。ところがそれが映画としては、あまり楽しくないんですよ。その理由はさまざま複合的で、難癖に近いものまで含めて述べるとすれば、ハイレベルになるほどなにか肝心なものが失われているんじゃないかということなんですね。

これらは一見するともうCGアニメです。今なお、ライカ映画を見てCGアニメだと思っている人も数多くいることでしょう。そこのところはライカ自身も意識しているとみえて、エンドロールでは制作現場のメイキング映像を挿入するという挙に出ています。種明かしをしないとわからないくらいのすごさだということなんですが、しかしそれはなにかおかしいんじゃないかという気がしますね。
CGがどんどん向上してきて実写に肉薄していることは「ライオン・キング」を見て実感しました。“実写と見分けがつかない” というのが褒め言葉になるわけですね。しかし人形アニメの技術が向上した結果、実写もどきであるCGと見分けがつかなくなってきた、というのは、人形アニメイターにとっては大いなる矛盾として感じられているんじゃないでしょうか。

さてこの映画、わが国でも少し遅れて劇場公開され、ビデオディスクも発売されました。嬉しいことにブルーレイ3Dも出ています。
ライカのアニメはどれも3D版があり、これは変換ではなくちゃんとステレオになっています。使われているのは3Dカメラではなく、一コマ撮影するたびに数センチ間隔にカメラをずらして二度撮りする手法で制作されてますから、本当に手間がかかっているわけです。
しかし3D効果がちゃんと出ているかというと、これまでのライカ映画がどれもそうだったように、本作でもあまりよく立体感が出てませんでした。やはり人形を動かしていくこと自体が大変な労力を要しますから、そのうえ緻密なステレオ映像の設計を加えることまではやはり難しいでしょうね。
まあでも、ライカにはがんばって続けていってほしいです。





201122


Banshee Chapter 2013
「パラノーマル・エクスペリメント」

またパラノーマルものです(笑)。邦題のエクスペリメントは実験という意味です。アメリカ・ドイツ合作の英語劇で、やはりかなりの低予算映画です。パッケージにはなにやら各種映画祭で受賞したかのようなマークが載ってますからちょっと期待していたものの、ホラーおたくの映画祭でならこんなでも受けるのかね…という程度でした。
「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」(1999)の亜流のドキュメンタリーもどきの手法ですね。報道映像や人体実験の記録フィルム、個人撮影のビデオといったもっともらしい素材とドラマを半々に混ぜた作りかたです。

アメリカで実際に大きな事件となった「MKウルトラ計画」を題材にしてあります。私は知らなかったんですが、戦後CIAが極秘に進めていたマインドコントロール実験が1970年代に明るみになり、その非人道的なありかたが社会に衝撃を与えたということです。しかし主導していた幹部が記録のほとんどを処分してしまったため内実は謎のままということで、そのためさまざまな憶測からこういったフィクションに応用されています。
「陰謀のセオリー」(1997)はメル・ギブソンがMKウルトラの被験者だったという設定なんですね。見たときは聞いたことの無いコードネームだったんで気づきませんでした。

冒頭にビル・クリントンの記者会見の様子が映し出され、神妙な面持ちで国民に謝罪しますと語っています。これは不倫のときのものじゃないでしょうかね。続いてこれもたぶん本物の、MKウルトラ計画の関係者のインタヴューフィルムで、当時は罪悪感など無かったと語っています。
それ以降はフィクションの映像になり、研究者が記録のために人体実験の様子を撮影したフィルムという設定の場面が出てきます。昔だったらそれっぽく見せるためには、フィルムが終わって真っ白になり糸くずや左右のパーフォレイションが写ってカタカタと映写機が空回りする音になるところですね。さすがにそれでは若い観客に通じないと思ったのか、映像が途切れたときの処理はシャッとノイズが走るビデオふうです。

話は現代で、MKウルトラ計画について研究している若い男が、実験に使われたのと同じものだという薬品を入手し、自らそれを服用してみるというところから始まります。その模様は友人がスマートフォンで撮影しており、薬を飲んだ後に奇妙な電波を感じた男の様子がおかしくなっていくところまでを見せています。それを撮影した友人は逮捕され、警察での尋問の場面も記録ビデオの形で出てきます。
まあそんなふうに、なにやら不穏な雰囲気をかもして映画は始まります。BGMは無くてなにか歪んだ効果音が低く流れているだけというのも定石ですね。

その二人は結局失踪してしまい、代わって薬を飲んだ男の恋人が彼の行方を探るという筋立てになっていきます。彼女はジャーナリストで、現代によみがえったMKウルトラの亡霊を仕事として追うことになります。ここからがドラマの映像ですね。
なにかを知っているふうの、奇行で知られるいわくありげな作家が出てきます。ジャーナリストが新たに知った事実を作家に教えると作家も乗り気になってきて、二人して奇妙な電波の発信源を探るなどの探索行を始めることに。

結局この映画では、どうも真相はCIAの陰謀ではなく “奴ら” の仕業だということになっていくんですね。 “奴ら” の正体は明かされないままですが、どう見ても人間じゃない者です(笑)。黒目に蒼白で歪んだ表情といった演出は、日本のホラー映画の影響なんでしょうかね。
なんにせよ演出は単調で、一瞬だけ化け物のようなのを見せて観客を驚かせるというありきたりな手法に終始していて、新味はありません。作家役のテッド・レヴァイン(『羊たちの沈黙』[1991]のバッファロー・ビル!)は怪演といってよく、印象的です。

さてそれで3Dのほうはというと、ちゃんとステレオ撮影されていて立体効果もいちおう出てはいます。しかしこれ、そもそも3Dにする必要があるのか? というタイプの映画で、ミスマッチ感満点といっていいです。ドキュメンタリーもどきなんで記録映像の画質が悪く、ドラマ部分もそれに合わせてロウファイにしてあるうえ夜の場面が多いため鮮明な立体映像を見ることができません。
しかも、報道フィルムや実験の記録映像まで3D変換してありますから、見ていてそりゃないだろうというがっかりした気分にさせられるんですね。わが国では劇場未公開・ビデオ発売のみです。




201115

Paranormal Xperience 2011
「パラノーマル・エクスペリエンス」

B級ホラーの世界では「~オブ・ザ・デッド」ものと並んで「パラノーマル○○」がはいて捨てるほど出てますね。本作はわりと珍しいといえるスペイン映画で、同国初の3D映画だそうです。
しかし中身はというとパッケージ絵からもわかるとおり、「悪魔のいけにえ」のレザーフェイスや「13日の金曜日」のジェイソンみたいなのがでてきて殺戮を繰り返すだけの、出来の悪い亜流に過ぎません。犠牲者たちもお決まりのパターンで、若手の人気俳優(たぶん)を五六人出して人里離れた廃墟に閉じ込め一人ずつ殺されていくというようななんの変哲も無い話は、先週見た「ヒドゥン」とたいして変わりありません。

心理学専攻の学生たちが、単位欲しさに教授から調査を命じられた幽霊屋敷として知られる廃墟に乗り込みます。幽霊が見えるのは自己暗示が原因であるという学説を証明するため、という名目ですね。これに従わないと落第してしまう落ちこぼれたちはしぶしぶ連れ立って行っているわけで、はなからやる気などありません。
そういうシチュエイションだとはいえ、お互いののしり合ったりふざけたりしているだけの有様は見ていてまったく不愉快で、そんな奴らが無残に殺されても特段の感慨も覚えません(笑)。はい次誰? みたいな。

こういう、様式と化したスプラッターものは、面白い殺されかたをいろいろ工夫して見せるというのがセオリーなわけですよね。それからするとこの映画ではいかにもその工夫が足りません。文章に書いたとすればけっこうエグい方法なのに、見せかたがあまりにさらっとしていておざなりです。
もっとも一般映画の場合はレイティングもあるし、お国事情ってものもあるでしょうからねーむちゃくちゃするのは簡単ではないのかもしれません。「悪魔のいけにえ」の、人をひょいと屠殺用の鉤に引っかけて吊るしたときのあのショックはめったに味わえるものではありません。

まあ話はそんなのでもいいとして、肝心の3Dのほうですね。これがまたぜんぜん効果が出てなくて、ちゃんとステレオカメラで撮影してあるはずなのにまるで奥行きが出ていません。見ていて、これは変換なんじゃないだろうかと思えるようなショットの連続なんでどうも不可解です。3Dカメラで撮ったのなら、こんな平板な立体映像になるはずないんですけどねー。初めて取り組んだ3D撮影で、機材の扱いかたがわからなかったんじゃないでしょうかね(笑)。





201108

Hidden 3D 2011
「ヒドゥン」

イタリア・カナダ合作の英語劇で、平凡な低予算ホラーです。モノトーンに近いダークな映像は高画質だし、プロダクションデザインもわりとちゃんとしていて平均的な商業映画のしつらえにはなっています。しかし話はホラーファン向けのお約束をなぞるだけのなんのひねりも無い展開で、B級映画の無鉄砲な破綻ぶりさえありませんから、ただただ退屈なだけです。
この程度のどっちつかずの映画が、いちばんどうしようもないんですよね。昔だったらフィルムの無駄というところですが、今ならなんて言うんですかねー「ハードディスクの無駄」じゃなんか感じ出ないですね(笑)。

マッドサイエンティストの遺伝学者が、偶然発見した新たな種の創造の過程をビデオに記録しながら公にならないまま没してしまい、主宰していた療養所は閉鎖され一人息子に相続されることになります。
息子は幼少のころに遺伝学者の非人道的な人体実験を目撃していたことでそれがトラウマとなっており、長じても酒びたりの自暴自棄の生活ぶり。そこに療養所施設の相続の話が伝えられ、気が進まないながらかつて過ごした因縁の場所へ…という、まあどこにでも転がっていそうなストーリーです。

主人公の親友は口八丁の山師タイプで、「シャイニング」のホテルのようなロケイションの療養所を温泉リゾートに改装してひと儲けしようと企み、愛人やその弟カップルなどぞろぞろ引き連れて現場入りします。
当然この後は館内ツアーの途中でひとりずつ行方不明になっていくというお決まりの展開となっていきます。しかしその呪われた館がどのように呪われているのかがいまひとつ不明確で、謎の昆虫の大群やら子どもの亡霊やら拷問器具やら、なんとなくコワい感じの小道具を中途半端に配してあるだけで、その後盛り上がる展開にはなっていきません。芝居の演出は学生映画レベルです。

それでもこれ、ちゃんとステレオカメラで撮影してあるんですね。ほとんどが古い建物の中での出来事なので、空間をうまく描けていればいいけども…と期待していたものの、ほぼ裏切られました(笑)。ところどころいいショットはあるにあるとはいえ、全体に平板な3Dになってしまっていてぜんぜん物足りません。
当然ながらブルーレイ3Dの日本盤など出ているわけもないので、UK盤を買いました。でもこの映画、わが国で劇場公開もされビデオも発売されています。あらかじめレンタルDVDを借りてきてせりふの確認をしたんですが、そのときは「おっここはいい3Dになってそうだぞ?」と思えるようなシーンがいくつかあったため、それを見込んでブルーレイ3Dを見てしまったんで余計がっかりです。

今月はまたこの手の低予算ホラーを続けて見てみようと思っていて、ちと幸先の良くないことになってしまいました(笑)。さておあとは。





201018


Legendary 2013
「レイク・モンスター~超巨大UMA出現!」

今度は湖の怪物です。イギリス中国の合作の英語劇で、中国内陸部の湖を舞台に未発見生物の学術調査隊の冒険を描くアクションです。これまたB級映画なんですが、先週見た「シー・トレマーズ」よりはずっとちゃんとした作りです。まあ並みの出来のB級アクションものというところですね。
モンスターは大トカゲです。バルゴンみたいな感じで10メートルくらいですから超巨大というほどではありません。こちらは完全にCGです。

話は大トカゲが襲来するパニックものというわけではなく、秘境に棲息する珍獣を生け捕りにして保護するのが目的の研究者たちと、あくまでハンティングによって売名しようと目論む密猟者との対決という構図です。
その悪者がドルフ・ラングレンで、これが意外といいんですね。私はラングレンの出演作はほとんど見たことが無いものの、少し前に見た3D映画「ユニヴァーサル・ソルジャー~殺戮の黙示録」(2012)には出ていて、そのときもちょっといい印象がありました。今回はあくどい人間に徹した鼻持ちならないマッチョなハンター役です。
主演の生物学者がスコット・アドキンズという人で、偶然ですけどこの人も「ユニヴァーサル・ソルジャー~殺戮の黙示録」に出てます。

