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2022年に見たブルーレイ3D


変換3Dは好まないので、ステレオカメラで撮影された映画ばかりです。


←2021年に見たブルーレイ3D





220522

豪情3D 2014
「大性豪」

これもまた香港のエロもので、完全にバカコメディです。アダルトビデオ好きの仲間が集まり、自分たちでAVを作ってひと儲けしようと大挙して日本に乗り込んでくるという話です。大半が日本ロケで出演者の多くも日本人のAV関係者という、わりとマニア向けと言うか、向こうでもやはり日本のポルノはファンが多いってことでしょう。
先週見た「一路向西」と比べるとスラップスティック度が高く、実にくだらなーいギャグの連発です。しかしむしろこっちのほうがドタバタコメディとしては本道で、しょうもないネタに脱力しつつ笑えるところがいいとは言えます。
「一路向西」は王家衛(ウォン・カーウァイ)コンプレックスを感じさせる少し気取りのある演出でしたけど、こちらは周星馳(チャウ・シンチー)タイプのナンセンスさがあります。

ただし、褒めているわけではありません(笑)。面白くできているとはとてもいえなくて、ほんとしょうもない映画です。
主演の杜汶澤(チャップマン・トー)は見覚えの無い顔で、かつらによってはジャッキー・チェン似という感じです。フィルモグラフィを見ると「インファナル・アフェア」シリーズ三作に脇役で出てますね。もう一人、後半になって出てくるのが人気アクション俳優の古天樂(ルイス・クー)で、大真面目な顔で変てこなキャラクターを演じています。
日本からは新旧の人気AV女優が十人以上出てるんですが、やはりあくまでもネームバリューのためという以上のものではありません。

そのせいかわが国では劇場未公開となっていて、DVDが発売されているだけです。レンタルでも出てましたから、広東語の部分のせりふを確認できました。全体に日本語のせりふが多めです。奇妙なのは、香港盤のブルーレイ3Dを見てみると、音声が広東語や北京語モードのときでも日本語のせりふに中国語の字幕が当てられてないんですね。このへん中国人のテキトーさが表れてます(笑)。
映画のプロダクション自体は一般映画並みで、きちんと作ってあります。かなりの低予算には違いないとはいえ、それなりのものではあります。

それで3Dは意外といいです。全編をステレオカメラで撮ってあって、カメラマンは3Dを知っている人ですね。カプセルホテルの箱部屋の立体感が面白い感じに出ています。渋谷・新宿・秋葉原と東京の街の風景もなかなかのものです。なぜか神保町のすずらん通りでもロケをしてあります。
ただ惜しいことに、3Dの見せ場が作りきれてません。これで二三カ所でもおおいいねというような3Dショットがあれば充分だったんですけどね。

今月見た三作はいずれもばかげたコメディであって、セックス描写は過激と言えば過激ながらエロティックなところはぜんぜん無く、ポルノとしては役に立たない(笑)ものです。しかしこうしていろいろと作られているところを見ると、あちらではある種のジャンル映画として一定の人気があるということなんでしょうね。





220515

一路向西 2012

これも香港映画で、ポルノとまではいかないエロティックコメディです。日本のAV女優が一人出てはいるものの、わが国では劇場未公開で日本語版のビデオソフトもリリースされていません。
映画の出来はやはりB級もいいとこです。ただ撮影はわりとちゃんとしたレベルで一般映画並みといってよく、もうちょっとなんとかなってればなあいうところです。
監督・脚本は先週見た「Sex & 禅」にももぐりの医者役で出ていた胡耀輝(マーク・ウー)という人で、ひと癖ありそな映画おたくのようです。本作でも脇役で出演もしていて、印象に残る風貌をしています。

原作小説の作家名が向西村上春樹というんですね(笑)。香港人のようで、村上春樹のパロディを何作か書いているらしいです。
話はどこにでもいるような若者が思春期以降の性の悩みに悶々とするさまを描いていて、高校時代の初体験の大失敗談に始まり、留学先のロンドンや成人してからは深圳やマカオにまでセックス修行に繰り出すという有様です。
いちおうその遍歴の中でいわゆるソウルメイトと出会い、やがて本当に大切な愛に気づく…というような美談めかしてはあります。ただしあくまでも軽薄なコメディですから、そんな人間ドラマの演出はまるでできていません。

