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2017年に見たブルーレイ3D


最近ようやく3D表示のできるテレビを買ったので、夜な夜なブルーレイ3Dを楽しんでいます。
そこで、見たソフトについてその良し悪しを書いていこうと思います。
変換3Dは好まないので、ステレオカメラで撮影された映画ばかりです。


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171223


「ファインディング・ドリー」
Finding Dory 2016

「アーロと少年」(2015)の次の2016年作も続けて見ました。これもロードショウには行きませんでした。シリーズ前作となる「ファインディング・ニモ」(2003)は劇場の映写システムがディジタルプロセッサーに換わりだしたころで、たしか「ニモ」もDLPで見たはずです。その色彩の鮮明さ美しさには目を見張るものがありました。
今回はそれが3Dになっているので、これはさぞ素晴らしい水中シーンが見られるものと大いに期待しました。

期待以上でした。海中の光の表現がまったく見事というほかなく、魚たちの動きも完璧にコントロールされていて水の質感・抵抗感・無重力感がリアルに伝わってきます。
3Dの効果も充分出てました。背景をぼかしたシーンも多かったんですがそれほど気になりません。おそらく地上の空気中と違って海中には常に小雪のような浮遊物がわずかに漂っているため、その位置との差異で奥行きが出るんだろうと思います。
浅い海底のサンゴ礁の極彩色は妖しいほどですし、その広がり・奥行きはCGアニメならではの魅力があります。まただんだん深くなり光が届きにくくなってくるあたりの暗めのシーンがまたいいんですね。海藻がゆらめき光線がカーテンのように差し込んでくるところの感触は3Dで見てこそのものです。

またCGの技術も当然ながら進歩してますから、出てくる魚たちの質感表現もさらに向上しています。特に今回のストーリーの柱となるキャラクターがタコで、これがすごいんですよ。オクトパスじゃなくてセプトパスですが(笑)。
その体表のテクスチュアはリアルであり同時に作りもの的でもありで、スピーディかつ滑らかな動きと相まって強力な印象を残します。ドリーの最大の協力者となるこのタコ七のハンクは水陸両用で垂直の壁もへっちゃら。そのうえカメレオンのように自在に体の色を変えて身を隠すことができるというスーパーニンジャです。第三弾「ファインディング・ハンク」なんて企画もあるんじゃないでしょうか(笑)。

さてストーリーのほうは、「ニモ」のときの同伴者であったドリーを今度はメインにすえた後日譚です。同時にドリーの幼少の頃も描き、健忘症の彼女の悲哀にスポットを当てたものになっています。
そもそも五秒前のことを忘れてしまうドリーのキャラクター、もとは単なるジョークとして設定してあったものです。そういう種類の魚なんだろうと思っていたし、だいたい魚類自体その程度の知能しか無いのが普通、というネタだったわけですね。
しかし今回再構築した設定では、ドリーだけがそういう症状を持つ障碍児として描かれています。
そういう娘のことを案じていた両親と不可抗力ではぐれてしまったドリーが、ひとり大海をさまよっている最中に息子を追うマーリンと出会った…という話の流れを組み立ててあります。それがあるきっかけで幼児期の記憶が一つまたひとつと蘇ってきて、今も自分の帰りを待っているであろう両親を探す旅に出ることになったというのが筋立てです。

まあー今回も冒険また冒険の大スペクタクルなんですけど、やはり前作と比較すると見劣りがするのはしかたありません。
主な舞台となるのが意外にも海洋動物園の中で、広大な海を渡るのとは違ったアスレティクス的な展開を盛り込んであるところなど工夫はこらしてあります。
しかし子どものころに生き別れになった親を訪ねて三千里、しかも手がかりもなにもあったもんじゃないというような雲をつかむような話で、それが次々と幸運が重なってとんとん拍子にうまくいくというところは少々ご都合主義に過ぎるという感がします。
「ニモ」のときは、父マーリンの切迫した思いが彼の無謀な行いを突き動かしていたわけですが、今回はそれに比するだけの強力な動機に乏しいところはどうしようもありません。

ドリーのクジラ語の秘密など、前作を補完するような題材もいろいろあってそれはそれで楽しいものです(エンドロール後にはものすごいオチまで付いてます)。あくまでも大ヒット作のスピンオフとしてセットで楽しむものでしょう。
ハンクのフィギュアが出ていたらちょっと欲しいですね(笑)。




20171217

「アーロと少年」
Good Dinosaur 2015

先週に引き続きピクサーものです。これはロードショウには行ってなくて、今回初めて見ました。内容は事前にはまったく知りませんでした。恐龍と人の子どもとの交流を描く原始時代ファンタシーなんだろうという、ポスターの絵柄から想像がつく範囲です。
ぱっと思い浮かぶのは「恐竜百万年」のことです。石器時代の原始人が出てくるところは百万年前でいいんですが、恐龍はそれよりもはるか以前の時代の生物ですから共存しているわけがないという揚げ足取りがあることでも知られていますね。
恐龍は爬虫類で冷血動物ですから、雪が降るような氷河期以降は活動できるわけがないんですけど、まあそれ言っちゃうとなんで恐龍が英語でせりふをしゃべるのかが説明つきません(笑)。

それより興味深いのはこの映画、動物と人の主体性を逆転して描いてあるところです。
主人公は擬人化された恐龍のほうで、その一家は畑を耕し収穫した作物を冬に備えてサイロに保存するような農耕生活を営んでるんですね。言葉を話し家族同士や他の恐龍たちとコミュニケーションをとることができます。
一家の末っ子アーロは天災により父を亡くし、家から遠く離れたところまでひとり連れ去られてしまう気弱な子どもです。

映画はその帰郷の旅を描く冒険譚ですが、これに同伴するのが人の子どもです。ところがこれが言葉も持たずどこから来たかもわからないみなしごで、四つ足で歩き臭いで追跡するなど野生児というよりはほとんど野獣の描かれかたです。
農場の外の世界を知らず何に対しても怯えてばかりのアーロをいろいろと助けてくれるこの野生児、だんだんアーロになついてきて犬がしっぽを振ってまとわりついてくるような表現になってるんですね。さしずめ “擬獣化” といったところでしょうか(笑)。

ただその演出のしかたが特に効果をあげているとは思えません。あるいは元々、「スポットと恐龍」というような企画で原始人の子どもと恐龍の物語だったのかもしれません。しかしそれだとありきたりだし、ストーリーのほうも新味があるとは言えません。
そこでいっそのこと、主体と客体を入れ替えてしまったらどうかということになった…というような感じです。そうだとすれば確かに設定には目を引くものができたわけですが、話自体にはひねりが無いままです。

主人公のアーロのストーリーに、恐龍ならではの悩みや弱味、あるいはその逆の要素があるかというとそうでもないんですね。強いて挙げると手が使えないこととか、旅の途中で出会う者の中に空飛ぶ翼龍が出てくるくらいのことでしょうか。舞台は太古の時代とはいえ地球上ですから、もしヒトが主人公であったとしても同じ視点でとらえた世界観となってしまいます。
これが主人公の立場がおもちゃであったり虫けらであったりすれば、それぞれ独自の面白い世界が描けるわけですね。魚の世界ならば、我々の想像のつかない海の底の様子を見せてくれます。

この映画の場合、ただ単純に恐龍を擬人化しただけのことになってしまっていて、それ以上の面白味がありません。ピクサー作品としては「ウォーリー」以下の出来といってもいいでしょう。
だいいちアーロたちのデザインがまったくダメなんですよね。絵本のような平面画ならいいと思われる絵ですけど、これを細密なCGで描き起こすとなんとも変てこな恐龍に見えてしまいます。途中出てくるティラノザウルスたちなどはかっこいいのに、主人公がぜんぜん感情移入できない風貌です。
このへん、CGの技術が進歩すればするほど浮き彫りになってくる課題で、リアルな背景とまんが的なキャラクターとの兼ね合いの付けかたも難しいところです。

でも3Dのほうはなかなか見ごたえがありました。広大な太古の大地が広がっているところが素晴らしいです。また特筆できるのが水の表現で、水中カメラが空中からそのまま水面下に没したところの光の変化・屈折のしかたがまったく見事です。
CGアニメのステレオ映像化の技術もだんだん進化していっているようです。




20171210

「インサイド・ヘッド」
Inside Out 2015

ピクサー/ディズニーの長編アニメーションは、1995年の「トイ・ストーリー」の衝撃が今なお冷めないほどのインパクトがありました。続く「バグズ・ライフ」(1998)を見て、これはすごい時代になってくるぞという予感がしたものです。
その後も順調に新作が製作され続け、現在十八作品。「インサイド・ヘッド」は十五作目にあたるものです。ロードショウでは3D上映は吹き替えのみでしたから、オリジナル音声では今回初めてブルーレイ3Dで見ました。
ピクサーの長編で3D化が始まったのは「カールじいさんの空飛ぶ家」(2009)からです。以後はすべて3Dでも制作されています。ちなみにピクサー/ディズニー長編を列挙すると次の通りです。

トイ・ストーリー(1995)
バグズ・ライフ(1998)
トイ・ストーリー2(1999)
モンスターズ・インク(2001)
ファインディング・ニモ(2003)
Mr.インクレディブル(2004)
カーズ(2006)
レミーのおいしいレストラン(2007)
ウォーリー(2008)
カールじいさんの空飛ぶ家(2009)
トイ・ストーリー3(2010)
カーズ2(2011)
メリダとおそろしの森(2012)
モンスターズ・ユニバーシティ(2013)
インサイド・ヘッド(2015)
アーロと少年(2015)
ファインディング・ドリー(2016)
カーズ/クロスロード(2017)

それで「カールじいさん~」からの四作はレンタルでもブルーレイ3Dが出てるんですね(人気作の『トイ・ストーリー』シリーズと『モンスターズ・インク』、『ファインディング・ニモ』『カーズ』はあとから3D化されリリースされています)。
しかし「モンスターズ・ユニバーシティ」からはディズニーは3D版のレンタルをやめましたから、見ようと思うとセルBDを買うしかありません。ただディズニーの商売のしかたは、DVDとブルーレイディスク、さらにダウンロードコードとのセットで高額な商品にして販売する手法なので、けっこうハードルが高いんですよね。こちらはブルーレイ3Dだけ欲しいわけですからねーバラ売りしてくれないもんでしょうか。
そこでアマゾンのマーケットプレイスやオークション、メルカリなどで安く出品されるのをチェックしています。でもやはり人気作ばかりなので相場は高めですからなかなか。

「インサイド・ヘッド」は見ごたえのある映画だったので、ぜひまた字幕版で見たいと思っていたのがようやく実現しました。やはりCGアニメはブルーレイディスクで見たほうが劇場よりも画面が明るく色鮮やかでいいですね。ロードショウのときに併映だった短編「南の島のラブソング」も収録してあります。
3Dに関しては、まあ普通といえば普通です(笑)。やはりディズニーである以上、全世界・前世代向けの商品となりますから、目に負担のかかるような挑戦的な立体効果を採り入れるのは難しいでしょうね。

人の脳内のはたらきを擬人化して見せる仮想世界の話です。ウッディ・アレンの「誰でも知りたがっているくせにちょっと聞きにくいSEXのすべてについて教えましょう」のようなものです。
そのしくみは、五つの感情をつかさどる五体のキャラクター、Joy(ヨロコビ)・Sadness(カナシミ)・Anger(イカリ)・Disgust(ムカムカ)・Fear(ビビリ)がオペレーションルームで共同作業をするもので、ある中学生の少女が主人公です。この五体のキャラクターというのがわりとビミョーで、よくできてるんだかそうでもないんだかよくわかりません(笑)。
中心メンバーのヨロコビが三面六臂の大活躍をするわけですが、この人ワンピースに素足というなんともいえないいでたちなんですね。どういう経緯でそんなデザインに決まったのかちょっと知りたいものですけども、メイキングの特典はブルーレイ3Dのディスクには付いてません。

感心したのはキャラクター造形ではなく、脳内のはたらきを非常にうまくビジュアル化してあるところです。
本人の実体験が記憶として保存されるシステムは、このオペレーターたちにも左右することができないため、ヨロコビはできるだけ美しい記憶を残そうと日々奮闘します。
しかしカナシミがなにかすればするほど、少女の感情はネガティヴに傾いてしまいます。カナシミも別に悪気があってやっているわけではなく、ただ自らの職務を果たしているにすぎないというところはイカリもムカムカもビビリも同じことです。

少女が引っ越し先の環境になじめず孤立感が芽生えていく過程で、ある重大な失敗をきっかけに出口の無い心理状態へとスイッチが入ってしまいます。そのとき実は脳内で起きていたことは…という場面。
オペレーションルームでは、カナシミが触れてはまずいものに触れてしまい、あわてたヨロコビがリカバリーにしくじってこの二人のオペレーターが広大な深層心理の迷宮にワープしてしまいます。
この奇妙でファンタジックで、また果てしなく暗く恐ろしくもあるクレイジーな潜在意識の世界から二人は無事オペレーションルームに戻ることができるか、というスリリングな冒険ストーリーが主軸になっていきます。このへん展開のしかたが上手いですね。少女の暮らす実際の世界の動きと脳内の活動が同時進行していく二重構造が実に巧みです。

二重構造で進行する物語というのは映画でもわりと多いものの、本作のようにインサイドとアウトサイドが完全にシンクロして並列で見せていく手法は珍しいんじゃないでしょうか。子どもにも理解しやすく、しかも脳科学の分野の基礎を概念的にとらえることができる舞台設定は見事です。
子ども時代に育んださまざまなカテゴリーの記憶の城郭が次々と崩落し霧消していくさまはショッキングですが、実はそれは思春期に向かって子ども時代との決別を意味してもいるんですよね。つまり自我の確立のために必要なみそぎのようなプロセスであり、私にも身に覚えがありますから、ファンタシーでありながら非常にリアルな感触もあります。




20171119

Metalstorm: The Destruction of Jared-Syn 1983

これはすごい3Dでした。すごいといってもどちらかというとあきれてしまうような凄さなんですが(笑)。これまで私が見てきたブルーレイ3Dの中ではもっとも目に負担のかかるキツいステレオ設計がされてます。
ずいぶん昔に、VHDというビデオディスク規格でこの映画の3Dを見たことがありますけど、そのことはまったく記憶に残ってませんでした(ダビングしていたVHSが棚から出てきたんで見たことがわかりました)。完全なB級アクションもので、若かった私にはとても受け入れる余地など無い低レベルの内容だったからだと思われます。

しかし目にキツいのは確かですけど、ブルーレイ3Dの鮮明な映像で見てみるとその立体効果はなかなかのものです。ここまで強烈に立体効果をかけてくるかというような撮りかたをしてあって、画面の中を視点移動しようとするとだいぶ寄り目にしないと背景にフォーカスが合わせられなかったりします。でもそうやって見てみると背景もちゃんとピントが合っていて、豪快な3Dになってるんですねー。いろんな意味で「すごい」んですね。
この映画、当時わが国でも「メタルストーム」として劇場公開されてますけど2D上映のみだったようです。アメリカではおそらく赤青式のアナグリフィック方式での上映だったろうと思います。アナグリフィックで見たらそれほど目に負担がなかったのかもしれません。

映画自体は「マッドマックス」もどきで、これに「スター・ウォーズ」の雰囲気を混ぜたうえで144分の1にスケールダウンしたような感じです。さらに「トロン」のチェイスシーンのモロパクりやマカロニウェスタンふうの対決シーン、もちろんカーチェイスから爆破シーンから、ありとあらゆる娯楽活劇の要素をぶち込んであります。ラヴロマンスもワンシーンだけあります(笑)。
ここまで低予算でも映画ってのは作れるもんなんだなと思えるほど、プロダクションデザインはもう手作り感100%ですね。出てくる装甲車はプラモデルを巨大化したような、ほんとにトタン板と材木で作ったような感じですし、精いっぱいがんばってSF仕立てにした酒場の内装も滑稽なこと甚だしいです。