ストーリー展開や演出に関しては特筆するものは無く、SF設定もテキトーです。ところがこれが3Dの出来ばえが抜群で、まったく素晴らしい立体映画になってました。やはり見てみないとわからないもんですね。
ほとんどの場面がパンフォーカスで撮ってあって、画面の手前から奥まで手に取るように位置関係がわかります。屋外でのロケシーンが多く、明るい陽光のもとで撮影してあって映像がくっきりしているところがまずいいですね。それだけではなく、夜のシーンや洞窟内のセットでの撮影も照明が巧みで、文句の無い立体映像をものにしてあります。3D映画がどれもこんなふうに撮ってあればいいのにと思えるような会心の映像といっていいです。

しかしこの映画、わが国では劇場未公開でビデオ発売のみなんですね。先週見たクズ映画「シー・トレマーズ」は劇場公開されてますからわからないものです。まあ確かにこの「レイク・モンスター」、とりたててB級アクション好きにアピールするものの無い平凡な映画であるには違いありません。
しかし≪劇場公開作品≫とビデオのパッケージに記載されることが多いように、映画館にかかったかどうかがその映画のステイタスにつながることは確かです。仮にこの二枚を見比べてどっちを見ようか考え、劇場公開作なら面白かろうと「シー・トレマーズ」を借りた人は、がっかりすること確実です(笑)。世のなか理不尽にできたものです。





201011

Amphibious 2010
「シー・トレマーズ」

パッケージのデザインはわりと普通のパニックアクション映画ぽいですが、完全にゴミ映画です(笑)。ジョーズものではなく、下から襲いかかっているのは巨大サソリで古代生物という設定ですね。原題のamphibiousは水陸両用という英単語で二面性・二重人格というようなニュアンスもあるそうで、両生類のamphibianともひっかけてあるんでしょう。
しかし邦題がなにしろ「シー・トレマーズ」ですから、もう見る前からパチもの的なジャンク映画であることは見当がつくとはいえ、実際見てみるとそれ以上でした(笑)。

主演が、中堅どころというよりは「ストリート・オブ・ファイア」(1984)以降はB級アクション映画の道をひた走っているマイケル・パレです。実際のところこの映画のセールスポイントといえるのは主演がパレだという点だけなんですけど、それで日本盤ビデオソフトが出ているだけでなく劇場公開までされてますから大したものです。
監督がこれまた超B級映画ひと筋の人で、フィルモグラフィを見ると「新・死霊のしたたり」だの「バタリアン・リターンズ」だの「ターミネイター2018」だの、もう現代版エド・ウッドもいいとこです。

オランダ・インドネシア・イギリス合作の英語劇です。舞台はインドネシアの沖合、海上に材木と竹で建造されたわりと大きな高床建屋に寝起きして漁をする愚連隊と、そこに立ち寄った海洋生物学者が化け物サソリに襲われます。
話はオカルト風味も交えて一人またひとりと謎の大サソリの餌食になっていくという、そうなっていくんだろうなと思うとおりに進んでいきます。予算の都合上、水中撮影はほとんどありません。サソリはとにかくでかくて、始めは先っちょに針のある尻尾だけが出てきて何人かを突き刺します。

本体は最後のほうになって全貌を現し、甲板にでんと上がって雄叫びを上げます。東宝のエビラみたいな感じです。がんばって実物大モデルを作ってあり、意外と迫力あるとはいえ動くようには出来てないため鎮座ましましているだけです。動きのあるところはやはり全部CGですね。
演出は極端にユルくて、緊迫感やスピード感も無ければすごいスタントもありません。ちんぴらの一人がやられて、引き揚げられたら腹から下が無くなっていたという特撮シーンはなかなか良かったです。サメと違って水陸両方で暴れるモンスターなんでコワいだろ、と観客に思わせるのがプロデューサーの狙いだったんでしょう。

でもこれちゃんとステレオカメラで撮ってあって変換3Dではありません。それで3Dの出来が良ければ私としてはOKなんですが、これもどうも今ひとつの立体効果だったんでがっかりです。
建物内の場面などはできるだけパンフォーカスにしてほしいのに、手前にフォーカスを合わせて背景をぼかすという、普通の2D撮影の手法のままです。カメラマンが3Dについての知識に乏しいと思える映像です。
しかしiMDbで調べてみるとステレオグラファーはシンガポールの人で、徐克(ツイ・ハーク)の諸作や香港ホラーの「重生 The Second Coming 」でリードステレオグラファーを務めてますから、これは一流です。やはりいくら助言者がまともなことを言ってもカメラマンがそれを理解できなければ無駄ってことなんでしょう(笑)。





200920


The Lion King 2019
「ライオン・キング」

先週「ジャングル・ブック」を見て驚いたのが、実写だとばかり思っていたジャングルの背景がすべてCGだったということです。これに続いてジョン・ファブローがディズニーから雇われて撮ったのが、超の付く人気作の「ライオン・キング」です。ニュークラシックとでも呼べる、本編のみならずサウンドトラックやミュージカルなどでも大いに売れたコンテンツですから、ディズニーもさぞ力が入ったことでしょう。
我々素人は「大規模予算」などとよく口にしますけど、実際のところ映画製作ってものにはいったい何にどれだけ金がかかっているものなのかはさっぱり見当もつきません。でもこれまた素人考えながら、実際にアフリカまで行って本格的な撮影をするコストが無い分、ディジタル加工にすべて傾注できるわけですね。たいへんな金と時間がこれに費やされたであろうことは画面を見ればわかります。

私はオリジナルのアニメ版(1994)はロードショウで見に行き、それなりに楽しめたほうです。まだ(基本的に)手描きの時代で、さすがにディズニーだけのことはあるというような出来ばえですね。ただわが国においては、「ジャングル大帝」のパクりだという騒ぎもあって、受け止めかたは微妙なところがあります。しかし手塚治虫も「ジャングル・ブック」の原作小説や、それこそアニメの「バンビ」におおいに触発されてのことですから、どちらがどうということはありません。とにかく、ディズニーの事業拡大路線にどんぴしゃハマった映画だということです。

さてそれらの思惑も胸に臨んだ(笑)新「ライオン・キング」、実写ではないしCGアニメと呼ぶにはあまりにも細密な絵だしで、なんと称すれば良いのかよくわかりません。全編がまさしく超リアルな映像です。
ディズニーアニメの伝統として、動物を扱うときはその本物を徹底的に観察し動きを分析することで知られています。本作でも、あたかも本物のライオンを見ているような身のこなしで、せりふをしゃべりながらもごろんと横に寝そべるような仕草などにも見てとれます。
例えば主要キャラクターたちの顔つきですね、アップで写ってせりふを語るときでも、その目つき顔つきにはアニメ的な誇張はまったくありません。しかしそれが見ていて違和感があるかというと、さすがにこれがぜんぜん感じないんですね。ここのところがおそらくファブローとしても最も努力した演出なんじゃないかと思います。

ただ、オリジナル版のアニメから舞台ミュージカルへの大成功というこれまでの延長上で、また新たなビジネス上の大黒柱になりうるような映画になっているかというと、そこまでのポテンシャルは感じられません。「アナと雪の女王」のような社会現象的なヒットには程遠い感じです。
それでもディズニーとしては、「ジャングル・ブック」や本作でのCGIの取り組みは今後のディジタル映画製作に充分活用できるわけですから、元は取れることでしょう。こういった実写ともアニメともつかない映画は今後はますます当たり前になってくるでしょうから、本作で作られた映像データはあらゆる種類の映画に流用されていくはずです。

まあそんなようなことはさておき、肝心の映画のほうですね。アニメ版は久しく見てないので詳細は覚えてませんけど、ストーリー展開はたぶんそのまんま再現です。導入部の、親族間の確執から中盤のお気楽ミュージカルを経てクライマックスの悪役との対決という流れは、改めて見るとわりと単純なお話だったんですね。
主人公のシンバの子猫時代から始まり、群れを離れて過ごす青年期から、立派になって王国に戻ってくるというサークルオブライフが描かれているものの、ヒーローの成長物語としてさほど大仰に演出してあるわけではないところは、私としては好感が持てます。ファブローの手腕は確かだといっていいと思います。

父王の弟のスカーが悪役ですね。オリジナルはたしかジェレミー・アイアンズで、その声は強く記憶に残っています。本作ではキウェテル・イジョフォーという若手が担当しており、これはちょっと物足りない感じです。今回のヴォイスキャストで印象的なのは父王ムファーサと母サラビで、ジェイムズ・アール・ジョーンズとアルフレ・ウッダードが演じています。
ほかにもイボイノシシやミーアキャットのコメディリリーフはこちらでも快調で、かなり面白くできていていいですね。スカーの手下のハイエナたちもオリジナル以上の怖さで描いてあります。マンドリルもいい味出してます。

「ジャングル・ブック」では子役の芝居はステレオカメラで撮影された本物の3D映像でしたが、本作は99.99パーセントがCGです。100パーセントではないのは、冒頭の平原の日の出のショットだけ実写だからです。ファブローが出てくるビデオディスクのイントロダクションでそう打ち明けてました。
「ジャングル・ブック」では知らずに見たので実写だとばかり思っていた映像、今回はその気で見ましたから、たしかにCGではあるなと気が付くところもいろいろありました。しかしそれでもすごいクオリティでまったく驚きです。今ごろになってCG見て驚くことになるとは思ってませんでした(笑)。

やはり本作でも、素晴らしい3Dになっていて良かったです。始めと終わりは平原が舞台で、ここは広々とした空間が描けてます。しかし見どころはやはり中盤のジャングルの中で、色彩も鮮やかだしさまざまな森の要素が見事に描けていて、CGアニメの立体映画もやはりなかなかのものだなと思えます。
今後はこの手のスーパーCGアニメがいろいろ出てきてそれが3D化された場合は、ファブローの二作を引き合いにしての比較になっていくことになりますね。もっと見てみたい感じです。

ちなみに本作のビデオディスクは、とうとう日本盤のブルーレイ3Dは出ませんでしたから輸入盤で買いました。3Dビデオはますます縮小していくみたいです。
それから音楽では、エルトン・ジョンが新曲を歌っていてエンドロールで流れてました。サウンドトラックCDを買うことにします。





200913


「ジャングル・ブック」
The Jungle Book 2016

ディズニーアニメの1967年の同名作を実写化したものですね。このところディズニーは長編アニメの人気作を次々と実写映画化しており商売に余念がありません。フィルモグラフィをあらためてみると、ティム・バートンが撮った「アリス・イン・ワンダーランド」が2010年。でもこれはアニメの実写化というよりはバートンワールドそのものでしたから、次の「シンデレラ」(2015)が2000年代に入ってからの動きのはしりということになるでしょう。
その次のがこの「ジャングル・ブック」で、続いて「美女と野獣」「ダンボ」「アラジン」「ライオン・キング」「ムーラン」ともうディズニーランド状態です。

実は私はオリジナルのアニメ版「ジャングル・ブック」を知らないんですよ。また1994年のジェイソン・スコット・リーの実写版も見てないし、原作小説も読む機会がありませんでした。そのためどういう話かは知らないとはいえ、まあだいたい見当は付きます(笑)。予想と違っていたのは、主人公の少年が人間社会には戻らず、劇中も人とはまったく接触しないという点でした。
もしこれがアニメ版に準じたストーリーと演出であるなら、「ライオン・キング」は「ジャングル・ブック」の主人公をライオンとしてアレンジしたものということになりますね。

実際この映画では、人の少年はヒトでありながらまったくのジャングルの動物の仲間であり、下界の村に侵入してあるものを盗んでくるところなどは、人里に迷い込んだサルやイノシシ、クマと変わりません。
監督はジョン・ファブローです。若手では娯楽作をそつの無いタッチでまとめる実力派ですね。興味深いのは「ジャングル・ブック」の後にアヴェンジャーズの二作を経て、「ライオン・キング」もこの人が手がけている点です。本作での知見を生かしてあるのは言うまでもないところでしょうから、見るのが楽しみです。

さてそれでこの新ジャングルブック、どうだったかといえばなかなか面白くできていて感心しました。やはり見る前に懸念していたのは、狼少年などという荒唐無稽な設定を無理なく見せているかどうかという点です。
主人公の坊主は痩せっぽちの貧相でぜんぜん野生児ぽくないものの、わりと表情豊かでうまく演じていました。しかし動物たちとは普通に英語で会話するし、さまざまな動物たちが仲良くやってるしで、そんなばかなって感じではあります。このあたりはまんがならいいとしても、実写映画だと映像のリアルさと設定の不自然さのギャップがどうしても気になります。

そこは演出の力で克服すべきところであり、ファブローはこれをうまく見せていてさすがです。コメディ要素やミュージカル演出もほどよく(クリストファー・ウォーケンの達者な歌を聞くことができます)、自然への畏敬を感じさせながら幕を閉じます。
しかしこの映画、最大のポイントは映像です。驚くべきことに子役が演じている以外の部分はすべてCGなんですねーちょっとにわかには信じがたいほどです。そのことは見終わってから調べてわかりました。見ているときは、動物がすべてCGなのは明白ながら背景の多くはロケ撮影だとばかり思ってました。あまりにもリアルな画像で、知らずに見たら実写としか思えません。