全編を通じて主人公のモノローグが流れる、お手軽な作りかたです。そのぶんせりふの量が非常に多く、字幕が無いと流れがよくわからないところがあります。
こういうときの対策として最近やっているのが映画字幕のデータサイトでせりふを一度に見てみるという手です。海外にいくつかある字幕サイトにこの映画の英語字幕が公開されているところがありましたから、これを自動翻訳で読んでみるわけです。
私の入手したブルーレイ3Dは香港盤なので英語字幕のオプションもあるにはあります。しかしビデオで字幕表示してもどんどん画面が切り替わっていきますから、やはり英語だととてもついていけません。

その点データサイトはすべての字幕を数ページにわたって表示してありますから、流れはなんとなくつかめます。しかしそれでも、映画のセリフは口語が多いですから自動翻訳だと変てこなんですよね。やはり映画のせりふの翻訳は意訳されていないとさっぱり通じない感じです。
また、せりふの無いまま進行する場面でもそう説明されているわけではありませんから、行間が実際は長時間あったりすることも多く、やはり同時に映像を見ながらじゃないとどこのせりふかよくわかりません。

そうしてみてなんとなくわかったのは、パロディとはいえけっこう文学的な表現が用いられていそうだということです。感覚的にはわからないものの、ネイティヴが聞けば笑えるジョークも多数含まれていると思われます。もし日本語版のDVDだけでも出ていれば、意外と楽しめたかもしれません。
初めの高校時代のエピソードはアメリカンコメディのパロディのようになっていて、ひたすらバカっぽい展開です。それが大人になって歓楽街を行き来するようになると、今度は王家衛(ウォン・カーウァイ)のスタイルになるんですね。モノローグの手法にしたのも、「恋する惑星」の雰囲気でやりたかったからだろうと思います。

これで3Dが悪くなければもう少し支持したいところですが、ぜんぜんダメです(笑)。どうも全編をステレオカメラで撮影したわけではないようで、2Dのショットも少なからずありました。しかし3Dの場面でも、立体効果がほとんど出てません。よっぽどステレオグラファーが経験不足だったのか、あるいはそもそも制作側は3D表現に関しては特に興味が無かったのかもしれません。
3Dにはこの手のエロ映画がつきもので、宣伝文句としての役割が大きいわけですね。そうなると部分的にでも3Dにさえなってればいいやということになるんでしょう。実際この映画も香港ではヒットしたようです。





220508

「3D Sex & 禅」
肉蒲團之極樂寶鑑 2011

香港のソフトコアポルノです。向こうは映画産業が盛んな分、当然ピンク映画も多数作られています。これがわりと街中の一般映画館と変わらない劇場でかかってるんですね。
今はどうか知りませんけど、二十年くらい前に旅行で行ったときに、なにか映画館で見てみようと日本には輸入されそうにないB級カンフーアクションものぽいのをやっているところにカミさんと一緒に入ってみました。そしたらそれがピンク映画で(笑)、そうと知らずに座っていたのは我々二人だけだった…なんてことがありました。

今回見た「Sex & 禅」は中国の好色文学の古典「肉蒲団」を原作としており、日本の人気AV女優も二人出演しています。そういう話題性があったからか珍しくわが国でも3D版で劇場公開されていて、しかも日本盤ブルーレイ3Dまで出ているという充実ぶりです。日本語字幕の3Dビデオは久しぶりで見ました(笑)。
ただし充実しているのは公開規模だけで、内容はこれに反比例しています。B級映画と呼ぶのも情けなくなってくるくらいくだらない代物であって、香港映画も2011年になってもまだこんな稚拙なものを作るのかとむしろ驚いたくらいです。

製作費はある程度かけてあるようで、セットや無国籍風のきらびやかな衣装など派手なのは派手です。ただしそのどれもが中途半端な水準ですから、かえってテレビのバラエティ番組レベルの安っぽさが全編に充満しています。芝居の演出もそれはもうひどいもので、ほとんど学芸会です。
しかしウィキペディアによると香港では封切り初日に記録的な興行成績だったそうで、やっぱり低俗で大衆受けするジャンルなんですね。
ブルーレイ3Dのメイキング映像では制作者のインタヴューもあり、原典の「肉蒲団」からは登場人物の名前だけを使ってストーリー展開はかなり改変してあるそうです。向こうでは大人なら誰もが知っている話なんでしょう。香港ではこれが四回目の映画化です。