いつの時代のどこの話かも分からない無国籍な設定で、砂漠の国を支配しようとする悪党ジャレッド・シンを追跡するレインジャーが主人公です。
シンは普通の人間ですがなぜかその息子で実働部隊のリーダーはピッコロ大魔王みたいな緑色野郎。しかも片腕はロボットアームです(笑)。こいつがロボットアームの先から噴射する緑の液体をかけられると、どういうわけかシンの魔力で悪夢の世界に転送されてしまうという、以前見た「マスク」のような設定になってます。ちゃんとクリスタル製のマスクも出てきて当然それをかぶるとまた悪夢世界です。監督は「マスク」のファンだったのかもしれません。

まあそんなようなとにかくむちゃくちゃな筋立てですけど、アクションは意外と本気ですごかったりするし、途中シンの手先の「宇宙水爆戦」のミュータントみたいなのが白く光って出てくるところなどは、アナログなSFXながら迫力があって捨てたもんじゃないんですよ。やはりこの手のB級映画の作り手たちは、これが好きだからやってます的なところがあるみたいですね。
それに、大手の一般大作映画などのいわゆる一流の作品にはついていけないというような、人口の多くを占める労働者階級の観客層には、むしろ大いに好まれるようなワイルドさがあります。B級映画ファンのすそ野は広く深いんですね。

ちなみにこのブルーレイ3Dも日本盤は出てなくて輸入盤を買いました。当然字幕なしですけどせりふは少ないし、ストーリーはあって無いようなものですから充分楽しめます。
実はこれユーチューブにアナグリフィック版がアップロードされていて、なぜか日本語字幕が付けてあるんですねーいったいどういうわけでしょうか。赤青メガネで見てみましたけど画質が悪すぎて立体感はほとんど感じられませんでした(笑)。



20171112

Those Redheads from Seattle 1953

3-D・フィルム・アーカイヴがリストアを手がけたブルーレイ3Dです。「キス・ミー・ケイト」のような楽しい舞台ミュージカルかと思っていたら、ミュージカル半分西部劇半分くらいの仕立てでした。パッケージデザインは当時のポスターをアレンジしたものですが、どう見ても赤毛の三人姉妹が舞台でラインダンスを踊るミュージカルですね。
でも実際には姉妹は四人いて、そのうちの赤毛の三人が舞台に上がるというシーンはありません。いかにも昔の映画興行における見世物然とした手法が見てとれます。客呼んでなんぼの世界です(笑)。ある意味では立体映画らしくていいかもしれません。
売りものとしては3D以外には、当時レコーディングアーティストとして活動していたシンガーが四人も出ていることが予告編でうたわれています。ヒット曲もいちおうあるみたいですけどいずれも聞いたことのない名前でした。

例によって字幕なしで見ましたから、ストーリーは当てずっぽうです。おそらくアメリカ中西部へんの標高の高い街での出来事で、季節は雪に覆われた冬。ウェスタンによく出てくるような宿場町の雰囲気ですが、犬ぞりまで出てくるような季節感はちょっと意外な感じです。
そこで街の不正を暴く報道を続けていた新聞社主がチンピラに暗殺されてしまいます。社主は単身赴任していたところで、家族は遠く離れた実家で暮らしていましたが(そこがシアトルってことでしょう)、生前に出していた招致の手紙で一家は西部の街に引っ越してきます。

これがお母さんと四人の娘で、いつも器楽演奏のレッスンを欠かさない音楽一家。お母さんはなかなかの気品漂う婦人でアグネス・ムーアヘッドという女優です。名前に覚えは無かったもののなんとこの人「奥様は魔女」のエンドラでした(!)。
ところが着いてみると旦那は殺されていて犯人は逃亡、新聞社は休業状態という最悪のありさまです。困った一家は生計を立てるために場末のクラブで上の三人が歌って踊る稼業を始めることに…なるのかと思ったらそうではなく、内職をしてつましく暮らします。

その場末のクラブというのが地域唯一の娯楽場で、酒場と賭博場も兼ねています。一家がシアトルから越してくる途中で出会った気さくな男は実はこのクラブのオーナーで、長女はプレイボーイと知りつつ密かに思いを寄せるようになります。ところがこの男、新聞社主を狙撃した犯人とも知り合いだということがわかって込み入った人間関係へとなっていきます。
しかも芸ごとの好きな三女が、母と姉たちの反対を押し切ってクラブでダンサー兼シンガーとして働き始めるにいたっては一家対疑惑のクラブオーナーという構図にますます複雑さが増していきます。

とまあ、こう書くとちょっと面白そうな感じもするかもしれませんけど、どうも演出はばたばたしていて垢抜けず、見せどころがはっきりしません。せりふがちゃんとわかればそうではないかもしれませんが、わからないんだからしかたありません(笑)。この映画はわが国では劇場未公開ながらテレビでは「四人姉妹」のタイトルで放送されたことがあるようですから、日本語版も存在するとはいえDVDなどのソフトが無いんじゃどうしようもありません。

ただし3Dはなかなかいいです。きちんと撮ってあって、立体効果は素晴らしいものがあり楽しめます。手前から奥まではっきりフォーカスが合っているので、スタジオの空間が見事に再現されています。これ見よがしな、こちらに向かって物を突き出したりしてくるような見せかたが無いところは好感が持てますね。屋外ロケの場面はほとんど無く室内シーンとスタジオの宿場町のセットでの撮影です。
また色彩もテクニカラーだけあって鮮やかです。ただ三色のモノクロネガまではさすがに残ってなかったようで、修復前のプリントにはかなり問題が多かったようです。3-D・フィルム・アーカイヴのディジタルリストアは当然ながら丁寧になされていて素晴らしいです。






20171022


Pina 2011
「ピナ・バウシュ~踊り続けるいのち」

ヴェンダーズが最初に撮った3D映画でドキュメンタリーです。「もしも建物が話せたら」と「誰のせいでもない」が素晴らしかったので、これもきっといいに違いないとブルーレイ3Dを買うことに。やはり日本盤の3DBDは出ていません。
アマゾンのマーケットプレイスをチェックしたら、たまたまえらく安い千円以下の中古品が出ていました。そのイタリア盤が意外と早く届いたのでイッキに見てみました。

だいたい舞踏にはまったく興味が無くて、クラシックバレエに対してはむしろ畸形的な芸術形態という印象を抱いています。そのため綜合的な知識に乏しく、クラシックバレエとモダンバレエの違い・折衷の度合いなどについてもわかりませんし、そもそもダンスの種類がいったいどれだけ一般的に認知されているのかすらあやふやというレベルの見識です(笑)。
映画ではときどきダンスを題材にしたものがあり、それはなんとなく見てきました。ぱっと思い浮かぶのはバズ・ラーマンの「ダンシング・ヒーロー」やドキュメンタリーの「フラメンコ」ですね。後者は音楽とダンスですけど、これは素晴らしいものがありました。「ブエノスアイレス」でのアルゼンチンタンゴのシーンも印象的でした。

さてピナ・バウシュという人物についてはなんとなくどこかで聞いたことのある名前という程度で、この映画のロードショウのときもさほど興味なく見に行くことはありませんでした。今回少し調べてみたらこの人、舞踏家としてよりも振付師としての業績が評価されているんですね。
しかも映画には本人はアーカイヴ映像でしか出てきません。撮影を始めた矢先に亡くなってしまったそうです。そのため映画は、生前に発表された彼女の作品を現役ダンサーが踊るという、いわばトリビュートもののようなスタイルになっているようです。てっきりポスターになっていた赤いドレスでジャンプしているのがバウシュ本人とばかり思ってました。

もしこれが一人のダンサーのソロ演舞を中心としたものばかりだとしたら、興味の無い者にはちょっと辛いところがあったかもしれません。しかし映画は多国籍の一流のダンサーがおおぜい出てきての群舞のシーンが多くなっていますからなかなか見ごたえがあります。
スタイルとしては前衛バレエですね。冒頭からなにやらアルゴリズム行進のような奇妙な動きをする行列から始まり最後もこれで終わるんですけど、その奔放な動きは奇抜でアイデアにあふれ、またユーモアもあります。
全体に短いプログラムのダンスをたくさん盛り込んであるので、退屈しません。

その舞踏がなにを表しているのかはさっぱりわかりませんが、しかしパフォーマンスはものすごいです。鍛え抜かれた強靭な体を使って、なにかを表現しているわけですね。でも見ているうちに、これが何を意味しているのかなどと考えるのはナンセンスなんじゃないかと思えてきます。
踊り手はなにかをイメージしているのかもしれませんけども、それがなにかを探るよりも、単純に見事な肉体の躍動それ自体を見て感心するだけで充分なんじゃないかと思います。
実際、常人にはとても不可能と思えるようなダンスなんですね。動きはシャープで無駄がなく緊張感に満ちており、流れるような滑らかさしなやかさがあって曲芸とはまた違った祝祭的なものが感じられます。やはりヨーロッパの伝統文化の系譜として、芸術は神への捧げものであるというその根底にある精神がうかがえるんですね。

それでまた3Dも期待どおりに素晴らしいです。先に見た二本と同じくジョセフィーン・デローブが3D撮影を監修しています。
劇場の客席から舞台全体を見渡す俯瞰シーンでは、通常よりも左右のレンズ位置を広げて強烈な立体感を作り出しています。客席の位置から、ステージの奥行きが手に取るようにわかります。群舞では、それぞれのダンサーの位置が正確にわかって、まさしく立体的にステージのパフォーマンスをとらえることができます。舞台の記録として3Dは有効であることがわかりました。
以前、劇団の芝居をHD録画して映画館で上映するという「ゲキシネ」という企画ものを福岡でも見ましたが、意外と迫力のあるものでした。これなど3D撮影するときっと面白いだろうと思います。
屋外でのソロとデュエットでは、森の中や草原あるいは都市の一角など、3D表現として面白い場所を選んでさまざまな見せかたをしてあります。

アートフィルム系の映像作家で3Dに積極的に取り組んでいる人はあまりいませんから、もう少し立体映像の長所に目を向けてほしいですね。アクションやホラーものなどの娯楽映画以外でも、もっといろいろな3D映画を見たいものです。



20171015


Every Thing Will Be Fine 2015
「誰のせいでもない」

ヴィム・ヴェンダーズはたいして好きな監督じゃなくて、この二十年くらいは意識の外でした。フィルモグラフィを見てみても、例の「ベルリン天使の詩」以降は目立ったものも無く、2000年の「ミリオン・ダラー・ホテル」を最後に近作はまったく見ていません。
それがついこの前見たオムニバスのドキュメンタリー「もしも建物が話せたら」が意外と良かったので、3Dで撮ったドラマの最新作には俄然期待が高まりました。もともとちゃんとしたステレオカメラで撮影されたものであることはわかっていたので、ブルーレイ3Dはドイツ盤で買ってあったんですよ。さっそく見てみました。

いやそれが期待以上の出来で、まったく素晴らしい立体映画になってました。ドラマの内容もなかなかいいですから、3Dとストーリーの両方が優れている稀有な作品だと言えます。
3D撮影のアドヴァイザーが「もしも建物が話せたら」でも全編を監修していたジョセフィーン・デローブという人です。その前のドキュメンタリー「ピナ」も手がけていて、ヴェンダーズはこの人に任せとけばOKとばかりに信頼厚いようですね。実際見事な立体効果が出ていて、ヴェンダーズとデローブのコンビによる次回作「アランフェスの麗しき日々」(2016)も楽しみです。

主演はジェイムズ・フランコーとシャルロット・ゲインズブールで英語劇です。ある不幸な交通事故を境にして大きくその人生が変わる二人を描いてあります。
新進作家のフランコーは新作の構想を練るため雪深い田舎に滞在中です。そこで車を走らせていたところ、急に飛び出してきた幼い兄弟のひとりを轢いて死なせてしまうんですね。
不可抗力とはいえ子どもの命を奪ってしまったことに大きな衝撃を受け、それからは恋人とも別れ自暴自棄にもなりかけますが、皮肉なことに作家としてはこのことがきっかけで大きく飛躍するんですね。おそらく書き続けることで贖罪の道を見出そうとしたんでしょうけども、自分でも気づかない間に変わってしまった人生観がその作風をも変え、作家として成功していきます。

いっぽう子どものひとりを失くした母親のゲインズブールも悲しみに打ちひしがれます。田舎とはいえ車の通行もあるところを子どもだけで遊ばせて見ていなかったという罪悪感もあるでしょう(後になって、このとき目を離していた理由が本人の口から明らかにされます)。
しかし運よく助かったもう一人の子はすくすく育ち、イラストレイターである母と二人暮らしで立派な少年に成長します。映画は事故のときにこの子が五歳くらいで、これが十五六歳になるまでの十年ほどが描かれます。

作家は事故から二年経ったある日、どうしても気になって母子の家のすぐ前の事故現場を再訪します。そこで図らずも母と出くわし、言葉を交わします。母は作家を子の仇とは考えておらず、しかたがなかったことだと公平にとらえているようですが、それでもやはり非常に複雑な心境です。その複雑さの一端が、幼い息子の意識の中では、あの日接した作家が父親であるかのようなイメージができているという点なんですね。このことが映画の後半の主題となっていきます。

話はその四年後と、さらに四年経ってからが描かれます。本が売れ始め生活も安定し、新しい恋人とその連れ子とで仲良く幸せな暮らしを送る日々。
やがて高校生くらいになった少年は、作家に連絡してきて面会を求めます。物心ついたこの少年もやはり、作家に対し複雑な感情を抱いているんですね。この後少年はストーカーまがいの違法ないたずらまでしてみせるんですが悪意はなく、作家はすべてを許し受け入れます。
映画は、起きてしまった忌まわしい出来事をどう受け止めればいいのか、という問いかけであり、その当事者たちがどう精神を浄化させていったのかを描いてあります。

抑制のきいた語り口というところでしょうか、落ち着いた演出でさすがに名匠といっていいと思います。作家の前と後の二人の恋人の人物像はほどよいバランスで描いてありますし、何度か要所で出てくる父との老人ホームでの対話、小説家としての才能を見抜き支援してきた出版社の社長(ピーター・ストーメア!)など、周囲の出来事もうまく盛り込んであります。
また連れ子の女の子がなかなかいいんですね。ませた感じがよく出ていて清涼剤になってますし、同様に母親が心の穴を埋めるように飼い始めた犬もうまく使ってあります。
演出はときにスリラータッチになり、なにかまた良くないことが起きそうな予感を喚起させながらそうはならない…という引きの感覚も巧みです。

さてそれで3Dのほうなんですけど、じっくり撮ってあって最高の出来ばえです。雪原や田園風景など屋外シーンはもとより、室内もその場の空間を見事にとらえてあります。
感心したのは、夜の暗い場面であるにもかかわらず、きちんと奥行きを出して隅々まで見えるようにしてある点です。これは他ではなかなか無いことで、ステレオグラファーの綿密な計算によるものでしょう。すばらしいです。
何度か書きましたが、アクションものなどでスピードのあるシーンは3Dには向いてないんですね。人の目は、動きが早いと立体感は感じないものなんですよ。その点ドラマだとカメラの動きもゆっくりだし、クローズアップも多用できますから、ほんとは3D表現には適してるんですけどね。
とにかくこの映画、ほぼ全編にわたって3D的な見どころ満載です。日本語版のブルーレイ3Dが出てないのは惜しいとしか言いようがありません。