今回この映画を見た理由は、変換3Dではなくステレオカメラで撮影された立体映画だったからです。それは事実なんですが、実際は「シン・シティ」と一緒で俳優の部分だけを3D撮影し、あとはすべてグリーンバックで合成してあったんですね。これほとんど意味ないんじゃないかとも思えますけど、CGの3Dデータと合わせるには実写部分も初めから左右に分割した絵のほうが作業しやすいのかもしれません。
そのため見ているときは、広大な山河の情景やジャングルの様子は、やっぱりステレオカメラで撮影した風景は違うねーなどと思ってました(笑)。なにしろコマ落としで空の雲がばーっと流れて時間が経過していく場面まであるんですから。ほとんどイリュージョンです。

でも全体にほんとうに素晴らしい3D映像になっていて、ファブローが3D好きなのかステレオグラファーが優秀なのか、いずれにせよ立体映像に関する明確なポリシーがうかがえる映画になっています。ポップアップ絵本を模したエンドロールもナイスです。
さてこれで次は「ライオン・キング」で、これも3D映画です。これは人間が出てきませんから、実写部分の無いフルCGということになりますね。今度は見る前からCGだとわかってますから、つい鵜の目鷹の目で見てしまいそうです(笑)。





200823


尋龍訣 Mojin: The Lost Legend 2015
「ロスト・レジェンド~失われた棺の謎」

中国映画のトレジャーハンターものですね。相当な規模の制作費をかけてあり、最近見た西遊記シリーズもそうですが、かつてとはけた違いのスケールになってきています。
しかしこっちのほうはまったくの子どもだましと言っていいような低俗さでどうしようもないです。この手のアドヴェンチャーストーリーはそもそも荒唐無稽であるのが出発点ですから、それをいかにもっともらしく見せていくかが鍵となっていくわけですね。その点この映画は設定のすべてがお手軽で、まんがかテレビゲームそのものというところは、作り手もそんな世代になってきているのかなあと思えます。
それでもちゃんと商売にはなっているようで、大陸では大ヒットだとか。

主人公トリオは始皇帝の時代から綿々と続く探金官なる官職の担い手だといういわくからして笑わせる感じですね。忍者の末裔だとか卑弥呼の子孫だとか言っているようなもんです(笑)。まあそれはいいとしても、新たに舞い込んだ仕事がモンゴルの平原にあるという洞窟の盗掘です。これが主人公たちにとって二十年前の重大な出来事とリンクして壮大なドラマ(ほんとはしょぼい)に発展していきます。
1969年、下放政策でモンゴルに送られてきたグループの中に若き日の主人公たちがいます。トラックがエンコして立ち往生している場所が偶然にも広大な日本軍の地下要塞の真上で、あれこれやっているうちに全員地下要塞に迷い込みます。

そこで謎の光線が閃いたかと思うと日本兵のミイラがゾンビとなって襲いかかってくるやらなんやらで、淀川長治なら呆れたような顔でコワいですねェ~と言うところです(笑)。まあとにかくその場は日本軍の弾薬庫でもあったこともあり全部爆破して灰燼と帰してしまいます。
ところが二十年後、すっかり落ちぶれてしまった探金官たちが請け負った仕事がその地下要塞の発掘で、依頼者である日本の新興宗教の教祖が言うにはそこに眠っているあるモノが人類を救う…らしい。実はその地下要塞、もとは古代中国に巨大な洞窟に建造されたモリアの坑道のような神秘の宮殿で、八卦だか風水だかによるトラップが盛りだくさんの迷路状態になってます。
でもちょっと待てよ二十年前にすべて破壊されたのでは…などと疑問をさしはさんではいけません(笑)。全部ちゃんと残っていて生贄たちを待っていたわけですね。まあそんなこんなでいろんなことがあって、最後はやっぱり全部崩れ落ちて終了です。三人は主人公ですから死なずに脱出して、ようやく映画は終わります。

いくら金がかかっていても演出は田舎芝居もいいとこで、内陸部の観客層ならこれでも喜んでくれるんでしょう。こちらとしてはもう恥ずかしくて見てられないというようなレベルですから二時間は苦痛でした。
しかし私としてはそれでも3Dのほうの出来が良ければそれでOKなんですけど、まるで物足りないものだったんでがっかりです。いちおうステレオカメラを使って撮影してあることはあるとはいえ、多くのシーンは変換3Dです。それだけに、ときどき本物の3Dショットが出てくるとおっと思えるものの、基本的に立体映像を重視した制作態度ではないため見ごたえはありません。それはもうこの前見たタイの3Dとはまるで比較になりません。

ちなみにこの映画、わが国でも劇場公開されています。ポスターには出演者の中でもっとも有名な舒淇(スー・チー)がメインに描かれてます。変わらないですねこの人。
レンタルDVDも出ていたのでせりふを確認することができました。ブルーレイ3Dの日本盤は出ているはずもなく、買ったのはドイツ盤でスティールブックでした。





200816


The Second Sight 2013

これもタイのホラーものです。監督は「3AM」二作には参加しておらず、知らない人です。映画会社が同じところが作ってます。
幽霊ものなんですが、ホラーというよりは謎解きサスペンスのほうに重点を置いたストーリー展開で、恐怖演出はさほど強くありません。亡霊はおどろおどろしい見かけをしているとはいえ、どちらかといえば背後霊かなにかのように後ろをただついてくるだけといったような感じです。
また主題としては大いなる純愛であり、大人のデートコースにぴったりといった軽いテイストですね。M・ナイト・シャマラン的なファンタシーです。
これまたわが国では劇場公開なし・ビデオソフト発売もされていません。

初めのナレーション(香港盤で英語字幕が付いていたのでなんとなくわかりました)では人のカルマについて触れています。やはりタイは仏教国らしくその思想が広く浸透しているようです。因果応報の律により誰しもが過去と現在・未来が決まるというようなよく知られた理屈が述べられます。
主人公は幼少のころから超能力を持っており、これがアイシーデッドピープル的なものなんですね。人を見るとその人の死にざまが見えてしまうというなんともかんとも困った能力です(笑)。その人に触れるとその人の過去の様子や業の深さまでわかります。
それなら占い師にでもなればもうウハウハのガバガバでしょうけどそうはならず、弁護士になってるんですね。これが捜査官だったら最強というところ、あくまで弁護士ですから真犯人であっても司法権力から守らなければならないというアンビヴァレントな行いに、深い業を自ら感じています。

ある日、車で移動中に自分もあわや巻き込まれるかというような玉突き事故に遭遇します。そして関係した複数の車の搭乗者のうちただ一人生き残った若い女の弁護を担当することになるんですね。世間ではこの女の過失によって多くの命が失われたと目されており、報道と輿論も依頼人を糾弾する方向です。
しかし弁護士には、この事故は女の背後霊の仕業によって引き起こされたことが霊視できるわけですね。でもその理由まではわからない。映画はその謎を追う展開になっていきます。

同時進行で、弁護士と婚約者とのラヴストーリーも描かれます。結婚も間近で、仕事も悩みは大きいながらも順調ですから幸せいっぱいというところです。しかし当然のことのようにこちらも謎の不吉な現象が巻き起こり、弁護士は次第に両者に関係があることに気づきます。このあたりは少しずつ謎をひも解いていく進行具合で、わりとうまく演出してあります。
最後は、弁護士の大いなるカルマの環が暴かれ、ああそういうことだったのかと納得いくようにはなってます。まあ話としては悪くないドラマになっているといっていいでしょう。

それよりこれ、3Dが素晴らしいんですよ。やはり「3AM」シリーズと同じスタジオ制作ですから、3D監修・機材も同じシネトイズという会社が手がけています。夜のバンコクを車で走るシーンは遠くまでよく見えて臨場感があります。車はトラックに載せて撮影するのではなく、実際に役者が運転しているため車体全体が見えていていいですね。
また寺院のシーンも抜群です。極彩色の寺は内部の照明も充分でシンメトリーな構図。門から一番奥の部屋まで見通すことができてすごい3Dになっています。
「3AM パート2」の第一話のときも感じましたが、このプロダクションは照明が巧みですね。特に夜間撮影が得意のようで、画面内のさまざまなポイントを照らすノウハウによって立体映像にとってもそれが非常に大きな効果をあげています。

いっぽうでCGIのほうがまるでダメダメで、CGと実写の合成はずれまくってるし、橋から車がカメラに向かって落ちてくるような合成もまんがに近い演出効果で三十年くらい前のテレビドラマを見ている感じです。
そのあたりはもう笑って見ていればいいとして、でも肝心の役者の芝居は真っ当なもので、安っぽい昼メロ的な感じはありませんからいいですよ。何本か続けてタイの映画を見てみた感触は、ちゃんとレベルアップを図って成長している産業なんだなということです。





200809


3AM Part 2 2014

先月の続きです。タイのホラーものオムニバスで、やはり三話構成です。パート2では、それぞれのエピソードはリンクしており切れ目なしに次のストーリーに移っていくというふうに見せかたを工夫してあります。
前作の三人の監督のうち二人が継続していて、「ゴースト・フライト407便」(2012)のイサラー・ナディーは今回もトリでやはりコメディ仕立て。また前作の第二話「コープス・ブライド」のキラティー・ナキンタノンは修道院学校での都市伝説ものをやってます。
今回はいずれも、午前三時に恐怖が訪れるという基本設定にはあまり固執しておらず、わりと自由に話が展開していくというところはそれでいいんじゃないでしょうか。

映画全体から受ける印象は前作と同様に、低予算ながらなかなか高水準の出来になっているということですね。映像のクオリティが非常に高いです。演出もこなれていて、わが国のミニシアター系の劇映画と同レベルといっていいんじゃないでしょうか。タイの映画産業にはB級娯楽映画だけでなく、アーティスティックな感覚もちゃんとあるところは注目に値します。
もっともそんなに手放しで褒められるようなものというわけでもなく、まあB級ホラーには違いないけど意外といいよという感じです。やはり話が平凡で、とてもハリウッドリメイクなどというわけにはいきません。

でも3Dがパート2のほうもいいんですね。オープニングの、紙細工を作る工程をスローモーションとクローズアップで撮ったシークエンスがまず見ごたえがあり、きちんと3D撮影してあることがわかります。
特に第一話の「第三夜」がこれは抜群です。恋人が心変わりしたことに怒り狂い、相手をオートバイで追跡中に事故死してしまった入れ墨師の葬儀のシーンから始まります。葬儀場から裏町、真夜中の公園とどのショットも素晴らしい立体効果が出ていていいですね。
クレジッツを見るとこの第一話、3Dカメライクイップメントを請け負った会社のスタッフが撮影監督とステレオグラファーを兼ねていますから、道理で見事な立体映像になっているわけです。
監督は一作目には参加していなかった人ですが、恐怖演出もよく出来ていて、亡霊ものとしては上出来の部類でしょう。

ただ第二話以降がぱっとしないところが残念です。第二話「修道院」は、女子の寄宿舎での色恋沙汰と首なしピアニストの怪談をからめてあり、えらくボーイッシュな子とのレズビアン風味です。女子中高生好みの題材でしょうか(笑)。また第三話の「供物」は例によっておふざけ気味のナディーの演出で軽いおちゃらけに終わってしまってます。供物工場の旦那はジャン・ロシュフォールを思わせるコメディリリーフになっていて笑えます。
映像自体はいいものの、どちらも3Dが今ひとつであって惜しいですね。





200719


3AM 2012

先週見た「ゴースト・フライト407便」(2012)の監督が次に手がけたもので、単独作だと思っていたら三人の監督が撮った短編によるオムニバスでした。まったくのクズ映画だった旅客機ものはわが国で劇場公開されているのに、このオムニバスは日本盤ビデオすら出ていないことから、その出来は知れているものと思っていたところ、意外なことにこちらのほうがずっと優れたものになっていました。
もっともストーリー展開はいずれもわりと平凡で、配給会社からするとセールスポイントに欠ける売りにくい映画だと思われたのかもしれません。

なにが優れているかというと、映像がこれが断然いいです。画質の良さというだけでなく、照明や構図などの画作り全体のクオリティが高くて非常に見ごたえがあります。「ゴースト・フライト407便」がシネマコンプレクス向けのアトラクション映画だとすれば、こちらはアートシアター系ですね。
3Dが素晴らしくて、これはまったくのところ文句なしと言っていいほどです。ヴェンダーズの3D映画を思い出しました。人毛かつらの製造販売店やモダンな洋館を舞台としており、とても3D向きのシチュエイションにしてあるところがまずいいです。