清時代が舞台で、主人公の若き学士が性技の修行に明け暮れる話をいろいろ荒唐無稽に盛り付けてあります。ほとんどコメディタッチながら、これも中途半端です。
この主人公は香港在住のアクション俳優だという葉山豪という日本人が演じています。初めて聞く名前だし、日本版の劇場予告編にも名前が出てませんから、こちらではほとんど無名な人なんでしょうね。この俳優をはじめとして、誰一人として特筆に値する演技はありません。

でもちゃんとステレオカメラで撮影された3D映画には違いありません。その出来はというと、これまた褒められるほどの水準ではありません。まあ、悪くはないけどねという程度でしょうか。
CGIのレベルが低いのはしょうがないとして、3Dの場合これが実写との合成画面になるとえらく不自然な立体効果になってしまいます。グリーンバック撮影のシークエンスがあると、背景と本物の3D映像との抜き合わせがまったくなってないのは、まあこれはしかたがない。日本版の字幕の入れかたも慣れない人がやっているみたいでもうダメダメです。

そういうわけで、せっかくの日本盤ブルーレイ3Dだったんですがトホホとしか言いようのないものでした。





110417

Nova Zembla 2011
「エンド・オブ・ザ・オーシャン~北極海と勇者の冒険」

DVDの邦題からはヴァイキングものかというような印象ですが、十六世紀オランダの北極海航路開拓を描いた、史実に基づく歴史ドラマです。オランダ初の長編3D映画で、けっこう大きな製作費を投じて作られているようです。
当時は西ヨーロッパとインド・アジアとの交易路を確立することが重要で、南回りルートよりもアジアに近い北極海ルートを開くために探検家が何度もこれに挑みながら挫折してきた経緯があったそうなんですね。

映画は、ウィレム・バレンツという航海士が1596年に行った三度目の北東航路探検の模様を描いてあります。このとき行く手を阻む大きな島ノヴァゼムリャで氷に囲まれてついに船は航行不能となり、上陸して越冬するという過酷な状況に陥ります。
結局春まで耐えた船乗りたちはボートで島を脱出、大陸にたどり着くもバレンツはここで客死してしまい、結局三たび航路開拓を果たせなかったことになります。しかし船をばらした板で越冬のための小屋を作り白熊の襲撃にも立ち向かうなどの冒険譚は、のちに出版された航海士の手記がベストセラーとなり広く知られているそうです。
バレンツの名は北洋のバレンツ海に冠してあるほどで、乗組員の多くが生還したこのストーリーはオランダ人にとっては誇りとするところなんでしょう。「南極物語」みたいなものでしょうか(笑)。

それでこのバレンツが主人公かというとそうではなく、船に乗った経験は無いものの偉大な航海に身を投じ報奨金を得ようとする野心的な若い書生の視点で語られています。これも実在の人物で、天文学などの幅広い知識があることから、航海日誌の書記として雇われます。
史実を過剰に脚色創作したりはしていないようで、話はわりと淡々と進んでいきます。アメリカ映画だったら、初めは船乗りたちから役立たずと疎まれ続けたこの若者がやがて大活躍するアクションヒーローものに仕立てたかもしれません。まあ、そんな場面もひとつ設けてはあります。

しかし全体に大きな盛り上がりの無い筋立てになっており、クライマックスのサヴァイヴァル場面である決死のボート行もそれほどドラマティックに演出されているわけではありません。映画としてはかなり物足りなさを感じる内容で、わが国では劇場未公開なのも当然という出来です。
ただ映像はなかなか美しく、実際にアイスランドやカナダなどの極地的なロケイションで撮影されています。大海原を帆船が航行するシーンも、実際に船を走らせてヘリコプターで撮影されるなどしていることがメイキングを見るとわかります。