20171008

Cathedrals of Culture 2014
「もしも建物が話せたら」

ドキュメンタリーです。これ福岡では劇場公開されたんですかねー。しかし3D上映はあったとしても東京大阪くらいじゃないでしょうか。
日本盤ブルーレイディスクはやっぱり2Dのみ発売です。海外盤でもブルーレイ3Dはドイツ盤しか出てませんでした。DVDのレンタル版も無いのでせりふの確認もできません。でもドキュメンタリーだし、話の内容は二の次ですからそれでもかまいません。制作会社のひとつにWowowがクレジットされてましたから、衛星放送はされたはずです。

六つの短編からなるオムニバスです。それぞれ違う監督が撮っていて、世界の各都市にある重要な建築物を主題としています。人物はほとんど描かれず、多くは通行人扱いという感じですね。
終始ナレーションがかぶさっており、どうもこれは邦題にあるように建物自身が語るモノローグという形をとっているようです。なんと言ってるかわかりませんが(笑)。
プロデューサーでもあるヴィム・ヴェンダーズが第一話。ベルリン・フィルハーモニックというのがコンサートホールの名称になってるんですね。パッケージ写真の建物です。続いてサンクトペテルブルクにあるロシア国立図書館。次はノルウェーのハルデン刑務所、カリフォルニアのソーク研究所、オスロ・オペラハウス、パリのポンピドゥー・センターとさまざまです。

それでこの映画、「3Dでも撮っときました」というようなのじゃなくて、そもそもが建築物を3Dで撮ってみようという企画のようなんですね。「A 3D Film Project About the Soul of Building」という副題が付いています。ヴェンダーズは2011年に舞踏家のピナ・バウシュのドキュメンタリーを3Dで作っていて、おそらくヴェンダーズ主導で3D映画の企画を発展させたんだと思います。
監督が六人いて演出の手法はばらばらですけど、3D撮影の技術指導をすべて同じ人が手がけていますから、立体効果がきちっと統一されているところがいいですね。

しかもその立体効果が素晴らしいんですよ。まあ劇映画と違ってドキュメンタリーですから、3Dがちゃんとできていて当たり前だとも言えますけども、それにしても完璧な立体映像が構成されており文句の付けようがありません。
特に感服したのが第二話のロシア国立図書館で、古い古い立派な建築の中にはさすがにものすごい量の蔵書が収められてるんですね。これを日々こつこつと整理している学芸員の仕事ぶりをカメラは淡々と追い、うず高く積まれた書架の立ち並ぶ大きくて狭い空間の感触を見事にとらえています。クローズアップもすごいです。
全編にわたってほぼ完全なパンフォーカスで撮影してあるので、手前から画面の一番奥まではっきりと見通せるんですよ。これは3Dのひとつの醍醐味でもあります。図書館内やコンサートホールなど、あまり光量の無いところでもそうできるのはディジタルカメラならではだと思います。

知っている名前はヴェンダーズと、ソーク研究所を撮ったロバート・レッドフォードですね。ハルデン刑務所はマイケル・マドセンが監督となっていて、へーえこの人監督もするのかと思いました。あるいは自分が入っていたことのあるところなのかなとも思いましたが(笑)、特典映像を見てみたらなんとまったくの別人でした。同姓同名の人がいたんですね。
特典映像は各監督のインタヴューで、3Dへの取り組みかたについても時間を割いてありました。ここの部分だけでも話を聞きたいところです。英語字幕でもあればまだなんとか少しは役に立つかもしれないものの字幕はドイツ語だけ。残念。

この映画は、3Dで見なければ価値が損なわれるとまでは言いません。しかし2Dで見るとすると、ひょっとしたらわりと普通のルポルタージュ程度のものに感じるかもしれませんよ。もっともモノローグの内容が分かれば受け取りかたはまた変わってきますかね。
しかしかなり見ごたえのあるものとわかりましたから、「ピナ」のブルーレイ3Dも手に入れようと思います。

ドキュメンタリーの3D映画は昔からたくさん作られています。動物ものや海洋もの、宇宙開発や紀行の分野などですね。これを得意としていたのがカナダのアイマックスで、大型のアイマックスフィルムカメラを使ってものすごい立体映像を記録していました。
当然ブルーレイ3Dとしてソフト化されていて、良さそうなのを何枚かすでに買ってはいるんですけども、劇映画をあらかた見てしまってからでいいやとまだ仕舞ったままで、そのうちゆっくり見ようと思います。







20170917


The Bubble 1966

これもわが国では未公開の映画です。SF仕立てになってはいるんですが一種の不条理ドラマです。字幕が無くてせりふがわからないためはっきりしたことは言えないものの、画面を見ている限りでは初めから終わりまで謎は謎のままで、結局エイリアンの侵略なのかどうかは解明されずじまいです。
それでも面白けりゃいいんですけど、そうじゃありません(笑)。せりふがわかれば面白かったかといえば、たぶんやはりダメダメだろうと思います。説明のつかない状況に陥った夫婦の混乱を描いて珍奇な感覚を売り物にした、エログロナンセンスものに近い見世物映画ですね。

ところがこれが、3Dのほうがすごいんですよ。もう全編にわたりすべてのカットが立体感を強調してあって、ここまで徹底的に3D映像に特化した映画はちょっと無いんじゃないでしょうか。
冒頭の小型飛行機内のシーンでは、乗っている三人を同時に写します。狭い空間ながら距離感はきっちり出ていて、クローズアップでないのに俳優の鼻の高さや開いた口の中までちゃんと立体に見えています。
これ以降のほとんどすべてのシーンで、手前から背景までパンフォーカスに近い撮りかたをしてあります。もちろん3Dを意識した構図ばかりで、まったく見どころ満載です。モップや梯子などをこちら側に向かって突き出してくるという、お約束のサービスカットもいくつか盛り込んであります。

話は「トワイライトゾーン」か「ウルトラQ」かという感じの、迷宮に迷い込んだ者の焦燥と恐怖を描いてあります。急に陣痛の始まった妻を遠方の病院に運ぶため小型機をチャーターした主人公。おり悪く雷雨の夜で、パイロットもだんだんどこを飛んでいるのかわからなくなってしまい仕方なく道路に不時着します。そこを通りがかったタクシーに乗って近くの街に行き、病院で無事出産することができました。
ところが落ち着いてみるとなんだか医者をはじめ街の様子すべてが奇妙で、誰に話しかけてもロボットみたいな振舞いしかしません。いかにも「何者かに操られている」ふうです。しかしその理由は皆目わからず、赤ん坊を抱えた夫婦とパイロットはこの街からの脱出を試みます。
ところが街外れまでやってくると、あるところから先へは行けないようになっていることがわかります。なんと透明ガラスのような見えない壁が立っており、しかもそれは左右どこまでも続いていて完全に囲い込まれている状態です。透明な壁はトラックを猛スピードで衝突させてもびくともしません。飛行機は破壊されており高飛びも不可能です。

そういうようなシチュエイションで、さてそしたらどうすりゃいいんだということであれこれやってみるんですがうまくいかずで。そうしているうちに、あるとき上空を大きな影が覆うと同時に街の人がひとりまたひとりと持って行かれてしまうんですね。これがいつの間にか消えるなんてものじゃなく、ぴゅーっと空に向かって飛ばされてしまうという露骨な描写です(笑)。でもいったい何者が?
その大きな影というのが暗示にとどめてあり、UFOは出てきません。でもなにかが空にいる。唯一カギとなるのが街のど真ん中にある不思議なオブジェで、出入り口があり中に入ると真っ暗な空間に椅子がひとつ。お調子者のパイロットが不用心にも座ってみると、電気ショックのような衝撃があり幻覚が起こります。これを破壊してみると醜悪な生体メカになっていて、血管みたいなチューブからどう見ても体に良くない液体が吹きだしてます。

その後様子を見ていると、街の人全員がこの装置に定期的に座ってマインドコントロールを受けていたようです。主人公はロボトミー状態の住民たちに、目を覚ませと訴えて扇動し大ぜい引き連れて脱出の途を探ろう…としたところで映画はちょんと終わってしまいます。
その少し前に、主人公は脱出のヒントをつかむんですね。それでその方法を使ってみんなで逃げ出そうと説得したんでしょう。夫婦は希望に明るい表情に変わりましたから、最後のあたりのせりふのやり取りで事件は解決のめどが立ったように説明されたんだろうと思います。そこで「猿の惑星」のラストシーンのような衝撃の結末があればよかったんですが、ありません(笑)。

結局この映画、なんだったんだろうと考えると、やはり正体不明の侵略者をソ連に見立てて共産主義・全体主義のマインドコントロールの恐怖を示したというところでしょうか。
ただ私としては、一方でその根底にクリスチャン的な発想が横たわっていると感じられます。キリスト教の教義では人間を始めすべてのものが造物主によって創られたものですから、空の彼方から神に監視されその意に沿わないものは雄のひよこのように選別されはじかれてしまう…かもしれないという極めて潜在的かつ根源的な恐怖心。人智を超えた神の意志はいったいいかなるものなのかという畏怖の念は、欧米人にはわりと普遍的にあるものじゃないかと想像します。

なおこの映画、やはりそこらへんをあまりに具体的に描かずじまいだったので映画会社が一計を案じ、初公開から十年くらい経って「Fantastic Invasion of Planet Earth」というタイトルに替えてリヴァイヴァル上映したようです。そのとき上空を覆う影のカットを新しく作った絵と差し替え、今度は堂々と巨大な円盤型UFOを見せてるんですねーすごいですね(笑)。

それにしても、内容のお粗末さに比べて3Dの素晴らしさはいったいなんだと調べてみたところ、なるほどとうなずけることがわかりました。監督はアーチ・オーボラーという聞いたこともない人なんですけど、1952年の出世作が「ブワナの悪魔(Bwana Devil)」というやはり立体映画なんですね。
これがハリウッド映画としては初の本格的3Dもので、やっぱり内容はつまらないながら珍しい立体映画、しかもカラー作品ということで大ヒットを記録したんだとか。これ以降、次から次と3D娯楽映画が作られて第一次3D映画ブームが始まったというわけです。
やはりなんといってもオボラーはそのパイオニアですから、「The Bubble」でも全編で3Dを展開しまくったんですね。タイトル画面でも「Arch Oboler's The Bubble」と名前を強調してあります。実際この人、脚本も書いているし制作も兼任するなど当時は実力のあった人と思われます。

このブルーレイ3Dも、やはりアメリカの3-D・フィルム・アーカイヴがディジタルリストアを手がけたものです。元のフィルムは、一台のカメラで左右の画像を一度に撮影する簡易型のシステム「スペースヴィジョン」を使ったものですから、あまり画質はいいものではないんですね。しかしそれをあまり感じさせない見事な色彩と迫力の3Dが蘇っています。
3-D・フィルム・アーカイヴが「ブワナの悪魔」もいつかブルーレイ3D化してくれるんじゃないかと期待しています。





20170910


Gog 1954

パッケージを見るとなにかコメディかアニメのようにも思えますが、SF映画です。「2001年宇宙の旅」に先がけてコンピューターによる反乱を描いてあり、秀逸とまではいかないまでもなかなか興味深い出来ばえになっています。
タイトルはなにかの頭文字を並べたというものではなく、劇中に出てくる不格好なロボットの名前です。二台あってゴッグとマゴッグと名付けられているんですね。これが調べてみると、旧約聖書に出てくる蛮族もしくは悪魔といったような位置づけのものどもの名前です。つまり欧米ではゴッグというタイトルを見ただけで、なにやら不吉なことがらを象徴している題だとわかるという按配です。

地下の研究室で、サルを急速冷凍してまた蘇生させるという人口冬眠の研究が行われているところから話は始まります。研究室のセットはいかにも1950年代のSF世界で、意味ありげな計器やレバーやハンドルを白衣の研究者が物々しげにチェックしています。でもオナガザルみたいな本物のサルを使って撮影してあり、凍らせるところはベビーパウダーぽいのをふりかけて凍った感じを出してるんですけどこれはなかなかうまくできてますから、特撮のレベルはわりと高いスタッフが揃っているようです。
それで、実験がうまくいってやれやれ…と安堵しているところに突然奇怪な現象が起こり、博士と助手が冷凍室に閉じ込められ凍死してしまいます。その後も別の部署でひとりまた一人と謎の死を遂げていくなど映画はミステリー仕立てになっています。

なにしろ日本語字幕なしで見ているのでせりふがさっぱりわかりません。そのため主人公たちがこれらの謎の事件をどう見てどう行動しているかが今ひとつつかめないというところがちょっと困ったところです。
芝居を見ているところでは、スーパーコンピューターのNOVACというのが勝手に動いてロボットのゴッグくんとマゴッグくんを操り、研究所を支配しているんじゃないかと推理させる感じです。このコンピューター、HALならぬNOVACとはNuclear Operated Variable Automatic Computerの略称だそうです(笑)。

しかし最後に至って正体不明の航空機が登場、これが一瞬UFOというか外宇宙から飛来したエイリアンなのかとも見えるんですが円盤じゃありません。どうもこれ某国機すなわちソ連の攻撃機であることを示唆しているようです。この某国機から発せられた電波かなにかによってNOVACが暴走していた、というのが真相…だろうと思いますたぶん。
結局、人工知能が自らの意思を獲得し宣戦布告してくるといった概念は、この時代まだ大衆には広まっていないでしょうから、おそらく一般向けの娯楽映画でそれをやるとSFというよりはオカルトととらえられてしまったはずです。

まあそのへんはなんといってもまだ1950年代初頭です。原子力科学と宇宙開発の輝ける未来が僕らを待っている、という上昇ムードが映画全体を覆っているとはいえ、まだハードウェアのほうはアナログかつアナクロで時代を感じさせます。お決まりのビーカーやフラスコが乱立し赤青緑の液体から煙が上がっているというような演出は笑えますけども。
しかし時代性を考慮すれば、この映画のSF仕様はなかなかいい線いってます。研究施設内のさまざまな装置や小道具はわりとよくできており、NOVACのオペレイションシステムはIBM製で、なんとパンチ穴のあいた紙テープなんですねーすごい!(まだ磁気テープによるOSになる前です) それに機械式の複雑な演算装置がびっしり収まった大型の筐体などを見せられると、当時の観客はその先進性に驚いたんじゃないでしょうか。

このブルーレイ3Dも、アメリカの3D愛好家の団体・3Dフィルムアーカイヴがディジタルリストアを手がけています。その成果が素晴らしく、立体効果もさることながら色彩が最高です。テクニカラーではなくてイーストマンカラーで、特典映像のメイキングを見ると元のプリントはかなり退色していたようですから、ディジタル処理で色を戻したようです。
3Dも良好です。ほとんどすべてのシーンが地下の研究施設での出来事で、きちんとパンフォーカスにしてあるので奥行きが出てますね。ガラス窓で隔てた二つの部屋を向うのほうまできれいに見通せます。






20170820

「パイレーツ・オブ・カリビアン~生命の泉」
Pirates of the Caribbean: On Stranger Tides 2011

レンタルのブルーレイ3Dは意外とたくさん出ていて四十枚以上あります。このうち実写映画でステレオカメラ撮影されているものは十本くらいあるんですね。ほとんどはロードショウで見ましたけど、そうでないものが何本かありました。そのうちの一本がこの前見た「アポカリプス」です。
もう一本、こんど初めて見たのが「パイレイツ・オブ・ザ・カリビアン」シリーズの四作目です。三本目だろうと思っていたらすでに四本目でした。このヒットシリーズ、一本目はロードショウに行きましたが二本目は見に行ったかどうかよく覚えていません。三本目は行ってません。まあそんな感じです(笑)。