午前三時に亡霊が現れて登場人物を恐怖に陥れるというテーマを設けてあります。
第一話はバンコク市内のかつら店での話。店主夫婦が旅行に出かけている間の店を任された娘は、なじみの客から仕入れた人毛を使ってウィッグづくりをするんですが、これが実は不法に墓をあばいて死体から取られた毛なんですね。そりゃ大事な髪を切り取られたほうからすれば化けて出たくなってもくるというものです。
そうとは知らない長女は、酒盛りに集まってきた妹の友だちらと作業場に閉じ込められ、午前三時の鐘の音を聞くと一人またひとりと呪い殺されてしまいます。頭部のマネキンがずらっと並んだ作業場の描写がうまくて、立体空間がよく出ています。

第二話はネクロフィリアなんですね。結婚式の直前になって不可解な死を遂げた婚約者たちが住むことになっていた新居で、喪の期間中の住み込みの服務を若いインターンが請け負います。
このインターンのあんちゃんが、夜中に誰も見ていないからといって好奇心から棺を開け花嫁の死体を覗きます。部屋に残されたビデオなどから二人の死の真相を知ったインターン、花嫁を憐れんで、自分ならこの女性を幸せにできたのにという妄想の世界に入っていくようになり…というなかなか恐ろしい話を美しい映像で見せていく倒錯的な場面は本作中の見どころです。

第三話が「ゴースト・フライト」のイサラー・ナディー監督で、これは「スクリーム」のような半ホラー半コメディに仕立ててあって、あまり感心するところはありません。まあダークな調子の二本の後に、ちょっと軽いタッチで締めくくってみましたというところでしょうか。

こうなると続編の「3AM: Part 2」(2014)が俄然楽しみになってきました。ナディーが引き続き参加しているところが気に入りませんけど(笑)、第二話「コープス・ブライド」の監督が継続してますから期待できます。





200712


407 Ghost Flight 2012
「ゴースト・フライト407便」

タイ映画です。パン兄弟が撮った3Dホラー「チャイルズ・アイ」(2010)・「夢遊」(2011)はいずれも香港映画でしたから、タイ制作の映画は久しぶりで見ることになります。「アタック・ナンバーハーフ」(2000)以来かもしれません(笑)。
呪われた旅客機での恐怖のフライト体験というストーリーです。でもそのあまりにひどい出来ばえには、どうコメントすればよいのか途方に暮れてしまうほどです。ほんとうにもう、ほとんど劇映画の体をなしていません。

出だしは、おっこりゃなんか良さそうだぞと思わせるような雰囲気があります。映像のスペックはわりと高くて、2010年代ともなれば撮影機器のレベルはだいぶ向上してますね。照明もちゃんとしていて、ブルーレイディスクで見ると非常に鮮明で質の高い映像です。また出演者たちも真っ当な演技のできる人たちばかりで、序盤のまだ何事も起こっていない場面での情景は安心して見ていられます。
ところがこれが、飛び立っていよいよ怪奇現象が徐々に始まっていくともう考えられないような野暮ったさで、恐怖感・緊迫感・スピード感は無いうえに、あまりの稚拙さに突っ込んで笑えるところすらありません。俳優はちゃんとしているのに芝居はみんなキャーキャー騒ぐだけの学芸会になってしまっているところ、どうも監督の演出力に問題があるようです。

機内のセットも安っぽいんですね。テレビ局から借りてきたような感じの十列くらいしかないユニットは、えらくだだっ広いんですよ。おそらく分割式のセットになってなくて、すべてこの中にカメラを入れて撮影した模様です。そのため中央の通路は二人並んで通れるくらいの幅があり、エコノミークラスの客室もファーストクラス以上の空間になっています。なにしろいちいち立たないと上の空調や手元ライトの調節パネルに手が届かないくらいです(笑)。
SFXも2010年代とは思えないほどのチープさで、CGIによる亡霊の描きかたはテレビの子ども番組レベルです。欧米や日本のホラー映画の見せかたをいろいろ採り入れてはあるものの、単に型をなぞっただけで恐怖演出が伴ってませんから、ただのお化け屋敷と一緒です。

でもこれ、ちゃんとステレオカメラで撮影された3Dなんですね。ここまで救いようのない映画でありながら、3Dは意外とよく撮れていたりもします。冒頭の空港の駐機場での旅客機全体を望むショットなどはなかなかのものだし、機内の場面も、実際よりも作りの大きいセットがかえって広い空間を見せているというところが妙味です。ただしホラー演出における3Dはまったく効果が出せてません。

意外なことにこの映画、わが国で劇場公開されてるんですねーすごいです。しかもビデオソフトまで出ていてレンタルDVDがありましたから、借りてきてせりふを確認することができました。さすがにブルーレイ3Dは日本盤はありません。
考えてみたら、しょうもない映画だと言いながらも、日本映画もこれとそれほど大差ないレベルだったりするんですよね。「呪怨」だの「貞子」だの、小中学生向けのアトラクション映画も少なからず作られていることからすれば、どこも一緒だなあとも思えます。やはり、ゴミ映画にもちゃんと需要があり観客がいるってことなんですね。

しかしこのイサラー・ナディーという監督、3Dづいていたようでこの後「3AM」(2012)・「3AM: Part 2」(2014)と二本のホラーを3Dで撮っていますから、私もしかたなく香港盤で出ているブルーレイ3Dを買いました。ところがこの二本についてはわが国では劇場未公開・ビデオも未発売で、「407 ゴースト・フライト」を超えるレベルの映画なのかと見る前から恐怖心を抱いています(笑)。





200621

「アリータ: バトル・エンジェル」
Alita: Battle Angel 2019

ロバート・ロドリゲズの「シン・シティ~復讐の女神」に続く劇場公開作です。これも3Dで制作されたのは、この映画がもともとジェイムズ・キャメロンが監督する予定だったのがロドリゲズのところに回ってきたという経緯があるからで、キャメロンは脚本と製作で参画しています。
B級テイストの映画専門だったロドリゲズとしては初めての大規模娯楽作ですね。「銃夢」という日本のまんがが原作で、映画のほうもあまり重苦しい雰囲気にはしてありませんから、キャメロンよりもロドリゲズが手がけたのは良かったんじゃないでしょうか。もっともさすがのロドリゲズも今回は監督に専念し、撮影と編集・音楽はそれぞれ専門家に任せています。

原作を読んだことが無いのでどの程度まんがのタッチが反映されているのかわかりませんけど、映画を見る限りでは過去のSFもののさまざまからいいとこ取りしてあるのがあからさまで、独創性があまり感じられないところは残念な感じです。しかし原作は1991年の本ですから、当時は新鮮だったでしょうね。
なんといっても「攻殻機動隊」の世界観が基礎にあると言ってもいいくらいで、脳だけ人間であとは全部機械というようなサイボーグが活躍する超未来世界の話です。多くの観客が「攻殻機動隊」の設定をすでにわかっているわけですから、理屈をいちいち説明する手間が省けてます。ちなみに「攻殻機動隊」は原作のまんがが1989年、アニメ映画が1995年です。

未来世界の描写は「ブレイドランナー」以降の普遍的なサイバーパンクのデザインで、これはまあしかたないでしょう。でもそれだけじゃなくて、ローラーボールみたいな格闘スポーツがアクションの見せ場として出てくるし、支配者層の居住区である雲上の空中都市と隔絶した下界のスラムという対比は「トータル・リコール」のようだしで、見ていてなにかしらの既視感があるわけですね。
小道具の中では力を入れたと思われる一輪車(つい一輪バイクと書きかけてしまいましたがそれはおかしいですよね)は、クールなつもりがこれはちょっとかっこ悪いんですね。いかにもCGで描きましたというような貼りつけようで、物体としてのリアルさが出てません。

そういったところはさておくとして、全体の映像は当然ながら多くがCGで描かれています。しかし前作「シン・シティ」のような完全グリーンバックの手法ではなく、基本的にちゃんと作り込まれたセットで撮影されていて、それもけっこう大きなものが組まれているところは予算規模の違いを感じさせます。ここのところはやはり実写の迫力を感じさせるのがいいですね。
その反面、主人公のアリータやサイボーグたちはCGIですから、結局ディジタルアニメに近い作りです。もっともひと昔前と比べるとその精度は格段に上がっていて、実写との合成もなんの違和感もありません。特にモーションキャプチュアの技術はここまで来たかというようなレベルで、人のなめらかな動きはまったく異質さを感じさせません。
また話題のひとつとなっているのがアリータの目の大きさで、まんがのような巨大な両目が写実的な顔にはめ込んであります。しかしこれが見てみると意外と気にならないんですね。奇妙な感じを受けながらも生理的な不快感を感ずるぎりぎりの線にとどめてあり、うまくいってます。

セットでの実写部分が比較的多い分、3Dは見ごたえがあります。キャメロンのフュージョンカメラシステムで撮影されていて、貧民街の雑踏や室内シーンなどは奥行きがあっていいですね。
キャメロンは「アヴァター2」の公開を控えているところで、おそらく映像のレベルはこの「アリータ」に準ずるところでしょう。そう考えると「アヴァター」シリーズにさらに期待感がわくし、「アリータ」もいかにも “つづく…” というエンディングですから、今後の展開が楽しみです。
本作では何カットかしか出てこない悪役のボスキャラは、ノンクレジットのエドワード・ノートンなんですね。アリータとノートンの対決が見たいものです。

前作の「シン・シティ~復讐の女神」に続き「アリータ」も日本盤ブルーレイ3Dが出ています。それが「アリータ」では輸入盤も共通のマスターが使われていて、三枚セットのうちブルーレイ3DとUHDに日本語字幕が入っています(2D版のブルーレイディスクには日本語字幕未収録)。
ただ今年くらいから、ヒット作であってもブルーレイ3Dの日本盤はリリースされない傾向がはっきりしてきましたから、今後は字幕なしの輸入盤で見るしかなくなってきそうです。





200614

「シン・シティ~復讐の女神」
Frank Miller's Sin City: A Dame to Kill for 2014

ロバート・ロドリゲズが2005年に撮ったコミックス原作の映画の続編です。前作同様、原作者のフランク・ミラーとの共同監督という形で、パートカラーのモノクロ、撮影方法も全編をグリーンバック合成とするなど、まったく同じテイストで作られています。主要キャストも引き続いての出演で、まんがそのままの特殊メイクで登場するミッキー・ロークが今回も映画のキッチュな感覚を体現しています。ブルース・ウィリスとジェシカ・アルバ、パワーズ・ブース、ロザリオ・ドウソンが同じキャラクターで出てきます。

一作目と違う点は3Dの導入で、ロドリゲズは「スパイ・キッズ 3-D」(2003)以降たびたび立体映画を撮っていますが、いずれもグリーンスクリーンのCG背景との合成という手法をとっています。ロドリゲズはこれまで一貫して撮影と編集も兼任しており絵作りに関しては強い執着を持っています。自身の思い通りの立体映像にするためにはCG合成のほうが都合がいいということなんでしょう。それでも2D撮影からの変換は好まないようで、実写部分はステレオカメラ撮影を励行しているところがまた独自の考えかたです(『スパイ・キッズ4』のみ変換3D)。

その3D効果のほどはというと、まあ悪くは無いけどね…というところですね。これは見る側の好みの問題でしょうけど、私としてはやはり全編をリアルステレオカメラで撮影してほしいので、半分以上がCGでできている映像はやはり物足りないです。顔のクローズアップのカットが多いので、こういうところはわりとリアルな3Dを楽しめます。
またシャープなモノクロ映像というところも一種超現実的で、原作のファンは納得のいくところなのかもしれません。アメリカンコミックスの中にあってミラーの作風は独特のようで、「Sin City」はフルカラーではなく基本的にモノトーンの本のようです。

メイキングを見ると、すべてをばらばらに撮影して後から合成するというやりかたではなく、それぞれのシークエンスでは役者がちゃんと相対して芝居しているところを撮ってるんですね。つまり、グリーン一色でできたセットの中でキャストを動かし同時に撮影しているわけで、俳優としてみればリハーサルのときのように舞台の様子を想像しながら演技しているということです。屋根の上などにいる場面では正確な高さの台を作りその上に載って撮影しています。

これは、撮影された実写映像は、登場人物の互いの位置関係がちゃんとステレオで記録されているということで、その点では立体感はよく出ているといえます。でも室内シーンくらいはセット作ってほしかったですけどね(笑)。自主制作出身の監督らしく、効率的な制作費のかけかたを常に計算してるんでしょう。
背景CGは、これはもう非常に緻密に描かれていて、実写と比べても遜色の無いレベルではあります。以前「Dark Country」(2009)という低予算3D映画を見たときに思ったのが、背景CGは安っぽいほうがかえって面白いこともあるということです。例えば今回の映画で、まんがの世界を再現するためにわざとチープなCGあるいは手書きふうの書き割りにするという案もきっとあったでしょうね。でもそうならなかったのは、かえってアーティスティックになり過ぎでバランス悪いというようなことだったのかもしれません。