これだけだとあまりいいところの無いこの映画、しかし3Dはなかなかのものです。オランダ初の3D映画と宣伝してあるだけでなく、ブルーレイ3Dのボーナスメイキング映像や予告編はちゃんと3Dで収録されていて、制作者も力を入れていることがうかがえます。監督以下のインタヴューはオランダ語なんでさっぱりわかりませんけど、どうも3Dについて多く語っているみたいです。
やはり照明がしっかりしていて色調もいい高画質映像による3Dは見ごたえがあるんですね。クローズアップも多く、立体効果がよく出ています。

ひとつ残念なのは、手前と奥の被写体でフォーカスを違える撮りかたを多くしているところです。本当はすべてに焦点を合わせたパンフォーカスにしてほしいところなんですね。しかしそこはやはり商業用の劇映画ですから、2D公開版のことも考慮しないといけないし、見る人の目への負担についての配慮も必要…などとなってくるんでしょう。
とはいえ全体に良好な立体効果が出ていて、監督とカメラマンは可能な限り3Dを重視したという姿勢が見てとれます。





220410


1920 Bitwa Warszawska 2011
「バトル・オブ・ワルシャワ~大機動作戦」

第一次大戦後のポーランド・ソヴィエト戦争を描いたポーランド映画です。ヨーロッパ史にはまるで暗くてぜんぜん知らなかったんですが、中世に隆盛を誇ったポーランド共和国は十八世紀から十九世紀にかけて他国の支配下に置かれ苦汁をなめているんですね。その後第一次大戦終結後にようやく独立を果たします。
大戦で混迷し内戦が始まっているロシアはそれまでの宗主国の一つで、ポーランド側は共産主義の拡大を防ぐためにロシアへ侵攻し同時にかつての版図を取り戻そうとする…といった背景があるんですね。

似たような邦題の映画がいくつかビデオソフトとして出ているため、ブルーレイ3Dの発売状況を調べているときに少し混乱しました。第二次大戦でドイツ占領下のワルシャワで起こった「ワルシャワ蜂起」を題材にした映画も複数作られています。どちらにしてもわが国ではあまり広く知られた歴史のトピックとは言えないからか、劇場公開はされていません。日本語版のDVDが出ていることにはむしろ驚くほどです。
まずこのDVDでストーリーとせりふを確認してみました。でも上記のような歴史背景はあとからウィキペディアで調べて知りましたから、最初はどうもさっぱりわけがわからずで(笑)。レーニンとスターリンが出てきたところがわかったくらいです。

大筋ではポーランド・ソヴィエト戦争の史実に沿っていき、映画のクライマックスはポーランド軍がロシア赤軍を追い払った “ヴィスワの奇跡” として知られる機動作戦を大規模に描いているポーランド万歳映画です。
主人公はおそらく架空のキャラクターで、ポーランドの上流階級の若者が志願して出征、さまざまな幸運により九死に一生を得つつヴィスワでの決戦に臨む…というところです。出征前に結婚したキャバレーのショウガールとの純愛をバックグラウンドにおいて、ラストはハッピーエンドでしゃんしゃんと閉じるところはまあ娯楽映画だからしかたないとして、やはり少々陳腐なところがあります。

監督はイェジー・ホフマンという人で、メイキングを見るとかなりの高齢でヴェテラン作家のようです。おそらくドラマ部分よりも戦闘シーンを豪快に描きたかったようで、ポーランド映画としては未曽有の予算規模で白兵戦の様子を見せていきます。
飛行機はまだ複葉機の時代で、航空部隊というのは存在しなかったようです。劇中何機か飛んできて、手で爆弾を投下するというまだ原始的な利用のしかたです。また戦車も新兵器として出てきたころで、まるで軽自動車のようなのが出てきます。
しかし戦闘の主軸は騎馬で、ライフルや重機関銃に対してサーベルを振り回しながら勇ましく向かっていくんですね。まったくもって前時代的な戦争の様子でありながら、やはり多くのエキストラを実際に走らせて撮影してありますから迫力があります。