海賊ものというジャンル映画がどのくらいの本数あるのかはぜんぜん見当がつきません。思い出すものといえばダスティン・ホフマンの「フック」ですね。でもあれはピーター・パンの外伝という話だから海賊映画と言っていいかどうか。レニー・ハーリンの「カットスロート・アイランド」というのもありました。
おそらく50年代から60年代にかけては、西部劇と同様の人気ジャンルだったんじゃないですかね。ただ制作費はかかるだろうからそんなに次々と制作されたとも思えないし…よくわかりません。

そういうところに2003年、ぽつんと復活したのが「パイレイツ・オブ・ザ・カリビアン」で、周知のとおりメガヒットとなりました。ディズニーランドの「カリブの海賊」の映画化というからお笑いです。
映画の仕立てとしては完全にアクションコメディですね。デートコース用のプログラムであり、見終わったあとは「楽しかったねー」という記憶しか残らないアトラクション映画です。だいたいディズニーの実写娯楽映画だし、そのうえ製作者がジェリー・ブラッカイマーですから、しょうもない代物であるのはしかたがありません。毒にも薬にもならないってやつです。
実際見ていてまったく退屈で、何度か一時停止して別のことをしに行ったりしてました。二時間以上あるんで、劇場に見に行ってたら間違いなく寝ていたと思います。

ただ出演者は熱演しています。ジョニー・デップは当たり役といっていいキャラクターですね。本人もまんがと割り切って楽しげに演じているのがわかります。また一本目にも出ていたライバルの義足の海賊のジェフリー・ラッシュもなかなかいいんですよ。片足をなくす羽目になった仇の黒ひげ船長への復讐に燃える人物で、ある意味で本作の主役です。デップはこの二人の間を立ち回る道化役という関係です。
それから仰天したのが航海に出る前にちらっと出てきたジャック・スパロウの父親と称する人物で、これがなんとキース・リチャーズなんですねーなんでですか?(笑) またワンカットだけドタバタシーンに現れた淑女がなんかジュディ・デンチに似たおばさんだなあと思っていたらデンチその人でした。

そんなふうですから、これで3Dがちゃんとしていればまだ救いもあるってものですけど、これがまたろくでもないものになっているのでがっかりです。せっかくステレオカメラで撮影してあるのに立体感を抑えて調整してあるため、確かに立体になっているのには違いないけどぜんぜん面白味の無い3Dなんですね。
やはりディズニーですから、観客の目に負担がかかるような見せかたは決してしないということなんだろうと思います。あくまでもマイルドな風味に徹しています(笑)。





20170813

「ヨギ&ブーブー~わんぱく大作戦」
Yogi Bear 2010

かつて「クマゴロー」の邦題でテレビ放映されていた、ハンナ&バーベラのカートゥーンの映画化です。実写とCGキャラクターの合成という手法で、ヨーギと子分のブーブーのみCGで描かれています。あとカメもですけど(笑)。
アニメの「クマゴロー」は当時見ていた記憶がまったくなくて、思い出せるのは「どら猫大将」や「原子家族フリントストーン」、「チキチキマシン猛レース」あたりですかね。「スーパースリー」は好きで一所懸命見てました。
そのためオリジナル版との比較ができないわけですが、まあ比べてもあまり意味無いような気もします(笑)。

クマのキャラクターが出てくる似たような映画としてすぐ思い出すのは「カントリー・ベアーズ」(2002)ですね。ミュージカルコメディながら音楽が本格的なロックとカントリーで、豪華なゲストミュージシャンもたくさん出てくるんですよ。エルトン・ジョンが出演しているというのでロードショウで見に行きました。
でもこの映画、クマのバンドメンバーは着ぐるみなんですよね。頭部が精巧なアニマトロニクスになっていてものすごくよくできています。つまり合成じゃないので視覚効果面での不自然さはありません。楽しい映画でした。

それでこの「ヨーギ&ブーブー」ですが、やはり完全にファミリー向けです。人騒がせなクマのヨーギが、住んでいる自然公園の存続を巡って繰り広げる珍騒動という筋立てです。
そこの市長がとんでもない悪党で、無責任市政によって破綻した市の財政を立て直すために広大な自然公園を農地として売り払おうという悪だくみをします。いっぽう自然公園の責任者はお人好しで学者肌のレインジャー隊長。さすがに自治体トップの命令とくれば拒むこともできません。しかし一週間で公園の赤字を取り戻してみせると大見得を切り、これまで考えたことも無かった市民向けの集客イベントを催しますが、ヨーギの大失敗でこれもお釈迦に。

ところがヨーギが自宅ほら穴で飼っているカメが生きた化石級の珍種であることが偶然わかり、後半はこのカメの争奪レースの様相となります。絶滅危惧種がいることが証明されれば、公園の開発は国際条約上できなくなるってわけです。
ドナルド・トランプとビル・ゲイツの合いの子のような風貌の市長もこの情報をつかみ、当然ながらカメを奪取し闇に葬り去ろうと手を回します。そこでヨーギがピクニック客からバスケットを奪うためにあれこれ工夫した珍発明品が登場、オートジャイロもどきで空襲をかけたり、ゴムボートで急流下りをしたりと大冒険の連続です。
もちろん最後はなるようになってめでたしめでたしなんですが、広大な自然公園での追いつ追われつのアドヴェンチャーは劇場映画ならではのスケールで子どもは大喜びでしょうね。

しかし大人の目で見ると、ただただ無邪気だった昔の子ども映画とは違って、荒唐無稽とはいえ政治の裏事情を見せたり、レインジャー隊長の部下を買収してスパイにしたりと、生々しい演出になっているところは現代的です。
ところがクマのヨーギはというともうこれがひとり三バカ大将状態のモーレツなおとぼけぶり。まんが的なデザインになっているとはいってもかなりリアルなタッチのCGですから、これらが組み合わさると非常にちぐはぐな感覚にとらわれてしまいます。
もしこれがフルCGアニメだったとしたらまだ架空の世界感としてとらえられて違和感は少なかったかもしれません。でも親も一緒になって楽しめる映画とするには実写である必要があったんでしょうね。
実写とCGの合成はもうなんの違和感も無くて、人とヨーギがしっかり抱き合うところなどは、よくできてんなあと感心するくらいです。ディジタル映像てどこまで進歩するんでしょうね。

そうは言っても私にとってはなにより、ステレオカメラで撮影されたリアル3D映画であるという点が重要です。3Dのほうはこれは素晴らしいんですよ。もうバッチリです。
この前見た「イルカと少年」のときも思ったんですが、画面の隅々まで明瞭に写っていることは立体効果を一段と高めるんですね。このときはフロリダの明るい日差しがそうさせるものと思ってたんですけど、どうやらファミリー向け映画のひとつのセオリーとして、全体に均一に明るくくっきりと映しだすという撮りかたのようですね。SFやアクション映画などになると、アーティスティックな画づくりが優先されて暗かったり背景がぼかされたりと、3Dには不利な条件が出てしまいます。

それでこの映画、自然公園の様子が見事な3Dで撮影されています。おそらくアメリカ国内のどこかの公園でロケ撮影されてるんでしょう。光量は充分あったとみえて奥のほうまでパンフォーカスで撮ってあり、木々の位置関係から小屋のたたずまいから、すべてが手に取るようによく見えます。
3Dの得意な監督かな、と名前を見ても聞いたことがありません。ところが調べてみるとなんとこの人、「センター・オブ・ジ・アース」(2008)の監督なんですねーなるほど! あの2000年代3D映画ブームの先駆けとなった映画で、面白かったですよね。特殊効果の技術者あがりですから、きっと立体効果に関する知見があったんでしょう。

わが国では東日本大震災とタイミングが重なってしまって劇場公開が見送られ、ビデオディスク発売のみです。そのためかちゃんと日本盤のブルーレイ3Dが出たのは良かったです。
珍しいことにこのディスク、特典映像もすべて3Dで収録されてます。いかにも子ども向けに出演者がカメラに向かって語りかけてくるメイキングで、映画が立体だからすごいだろ、と強調しますから、やはり3D好きな監督なんでしょうね。ただこの次の映画がまだ無いのが残念なところです。


20170723

The Mad Magician 1954

米トワイライト・タイムが発売したブルーレイ3Dの一枚です。ヴィンセント・プライスが「肉の蝋人形」に続いて主演したスリラーで、こちらはモノクロです。
なかなか面白い内容の話なんですけど、どうもこれ日本未公開です。allcinemaなどの映画データサイトを見てもどこにも載ってないんですよ。プライスや助演の俳優名・監督名は調べることはできますが、どのフィルモグラフィにも該当作がリストアップされていません。コロムビアですから大手なんですけどね、なんで輸入されなかったのか理由はわかりません。

プライスは前作と似た役どころで、大がかりな道具を使ったマジックを見せるマジシャンです。実はこの主人公、もともとはプロのマジシャンにそういった大道具小道具を開発して提供する裏方だったのが、ひとりのエンターテイナーとして独立することになったんですね。
スタジオでは鍛冶屋のようなハードな作業もこなすし、マネキン作ったり偽の生首作ったり、変装用のスペシャルメイクアップもするなんでも屋です。「肉の蝋人形」のときのような芸術家気取りという感じはしません。

さてそれで、大型電動のこで横たわった人の首を切り落とすという新発明の大道具のお披露目ステージから映画は始まります。いかにもセンセーショナルなアトラクションに観客席は超満員。今見るとなんともはや素朴な奇術ですが、当時はやっぱりそんな感じだったんでしょうかね。
ところがいよいよその実演というところで興行主から待ったがかかり、ショーは途中で中止になってしまいます。どういうことかというと、主人公がこれ以前に出資者と契約していた内容では、新発明品の使用権はすべてこの出資者側にあるということになっていたのを、知ってか知らずか無視して独立を強行していたというわけです。

せっかくの晴れ舞台を踏みにじられた主人公、これからも奴の奴隷でい続けなければならないのか…と面白くありません。苦心して作った電動のこ装置を持って行かれそうになった時、スタジオにやってきた出資者を突発的に殺してしまいます。なんとその回転のこで本当に首を切り落としてしまうんですねーこれはすごい。でもさすがに今と違って血しぶきが飛び散るスプラッターにはなってません(笑)。
それからが悲劇の連鎖で、最初の殺人を覆い隠すために次から次へと目撃者を殺していく羽目になってしまいます。

その過程で、得意のスぺシャルメイクの技を使って変装するんですね。「スパイ大作戦」よろしくゴムマスクを被って他人になりすますところがストーリー上の最も大きなファクターになっています。最初に殺した出資者と背格好が似ているため、切り落とした首を見ながらそっくりなマスクを製作します。
これがけっこうよくできてるんですよ。たしかにマスクを被ってて無表情なんだけども、本人と見間違えるくらいのレベルです。このあたりモノクロ映画の利点でしょうか。こうして出資者を装ったマジシャンは隠ぺい工作のために死体処理などの行動をします。

ここからもなかなか面白い話になっていて、ステージでのアシスタント女性の恋人が刑事だったり、離婚した元妻が他ならぬその殺した出資者の現在の妻だったり、活動拠点として新たに借りた下宿の女主人が推理小説家だったりと、後半もいろんな人物が出てきて活躍するため目まぐるしい展開です。
最後はさらに新しい大道具の人間焼却機が出てきて、最後の犠牲者になりかかった刑事と格闘の末にとうとう自分が誤って焼却機で焼かれてしまうというオチです。このクライマックスの焼却機もけっこうすごいんですよ。ぶわーっと炎が上がって、見ていてちょっと怖いくらいです。
そんなふうで3Dであることを除いても、娯楽映画として充分面白くできているんですけどねーなんでわが国では未公開で、おそらくテレビ放送も過去に無し。もったいない感じです。

おっとそれで肝心の3Dですけど、これまたすごい立体になってました。ステージや制作スタジオなど屋内のシーンはちゃんとパンフォーカスになっていてきっちり奥行きを出してあるどころか、むしろ立体感を強調しすぎなくらいです。
左右のカメラの間隔(ステレオベースといいます)を少し広めにとって撮影してあるため、手前のものに視点を持って行こうとするとかなり寄り目になるくらいにぎゅっと見ないと焦点が合わないほどです。
そのため見る者が画面の隅々まで自在に視点を移動させることができるんですね。反面で目は疲れますから、これは観客にわりと負担を強いるようなちょっと挑戦的な3Dです。こんなのはなかなか無いですよ。


20170716

Dragonfly Squadron 1954

モノクロの朝鮮戦争ものです。光州の空軍基地に配属された将校の活躍を描くもの…なんですが、字幕なしで見ている限り話の筋がさっぱりわからず、ぜんぜん活躍しているように見えません(笑)。
わが国ではアメリカから十年くらい遅れて「108急降下爆撃戦隊」という邦題で劇場公開されています。いかにも戦闘機アクションものというタイトルが付けられてますね。実際はあまりの低予算のためアクションシーンはほとんど無し。
基地をロシアの戦闘機に空爆されて宿舎が派手に爆発するシーンが最大というか唯一の見せ場で、ここでおそらく予算を使い果たしたんじゃないでしょうか(笑)。肝心の戦闘機部隊は結局ほとんど描かれずじまいで、一機だけ離着陸する場面があります。

じゃあ一体どんな映画なのかというと、ほとんどが登場人物の会話に終始するテレビドラマのような作りになってるんですね。これじゃ字幕が無かったらなんのことやら見当のつけようもありません。
タイトルで検索するといちおうあらすじを掲載した映画サイトがあり、これを読んで初めてあーそうだったのかと概要がつかめました。主人公の少佐は韓国空軍のパイロット養成という目的で広州に配属されたようで、たしかにアメリカ兵に混じって韓国兵も何人かいました。通訳が少佐の講義を朝鮮語で翻訳し伝えるところもちゃんと描かれていて、これはちょっと感心しました。

しかし映画サイトのあらすじ説明に書かれているように、少佐の厳しい訓練に隊員たちは恐れおののいた…というようなシーンがあるかというとそれがまったく無いんですよ(笑)。ひとりの韓国パイロットに一回離着陸させるところが描かれますけど、それだけじゃただの試運転にしか見えません。たぶんそれらのことがらはすべてせりふで説明されていたんだろうと思います。
またメロドラマ要素も当然のように盛り込んであって、赤十字の女性職員となにやらいいい雰囲気なんですが、この人どうやら軍医の妻なんですね。やがてキスシーンまで出てきますから完全に不倫ものです(笑)。後で読んだあらすじには、軍医の妻はかつて恋仲だった女性だったようです。それでも不倫であることには変わらんでしょう?