話の内容は前作と同様で、ただひたすらハードボイルドなだけです(笑)。映画史的に見るとかつてのフィルムノワールの伝統をくむものというようなことかもしれませんが、私にはそのへんよくわかりません。
ミッキー・ロークのタフガイはほとんど冗談といっていいようなキャラクターだし、ジョシュ・ブローリンのアウトロウもなかなかの熱演ながらあまり面白味のある人物にはなってません。
その中で光っているのがジョセフ・ゴードン・レヴィットで、「ハスラー」のポール・ニューマンを思い出させるギャンブラーを演じています。





200524

西遊記女兒國 2018
「西遊記~女人国の戦い」

鄭保瑞(ソイ・チェン)監督によるシリーズ三作目で最新作です。これが完結編だとは説明されておらず、ストーリーもまだ天竺への旅の途中で終わりますから、四作目以降もあるのかもしれません。製作規模はますます巨大化していて、中国電影のリッチぶりが垣間見えてきます。
それでもやはりフィルムの性格としては娯楽作に徹したもので、(中国人なら)誰でも知っている昔ばなしを今様にアレンジしたアトラクションムーヴィーになっています。

二作目のホラー仕立てからまた一転、今度はコメディ色を前面に出し、アイドル女優との恋愛ストーリーもからめたデートコース向けの映画という様相です。一作目は子ども映画でしたが、今度のは中高生くらいを主なターゲットに据えたラブコメの感じですね。
やはり原作にある西梁女人国のエピソードを採りあげてあり、ここの女王と三蔵とのプラトニックなラヴストーリーを描くという創作を加えてあります。さらに河の神なるCGモンスター(たぶん原作には無い)を登場させ一大スペクタクルの見せ場を前後に配するという幕の内弁当方式です。

三蔵は前作のラストでいったん入寂し仏像と化してしまいました。当然その続きですから新たな三蔵法師の誕生から描かれるのかと思いきや、映画が始まるとなにも無かったかのように普通に登場(笑)。悟空・猪八戒・沙悟浄も前作に続き同じキャストで、これは安心できますね。
しかし冒頭からコメディ全開の演出です。ジェットコースター式にあれよと言う間に女人国に入城、おてんばなプリンセスとのドタバタと、スター・トレックに出てきそうなメイクの国師(梁詠琪 ジジ・リョン)の権威的で思わせぶりな振る舞いといったあたりは、まあ定石通りという見せかたです。

そういったところはまだいいとして、後半ともなると女王と三蔵のロマンスに重点が移ってきて、さすがにこれはあまりに陳腐であくびが出てきます。また物語の背景として明らかにされる、若き日の国師と河の神とのもうひとつのラヴストーリーも大げさで、スケールを大きくするための手立てでしかありません。
今回は悟空の出番は少な目で脇役と言ってよく、三蔵法師を中心とした描きかたになっているのが特徴ですね。というか本来この人が西遊記の主人公であるわけで、ある意味では後世になって人気が出すぎてしまった孫悟空をさておいての正当な扱いとも言えます。そのため悟空が活躍するアクションシーンは前作までと比べて少なめですから、監督としては一種のチャレンジだったかもしれません。

ワイヤーアクションやカンフーバトルといったスタントの見せ場づくりよりも相対的に大きく打ち出してあるのが壮大なロケーションです。大陸の峡谷地帯で撮影された映像は、CGIで背景を加工してあるとはいえさすがに迫力があります。
二作目の3Dは良かったんですが、本作もさらに立体効果のある映像になっています。ことに、これらのロケ撮影の部分が見ごたえがあり素晴らしいんですよ。冒頭の舟のシーンで、飛んできた悟空がぱっと舳先に立つと口にくわえた草の穂がぴんと立ってるんですね。これを見ただけでも、3D撮影に対する取り組みかたがわかります。

四人と馬を載せ河を行く舟を斜め前方からとらえたショットで、たちまち立体空間に引き込まれていきます。また森の中の場面も素晴らしくて、おそらくかなり奥のほうまで実写だろうと思いますけどぴしゃっとパンフォーカスで撮ってありますから、これがものすごい3Dです。
全体が緑で覆われたスペクタキュラーな峡谷での、水面近くに設けられた巨大なテラスに女人国の住民がおおぜい出てきているシーンもけっこう大掛かりです。CGじゃなくてセットなんじゃないか…と思ったら、メイキングを見ると実際の谷間に舞台を設置してありました。

やはりロケやセットでのステレオカメラ撮影だと本物の空間が捉えられているわけですから、CGとはまるで違うインパクトがあります。河の神の呪いを解く祈祷の儀式の場も大仕掛けになっていて、立体感の出るアングルを小技的に使ったりもしていますから、カメラマンは3Dについてセンスのある人ですね。
しかし終盤はクジラの化け物みたいな河の神との対決で、ここはほとんどがCGIで描かれています。2018年作としては水の表現が不充分なレベルのCGですね。でも画面いっぱい、しかも長時間にわたる大量の水しぶきや水中シークエンスですから、これが精いっぱいというところだったんでしょう。こういったスピードの速い大げさなアクションシークエンスは3D向きではなく、したがってこの映画の3Dは中盤までが見どころであり、終わりのほうは私としてはだんだんどうでもよくなってきました。

とはいえ、この監督は3Dも好きみたいなので、四作目もあるとすればちょっとまた期待できますね。原作小説も面白そうなので読んでみたくなりました。





200517


西遊記之孫悟空三打白骨精 2016
「西遊記~孫悟空 VS 白骨夫人」

先週見た「モンキー・マジック~孫悟空誕生」の続編です。しかし見てみてびっくりで、同じ監督によるシリーズとはいうものの格段に製作規模がスケール拡大しておりほとんど別ものです。映像のクオリティは一作目とはまったく比較にならず、CGIもハリウッドの大作映画とあまり遜色ないレベルです。内容的にも、子ども映画だった前作から一般向けのストーリーに変更されているところ、大ヒットを受けて攻めの姿勢に転じた映画会社の抜け目の無さがかえって鼻白むほどです。

孫悟空役は甄子丹(ドニー・イェン)が降板したのを受けて、前回牛魔王を演じた郭富城(アーロン・クォック)が代役するというのも大きな話題作りだったようです。私としてはぜひともイェンに続けてほしかったんですが、ウィキペディアの記事によるとイェンは、特殊メイクや衣装の着脱に毎日十時間を要する過酷さに音を上げて一本でやめたとのことです。
しかし演者が替わるとキャラクターのイメージも変わり、また映画自体もホラー仕立てですから、結果としてまったく違った孫悟空となっています。わりとひょうきんな感じを出していたイェンの悟空から、精悍でひとクセありそうなタイプのクォックの悟空への交代は良し悪しありますね。

イェンの悟空は本物の猿の動きを参考にしたと思われる、ニホンザルのようなイメージです。それがクォック版になるとけっこうマッチョな体格のスーツにもなり、チンパンジーとゴリラの中間くらいの感じがします。身のこなしについてはクォックは、京劇の孫悟空を表しているようです。
そのへん、アクション監督を務めた洪金寶(サモ・ハン・キンポー)の好みでしょうか。グリーンバックでワイヤーアクションが中心だった前作(アクション指導はイェンが兼任)と比べて地上でのファイトシーンが多く、動きはカンフーアクションになっています。

さて話は悟空が封じ込められている五行山に三蔵法師がやってくるところから始まります。おなじみの出だしパターンです。この時すでに互いの役割についてはあらかじめ観世音菩薩から言い渡されており、予定の邂逅であったことがわかります。またその後現れる猪八戒と沙悟浄も同じで、余計な説明抜きで一行は天竺へ旅立ちます。
原作ではこの長路の途中で多くの妖怪と対決するさまが延々と語られていくわけで、映画はその中から白骨夫人のエピソードを採りあげています。私は白骨夫人といって初めて聞く名前ですが、向こうでは誰でも知っているキャラクターだとか。これを鞏俐(コン・リー)がやってます。この人久しぶりに見ましたけど変わってませんね。

舞台は西方の架空の国で、人々はチベットかモンゴルあたりのエキゾティックな装束です。ここで一行は、かねて取経の旅をする僧の話を聞きつけていた国王から歓迎されます。三蔵は国王から、多くの子どもたちが神隠しにあっており、その元凶である白骨夫人を除いてほしいと懇願されます。
このへんの演出はいわば平均的な娯楽映画に準じたもので、安っぽくもなければ格調高いというわけでもないという、普通の感覚ですね。しかし、香港/中国合作の映画でこのレベルのものが作られるようになったというのは隔世の感ありというところでしょうか。欧米市場でも充分に商売になる出来ばえです。
悪者の白骨夫人にしても、単なる怪物ではなくかつては人であり、いわれの無いそしりを受けたあげく人柱にされてしまったという不幸な過去が明かされるところなど今日的な語り口があります。

重要なエピソードとして挿入されるのが三蔵と悟空の確執です。悟空は住民に化けて近づいてくる白骨夫人の変身をことごとく見破り、三蔵を襲う妖怪から師を守ろうとするんですが、三蔵のほうは人を殺してしまった悟空を激しく責めるんですね。いくら悟空がこれは妖怪変化だと言っても聞き入れず、ついに悟空を破門してしまうというところは原作通りだそうです。
ここは見ているこちらも、あくまでも導師に忠実な悟空が気の毒になって、世間知らずの若い坊主が滑稽に見えてきます。三蔵は徐克(ツイ・ハーク)の狄仁傑(ディー・レンチェ)シリーズで司法長官を演じた馮紹峰(ウィリアム・フォン)です。

これは、たとえ悟空が透視眼の仙術を持っていても、目で見えるものではなくそのものの心を見よという三蔵の教えです。とはいえ、そうしてぼやっとしてたら白骨夫人に食われちゃいますよ? と言いたいところ、実は最後に至ってこの教えが真理に基づくものであったことがわかるんですね。
三蔵は白骨夫人をも救ってやるという大乗的な意思から、自らを人身御供とするべく、悟空に私を打ち殺せと命じます。でも大丈夫、それから転生を繰り返しいつかはまた三蔵としてこの世に戻ってくるというわけです。滅して仏像と化した三蔵を背負い、悟空らは天竺への旅を続けて行く…というところまでが第二部です。なかなか興味深い展開ですね。

飛躍的に向上した映像は、3Dでもまた目覚ましい成果があります。3Dに関してはほとんど見るべきところが無かった前作とはうって変わって、今度は見どころの連続です。CGIも多用されているとはいえ、本格的なセットを組んでのスタジオ撮影の場面が多くなっていて、これがどれも良好な立体効果を演出してあっていいですね。国王主催の晩餐会がよく出来てます。
荒野や険しい山岳地帯、森の中などの場面も、ちゃんとステレオカメラで撮影してありますから3D効果が非常によく出ています。またCGの部分もちゃんと作ってあって、特に観世音菩薩(前作に続き陳慧琳)との水上での謁見シーンは見事なものです。

続く2018年の三作目「西遊記~女人国の戦い」も監督と旅の仲間のキャストが同じ顔ぶれです。今のところ最新作ですが、これで終わりだとすると天竺に着いてからのエピソードになるはずですね。なんにせよこれも3Dは期待できそうです。





200510

西遊記之大鬧天宮 2014
「モンキー・マジック~孫悟空誕生」

孫悟空ものは支那でもやはり今なお人気の芝居のようで、2000年代になってもさかんに映画化され3Dにもなっています。そのブルーレイ3Dについて調べていると、よく似たコンテンツが複数出てきて最初は混乱してました。次第に情報を整理してわかったのが、3D西遊記は二つの系統があるということです。
ひとつは徐克(ツイ・ハーク)関連で、周星馳(チャウ・シンチー)が監督した「西遊記~はじまりのはじまり」(2013)の続編「西遊記2~妖怪の逆襲」(2017)を徐が監督し3Dで撮っています。
もうひとつは鄭保瑞(ソイ・チェン)という監督が撮ったシリーズで三作あり、いずれも鄭が監督しています。その一作目が今回見た「大鬧天宮」で、孫悟空を甄子丹(ドニー・イェン)、宿敵牛魔王を郭富城(アーロン・クォック)が演じています。

徐克/周星馳の西遊記のほうは大幅にまんが的な翻案を施してあるようです。まずはある程度オリジナルの話に沿った内容であるらしい鄭保瑞監督作シリーズを見てみることにします。三本ともステレオカメラ撮影による3D映画です。
まず第一作を見てみたところでは、これ完全にファミリー娯楽作であり、大人も楽しめるものの基本的に子ども向けのしつらえになっています。背景の映像のほとんどはCGで、これがデスクトップPCででも作れそうな粗いものだし、モンスターの着ぐるみデザインはほとんどゆるキャラです。そういったプロダクションデザインのレベルは、おそらく東映の戦隊ものテレビシリーズに近いだろうと思います。