それで映画自体はまあそこそこの活劇になっていて、並みの出来ばえです。ポーランド人は大喜びするでしょうけどね。
ところが3Dがすごいんですよ。ジェイムズ・キャメロンのフュージョンカメラシステムを使ったそうで、ステレオグラファーもちゃんとした人らしく素晴らしい立体効果を上げています。教会での結婚式のシーンなどは、下からあおった聖堂や奥の奥までパンフォーカスにしたホールの模様など、見ていておおーっと声を上げたほどです。これはきっと平原での大会戦シーンの並みいる騎馬を見せるところなどはすごいことになっているだろうと期待が高まります。

ところが、です。なんと私の買ったドイツ盤のブルーレイ3Dは、始まって二十分くらいすると左右の絵が入れ替わって収録されてるんですねーどういうことですか。それが短時間ならまだいいものの、ところどころまともな並びに戻ることもあるとはいえ残りのほとんどが左右逆転で入ってました。これじゃぜんぜんダメです。
せっかく撮影自体はハイレベルな3Dになっているはずなのに、ビデオディスク用のマスタリングで間違って左右入れ替えてしまってるんじゃどうしようもありません。これはまったく残念至極です。
ブルーレイ3Dで左右逆転のミスは、ときどきあるにはあります。しかしこれほど長時間にわたる収録ミスは初めて見ました。誰もチェックしてなかったんでしょうかねードイツ人にしては珍しいことです(笑)。

しかしこのままではちょっと納得いかないので、別のエディションを買ってみます。ブルーレイ3Dは調べた範囲では、ポーランド盤とドイツ盤、それとフランス盤が出ているようですから、まず手ごろな値段のフランス盤の中古をさっきアメリカのアマゾンに注文してみました。
しかしいずれも同じマスターを使用している可能性がありますから、変わらないかもしれませんね。もしそうだったらがっかりです。なんとかブルーレイ3Dの左右の絵を逆転して再生する方法が無いもんでしょうかねー。





220320

Night of the Living Dead 3D: Re-Animation 2012

あまたある "オブザデッド" もののひとつとはいえ、ジョージ・A・ロメロのオリジナル「Night of the Living Dead」(1968)のリメイクものという位置づけです。監督のジェフ・ブロードストリートはおそらくロメロとは無関係の、ただのホラーおたくが高じて映画作家になったというクチでしょう。製作費はほとんど自己資金かというような予算規模のB級映画です。
好きでやっているだけで儲けのことは考えていないという感じはよくわかります。コンセプトとしては、あの名作をぜひ自分の手で3D化したいというのが出発点だったんじゃないでしょうか。

ブロードストリートはこれの前にも一本撮っていて、これがオリジナル版に近いストーリーの "3Dリメイク計画" 第一弾です。タイトルもストレイトに「Night of the Living Dead 3D」(2006)としていて、これはわが国でも「超立体映画ゾンビ3D」の邦題で劇場公開されました。
福岡では久山の東宝シネマズ一館だけでかかったのを見に行きました。たしか赤青めがねのアナグリフィック上映だったと記憶しています。ディジタル3Dの上映はまだ始まったばかりくらいで、DLP映写機を持っている劇場は少数だったんですね。この映画もフィルム上映だったはずです。

ほんとはこの第一弾のほうをまず見直したいところ、こっちはブルーレイ3Dが出てないんですね。海外盤のブルーレイディスクはアナグリフィック方式です。日本盤DVDのほうも赤青式で、これはレンタル版があるのでしかたなく私の嫌いなアナグリフィックで見てみました。やはり映像は見にくいこと甚だしく、ほとんど立体効果が感じられません。
内容はロメロのオリジナル版を思わせるような、いわばトリビュート的な設定です。伯母の葬儀に参列しようと田舎に向かった主人公は、埋葬が済んでいないのになぜか誰もいなくなっている墓地でゾンビに襲われ、一軒家に逃げ込みます。はじめはその話を信じようとしなかった一家はやがて群がってきたゾンビたちに右往左往…といった流れですね。

しかし2012年の第二弾のほうは海外盤のブルーレイ3Dが出ています。こちらはわが国では未公開でビデオソフトも出ていません。
それでこれには「リ・アニメイション」という副題が付いていますね。アニメイションというとどうしても動画のアニメを思い浮かべるところ、ここでの意味は言葉本来の再び動き出させること、つまり蘇生ということで、ゾンビを指しています。また前作とはつながりのない話なので、いわゆるリブートという意味にもひっかけているんだろうと思います。ウィキペディアには2006年作の前日譚だという記述がありますが、そうこじつけられないこともないけどねというところで、まあどっちでもいいと思います(笑)。