まあそんなこんなでなんともトホホな映画です。で、肝心の3Dはというとけっこうがんばっていて、努力賞くらいはあげてもいいですかね。可能な限りはパンフォーカスで撮ってありますから、ちゃんと立体になっています。
ただあまり優秀なカメラマンではなかったのか宿舎内でのシーンでは、背景の壁のほうにピントが合って手前の被写体の人物は少しフォーカスが甘くなっているという素人ビデオのようなカットまであります(笑)。

戦闘機団映画のようでいてほとんど飛行機が出てこないところは羊頭狗肉と言うに近いですが、しかしそれはかえって立体映画としては良かったといいますか。というのも空中戦の様子を3Dで見せられても、たぶんほとんど立体効果は出ないはずですよ。なぜなら背景が空だけになるわけですから、遠近感は出しようが無いでしょう。またスピードが早すぎるのも立体映像には都合の悪いファクターで、まあそれを言うとアクション映画自体が実は3Dに不向きなんですけどね。



20170709

「ジャックと天空の巨人」
Jack the Giant Slayer 2013

ロードショウで一度見に行きました。そのときは、スペクタクルシーンはほとんどCGだしでてっきり変換3Dだとばかり思ってたんですね。その後調べてみると、監督のブライアン・シンガーはこの後の映画も含めてちゃんとステレオカメラで撮影していました。次回作の「Xメン~フューチュア・パスト」(2014)と「Xメン~アポカリプス」(2016)ですね。でもよっぽど立体映画が好きなのか…というとそこはちょっと微妙なところです(笑)。いずれの映画も3Dの出来は特筆すべきところが無くて、普通の3D映画としか言いようがありません。まあ変換3Dでなくてちゃんとステレオで撮影されたというところはありがたみがありますけどね。

ここ数年のアメリカの3D映画新作は完全に変換ものが主流で、手間のかかるステレオカメラ撮影が行われることはまずありません。ということは、シンガーの次回作がなんなのかは知りませんけども、もし3D版も作られるとしても今度はさすがに全編変換でいくでしょう。「バイオハザード」シリーズのポール・W.S.アンダーソンも新作はついに変換3Dで作りましたからね。それだけ2D→3D変換の技術が向上してコスト面でも優位になったということだろうと思います。
今のところ私の知る範囲では、李安(アン・リー)の新作「ビリー・リンの永遠の一日」(2016)が欧米諸国の大手スタジオ制作では最後のステレオカメラ撮影による3D映画です。これで事実上、2000年代に起こった3D映画ブームでは、本物の立体映画の制作は終わったとみていいと思います。

それはさておきこの「ジャックと天空の巨人」、この前「アポカリプス」を見たのでその前の二本をブルーレイ3Dで見直してみようというわけでロードショウ以来の再見です。
言うまでもなく「ジャックと豆の木」の翻案なんですが、だいぶ脚色がしてあります。地上のほうの王国の、王女の婚約者である王付きの賢者が実は悪者です。天空界にいる人食い巨人どもを自在に操ることのできる魔法を手にしたことによって、世界をわがものにしようと企んでいたんですね。これがスタンリー・トゥッチです。いいですね。

この計画に偶然、小作農の息子ジャックが巻き込まれます。天空界への階段となる魔法の豆を図らずも手にしてしまい、ある晩なにも知らずに豆を発芽させてしまってこれまたとんでもないことに王女とともに巨人の国に昇天してしまいます。
地上ではこりゃ一大事と王女救出の命を受けた近衛団長ユアン・マグレガーが後を追い、随行したスタンリー・トゥッチがついに本性をあらわに…というサスペンスフルな冒険アクションになっています。単純な原作の昔話を面白くアレンジしてあってなかなかいいんじゃないでしょうか。
最初に見たときはジャック役の若いのが線が細すぎで、ヒーローとしてまったく印象に残らずじまいでした。ところがこの人、Xメンのパスト篇のほうでビースト役をやってる俳優だったんですね。まあやっぱりうらなりで人のいい青年という役どころには違いありません。

それで3Dのほうはどうかというと、やはり映画として見どころになる部分はほとんどがCGですからね、半分はCGアニメを見ているようなもんです。しかしそれ以外のところに目をやると、ロケやセット撮影で普通に撮影しただけのようなカットがなかなかいい感じの3Dになっていたりします。
この映画では森のシーンが特に良かったし、市場や部隊の野営での群衆を見下ろすところ、あるいはクライマックスで城を守る近衛師団がズラリと隊列を組んだところのクレーン撮影などは立体感満点です。

シンガーの監督作はフィルモグラフィによるとほとんど見てました。デビュー作の「パブリック・アクセス」(1993)は見てなくて、おそらく自主制作に近いものだろうと思います。その次のが出世作の「ユージュアル・サスペクツ」(1995)ですね。シネテリエ天神にロードショウに行きました。たしかレイトショウのみ公開だったと記憶してますけど、リピーター割り引きという目新しい売りかたをしてましたね。
もう一本、2008年の「ワルキューレ」を見てないんですよね。吉木さんこれ面白いですか?



20170618

「X-メン~アポカリプス」 X-Men: Apocalypse 2016

ブライアン・シンガーによるXメンシリーズ第一作以降のものはすべてロードショウで見てきました。でもそれは「デイズ・オブ・フューチュア・パスト」(2014)までで、「アポカリプス」は結局見に行くのを止めたんですね。ちょうどブルーレイ3Dの良さがわかって、これからは自宅で見ようと方針を転換したときです。
それでも販売用のブルーレイディスクを買うとちょっと値が張るので、実際見るのは先のことになるかなあと思っていたところ、ありがたいことにレンタルで3D版が出ました。ツタヤの準新作百円セールのときを狙って借りてきました(笑)。

Xメンは今のところウルヴァリン単独のも含めると八本にも及び、近々「ローガン」の公開も控えているほどの人気シリーズですね。私はこれに限らずアメリカンコミックスものの原作はほとんど読んだことが無くて、その世界観などはもっぱら映画を見て知るのみです。しかし逆にそのほうが、ここが違うとかあれが変だとか余計なことを考えずに済むのでいいかもしれません。
とはいえ話は長期間にわたっているし、シリーズ後半のエピソードは「ターミネイター」のように未来から来た使者が歴史を改変するというような内容ですから、なにしろややこしくてよくわかりません。

さて今回初めて見た「アポカリプス」ですが、これはプロフェッサーXとマグニートーの若き日を描いた「ファースト・ジェネレイション」(2011)から続く三部作の完結篇です(というか完結篇らしいんですけど、ラストには例によって思わせぶりな『次回作に続く…』という感じのがワンカット入ってます)。
ジェイムズ・マカヴォイとマイケル・ファスベンダーがいいですね。ふたりともとてものちのパトリック・ステュワートとイアン・マッケランには見えませんけども(笑)。でもあえて違うタイプの俳優をキャスティングしたことは成功していると思います。

それで映画自体面白いかというと、これが今ひとつなんですね。三部作の完結篇といっても実際には初めの二本で現在と過去のつじつま合わせはできあがっていて、この三本目はシリーズ第一作目につながっていく流れを作る橋渡し役を担っただけと言ったら言い過ぎでしょうか。
というのも、悪役として登場するエジプトのミイラみたいなのがぜんぜん怖くないんですよね。設定としては歴史上最大のパワーと能力を持つミュータントなわけだから、Xメンたちも大苦戦を強いられるどころか簡単にひねりつぶされてもよさそうなもんですが、まああれこれがんばってやっつけちゃうわけですね。またその戦いも、いやー手ごわい奴だったが辛くも勝てて良かったよかった…という感じがどうも出てません。それより、「ファースト・ジェネレイション」のときのファスベンダーのほうがよっぽどコワいです。

監督をブライアン・シンガーが務めたわりには少し散漫な印象です。シンガーは全部で四本も監督していて、Xメンシリーズにはかなり力を入れてるんですね。
同時に3Dも好きみたいで、2013年の「ジャックと天空の巨人」、続く2014年作の「フューチャー&パスト」、そして今回の「アポカリプス」と、2013年以降に撮った三本はいずれも3Dですし、それもステレオカメラで撮影されています。
「ジャック」と「フューチュア・パスト」をロードショウで見たときには、てっきり変換3Dだろうと思ってました。だいたいCGを使ったシーンがかなり多いですからね。しかしその後資料をあたってみるといずれも3Dカメラが使われていることがわかり、今回「アポカリプス」をそのつもりで見てみると、やはり本物の立体映像ならではだなと思えるところがいくつかありました。

例えば広大な敷地にあるエグゼビア邸を正面から空撮したシーンなどは素晴らしいし、その学校を兼ねた邸宅の室内の様子などもなかなかいいです。またおおぜいの人が集まっているところを手前から遠くまで見せるカットなども3Dの面白さです。クローズアップも良くて、顔のアップではその形がよくわかります。
ただ残念なことに、全体的にはそういった3Dの見せ場は少なくて、2D撮影の手法に準じた「普通の撮りかた」になっているカットばかりです。つまり、手前の被写体にフォーカスが合っていて奥のほうはぼかしてあるというような。観客の視点を誘導する狙いがある以上しかたがないんですが、立体映像としてはぜんぜんダメです。
このへん、映画としてのメインは2D版であって3Dはあくまでもオプションだという考えかたが主である以上、しかたないんですよね。

「ジャックと天空の巨人」と「フューチャー&パスト」ももう一度ブルーレイ3Dで見直してみないと。




20170611

Miss Sadie Thompson 1953
「雨に濡れた欲情」

リタ・ヘイワースの映画を見たのはこれが初めてです。全盛期にはセックスシンボルとして名を馳せたというようなことくらいしか知りませんでした。「ショーシャンクの空に」ではまさにそのアイコンとしてモチーフになっていたわけですね。
それで立体映画も撮ってたんですね。邦題はいかにも煽情的ですが、もちろんピンク映画ではありません(笑)。むしろ内容はキリスト教主義的なテーマでさえあります。ただ最後はとんでもないどんでん返しがありますけども。

太平洋戦争中の南太平洋の小島が舞台で、船の乗り換えで立ち寄った女とそこに駐屯するアメリカ兵たちとの交流を描いたものです。ふらりと現れたのが絶世の美女にして奔放な振る舞いのサディー・トンプソン。兵隊たちの湧きかえりぶりときたらそれはもう、空腹の獣の檻に血のしたたる生肉を投げ入れたようなものです。
その様子を苦々しく横目で見る宣教師。そのうえ日曜日の礼拝の隣でばか騒ぎをやられたんじゃ黙っているわけにはいきません。実はこの宣教師、地元では実力者で領事でさえ頭が上がらないというような権力を持っています。
宣教師はサディーがハワイから逃げてきた娼婦であることを見破り、このまま国外逃亡しようとしていることを突き止めます。そこで領事に進言し本土への強制送還命令を出させたことでサディーは激怒、領事や宣教師に直談判するんですがあえなく敗退…というような流れです。

その間、野卑ながら真心のある軍曹と意気投合し、除隊後はオーストラリアでふたりで新生活を始めるという約束をしていたのにそれもご破算です。当然この軍曹も宣教師に詰め寄りますが、牧師先生ぴくりとも動じずふたりを鼻であしらいます。
それどころか話の終盤に至って宣教師はサディーに「悔い改めよ」と迫り、本国に帰って法の裁きを受けることで汝は救われるのだと説教します。そうしたらなんと、サディーはあっさり聖書の教えに開眼し強制送還を受け入れてしまうんですねーそんなばかな!

裏社会で生きてきたような娼婦が今の今まで怒り狂っていたのに、宣教師の語る聖書の一節を聞いただけで改心してしまうなんてまったく唐突で陳腐な演出としか言いようがありません。少なくとも、これまでの自分を悔恨するようなサディーの内面を描いたシーンはそこまでひとつもありませんでした。
というのも、映画の序盤から中盤以降までは、このサディー・トンプソンを陽気で人なつこい自称クラブシンガー兼ダンサーとして描いてあり、その正体は終わり近くでやっと暴かれる段取りになっているからですね。

しかもその直後にまたまた驚くべき出来事があるんですけど、それなんかもうほとんど噴飯ものといっていいくらいの取って付けたような演出で、私はまたてっきりプロデューサーがそれまでの流れがユルいことに業を煮やして「最後になんか一発カマしてやれ!」と勝手に台本に書き加えたかなんかしたんじゃないかと思ったほどです。
そのへんどうも納得がいかないのであとで調べてみたら、これは向うではわりと有名な古典小説が原作みたいなんですね。それを戯曲化した「雨」という題で知られていて、戦前ではジョーン・クロフォードがサディーを演じた映画があります。

この戯曲では、サディーは出てきたときからもう場末の娼婦そのものといういでたちで、つまり初めから堕落の象徴として現れるわけですね。またその後も軍曹よりもむしろ宣教師との対決のほうが話の中心になっているようで、映画の説明文を読む限りでは最後のどんでん返しもちゃんとあります。
ということは、1953年に舞台を第一次大戦時代から第二次大戦時に移して再映画化されたリタ・ヘイワース版では、それまでに無い新しい解釈としての劇を示したというわけですね。
そのことを知ったうえで、ははあミス・サディー・トンプソンをそんな女として描いて見せたわけねと思って見ればまた違った楽しみかたができるんでしょうけど、そうでなければどうにも安っぽい映画としか思えません。

さて話のほうはそんなふうとして、では3Dのほうはどうかというとこれはなかなかいいですよ。テクニカラーで色も美しいですし、まばゆい陽光の南太平洋のビーチが素晴らしい立体で撮ってあります。ロケだけでなくスタジオ撮影も多く含まれますが、いずれもパンフォーカスに近い撮りかたで室内の様子も良好な奥行きが出ています。
リタ・ヘイワースは1953年だと、全盛期とされている40年代からは何年か経過しているわけで、なんだかアメリカのセックスシンボルというには少し旬を逃しかけているところかなというビミョーな感じはあります(笑)。

このブルーレイ3Dは最近見た「Man in the Dark」と同じトワイライト・タイムが発売したものです。ディジタル・リストアの効果でブルーレイディスクならではの迫力で楽しめます。ただし残念なことに、なぜか元はスタンダードサイズの映画がヴィスタサイズに上下をトリミングしてあってフルスクリーン仕様になっています。左右に幕を入れてちゃんとスタンダードサイズにしてほしかったんですけどね。
もちろん日本語字幕はありませんので、あらかじめDVDで見て話の内容はわかりました。ありがたいことにレンタルで出ており、ツタヤの福岡ビル店には置いてありました。このDVDはちゃんとスタンダードサイズで収録してあります。




20170521


The Boxtrolls 2014

「コララインとボタンの魔女」(2009)を制作したライカという映画会社はその後もストップモーションの人形アニメを作り続けています。その手法もさらに高度化していって、ぱっと見たぶんにはCGアニメとしか思えないような精緻な映像になっています。
2012年には二作目の「パラノーマン」、2014年「ボックストロールズ」、さらに2016年には室町時代くらいの日本を舞台にした「Kubo and the Two Strings」と次々とリリースしているからすごいです。なんで日本の時代ものの話など作ったのかよくわかりませんけど、自分たちの作りたいものを作るというこの会社の強い指向性が見て取れます。
実際、商売としてそれほど成功しているとはいえず、現に三作目と四作目はわが国での公開が見送られてますし、一作目二作目もぜんぜん話題にもならなかったという印象です。大衆向けファミリー向けの娯楽作というよりはアートフィルムに近い感じです。

そういうわけで、ブルーレイ3Dの発売状況もなかなか厳しいものがあります。「コラライン」は日本盤のブルーレイディスク出てますけど、なんとこれが赤青めがねで見るアナグリフィック式です。まだ3D液晶テレビが普及していないころの発売なのでしかたないとはいえ、その後もブルーレイ3Dでの再発売などもちろんありません。
まともなのは「パラノーマン」だけで、これはブルーレイ3Dで発売されてますし、嬉しいことにレンタルでも3Dヴァージョンが出ています。日本では劇場公開されなかった「ボックストロール」と「クボ」は当然日本語版は無くて、DVDすら発売されていません。

実は「パラノーマン」の次回作があることを知ったのはつい最近です。劇場公開されなかったためですが、引き続き3Dでも撮影されていることがわかってこれもちょっと見ておこうかなと。そこでヨーロッパ盤のブルーレイ3Dを入手しました。
一作目と二作目を見たところでは、ストップモーションアニメーション自体はすごすぎるくらいのハイレベルで驚きましたけど、しかし素朴な動きが面白さである人形アニメの良さが失われているのではないかという感じも受けました。そのあたりは去年六月にここで書いた「コラライン」のブルーレイ3D評のとおりです。今回初めて見た「ボックストロールズ」も、感想としては「コラライン」のときとまったく一緒なんですよね(笑)。