中国も子だくさんになってきて、祭日の興行としては親子連れがヴァリューの高い観客層だということのようですね。そうなると、わざわざ巨額の予算を投じて高水準の映像にする必要はなく、子どもだましのヴィジュアルで充分という計算が成り立つということなんでしょうね。
キャラクター設定も幼児向けに良識的にしてあります。だいたい孫悟空は手の付けられない乱暴者で、力はあるが思慮は無いというまさしくケダモノなわけですね。これをどうして正しい道に導いてやるかというのも物語の柱のひとつであるわけですけど、ここでの悟空はいかにもやんちゃ坊主として描いてあり、おっちょこちょいだが心根はいい奴というふうになってます。天界に不老不死の技を修行しに行く動機も、年老いていく猿の仲間たちの身を案じ皆を幸せにしてやりたいと願う気持ちからだという美談に書き換えてあるんですね。

まあそういった物足りない部分を納得しさえすれば、この映画けっこう面白く出来ています。
タイトルの「大鬧天宮(だいどうてんぐう)」はプロローグにあたる話で、悟空が天界で暴れた罰として釈迦の掌に押さえられ五行山に封ぜられるまでが描かれています。たいていの場合、序幕のあらすじ説明で簡単に語られるだけの部分なわけですが、ちゃんとしたストーリーがあるんですね。
かつてこの世では天界と魔界が覇権をかけた壮絶な争いがあり、勝利した玉皇大帝は牛魔王を蟄居処分とします。大戦争で破壊された天界は創造の女神のパワーストーンの法力によって再建され、そのとき下界の花果山に落ちた石のかけらに生命が宿りやがてそれが猿となって誕生します。

こういうところはどの文化圏の神話にも共通する、宇宙的なスケールのコンセプチュアルな物語ですね。実際、初めのところは全員が宙を飛んで雲の上でチャンバラをするようなSFチックな描写です。まあ天界と魔界なんでしかたないですね(笑)。
これが舞台を地上に移したら移したで、今度はインド神話のような大陸的な荒唐無稽な展開になっていきます。大きな見どころの場面は、悟空を懲らしめに来た哪吒(なた)との対決シーンです。

なにより、孫悟空がなかなかチャーミングに演出してあるところがいいんですね。悟空だけはアップに耐えられる手抜きの無い特殊メイクを施してあって、アクション監督も兼ねるドニー・イェンの猿の身のこなしと豊かな顔の表情が映画のランクをひとつ上げています。
玉皇大帝は周潤發(チョウ・ユンファ)で、「グリーン・デスティニー」のときのような大師のイメージです。観世音菩薩で陳慧琳(ケリー・チャン)も出てきます。

ただし肝心の3Dのほうはぜんぜんダメで(笑)、なにしろほとんどすべてと言っていいくらいグリーンバックのCGIですから、ステレオカメラで撮影してあるといってもあまりありがたみが無いし、数少ないセットでの場面、例えば花果山の猿の村での様子などでもあまり立体効果を出せてませんから、3Dとしての見どころはまったくありませんでした。
CGの出来が良ければまだ3D効果も出せる余地があるのに、このレベルの稚拙なCGではちょっと無理ってものです。CGでひとつだけ感心したのは、如意棒が強力な得物だと感じさせるところです。これは意外と難しかったんじゃないでしょうか。私も一本欲しくなりました(笑)。

二作目の「西遊記~孫悟空vs白骨夫人」(2016)ではいよいよ五百年の幽閉を経て五行山から解き放たれ、三蔵法師らとともに西方へ取経の旅に出ることになります。悟空役はドニー・イェンからアーロン・クォックに交代するというウルトラCです。





200419

Parasite 1982
「悪魔の寄生虫・パラサイト」

ウルトラB級映画です。でもB級映画と言うとなんだかちょっと聞こえがいい節もありますから、より正確に言い換えるとすればただのゴミフィルムです(笑)。ハリウッド映画界の底辺、そのもっとも奥底にして極北、事象の地平面と言ってもいいような階層でうごめく者たちが群れなして作ったというような代物です。
近未来の荒廃した世界で、巨大軍需企業が密かに研究していたのが生物兵器のパラサイトです。ここのラボの研究者が自ら作り出してしまった危険な生物を葬り去ろうとサンプルを持ち出して逃走。それを追う企業の手先のエージェントと郊外のさびれた集落の住人を巻き込んでの対決、というのがストーリーの骨子です。

出演者や制作者の中には2.5人くらい有名な人がいて、それ以外はすべて無名か過去の遺物といった状態です。2.5人のうちの二人はブレイク前のデミ・ムーアと、やはり名声を得る前のスタン・ウィンストンで、もう一人がランナウェイズのシェリー・カリーが脇役で出ています。
ムーアはまだ十代のころですね。これがデビュー作かと思ったら二本目でした。まったくうらぶれきった映画全体の中にあって、ムーアだけはその雰囲気に似つかわしくない見目麗しき美少女ぶりを発揮しています。

ウィンストンは「ターミネイター」(1984)を手がける直前で、82年にはジョン・カーペンターの「遊星からの物体X」で変身する犬を作っています。やはりさすがにウィンストンだけあって…と言いたいところですけど、ここでのパラサイトはちょっとひどい出来です(笑)。ムツゴロウで知られる九州の有明海にはワラスボというやはりハゼの仲間がいて、これをゴマフアザラシの赤ちゃんくらいに巨大化させたものがパラサイトだと思ってもらえればいいでしょう。
映画の恐怖描写の中核をなすはずのこのパラサイト、出現シーンのいずれもがほとんど冗談としか思えないようなありさまで、笑い無しに見ることは無理ってもんです。

主役の研究者はおたくの高校生みたいにぎこちない身のこなしでおそろしく頼りないし、アクションシークエンスのどれもがわざとらしいアクションのためのアクションという感じだし。まあがんばってはいるんでしょうけどねー残念です。いちおう爆破シーンや過激なヴァイオレンス、また全身を火で覆うスタントなども盛り込んであり、労働者向け娯楽映画の各要素を押さえはしてあるものの満たしてはいません(笑)。
おそらく画面に登場するものの中で、人を含めてもっとも高価なものは悪役の手先が乗ってくる黒いランボルギーニでしょう。どこから借りてきたのか、しかし素人の私が見てもそこらの車とはまるで違う走りです。

なんだか前に見たブルーレイ3D「メタルストーム」(1983)の金の無さを思い起こす感じだなと思ったところがなんとこれ同じ監督でした。その前作にあたるのが「パラサイト」で当時はちょっとヒットしたらしく、それで得た小金でもう一本作ってみたというところでしよう。
ちなみにこの映画、わが国では劇場未公開ながらビデオソフトだけは発売されたことがあります。のちにムーアの人気が出てからVHSで日本版がリリースされました。しかしその後はやはりムーア出演というだけでは売りものにならなくなりDVD化はされていません。

そんなジャンクフィルムが3-Dフィルム・アーカイヴによってディジタルリストアされたというところがまたすごいです。よくこんなのを手間暇かけてリストアしたもんだと思いますが、そこがカルト映画の説明のつかないパワーだということでしょう。
特典映像には元の状態のフィルムとリストア後との比較があり、これを見るとまったく見事というほか無い素晴らしい復元ぶりです。というか元々のネガフィルムにあった撮影上の不備なども修正してありますから、オリジナルの上映よりも画質が向上してますねこれ。

3Dの面白さは「メタルストーム」のほうが上回っており、こちらは特筆するところはありません。室内の調度の配置などどれもこれ見よがしの立体効果狙いです。天井からパラサイトの汚れた粘液が落ちてくるカットは意外と面白く撮れていました。
1980年代には短期間だけ立体映画が復活したような感じがありますね。「13日の金曜日パート3」(1982)や「ジョーズ3」(1983)、「悪魔の棲む家パート3」(1983)などで、こうしてみるとたまたま人気作のシリーズ化が増えてきていながら飽きられもしていて、そのてこ入れに三作目と3Dをひっかけて立体映画化したという背景があるようです。





200412

Revenge of the Creature 1955
「半魚人の逆襲」

1954年の有名な「大アマゾンの半魚人」の続編です。ダイナミックな水中撮影による3D映画の一作目に続き、こちらも3Dで制作されています。しかし1955年にはすでに立体映画ブームは完全に終息しており、これが同年に公開された唯一の3D映画だとか。
半魚人の逆襲ぶりはどうかというと、人がわざわざアマゾンから捕まえてきて水族館で一般公開したところ、つながれていた鎖を切って逃げ出し暴れまわるという「キング・コング」と似たような話です。

監督は3DによるSF古典「It Came from Outer Space」(1953)のあと半魚人の一作目も撮ったジャック・アーノルドで続編も任されていますが、こちらはどうもぱっとしない出来で褒めるところがあまりありません(笑)。主演は一作目とは違う人です。
ストーリーは凡庸だし、肝心の半魚人のスーツの造形がやっぱり少し手抜きになっていて遊園地の戦隊ショーみたいです。もともとB級映画なわけで、ヒットした映画の続編だから映画会社としてはなんでもよかったということですね。実際当時のアメリカでは一作目以上の興行収入です。

さすがにこの続編のブルーレイ3Dは単体では発売されておらず、半魚人シリーズ三作をパックした「Complete Legacy Collection」という簡易ボックス仕様の二枚組に収められています。このボックスは一枚目が一作目の2D / 3D同時収録盤、二枚目が二作目の2D / 3Dに加え2D版のみで制作された「The Creature Walks Among Us」(1956)もまとめてあります。なかなかリーズナブルな内容の買い得商品ではあります。日本盤は発売されていません。

でもこの二作目、日本盤としてはDVDが出ていて、意外にレンタルDVDもあるんですね。それで借りてきてせりふの確認はすることができました。
なぜ人気作でもなんでもないこの映画がDVDでは日本盤が出ているのか、理由があります。なんとこれ、クリント・イーストウッドのデビュー作でもあるんですよ(笑)。もっともエンドクレジッツにも名前が出てこないほんとの端役で、始めのほうのワンシーンのみ、三十秒くらい出てくるだけです。でもいちおうせりふはあるし、この時代としてはかなりの長髪で観客の印象に残っただろうということは想像できます。

3-D・フィルム・アーカイヴが監修していて、正しい立体効果が得られるよう補正する作業を請け負っており全面的なディジタルリストアを行なったわけではないようです。そのためか画質は今ひとつというところで、場面によって精細度にばらつきがあります。
ひとつ不満な点としては、元は当然スタンダードサイズの画面であり、DVDもちゃんとそうなっています。しかしブルーレイ3Dは上下をトリミングしてレターボックスサイズに変更してあるところが余計なお世話です。ユニヴァーサルとしてはボックスセットの売りものにしたいだけだから、ファンの好みという視点は生かされていませんね。

驚くことにこのボックスセット、初回盤はこの二作目の3Dはサイドバイサイド方式で収録されていたらしく、さすがに批判が続出して発売後にブルーレイ3Dで作り直し、初回盤を買った客のうち希望者にはディスク2のみ交換するという措置をとったとのことです。そのくらい、この続編に関しては “おまけ” 感覚が強かったんですね。
しかし私としてはブルーレイディスクのサイドバイサイド方式というのが一体どんな感じなのかいっぺん見てみたいという気もしますけどね(笑)。ちゃんとしたブルーレイ3Dに比べれば画質はがたんと落ちるはずです。





200322

Jivaro 1954

先週見た「Sangaree」と同じ監督・同じ主演者で、やはりパラマウントのテクニカラー立体映画です。主演のフェルナンドー・ラマスという俳優はまったく見たことも聞いたことも無い人です。ウォーレン・ベイティとベン・アフレックを混ぜたような風貌で、アルゼンチン出身らしいです。当時はわりと人気があったみたいですね。
もちろん続編というわけではなく、今度は南米のアマゾンを舞台とした現代劇で、ラテン系ヒーローとアメリカ人のヒロインとの危険なロマンスが金鉱目あてに群がってくる白人たちと原住民(首狩り族!)との攻防を背景に描かれます。エキゾティックでワイルドな世界に美男美女スターを配置しアクションも交えたメロドラマという、娯楽映画の本道ともいえる一本ですね。ただ話や演出はわりと凡庸です。

ヒロインを演ずるのはロンダ・フレミングで、この人も人気スターで3D映画にもよく出ています。私もブルーレイ3Dで見たのは「Inferno」「Those Redheads from Seattle」(ともに1953)に次いで三本目ですね。この映画もわが国での劇場公開なし・ビデオソフト発売も無しという状態で、またもや字幕なしで見てから英語のウェブサイトに出ていたプロットを翻訳してあらましをつかみました。