つまり、ストップモーションのアニメーションはますますすごいんだけども、せっかくジオラマで撮影した実写なのに3D映像に特化した撮影ではないため今ひとつ立体感が出ていないということです。パンフォーカスの映像にすることは比較的容易なはずなので、あーここで全部にピント合ってりゃなあ…と思うシーンがいくつもあります。
「ボックストロールズ」の舞台は中世ヨーロッパをイメージした架空の街で、石畳の急峻な坂道が描かれています。ほんとなら立体感・奥行きともに充分感じられる絵作りができるんじゃないかと思うんですが、なぜだかあまり3D効果が出せてません。このへん監督の考えかたなんでしょうかねー。ビューマスターの古いソフトで人形ジオラマものなんかを見ると、おおーっと息をのむような立体感があるのに、そういうわけにはなかなかいきません。

話のほうが面白ければそれはそれでいいんですが、これもなんだかもうひとつで(笑)。チーズブリッジという街に夜な夜な下水から現れるボックストロールと呼ばれる妖怪たちがいて、子どもがさらわれたという噂が広がるところから始まります。ある日ボックストロールを駆除してやると申し出てきた怪しげな男に、町長はしかたなく依頼することにします。さっそくその男は手下を引き連れ容赦なくボックストロールたちを捕獲し始めます。
実はボックストロールたちは人さらいなどではなく、ごみ箱から壊れた機械や歯車を集めて回り、地下の住みかでそれらを組み立て独自の文明を築いている者たちです。大八車の車輪を抜き取ったり店の看板を外していったりと、金物ならなんでも持って行くので人畜無害というわけではありませんけど、人に危害を加えないのは確かです。
子どもをさらうという噂を流したのは妖怪駆除人その人で、その目的は交換条件とした街の名士が集まるクラブのメンバーに加えるというものです。目的が金やモノではなく階級だというところがわりと生々しいですね。

そのボックストロール、まったくの化け物で段ボールの箱に入ってるんですよ(笑)。首と手足を穴から出していて、驚いたり隠れたりするときはさっと箱の中に引っ込めてただの箱になります。創作なのかヨーロッパにそういう伝承があるのかはわかりません。
この中にひとり人間の子どもが混じっていて、乳児のときに偶然ボックストロールが引き取って育てることになったいきさつが描かれます。やがて成長した少年は半人間半ボックストロールというようなキャラクターになっていて、あるとき町長の娘と出会い二人で妖怪駆除人の陰謀を暴く…というようなストーリーなんだろうと思います。字幕なしで見たのでなにか違っているところがあるかもしれません。
見終わってちょっと驚いたのが、この妖怪駆除人スナッチャーの声優です。映画の初めにクレジットが出ないので、見ていててっきりマイケル・ガンボンかスティーブン・フライあたりだろうと思っていたらなんとベン・キングズレイでした。
そう言われてもぜんぜん声と顔が結びつかないくらいすごい芝居してます。やっぱりこの人芸達者なんですねー。

ちなみにそれぞれの監督は違う人たちです。ライカ一作目の「コラライン」は「ナイトメア・ビフォー・クリスマス」のヘンリー・セリックが監督しましたが、「パラノーマン」ではサム・フェルとクリス・バトラーという人の共同監督、「ボックストロールズ」はグラハム・アナベルとアンソニー・スカッキの共同監督です。
そのため演出のしかたの違いでやはり面白さに差があるわけですけど、共通しているのはアニメーションをすべてトラヴィス・ナイトというアニメーターがリーダーとして手がけている点です。人形のデザインや動きはどれも同じ人がやっているわけですね。
まだ見てませんが「クボ」はいよいよそのナイト自身が監督も務めており、どうもこの人のセンスがすなわちライカの人形アニメのタッチと同義語だということのようです。





20170514


「怪盗グルーの月泥棒」 Despicable Me 2010
「怪盗グルーのミニオン危機一発」 Dispiczble Me 2 2013
「ミニオンズ」 Minions 2015

今やユニヴァーサルの看板キャラクターにまでなってしまったミニオンですが、登場した長編三作のブルーレイ3Dがセットになった「ベストバリュー3Dセット」という願ってもないのが去年末に出たんですね。この映画はレンタルでは2Dしか無くて、どうせなら3D版で欲しいと思っていたところでしたからナイスな商品です。
余計な2Dヴァージョンは除いてあって三枚組で五千円くらいです。アマゾンのマーケットプレイスをチェックしていてもなかなか安いのが出てこないんでオークションのほうも見ていたら三千円で買うことができました。

ただ、三作いずれも映画としてはビミョーな出来で、まあ悪くはないんですがまた見たくなるような話ではありません。私としてはミニオンが出てきてわいわいやっているところを見ることができればそれでいいので、たくさん作られている短編をひとつにまとめたブルーレイ3Dが出れば最高なんですけどね。とりあえず今のところはこのセットでがまんするとしましょう。
ちなみにこのセットには短編はボーナスとして一本しか入ってません。ディスク2に「ミニオンの子犬」(Puppy, 2013)が2Dで収録されています。たしかこれロードショウのときも同時上映だったと思います。

さて第一作目は2010年の「怪盗グルーの月泥棒」ですね。主人公の風変わりな泥棒グルーの手下どもという設定で、ショッカーの戦闘員などと同様に彼らについては特に説明らしい説明もなく唐突にぞろぞろ現れます。
ただあまりに変てこなクリーチャーなんで、その生態については広い地下工場内での働きぶり暮らしぶりが少し時間をかけて映画の冒頭に描かれます。
ちゃんとした言葉は話せなさそうだが仲間同士はコミュニケーションをとっておおむね仲よく協調しており皆よく働く。ユーモア好きいたずら好きでひたすら陽気、楽しそうなことなら暴力もいとわないという無茶苦茶な連中です。

生物には違いなさそうなんですが種は不明で、なにか遺伝子操作のような手法で生み出されたできそこないのクローンというような感じにデザインしてあるところが不気味ながら面白いですね。さらにチップマンクスがハナモゲラ語をしゃべっているような声とギャグのタイミングのスピード感もこなれていてかなりケッサクといっていいです。特に笑い声がおかしくて、夢に出てきそうなほどです。

このミニオンたち、あくまで映画の脇役であって話の本筋は大泥棒グルーが空の月をシュリンク光線で縮小化し盗んでくるという、少々子どもだまし的なものです。その目的は、単に歴史に名を残すような泥棒になりたいというだけのことですからそもそも妙味はありません。
この大計画を邪魔しようとするライバルが出てきて、秘密兵器シュリンク光線銃の奪い合いを演ずるところがアクションシーンの中心です。いったん光線銃を奪われたグルーが、孤児院にいた三姉妹を利用して敵地に潜入しようとするところからこのませた女の子たちが話に加わり、やがてグルーと家族になってめでたく終わるというファミリーコメディ仕立てになっています。

結局、作りかたとしては子ども向けの内容に絞り込んであって、小さな子どもが喜びそうなギャグを満載してあります。マーケティングの手法という点では成功したようで、だいぶ儲かったみたいですね。しかしディズニーとりわけピクサー作品などと比べると、演出やデザインなどの点で洗練度ががたっと落ちます。おそらくディズニーものを受け入れる観客層よりも下の、より幅広い階層にアピールしたんじゃないでしょうか。
いっぽうアニメーターの側は、とにかくこのミニオンを面白く動かすことに熱中していたのではと思わせます。なにしろ主人公のグルーがぜんぜん魅力の無いキャラクターでどうしようもないんですよ。

2013年の続編のほうがより面白くできています。人気の出たミニオンをいっそう活躍させるようにしてあるし、CGも前作よりブラッシュアップされています。今見ると一作目のミニオンは少しのっぺりしていてまだ出来あがっていない感じさえします。
アクション演出も007的なところを盛り込んでスピード感が増しています。グルーは今回もつまらないですけども(笑)、新キャラの女エージェントがなかなかいい味出しています。

ミニオンを主役にした「ミニオンズ」には当然期待したものですが、ところがこれがぜんぜん面白くないんですよ。三人のミニオンを主人公にした冒険ロードムービーというしつらえがそもそもつまらないですね。旅の途中で迷い込んだ世界悪党会議みたいなのも、発想自体が中高生の同人誌レベルです。
やはりミニオンは脇役というかその他おおぜいというポジションでこそ爆発力のあるキャラクターだということがわかります。ミニオンがヒーローになっちゃったらそりゃなんか違うだろって感じです。

そんなわけで今回改めてブルーレイ3Dで見直してみた三本、3Dはやはりなかなか良くできていて結構でした。CGアニメの3Dは劇場の暗い画面で見るよりも液晶モニターで見たほうがくっきりしていい感じですし、なにより字幕で見ることができるところがいいですね。ロードショウでは3Dは吹き替えのみという場合がほとんどで、以前は選択の余地無くがまんして見てました。グルーの吹き替えなんか笑福亭鶴瓶ですよ?








20170423

Man in the Dark 1953

大手映画会社が制作した初の立体映画がこれだそうです。当時わが国でも3Dで上映されたときのタイトルは「恐怖の街」。しかし日本語版のビデオソフトもぜんぜん発売されていませんし、今ではまあほとんど忘れ去られた映画のひとつですね。私も立体映画でなければ見る機会はまず無かったでしょう。

監督・出演者ともに聞いたことのない人たちです。主演のエドモンド・オブライエンは50年代から60年代にかけてわりと多くの映画に出てはいるようです。
モノクロのスリラーで、映画のつくりとしてはまずまずそつの無いところです。アクションシーンの見せ場もいくつか作ってあるし、記憶を無くした男が自分の過去の謎を追うというヒッチコックタッチのノワールものになっています。
日本語字幕の無いアメリカ盤だもんでせりふはほとんどわからず、場面展開を見てなんとなくストーリーをつかむことができました。

映画は病院の一室から始まります。ある犯罪者が勾留下にありながら入院しているんですが、これがなんと無理やりロボトミー手術をされるんですね。裁判所の命令なのかどうか、そのいきさつはせりふで説明されているんでしょうけどよくわかりません。しかしとにかく脳外科手術を施されることによってこの男、自分の犯行をきれいさっぱり忘れてしまい、そのうえなんだかいい人に変身してしまってます(笑)。

「カッコーの巣の上で」のマクマーフィのように廃人になったわけではなく、日常生活にはなんの支障も無いような普通の人になってるんですよ。そんなばかなと言ってしまうとそれまでなので、とにかく「自分の犯行の記憶の無い元犯罪者」というキャラクター設定で見ていかなければだめです。
当時のアメリカでは犯罪対策として実際に検討されていたんでしょうかねー恐ろしいことです。

それでこの男なにをしたかというと現金強奪で、犯行後に警察に追われ困ったあげくある場所に金を隠します。その直後に捕まって、やがてロボトミーで記憶喪失になるという展開。
ギャング一味は出所した男をさっそく拉致し、金はどこだと問い詰めるんですが本人なんのことだかさっぱりわからずで。自分の仲間や情婦の顔を見てもアンタ誰?って感じです。

このあたり、映画を見る者からすれば、身に覚えのないことで怖い目に合う巻き込まれ型のストーリーです。主人公の男も本来は凶悪なやくざなわけですけどね、映画の中ではヒーローとして立ち振る舞います。ジェイソン・ボーンだって元々は冷徹な殺し屋だったはずなんですが、話が “いい人” のところから始まると以前の姿は無かったことになるという、映画や小説のマジックですね。

その後この男は情婦とともに逃れて、二人で真実の謎解きに乗り出します。一味と追いつ追われつ、乏しい記憶と謎のメモ書きを手がかりに、ついに隠し場所が見つかったそのとき…点点点。とまあ、「シャレード」を思い起こさせる展開ですけど、あれほどしゃれた演出ではありません(笑)。
でもクライマックスの遊園地でのジェットコースター上の攻防などのアクションシーンは悪くない出来だといえるし、カーチェイスのところは意外な面白さがあります。今の映画と比べればまるでハエが止まるくらいのトロさで、なんといってもスクリーンプロセスですけどね。でも、そののんびり感がかえって立体効果にプラスになっており、パトカーが店に突っ込むところは迫力満点です。

全体にきちんと3D撮影がされていて充分な効果が出ています。クローズアップでも立体感出ていて、顔のアップでは鼻の高さや彫りの深さがよくわかります。このへんはカラーよりもモノクロのほうに利点がありそうです。ディジタルリストアの成果もきっと大きいんだろうと思います。

今回買ったブルーレイディスクは、トワイライト・タイムというレーベルから出ているものです。ここのはいずれも三千枚プレスの限定盤という触れ込みでコレクター心理をくすぐる作戦のようで、カタログを見るとマニア向けのマイナーな映画だけでなく、いろいろなタイトルを手がけています。
3Dブルーレイも何枚か出しており、無くならないうちにと「The Mad Magician」や「Miss Sadie Thompson」というのを買っておきました。アメリカでも古い立体映画が続々とブルーレイ3D化されてきていて楽しみです。





20170416


「イルカと少年」
Dolphin Tale 2011

ファミリー向けというよりも文部省推薦ものといったほうがわかりやすいかもしれません(笑)。出てくる人たちはすべて善人で、けがを負ったイルカのために奔走しやがて夢を実現するという筋立てです。
そんなうまくいくような話、現実には無い無い…と揶揄することもできるでしょうけども、この映画実話をもとにしてあるんですね。おそらく事実と違うのは、主人公の少年が偶然このイルカとかかわりを持ち尾ひれの再生のきっかけを作るといったあたりで、そういう脚色をしてあるため「インスパイアード・バイ・ア・トゥルー・ストーリー」と注釈されています。

この手は好みとするところではないので普通なら見ませんが、ステレオカメラで撮影されているうえに日本盤のブルーレイ3Dが出てますから、どんな出来か確かめてみることにしました。
出演者は一流どころです。主演はハリー・コニック・ジュニアであまりなじみが無いとはいえ、助演にモーガン・フリーマンとクリス・クリストファーソン、それにアシュレイ・ジャッドが出てます。
監督がなんとチャールズ・マーティン・スミスです。この人監督もやってるんですね。思い起こすと最後に見た出演作は1987年の「アンタッチャブルズ」ですね。しかしフィルモグラフィを見るとその後もちょくちょく出ていて、「ホット・スポット」「ディープ・カヴァー」「アイ・ラヴ・トラブル」「ディープ・インパクト」あたりは、出てたかなー? という感じです。

罠にかかって身動きが取れなくなったイルカが海岸に打ち上げられ、通りがかった小学生が尾ひれに絡まったロープを切ってやるというところから話は始まります。それから水族館の職員が救助に駆けつけイルカは助かりますけども、うっ血した尾ひれの部分は壊死していて結局切断することに。
このイルカのウィンターは尾ひれが無くなってもいたって元気で、胴体を横に振ることで泳げるようになるんですね。ところが本来横振りはイルカの生態にそぐわない動きで、そのままにしておくと致命的であることがわかってドクターたちは頭を抱えます。
そこでソーヤー少年の発案で、人間に義足や義手があるのならイルカに義尾を作ってやろうということになって…という展開です。

それにしてもすごいところはこの映画、尾ひれを失ってしまったイルカのウィンターくんご本人が登場するんですねー。それも出演といってもいいくらいのメイン扱いで、キーキー鳴いたり人に水かけたり、ラヴリーさ全開で活躍します。
しかもエンドロールで披露される、実際に関係者によって撮影されたビデオを見ると、映画で描かれるウィンターの物語はあらかた事実であることがわかってなおビックリです。

まあー全体には、人生希望を捨てずに前向きに行けばきっと幸せになれるよというような内容で、実際見ていると終盤には感涙してしまったりなんかしちゃうわけですけども(笑)、子どもには安心して見せることのできる映画であることは間違いありません。
ところがこれ、わが国では劇場未公開なんですよ。向こうでは続編も作られているくらいで人気があるんでしょうけどね、ひょっとすると例の野生のイルカ捕獲問題などで配給会社がビビッたのかもしれませんね。