主人公のラマスはアマゾン川沿いの村で交易所を営む男で、豪胆な熱血漢にして義理堅く正直者。地元では信頼されており商売は順調です。この友人でインディオの隠し財宝を探しているトレジャーハンターもこの村を拠点にしており、ある日探検に出たまま行方不明に。そこに入れ違いでアメリカからやってきたのがトレジャーハンターの恋人のフレミングで、彼女は婚約者がそんなヤマ師とは知らず実直なビジネスマンと思いこんだままです。
そこで出会ったラマスとフレミング、微妙な関係ながら行方不明の婚約者を探す手伝いをラマスは引き受け共にジャングルの奥地へ…といった筋立てです。

酒場での乱闘やジャングルでのスリリングな冒険、果ては首狩り族の襲撃を受け銃で応戦、と西部劇のような見どころポイントはひととおり押さえてあります。フレミングの妖艶な姿態の煽情的なカットもきっちり採り入れるなど、プログラムムーヴィーとして職人的に作ってあるという感じですね。
まあ一流の映画とはいえないものの、B級ものというほどでもなく普通の出来です。1950年代の映画は私はそれほど多く見てないですけど、この程度の規模の映画がたぶん最も多く作られたんじゃないかと想像できるようなところがあります。

それで3Dのほうは、やはりきちんと撮ってあって立体感がよく出ており上出来です。3-D・フィルム・アーカイヴのリストアによって画面の鮮明さと色彩は申し分ありません。この時代のカラーフィルム特有の軟らかいペイントのような色調と質感がいいですね。
舞台は未開の土地とジャングルですがロケ撮影は少なく、芝居はもっぱらスタジオのセット中心ですから、3D映像の奥行きを考慮したデザインにしてあるうえ照明もすべてに行き渡っていて良好な立体感です。前の「Sangaree」と同様にわりと背景をプロジェクション合成で撮ってあるシーンが多く、これは当然ながら手前の俳優の部分しか3Dになってないわけで、むしろいかにも作りものという面白い感じさえします。

前作はスタンダードサイズだったのが、一年後のこちらはヴィスタサイズになってますね。実はこの映画、3Dで制作されていながら結局当時は2D版しか公開されなかったそうです。すでに立体映画の黄金時代は終焉を迎えており、この後3D映画の製作数は激減していきます。
テレビが家庭に普及してきたことでその対抗策としてハリウッドが取り組んだのがこの3D映画だったわけですが、撮影が大がかりになるうえ観客もめがねをかけて見なければならず、立体映画がたくさん作られ飽きられてくると対費用効果が小さくなってきたんですね。
そこで映画業界が次に試みたのが「めがねが無くても立体的に見える」というテーマで、これはシネラマやシネマスコープなどの大画面化という方向に進んでいくことになります。





200315

Sangaree 1953

アメリカ合衆国独立直後の出来事を描いた時代ものでパラマウント初の3D映画、さらにテクニカラーによる初の3D映画でもあるというものです。公開当時はベストセラー小説の映画化とあってヒットしたようで、「風と共に去りぬ」(1939)と並び称されるような人気ぶりだったようです。
しかし実際のところ映画の出来はそれほどでもないことは、今ではほとんど忘れ去られていることでもわかります。わが国では劇場公開もされておらずビデオソフトも出ていません。

映画の雰囲気はたしかに「風と共に去りぬ」を思い出させるようなものですが時代はまだ十八世紀末ですから、装束などは中世ヨーロッパのようでもありちょっと不思議な感じもあります。もっとも大手映画会社の製作とはいえさすがに「風と共に去りぬ」のような大規模予算というわけではなく、まあ普通の映画というものですね。
しかしこれがやはり文芸ドラマですから、せりふがわからないとどうもさっぱり話の筋がつかめません。ホラーやアクションものなどであれば、せりふはわからなくてもなんとなく流れは読めるものですけど、字幕が無くて登場人物がなにを話しているのかわからないとどうにもこうにも。

しかたなくウィキペディア英語版のページを自動翻訳してプロットを読んでみて、初めてああそういうことだったのかとわかりました。でも見終わって後から話の筋がわかっても面白くもなんともありません(笑)。
独立戦争の将軍が病床で物語の主人公に領地を託し、そこの奴隷を開放するよう依頼してそのまま他界。ところがその土地やそこでの利権をめぐって親族やらなんやらといさかいが生じ裁判沙汰になり、さらには訴えてきた側の娘がヒロインですがこれとやがて仲良くなって…などとまあわりと複雑です。

ここはひとつストーリーを楽しむことはあきらめて、純然と3D映像を味わうことにするしかありません。そうしてみると、やはりちゃんと撮影してありますからすごい立体映像になってるんですね。特にセットで撮影してある屋内の様子が素晴らしく、かなり奥行きのある室内をパンフォーカスで写してあり、それも充分な照明を全体に当ててありますから申し分のない立体空間になっています。
中でも舞踏会のシーンなどは目を見張るほどの見事さです。本来はろうそくのシャンデリアの下ですから薄暗いはずのところを、強力なライトを当てて撮影してある劇映画は不自然なわけですね。しかし3D映像としてはこっちのほうが明朗な見えかたで、逆に不自然なほうがありがたいです(笑)。

テクニカラー(本式の三本ネガ方式ではなく簡易型です)の色彩もいいですね。衣装が鮮やかです。ディジタルリストアを手がけた3-D・フィルム・アーカイヴの特典映像での説明によるとこのフィルム、元のネガの退色変色が著しく、ひどい状態だったようです。
そのため修復作業は困難を極めたようで、元々あった左右の映像のずれも正さなくてはならなかったというチャレンジングなリストアになったとのことです。その成果は素晴らしく、ブルーレイ3Dが発売された意義は大きいと言えます。

ただ3Dとは無関係なところでひとつ不満があるんですね。この映画では場面転換でクロスフェイドを多用してあり、そのためその前後のカットが光学処理によってがたっと画質が悪くなってるんですよ。これはもう技術的な問題で、フィルム映画の特質であってどうしようもないこととはいえ、ブルーレイディスクの鮮明な画像と色彩で見ていると、そこのところだけ画質が変化するのがえらく気になります。まったく惜しいところです。





200308

The Maze 1953

3-D・フィルム・アーカイヴの近作をまとめて購入しました。どれもわが国では劇場公開されていないもので、ビデオソフトも出ていません。
この「The Maze」は、SF映画の古典「来るべき世界」(1936)などを撮っているウィリアム・キャメロン・メンジーズの監督作です。この人もとは美術畑の出身で、本作では監督とプロダクションデザインを兼任しています。人件費削減のためというのではなく、やはり美術にはポリシーを持っていることが画面からわかります。

アメリカ盤のブルーレイ3Dには英語字幕も付いてないので、せりふはやはりほとんどわかりません。しかし芝居の様子からなんとなく全体の流れはつかめました。
わりと上流の人たちが主人公で、ヒロインの婚約者がおじの訃報を受けて帰郷した後はなぜか突然一方的に婚約を破棄してくるという謎の行動に出ます。納得のいかないヒロインは事実をただそうと婚約者の実家に乗り込みますが、そこで彼女は奇怪な事件を体験します。

映画のジャンルとしてはサスペンスホラーという感じでしょうか。クライマックスで化け物が出てくるとはいえヴァンパイアもののような神話的オカルト的な感じは無く、見る人によってはなあんだと拍子抜けするであろうというような結末でもあります。
しかし全体を覆うノワールな雰囲気、そして監督自らが手がけたアートディレクションが特異な印象を残す一種独特な感じはあり、ホラーファンタシーのファンの好みそうな映画ですね。

婚約者役はリチャード・カールソンで、この人「大アマゾンの半魚人」(1954)と「It Came from Outer Space」(1953)にも主演してましたから私にとっては顔なじみになりました(笑)。当時は人気俳優だったんでしょうね。他のキャストは見たことの無い人ばかりで、50年代のアメリカ映画らしいそつの無い演劇です。言葉の意味はわからないものの、せりふの抑揚が心地よく聞こえます。
そうはいっても映画自体は傑作というほどのものではなく、B級すれすれというところでしょうか。残念なのは「迷路」とタイトルしてあるのに、広い邸宅の庭にしつらえられた迷路の場面がそれほど重要になっていないという点です。

迷路といえばすぐさま思い浮かぶのがやはり「シャイニング」ですよね。雪の夜の狂気の追跡はなんといっても強烈なインパクトがありました。ところがこの「The Maze」では、いよいよクリーチャーが正体を現す重要なシークエンスで、主人公が迷路に迷い込んで不安感が最高潮に達し…た感がいまひとつなんですね(笑)。またストーリーそのものが出口の無い迷路のように入り組んでいるというような暗喩として生かされているというわけでもありません。

そこらへんはプロダクションデザイナーとしての手腕は発揮されており、ミニチュアを使った迷路の俯瞰は「シャイニング」でもこの映画から引用されているのかもしれません。またセットにおいては、やや下からの視点で移動するカメラによって生け垣の迷路がモノクロ映像の深い陰影で描かれています。
さらに大きな邸宅の内装が異色です。階段やドア、暖炉などの大きさが普通の家のスケール感に比べてかなり大きくデフォルメしてあり、なんだか少し異質な世界を見ているような奇異な感覚があるんですね。まるで巨大なドールハウスの中に人がいるような感じといいますか。
舞台美術を見ているようでもあり、メンジーズとしては映画をそのようにとらえていたとも思えます。ただ、演出の力が美術の才能に見合っただけのものではなかったといえるんじゃないでしょうか。

さて肝心の3Dのほうは、これはなかなか見ごたえがあって、3-D・フィルム・アーカイヴがディジタルリストアを手がけただけのことはあります。
基本的にパンフォーカスで撮ってありますから、奥行きが非常によく出ています。また胸から上程度の距離で人の正面を映すところでも、顔の彫りがはっきりとわかるように表現してあるのは、ステレオ効果をきちんと計算して撮影してあるからですね。
迷路の場面では、先のほうまで見通せる中央の通路で撮ったカットが多く、生け垣の迷路の感じがよくわかります。ただここはもうひと工夫欲しかったところで、右も左もわからなくなったというような緊迫感は出ていません。それは演出としては難しかったでしょうけどね。

結局、迷路を題材としたのは、立体映画で迷路を見たらさぞ面白かろうという観客の期待感を得るための方便だったんじゃないでしょうか。実際、ストーリー上は迷路が描かれる必然性は無いんですね。
しかしそういったはったりというのは見世物としての映画には大事な要素でもありますからね、いいんじゃないでしょうか。それよりもなによりも、最後に出てくるクリーチャーときたらもう、ぶっ飛びましたですよ(笑)。





200216

夢遊 Sleepwalker 2011

先週見た「チャイルズ・アイ」の彭兄弟のうち彭順(オキサイド・パン)の単独監督作です。双子なんでどっちが兄でどっちが弟かは不明です。
「チャイルズ・アイ」に比べるとB級映画ノりは控えられ、ストイックな感覚のスリラーファンタシーになっています。スプラッターでも幽霊や妖怪が出てくるオカルトものでもなく、サイコサスペンスの部類ですね。
ただ、日本語版のビデオが出ていないのでせりふの確認ができず、話の内容がよくわかりません。けっこうせりふの量の多い映画なので、状況説明が言葉でされているところはまったく理解できませんでした。香港映画ですが北京語です。

服飾デザイナーの女性は夜中、眠って奇妙な夢を見ている間に自分がどこか外に出て何かをしていることに気づき、不安にさいなまれます。どうやらこれが林の中で土を掘って何かを掘り出そうとしているようなんですね。女性は幼い娘が行方不明になり、やがて死体となって発見されるという悲惨な過去を持っています。
いっぽう彼女とは無関係な人の幼い息子がやはり行方不明になり、その事件の担当刑事がたまたまその人の妹なんですが、捜査の過程で夜な夜な不審な行動をするデザイナー女性が捜査線上に浮かびます。聞き取り調査が行われても、なにしろ本人は何も記憶が無いため答えようがありません。
警察も捜査が行き詰まってきたころに、催眠状態の脳の活動を研究している学者の協力を得てデザイナー女性の脳波を科学的に調査することに。そうするとふたつの幼児の失踪事件になにかつながりがあることがわかってきて…といったような展開です。

見た感じではそれほど超自然現象的な描きかたはされておらず、最後になるとわりと普通の事件ものというような格好になります。催眠研究の脳科学者の説明のしかたや、かなり時間を取って演じられる取調室でのデザイナー女性と捜査官のやり取り(二人ともなかなか見せる演技です)など、せりふがわかればこちらの受け止めかたもだいぶ違ったかもしれません。そんなばかなと思えるような理屈がこじつけられているかもしれないし、だからそれがどうしたと言いたくなるような話かもしれません。

脚本はオキサイド・パンほかのオリジナルですけど、ストーリーに関してはやはりせりふがわからないので評価のしようがありません。
しかし演出のほうは非常に抑制した芝居であって、クオリティの高い映像や香港島側・上環の山の手あたりの、古い香港の街並みの雰囲気が残る一角でのロケなど、見どころは多くあります。主人公の李心潔(アンジェリカ・リー)は「the Eye アイ」(2002)でも主演していた人ですね。

3Dのほうもこちらは素晴らしい出来ばえです。ほぼ全編にわたってシャープな映像できっちりと立体感を出してあります。一部で変換のカットも見受けられるものの、CGもほとんど無いしこれ見よがしの飛び出し演出も一箇所を除いては出てきません。
全体に流れがユルくやや冗長という欠点はあるとはいえ、3Dに関しては価値のある映画だといえます。

兄弟で共同監督した「チャイルズ・アイ」はいかにもB級ホラー然とした代物でしたから、アーティスティックな面はオキサイドが主に担っていたのかもしれません。それはダニーの単独監督作である「通靈之六世古宅 The Strange House」(2015)を見ればある程度見当がつくでしょうね。しかしこの映画、日本版のビデオもブルーレイ3Dも出ていないため、確認することができません。





200209

童眼 The Child's Eye 2010
「チャイルズ・アイ」

香港映画でB級ホラーものですが、監督が「レイン」(1999)の彭順(オキサイド・パン)と彭發(ダニー・パン)の双子のパン兄弟です。香港生まれのタイ育ちという経歴を持ち、両国で映画を撮っています。「レイン」はタイ映画で、斬新な感覚の映像が評判となってわが国でも劇場公開され、次作のタイ・香港合作の「the Eye アイ」(2002)ともども私も福岡のミニシアターにロードショウを見に行きました。タイ映画というの自体珍しかったし、中国第五世代映画に比べエンターテインメント性が強く、商業映画の市場がちゃんとあることがうかがえました。

殺し屋アクション「レイン」やホラーの「アイ」は、香港映画に共通するB級ぽさと、いかにも新世代の映像作家らしいタッチがあって印象に残るものがありました。国際的にも注目を集めることとなり、兄弟はのちにハリウッドに招かれ「レイン」をニコラス・ケイジ主演で「バンコック・デインジャラス」(2008)のタイトルでセルフリメイクしています。
しかしやはりメイジャーのフィールドは兄弟には重荷だったようで、何本かアメリカやイギリスで監督作を撮った後は香港ベースに戻ってアクションものを作り続けており、わりと多作です。

その彭兄弟は三本の3D映画を撮っています。「チャイルズ・アイ」は兄弟監督で、「夢遊 Sleepwalker」(2011)はオキサイド・パンの、また「通靈之六世古宅 The Strange House」(2015)はダニー・パンのそれぞれ単独監督作ですね。しかしいずれもわが国では結局劇場未公開で、「チャイルズ・アイ」のみDVDが発売されているという状況ですから、その出来ばえは芳しいものではないことがわかります。
今回見てみた「チャイルズ・アイ」は、やはり日本のホラーに強い影響を受けた、呪怨のリングがらせんに渦巻くような話でスプラッターではありません。タイトルはヒット作の「アイ」に引っかけて無理やり付けたという感じで、B級テイストにあふれた見世物です。

香港からタイに旅行に訪れた仲のいい友だち同士三組のカップルが、運悪くさびれたホテルに泊まることになります。ところがここは呪われたホテルで、殺されたことを認識していない謎の料理人の妻が亡霊となって出没するというストーリーです。さらに、奇怪な犬頭小僧まで出てくるわ異次元の世界にトリップさせられるわで、若者たちはわけもわからず恐怖のどん底に突き落とされます。
わりと盛りだくさんなホラー演出ながら、どれもまずまずといってもいいしありきたりの平凡さと評してもいいしで、さほど特筆するほどのものではありません。この手の映画で、あまり突っ込みどころが無いというのも少し物足りない感じさえします(笑)。しょぼくれた雑種の犬をうまく使ってあるところはなかなか笑えます。

3Dのほうは基本的にステレオカメラで撮影してあり、変換3Dのカットは部分的にある程度です。しかし全体にはあまり立体効果が良くなくて、背景をぼかす撮りかたを多くしてあるため空間を描けていないところがだめなんですね。
しかし序盤の街頭でのデモ暴動シーンは奥行きがあってなかなかいいし、ホテル内の廊下を見下ろすところなどは良好な3Dに撮れています。主人公の女の子は熱演で、彼女がベッドに横たわるカットはおっと思わせるような見せる構図に奥行きがあっていいですね。他にも一瞬才気を感じさせる絵が随所にあり印象的な3Dシークエンスになっているだけに、中途半端な作りは惜しいですね。





200119

「トロン・レガシー」
Tron: Legacy 2010

ディズニー映画「トロン」(1982)の続編です。先週見た「サンクタム」と同様、ジェイムズ・キャメロンのフュージョンカメラシステムで撮影されています。もっともこちらのほうは全面的にCGIが用いられていますから、実写なのはほとんど俳優の部分だけといってもいいくらいです。
しかし映像自体は素晴らしい雰囲気が出ていて、前作とは雲泥の差です。基本的に暗闇のコンピューター内部の世界、そこは床がぼーっと光ってなにか提灯で照らしているような幻想的なライティングです。話自体はそれほど感心するほどのものではないんですが、この全体を覆う映像美は見ていてうっとりさせられるほどに妖しいものがあります。

また話題のひとつとなったのは、前作に引き続いて主演するジェフ・ブリッジズの若い姿をCGで描いてあるところです。去年の映画「ジェミニ・マン」ではやはりウィル・スミスのクローンを同じ手法で表現してあってこれは相当のもので驚きました。しかし十年前の「トロン・レガシー」では、やっぱりこれがCGにしか見えないんですね。
この映画は当時ロードショウでも見ました。そのときも、まあよく出来てはいるけどこれじゃちょっとね…と思いましたから、やはり微妙な顔の表情をCGで表現するのは難関だったことでしょう。ちっとも若いときのブリッジズに見えないんですよね。

まあそれはいいとして、今回の主人公はブリッジズ演ずるプログラマー・フリンの息子サムです。これが李安(アン・リー)の「ビリー・リンの永遠の一日」(2016)で非常に印象的な軍曹を演じていたギャレット・ヘドランドなんですね。「レガシー」をロードショウで見たときはほとんど記憶に残らないような感じだったんですけどねー。今回見直してみても、やはりもうひとつぴりっとくるものがありません。
ただキャラクター自体は劇中大活躍で、再びコンピューター内部にさ迷いこみ消息不明となっていた父を助け、三十年前の父をも上回る無鉄砲さでプログラムの暴走の阻止を成し遂げます。

プロダクションデザインはすべてにわたって前作を凌駕しており、コスチュームからオートバイからどれもかっこいいですね。というかまあ、前作と比較すること自体ナンセンスといいますか(笑)。劇映画で初めてCGを全面的に採用したという触れ込みの前作は、当時見たときでもすでに「これはなにかの冗談か?」と思ったくらい滑稽で無様なグラフィックでしたからね。
前作との対比でなくとも、この2010年作は近年のSF映画の中でも洗練の度合いの非常に高い映像です。監督はこの次に「オブリビオン」(2013)を撮るジョセフ・コシンスキーです。音楽をダフト・パンクが担当しこれまたどんぴしゃの世界観を演出しています。クラブのシーンではDJとして本人たちがちょこっと出演しています。

ブルーレイ3Dはレンタルで出ているのを借りてきました。基本のシネスコサイズがアクションシーンはヴィスタ判になり上下に拡張する、アイマックス版を再現してあります。
3Dの出来はというと、ディズニー映画らしく若干抑え気味の立体効果で物足りない感じもあるものの、充分な出来ばえです。全体に暗い画面なので立体感は出しにくいというところはあったでしょう。四人の白いニンフに囲まれて説明を受ける場面などはなかなかいいし、広いスタジアムでのゲームバトルも空間を感じさせます。もっともここは全部CGですね。

映画の初めに、意図的に2Dで撮影されたシーンがあると注釈があります。実際は現実世界が2Dで表示されており、コンピューター内部の世界に変わるとぱっと3Dになるという演出が施されているんですね。しかしこれはさほど効果があったとは思えません。むしろ、サムの住居であるガレージや前作を忠実に再現したゲームセンター・フリンズなどは、ここを3Dで撮らなくてどうすると言いたくなるようなカットです。
モノトーン調のディジタル世界はクールでストイックな感覚があり、フリンの居宅は「2001年」のラストで描かれているボーマン船長の食堂や寝室を思わせます。キューブリックがもし立体映画を撮っていたらすごいことになっただろうなあと思ったりもしました。





200112


「サンクタム」
Sanctum 2011

ジェイムズ・キャメロン製作総指揮による洞窟探検アクションで、「アビス」(1989)での水中撮影のノウハウが生かされています。洞窟といってもほとんどが地下水に覆われており、巨大な暗黒の迷路をさまようような恐怖が描かれているんですね。映画の雰囲気としては「ポセイドン・アドヴェンチャー」(1972)と「エヴェレスト」(2015)を足して舞台を地下洞窟に移し出演者たち全員にアクアラングを背負わせたというような感じです。
これはロードショウにも見に行きました。中規模で制作された映画で、傑作とまではいかないものの非常に印象深いところがありました。これは日本盤のブルーレイ3Dが出ていて、久しぶりでまともに字幕の付いたのを見ることができました(笑)。

パプアニューギニアにある世界最大だという洞窟の探検が、冒険好きの実業家の出資によって敢行されます。チームリーダーに指名されたのがこの道のヴェテランにしてベストガイと目されるプロ。この探検家をリチャード・ロクスバーグというオーストラリアの俳優が演じています。あまり主役級で出ることは無く、どちらかというとB級アクションでギャングの手下みたいなのでよく見かけるような印象の人です。
しかしこの映画では厳格なタフガイ役をよくやっていて、なかなかの好演です。またイオアン・グリフィズがリチャード・ブランソンを思わせる富豪役をやってます。他は知らない俳優ばかりなんですが、しかしいずれも役に合ったキャスティングで悪くないです。

実話に基づいたストーリーです。1998年にオーストラリアの洞窟探検行で起きた遭難事件で、このときのリーダー自身が製作者となり脚本も書いて映画化したものです。そのため劇映画ではあっても非常にリアルな演出がなされており、もし自分が現場にいたらと想像するとけっこう怖いものになってるんですね。
ディスクの特典映像には、当時制作されたこの遭難事件のドキュメンタリービデオが収録されています。探検クルーにはカメラマンもいて一部始終をビデオカメラに収めてあって、これが突然のサイクロンで瓦礫に埋まった地下洞窟の中のほうにいたもんで、遭難の模様が生々しく記録されているんですね。このときは幸い全員生還してハッピーエンドですが、「サンクタム」のほうはそうはしてありません。

ところどころで陸地部分はあるとはいえ、とにかく行くにも退くにも水中をくぐっていかないとだめ、しかも正確な地図など無く先がどうなっているかわからないところに出口を求めて決死のダイヴを試みるわけですね。しかも洪水で必要な機材はあらかた流され、限られた空気ボンベと懐中電灯しかないという極限状態です。
こういうところでは非情にならざるを得ず、不運にも大けがを負って進めなくなったクルーを、そのまま放置するよりはと楽にしてやるという苛酷な場面さえあります。

この映画の見ごたえのあるところは、すべて実際に水中撮影をしてある点で、俳優たちも一定の訓練を受けてダイヴィングに挑んでいます。また潜水だけでなくロッククライミングもあるし、瀧のような流れを浴びながらのハードなアドヴェンチャーです。
これがグリーンバックなどのCGIはあまり使われていないようで、ライヴアクション中心に撮ってあるため迫力があるんですね。洞窟内でのアクション場面はさすがにロケというわけにはいかずセットを使ってありますが、張りぼての感じは無くてよく出来てますから違和感はありません。むしろメイキングを見て、よくこんな岩の洞窟のセットをプールの中に作ったもんだと感心するほどです。
ただ演出はわりとあざといところもあったりステレオタイプな描きかたもあったりと、一流の映画というまではいかないですけどね。まあB級すれすれの娯楽作ながらインディペンデントスピリットある力作というところです。

3D撮影はキャメロンのフュージョンカメラシステムを使ってあります。「アヴァター」(2009)と同じカメラですね。3Dには一家言あるキャメロンだけに、当然ながらこの映画も立体効果は充分に出ています。感心したのは冒頭のカットで、水に浮く主人公を下から逆光で見上げる絵です。立体感を出しにくいこの構図を、ずんと奥行きのある空間に見せていてすごいです。
ただ、今になってブルーレイ3Dで見直してみると、この時期のディジタルカメラの限界なのか、画質がもうひとつという感じがします。2Kくらいのスペックのようです。ということは「アヴァター」も今見たらそう感ずるってことですね。続編が出るころにもういっぺん見直してみます。




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