さて肝心の3Dのほうですが、これはなかなか良好な立体映像になっていていいですね。基本的にCGIなどの特殊効果は派手には用いられていませんし、水中シーンもパッケージにあるような「グラン・ブルー」みたいにスペクタキュラーなものではありません。
普通の劇映画をステレオカメラを使って撮影しただけといえばそのとおりなんですけども、わりとパンフォーカスに近いかたちで撮ってありますし、フロリダの明るい日差しはすべてを明瞭に映し出しますから3Dにはもってこいですね。これ劇場で見たら画面が暗くてもうひとつかもしれませんよ。3D液晶モニターは明るく鮮明で素晴らしいですね。




20170409

It Came from Outer Space 1953

B級SF映画そのものという感じのタイトルですが内容は意外と地味で、わりと興味深いものです。わが国では劇場公開されておらず、配給としては立体映画だという以外にはとりたててセールスポイントが感じられなかったんでしょう。
冷戦時代のアメリカでは外宇宙からの侵略ものは、共産主義者をエイリアンに見立てて恐怖心をあおるというようなセンセーショナリズムが好まれたようで、けっこういろいろな映画が作られてますね。

アリゾナの砂漠地帯にある日、ガラダマみたいな巨大な隕石が落ちます。これを目撃した天文マニアの主人公は現場に急行、無鉄砲にも単身クレーターの内部に降りていき、そこで球形をした乗り物を目の当たりにします。六角形の出入り口が開いていて、そこを覗いたら中にはエイリアンと思しき謎のなにかが。ところがそこでクレーターが崩れてきて乗り物は埋まってしまいます。

あとから集まってきた地元の人たちに状況を説明しても誰も信じてくれない…というお決まりのパターンではあります。それでまあ、付近ではそれから怪奇現象が徐々に現れてきて、ようやく最後に至って主人公の言うことが正しかったと証明されるというわけです。
ただこの映画ではエイリアンは地球を侵略しに来たわけではなく、単に宇宙船の故障で不時着しただけだったんですね。エイリアンは住民を不安にさせることもしたりしますけど、少しの間だけ騒ぎ立てずにいてくれれば修理してすぐ出ていきますからというようなことを主人公に語りかけます。最後は実際にその通りになって、けが人も何もなく事態は終わる、というひと騒動を描いてあります。

この映画を見ていてすぐに思い起こすのが「トワイライト・ゾーン」です。あの寓意と皮肉、人類への警告・示唆に満ちた短編ドラマシリーズですが、あの雰囲気をそのまま劇場映画に拡張したかのようなタッチなんですね。
原作がSF作家のレイ・ブラッドベリーというからなるほど一味違ったアプローチのしかたです。どの程度脚色してあるかは不明ながら、エイリアンといっても侵略者とは限らないという話は「地球の静止する日」(1951)でも描かれるなど、赤狩りの風潮に一石を投ずるものでもあったかもしれません。
派手なアクションシーンやスペクタクルがあるわけではなく、宇宙人もその姿をほとんど明らかにしないような演出のしかたです。要するに低予算でも作ることができるわけで、監督も映画会社もウィンウィンの関係で行くことができます(笑)。

でも3Dはなかなかいいんですよ。モノクロ映像はシャープですし、カメラマンが3Dのことをわかっているようで、効果的な構図のシーンが多く見られます。こちらに向かって手を突き出すようなあざとい撮りかたをしないところがいいですね。夕日が傾く大平原などもうまく立体に撮ってあります。
モノクロの立体映画というと先にブルーレイ3D化された「大アマゾンの半魚人」がありますけど、偶然ですが主演の俳優が同じ人です。

フィルムのディジタルリストアを出がけたのはアメリカの3Dフィルムアーカイヴという団体で、素人の立体映画好きが集まって活動するうちだんだん本格的になってきたという感じのようです。マイナーな立体映画を次々とブルーレイ3D化していて、この前見た「ザ・マスク」もここが出したものです。
「イット・ケイム・フロム・アウター・スペース」のブルーレイ3Dは去年秋に出たばかりで、アメリカ盤をアマゾンJPでも買うことができました。新作の予定を見るとキングコングもどきのやらジョーズものやらミュージカルやら、なんかいろいろあって楽しみです。


20170319

Viy 2014
「レジェンド・オブ・ヴィー~妖怪村と秘密の棺」

これもロシア映画です。この前見た「スターリングラード」の3Dが意外にも良かったので、もう一本見てみることにしました。この映画もステレオカメラで撮影されています。
内容は十八世紀のロシアの田舎村を舞台としたオカルト怪奇もので、古典小説が原作です。ヴィーというのはロシア・ウクライナ地方で昔から伝承されてきた有名な妖怪らしいです。
やはり完全に娯楽映画になっており、海外市場向けにイギリス人俳優を主演にキャスティングしてあります。それがジェイソン・フレミングなんですが、一流とは言えるでしょうけど超一流ではないというあたりがこの映画のほどほどさを物語っています(笑)。

ジェイソン・フレミングというと、パッと顔は思い浮かぶものの主演映画はほとんど無いし、かと言って名脇役というポジションでもない。フィルモグラフィを見るとわりと出演作は多いんですけど、えーこれに出てたっけというようなのばかりですね。主演した「カーテンコール」(1997)は、モダンバレエのダンサー役でこれは印象に残ってます。
まあでも、名前は知られた俳優ですから営業的にはそれで充分というところでしょう。劇中は主演とはいえ狂言回し的な役で、原作には出てこないオリジナルキャラクターのようです。
もうひとり、科学者の恋人の父役でチャールズ・ダンスも出ています。この人は名脇役といっていいでしょう。名前を知らない人でも顔見たらわかるというような。それ以外はロシア人のキャストばかりです。

フレミングはイギリスの科学者で、世界地図を作るために測量の旅に出ており、その途中立ち寄ったロシアの村でお化け騒動に巻き込まれるという話です。コメディ色の強いミステリーホラーアドヴェンチャーものって感じです。
筋立てとしてはミステリーに力点を置いてあって、村の長の娘が変死してしまった謎を科学者が暴く過程であれやこれやのドタバタが繰り広げられます。いかにも悪人でございという感じのペテン司祭や正体不明の魔女っぽいおばばも出てきたりと盛りだくさんです。

ただその段取りがいかにも拙くて、怪奇現象なのか何者かの策略なのか、一体その真相は…! という持って行きかたしたかったんでしょうけど、もったいつけた見せかたとせっかちな編集のしかたで盛り上がりに欠けること甚だしいものがあります。最後になってフラッシュバックで次々と種明かしをするあたりではすでにこっちはミステリーに対する興味を失ってしまっているという状態で(笑)。
ヴィーの伝説自体になじみが無いという点が大きいかもしれません。あちらの観客は「ああそういうアレンジできたのか、ふむふむ」といった楽しみかたもあるんでしょう。

当然CGもふんだんに使ってありますがそれほど主体的ではなく、あくまでも実写の芝居のほうがメインでわりとアクションも多く盛り込んであります。そのため3Dのほうは見がいがあって、この映画でもちゃんと撮ってあるのでなかなかいいです。
丸太小屋の室内シーンはちゃんとパンフォーカスにしてあるし、沼地の風景や屋外の森の中も背景まできちんと撮影してあって立体効果が充分に出ています。このへん、ロシアの映画撮影の伝統としてあるんじゃないかと思えるような、職人的な律義さが感じられます。

この映画、わが国では劇場未公開でレンタルDVDは出てました。ブルーレイ3Dの日本盤はもちろん発売されてなくて、フランス版をアマゾンfrから取り寄せました。



20170312


Drive Angry 2011
「ドライヴ・アングリー」

ニコラス・ケイジ主演のB級アクションものです。この映画はロードショウには行ってないんですが、あとから調べたら変換3Dではなくステレオカメラで撮影されたものだったのでブルーレイ3Dで見ることにしました。
それでまたこれも日本盤BDは2Dしか出てないので、輸入盤を購入しました。これがなんとアマゾンのマーケットプレイスに385円で出ていて、送料込みで735円で買うことができました。レンチキュラー3Dのアウターケースまで付いてました。

全体に作りとしてはバカアクション映画になっており、理屈もへったくれも無い感じです。レンタルビデオ店ではスティーヴン・セガールやヴァン・ダムもの、レンタル直行タイトルなどと一緒にまとめてあるようなタイプですね。
ただちょっと面白いのは、初めは怒りに燃えるマッチョなヒーローが活躍するただの復讐劇かと思ったら、なんだかだんだん様子が変になってくるところです。いくらご都合主義とはいえ頭を撃ち抜かれた男がムックリ起き上がってまた戦線復帰するというのはあんまりです。

それまでも、ウィリアム・フィクトナー演ずるFBI捜査官がコメディかと思えるくらいクール過ぎでしかも強すぎだったりしてあまりにも現実離れしているんで、ひょっとしたらアメリカのB級映画はここまでなんでも有りの世界になってしまっているのかななどとも勘ぐってしまいました。
とはいえヒロインがぶん殴られて鼻血を流したり、複雑骨折して骨が見えているようなところの特殊効果はわりとしっかりやってるし、大型トレーラーをひっくり返したりするなど、どうしようもないような低予算映画というわけでもありません。終わり近くになるとデイヴィッド・モーズが出てきてちょっといい役をやってます。

それでまあ、後半は「えーそういうことだったのかよ」と思わせるような話の展開になっていくわけですけども、それほど腰を抜かすような驚きとはなりません。というかむしろ、なんなんだよそれは…と半分笑ってしまうような程度の仕掛けにすぎないところがトホホ…です(笑)。
ジェイムズ・キャメロンの「アビス」やジュリアン・ムーア主演の「フォーガットン」のような、最後で「えぇええええーーっっ?」と驚愕するような面白味には到底及びません。

さて肝心の3Dのほうですが、まあこれもまたどうという効果が出ておらず、はい残念でしたとしか言いようがありません。もっとも、なにかにつけて画面のこっちに向かってものを突き出してくるようなあからさまな3D演出は今の時代さすがにやってなくて、ごく普通に撮影してあるだけなんですね。
場面場面では、もうひと工夫すればちゃんと立体感出るのになあと思えるところが多数あります。やはり2Dヴァージョンでの上映・ソフト販売も同時にしなくてはならないというところがネックなんですよね。

実はこの映画、カーアクション映画と呼べるほどにカースタントシーンがたくさんあるわけではなくて、どうもそのかわりアメリカのヴィンテイジカーがなにやら自慢げにいろいろ出てくるんですね。私はその方面ぜんぜん知識が無いのでわかりませんがきっとそうです。監督かプロデューサーの趣味なのかもしれません。
でもアメリカンヴィンテイジカーというと単なる趣味というよりは、偉大なアメリカ文化のまさにステイタスシンボルなわけですから、これらを見るだけでもいいというような鉄道おたくみたいな観客層もあるのかもしれません(笑)。






20170219


The Mask 1961

B級ホラーのカルト映画の一本ですね。当時は日本公開もされていて、そのときの邦題は「骸骨面」だそうです。もとは赤青式の立体映画ですが、アメリカのもの好きがディジタルリストアしてブルーレイ3Dとして発売されました。
謎の古代のマスクを被ると狂気の白日夢が現れるというもので、永井豪の「デビルマン」にもそんなのがあったような。そういえばジム・キャリーの「マスク」(1994)はぜんぜん違う話ですけどやはりマスクを被ると自己の願望が過激に誇張されて発現するというものでしたね。この1961年の「The Mask」もそれに似た点が無きにしも非ずで、94年の「マスク」は大いに参考にした…かも(笑)。

さてこのモノクロ映画、面白いかというとぜんぜんダメです(笑)。コワいかといえば怖くないですし、立体効果満点かと思ったらそれほどでもないという、あらゆる意味においてB級です。
1961年という制作年度からするとこれでも話題作だったのかもしれませんが、やはりゲテモノ映画というかエログロナンセンスものというか、完全に見世物興行映画だったんじゃないでしょうか。内容的には子ども向けの要素はまったく無いので、SFやモンスターものといったB級映画のジャンルとはまた少し違った客層を狙ったものかもしれません。

ある精神分析医がえらい目にあうこととなります。考古学の研究者だか博物館の学芸員だかが青い顔でやってきて、古代のマスクに呪われて人殺しをしてしまったようだと告白します。気のふれたような様子のその男、出て行ったきりピストル自殺してしまい、遺書がわりにそのマスクを分析医に送りつけてきてしまいます。添えられた手紙を読むと、嘘だと思うならマスクを被ってみろというようなことが書いてあります。
映画ではここで、自殺した男の声で「Put the mask on, NOW!」とエコー付きで連呼するんですけども、どうやら劇場公開のときはこのせりふを合図にして観客は赤青めがねをかけるよう指示してあったんじゃないでしょうか。
そう、この立体映画は全編が3Dではなく、分析医が体験する恐怖の(でもそれほどコワくない)悪夢のシーンのみ3Dになってるんですね。パートカラーならぬパート3Dです。

ボヨヨ~ンと場面は替わり、なにやら賽の河原か中世の魔女狩りの村だかというような感じの異空間が出現します。主人公も奇妙な特殊メイクの顔に変身していて超現実感を強調してあります。
この世界では死神と思しき魔物やそのしもべたち、それに生贄の美女(これが分析医の秘書譲)などが入れ代わり立ち代わり出てきては意味不明のパフォーマンスを繰り広げます。なんだかアングラ演劇の舞台をかぶりつきで見ているような感じです。
セットにはドライアイスの煙と火炎が充満しており、これにオプティカル合成やストップアニメーション、ネガ転換からソラリゼーションまでありとあらゆる特殊効果のオンパレードです。

さらに「エレクトロ・マジック・サウンド」と称してある過激な効果音も響き渡ります。おそらく音源と手法は古典的なものでしょうけど、これを過剰なまでにリバーブをかけたり電気的なイフェクトを施すなどしてあって悪夢シークエンスを盛り上げるというわけです。
このサウンドはなかなか面白いものになっていて興味深いですね。このころは一般的な映画館の音響設備はまだマルチチャンネルにはなってないはずですから、スクリーン裏のスピーカーから映像と一緒にモノラルでドスンと伝わってくるわけですね。これはけっこう迫力あったんじゃないでしょうか。
音だけ聞くとほとんど前衛音楽で、なんとこのブルーレイディスクの発売元はサウンドイフェクトの部分だけのサントラアルバムまで発売してます。しかもCDではなくアナログ二枚組のみという、マニアックな人たちがいるんですねーアメリカには。

ストーリーは陳腐だし演出もスリラーというにはあまりにお粗末、というわけでこの映画、結局は特殊効果班と音響チームだけが大喜びで仕事していたんじゃないかという感じです。
まあでも、立体映画ってそんなもんなんですよね昔から(笑)。これから考えると「肉の蝋人形」はそうとうちゃんとした映画で立派ですよ。

この3Dブルーレイ版には特典映像があって、オリジナルどおりのアナグリフィック3Dも見ることができます。全部で三カ所ある3Dの白日夢のシーンだけ抜粋してあるんですね。それで赤青メガネでも見てみました。ディスクにはメガネは付属してないため手持ちのものを使いましたから、青のフィルターのほうの色あいが少し合ってない可能性もありますが、ブルーレイ3Dに比べるとやはり立体感はかなり減退しますね。
あと特典映像には、なぜかクイーンのブライアン・メイが制作したCGによる3D短編「One Night in Hell」も収められています。ストップモーションアニメふうの紙芝居的な内容で、これはなかなか面白かったです。

私はもちろん東宝の怪獣もののファンですけど、同じころに作られた怪奇スリラーものがなかなか面白いんですよね。「美女と液体人間」「電送人間」「ガス人間第一号」といったあたりで、これでどれか一本立体映画になっていたら良かったんですけどねー見たかったですね。「マタンゴ」の3D、見たいと思いませんか?(笑)



20170212

TOKYOコントロール 2011

フジテレビ制作の連続テレビドラマです。初の3Dドラマシリーズということなんですがその後ほかになにか作られたのかどうか。結局唯一のものかもしれません。
放送された当時はこのドラマのことはぜんぜん知らなくて、最近ブルーレイディスクのカタログを見ていてわかりました。地上波でも放送されたようですけど、3D版はやはり衛星放送だけだったんじゃないでしょうか。
カスタマーレビューを読むと好評のようでしたので、ボックスセットは少々値が張りましたが見てみることにしました。BD四枚で全十話、ボーナスディスクはDVDで五枚セットです。

航空管制の話で、関東の管制センターが舞台です。これまで航空管制のことはほとんど知らなかったものの、わりと専門的なことも説明してあっていろいろなことがわかりました。
管制官が主人公の映画というと1999年の「狂っちゃいないぜ」を思い出します。ジョン・キューザックが優秀な管制官ながらふとしたミスで重圧を感じスランプに陥ってしまうという話で、どちらかというといったん現場を離れたキューザックがどうやって立ち直るかというドラマ部分に重点があったように記憶しています。やはり航空管制という業務は大変なんだろうなと思いました。

さてテレビシリーズのほうですが、十話連続ということでいくつものエピソードが描かれています。
火山の大噴火が勃発して関東周辺の空が大混乱するというものや、何者かがシステムに侵入しレーダー網が遮断されてしまうテロ事件などで、一話完結とは限らず複数の事件が実は関連していたというようなことがだんだんわかってくる見せかたはなかなかうまいと思います。すわハイジャックかと思わせて緊迫感を高めながら真相は別のところにあったという持っていきかたは、限られた予算でサスペンス度を上げるいい手ですね。

ただ、全体を見ると非常にバランスの悪い印象が残ります。始めから終わりまでサスペンスフルなタッチかというとぜんぜんそうではなく、むしろコメディのほうが割合が多いんじゃないかと思えるほどで、息抜きが多すぎるんですね。それでもギャグが面白けりゃけっこうなんですけどこれがもうどれもこれも勘弁してくれと言いたくなるようなイモなコメディ演出ばかりで閉口します。
また人情ドラマ部分も多くて、やはりというかまあ、はい泣いてくださいとでもいうようななんともベタな話になっているところがどうにもしょうがないですね。
俳優はどれも適役と思われるので、やはり脚本と演出の力量不足ということになるでしょう。しかしやはりテレビドラマですから、このレベルのわかりやすいものにしないとだめなんですかねー。

航空管制にまつわるサスペンスドラマの部分は面白くできていて見ごたえがあります。たくさんの飛行機をレーダーで追尾して全体を交通整理していくわけで、管制官とパイロットとの無線のやり取りが業務の中心です。
これが飛行機のほうも対等に描くとなるとまた大変でしょうけど、これをすっぱりオミットしてもっぱら管制室の側だけが描かれます。それが逆に、向こうはいったいどうなってるんだろうという緊張感を高めることになってるんですね。
一話だけ、管制官が研修のために旅客機に搭乗するエピソードがあり、操縦室もちょっとだけ描かれます。

それで肝心の3Dのほうはどうかというと可も無し不可も無しというところで、初の取り組みという以上のものではありません。触れ込みとしては100%ステレオカメラ撮影となってますが、時おり挿入される空港の滑走路などの遠景シーンは変換だろうと思います。
管制室などセットの部分はすべて3D撮影されてます。しかし、ただステレオカメラを使って撮影しただけという感じなんですね。立体感や3D空間を描き出す工夫はほとんど見られません。
特典DVDのメイキングを見ると、ちゃんとしかるべきプロセスを経てステレオ撮影してあるみたいなんですけど、3D技術担当者の経験不足か、あるいは常識的な範囲の想像力しかない人なんじゃないかと思われます。

見ていてちょっときついのは演出のお粗末さだけでなく、舞台がほとんどこの管制センター内なのでビジュアル面で変化に乏しいところです。それを3Dめがねをかけたまま十時間近く見続けるわけですから、なかなか厳しいものがありました。最初の二話か三話だけ3Dであとは2Dでも良かったといったら身も蓋もないですか(笑)。







20170122

Love 2015

ギャスパー・ノエが新作を3Dで。しかも内容はポルノのようなんでわりと期待してしまいました(笑)。当然ながらかなりエグい描写となるのは必定ですから、いったいどこまでエロ表現できるのか、またその3D効果がどれほど出ているのか。ノエの映画はいつも “怖いもの見たさ” で恐る恐る覗いてみるようなところがあります。
まあ案の定というか、日本盤ブルーレイディスクは2Dのみですから、アメリカのアマゾンで買いました。これのブルーレイ3Dは向うでも限定盤のような流通のしかたをしているようで、すでに品切れになっているウェブショップもありました。
例によってまずレンタルDVDで見てみましたけど、思った通り全編ぼかしだらけで、仮に日本盤の3DBDが出ていたとしてもこれでは興ざめです。

さて映画のほうはやはり愛と性がテーマです。主人公はパリ住まいのアメリカ人の若者。パートナーとの間に子どもも生まれて幸せいっぱい…かというとどうもそうではなさそうです。
今回もまた時間軸が様々に交錯していく編集のしかたですから、初めは話がつかみにくくて少し戸惑います。いきなりのハードなベッドシーンに続いて説明される状況がおそらく現在で、これに過去の出来事が夢に出てくるようにして次から次に重なっていきます。
この男、少し前までは今とは違うガールフレンドと思う存分セックスを楽しんで暮らしていたようです。この美人のガールフレンドが芸術家肌で、セックスやドラッグには能動的で自らの欲望に忠実なタイプというところが、男の目から見ると都合がいいですね。

ストーリーはこのガールフレンドとの関係を描いていくもので、若さにまかせた無鉄砲さでセックスとドラッグの新境地に挑んでいく二人が見ていて危なっかしいやら羨ましいやらで(笑)。
それで映像としてはもうほとんどポルノと一緒でそのものずばりをあからさまに映し出していきます。行為もごまかし無しですし、なにしろ手でしごいて射精するシーンではカメラに向かって精液が飛んでくるんで、うわーここまでやるのかよという感じです。ちなみにこのシーン、日本版では画面全体にぼかしがかかっていてなんなのかさっぱりわかりません(笑)。

結局、魅惑的なこのガールフレンドとは少々不釣り合いなこの男が、エキセントリックで自分本位な彼女に翻弄され、最後は捨てられたような格好で取り残されてしまい果てしない苦悩にさいなまれるというさまを一人称的に描いてあります。
これを見て思い出すのはキューブリックの「アイズ・ワイド・シャット」ですね。やはり性愛をあからさまに描きながら現実離れしたところもあった「アイズ~」ですけど、最後はたしかハッピーエンド的に終わったような。ところがこっちのほうはというと、最後を迎えてもついに救いの無い話で終わってしまうというのはノエの面目躍如たるところです。

さて肝心の3Dはどうだったかというと、初めに見たDVDですでに見当はついていたんですが、ノエの作風は立体映像にはぜんぜん向いてません。とにかく画面が暗いですからね。照明を使わずにその場の明かりで撮影する方式ですから、手前の人物にフォーカスを合わせると背景がぼけてしまって立体空間が作れてません。室内全体を小津安二郎的シンメトリーに映しだすシーンなどはわりと3Dになってましたし、ディスコのレーザー光線は面白い効果を出してましたけど。

やはり昔から、ポルノと3Dは切っても切れない関係にありまして。怪奇ものやスプラッターと同列にとらえてもいいほどです。「おおーそりゃすごそうだ」と思わせて客集めができさえすればしめたもの、という発想をプロデューサーはするものなんですね(笑)。実際、この「Love」も3Dで撮った理由はあくまで商業的な見地からではないかと思います。




20170115

Stalingrad 2014
「スターリングラード~史上最大の市街戦」

ロシア映画です。ロシアやソ連の映画となるとこれまで、数えるほどしか見たことがありません。ソヴィエト連邦時代後期のものでは「タクシー・ブルース」なんてのがちょっと印象に残ってますが、最近のものとなると…とチェックしてみると、アレクサンドル・ソクーロフの「エルミタージュ幻想」(2002)やアンドレイ・ズビャギンツェフ「父、帰る」(2003)などを見てました。「父、帰る」はあっと驚くほど見事な出来で非常に印象深いです。

さて今回見た戦争映画、わが国では劇場未公開となってしまってますけど実は娯楽大作です。相当の大規模予算を投じて制作されていて、プロダクションデザインはハリウッド映画と比べてもまったく遜色のないレベルです。
描かれているのは第二次大戦の、スターリングラード攻防戦として知られる史上最大だという市街戦です。映画はその全貌を見せるのではなく戦闘の中のある一場面を切り取った形で、フィクションだろうと思います。
当然ソ連赤軍兵士側が主人公ですけども、相手のドイツ軍将校の一人にもスポットを当てて、それぞれの立場でのエピソードが描かれていきます。このあたり、単純な昔の戦争映画とは違いますし、やはり世界配給を前提とした映画である以上、あまりロシア万歳ってだけにはできなかったんでしょう。

それで映画の内容のほうを先に述べると、まあやはり大作であるには違いないんですが今ひとつ佳作にはなりきれてません(笑)。戦闘シーンはかなりの迫力で見ごたえがあります。市街地での文字通りの白兵戦や、手榴弾・小銃でのゲリラ戦などもよく演出されていて、ここらへんはうまくできています。
ただドラマの部分がちょっと弱くて、アパートに立てこもって抵抗するソ連赤軍側の小隊とそこの住人の少女との交流が話の主軸なんですけど、これが特段いいストーリーになっていないところが致命的といえます。

映画の冒頭はなぜか2011年3月11日の東日本大震災の現場から始まり、かけるディスクを間違えたかと思いました。ロシアから派遣された救援隊が、がれきの下敷きになっているロシア人がいたためその救助に当たるという場面で、助け出されるまでの間、そのロシア人を励ますために話しかけます。それが母から聞いたというスターリングラード戦での出来事で、小隊が立てこもったアパートの住人の少女がこの救援隊員の母だということがやがてわかります。

そういうふうなお膳立てですから、映画自体がヒューマンドラマを目指したことは明白なんですけども、いかんせんいくつも積み重ねられていくエピソードのどれもが妙味に欠け、なんとかして感動させようとしているのはわかるもののうまくいってません。もっともそれがまるで箸にも棒にもかからないようなダサさかというとそこまででもなくて、なんというか可もなし不可も無しというぬるま湯状態なんですね。
そこらあたり、米英と同等の水準というわけにはとてもいきません。まあ娯楽映画のレベルとしては日本映画程度じゃないでしょうか。「戦場のピアニスト」のセットを使って撮影し「ペライベート・ライアン」の視覚効果スタッフがデザインを担当して演出をジョニー・トーが行いましたってな感じです(笑)。

それでこれが普通の映画だったら退屈してしまうところですがさにあらず。3Dはこれが最高なんですよ。初めから終わりまで全編にわたって、ほとんどのカットが立体効果をきちんと計算して作られており、まったく目が離せません。最も優れた3D映画の一つだと断言できます。
映像はほぼすべてが市街地の中ですから「天才スピヴェット」などに比べると変化に乏しいということもできますけど、それはたいした問題ではありません。むしろ、灰とがれきで埋め尽くされた廃墟という舞台は立体映画にとっては絶好のセッティングだということがわかりました。

アパートの室内空間、双方にらみ合う広場の距離感、群衆や兵士の隊列、そのどれもが、まさしく臨場感にあふれた素晴らしい3Dで撮影してあります。撮りかたもですけど、照明がいいのかもしれません。背景のいろいろな部分にうまく光を当ててあるんで、よく見えるんですよ。
面白いのは画面の質感で、アメリカ映画とはなんとなく違うんですね。全体に深緑がかったような、昔の東欧諸国のフィルムを思い出させるような色調をしていて、やはりディジタル映画の時代になっても昔ながらのそういう雰囲気に仕上げるんですかねー。

3Dブルーレイは当然ながら日本盤は無いのでこれも輸入盤です。ありがたいことにレンタルDVDでは出てましたから、これをまず見てストーリーはわかりました。3Dで見るときは、日本語字幕がなくても立体映像だけで充分です。






20170108

The Legend of Hercules 2014
「ザ・ヘラクレス」

ギリシア神話についての知識はまったく無いといっていいですが、ヘラクレス(ハーキュリーズ)やゼウス、アポロンにポセイドンといった神々の名前くらいは知ってますよね。ただその物語や神々の関係などとなるとさっぱり。
中でもヘラクレスはやはり最も有名らしく、映画の題材にもたびたびなります。ぱっと思い浮かぶのはディズニーのアニメ版や最近ザ・ロックが演じたものです。しかし、どれも話が決まってなくて大きくアレンジしてあるようで、正当なヘラクレス神話がどういうものかはよくわかりません。ま、そもそもあまりそんな興味ないというか(笑)。

このザ・ロック版と同じ年に制作された「ザ・ヘラクレス」ですが、これがレニー・ハーリンなんですねーひさかたぶりに名前聞きました。フィルモグラフィを見てみると、私が最後に見たのは2001年のカーレースもの「ドリヴン」で、その後の七本は見ていないどころか聞いたことも無いタイトルばかりです。
思えば「ダイ・ハード2」(1990)に抜擢され大成功を収めて以降は、わりと大規模予算の冒険活劇を撮ってますが今ひとつ突き抜けきらないまま不完全燃焼してしまったという感のある人ですね。96年の「ロング・キス・グッドナイト」はいかしてましたけど。

で、最新作は3Dだったんで見てみることにしました。ロードショウは行ってなくて、だいたいいつ劇場にかかったのか知りませんでした。ブルーレイ3Dは、これまた日本盤は2Dのみで嫌になってきますけどしかたありません。日本語字幕なしの輸入盤にて鑑賞です。
しかし3Dは非常に良かったです。全編ステレオカメラできちんと撮影してあり、2Dからの変換のシーンはほとんど無かったように思います。予算規模は中くらいってとこでしょうか。巨大な神殿やコロシアム、軍隊・群衆などはどれもCGで、意外と安上がりで制作されたのかもしれません。有名な俳優もほとんど出てません。

撮影監督がちゃんと立体効果を知っているようで、可能な限りパンフォーカスで画面を作ってあっていいですね。急にスピードを落としてストップモーションに近い効果を出すような格闘シーンでは、バチャンとはねた水が明瞭に3Dで感じられるなど、見せかたにも工夫を凝らしてあります。
やはり、奇をてらうでなくありのままを見せる3Dというのが結局いちばん見栄えがするんですよね。宮殿内部でのできごとなどセット撮影のところでは、その場の様子が手に取るようにわかるところが立体映画のひとつの醍醐味です。

さて話の内容のほうはというと、まあそつなくまとめてあって水準の娯楽映画になっています。アクションあり冒険ありロマンスあり。神話の世界ではなく現実の世の中で、ヘラクレスも人間として描いてあります。クライマックスで神がかり的な力を発揮するというところはそれほど荒唐無稽な感じを受けず、なかなかうまく演出してありました。
主演の坊やは初めて見ましたけど、かつてのシュワルツェネッガーみたいなムキムキ野郎なのに顔は若い頃のディカプリオを思い出させるような童顔だというところが面白いです。唯一知っている俳優は王付きの賢者役のレイド・セルベッジアだけでした。この人長いですね。




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