どうも同じ墓地での出来事として描いてあるようで、キーパーソンである葬儀屋の社長の名前が同じです。この葬儀屋が実はゾンビの温床になっており、火葬の依頼を受けて引き取った遺体をなぜか焼かずに何年も安置して(というか放置して)いるうち、いつの間にかこれらがゾンビ化してしまったという不条理な話です。
この設定は2006年作と共通で、父親が経営していた葬儀屋を受け継いだ二代目の男がストーリーの中心になっています。新たに雇った死化粧師や、遺産の相続を求めて訪ねてきた長く音信不通だった弟などのキャラクターを配して、わりとドラマ仕立てにしてあります。

こういうふうに、ゾンビをめぐるさまざまなことがらをドラマとして描いている分、どれもゾンビそのものの怖さが希薄になっているという本末転倒現象になっています。なにがなんだかわからないままに、ただただ不気味に迫ってくるゾンビの恐ろしさを描いたオリジナル版を超えるものはもう出てこないわけですね。
でもその点を割り引けば、今回見た「リ・アニメイション」は決して悪くない出来じゃないかと思います。超低予算のゴミ映画には違いないとはいえ、ストーリーやキャラクターなどに工夫があるし、安っぽいCGIもまあ頑張った感じがあるというところです。

なにより制作者のグラインドハウス風味好きが3Dへの固執に表れています。両作ともステレオカメラシステムで撮影されており、ブルーレイ3Dにはメイキングのボーナス映像がちゃんと3Dで収録されています。
「リ・アニメイション」のほうはカメラマンとステレオグラファーが兼任です。この人は3Dの理屈を理解しているようで、なかなかおいしい見せかたをしています。室内シーンではカメラを低い位置から仰ぎ見る構図で天井も写し込んでいて、これによって室内空間がはっきり認識できるんですね。これをしている3D映画は実はあまり多くありません。
もっとも、おーこれはすごいというような3Dシークエンスの見どころがあるわけではないので、やはり全体には退屈なB級ホラーであることには違いありませんけどね(笑)。





220313

Haunting of Winchester House 2009
「Haunting 震!悪魔の棲む家」

カリフォルニアに実在するウィンチェスター・ミステリー・ハウスというところはいわゆる幽霊屋敷として知られていて、私もなにかで聞いたことのある名称です。なんでもウィンチェスター銃を製造販売した十九世紀末の実業家ウィンチェスター氏の未亡人が邸宅として建設したもので、霊媒師のお告げに従い延々と増改築を続けた迷路のような構造なんだとか。
未亡人にはウィンチェスター銃によって死んだ人の呪いがかけられており、その亡霊から逃れるため無数の隠し部屋やなんやらがある複雑怪奇な建造物は今では当地の観光名所になっているようです。

それで映画はこの呪いの話かと思えばあくまでもこの逸話を基にしてあるだけで、「実話に基づく」とうたっているまがいものです。もちろん実際のウィンチェスターハウスで撮影したものでもなんでもなく、それどころかなんと家の外観はCGです(笑)。さすがの私もこれにはたまげたし(またそのCGもひどい)、そのうえ室内シーンの多くでもグリーンバックが使われているというわけのわからない撮影方法です。
最初のカンパニークレジットでなんとなく見た記憶のある会社名だったので調べてみたら、このアサイラムという制作会社はやはりB級映画専門のところで、ビデオ映画やテレビ映画を中心にかなりの製作数のある粗製濫造スタジオです。

以前私が見たこの会社の3D映画には「Haunting in Salem」(2011)と「Sex Pot」(2009)があり、そのとき私は「まったく箸にも棒にもかからないような代物で、高校のホラー映画研究会の自主制作というようなレベル」とか「B級映画どころかEマイナスくらいの代物」などと書いてますね(笑)。
ここは他には「メガシャーク対巨大ダコ」とか「トリプルヘッド・ジョーズ」とか、「エイリアンVSエイリアン」とかのパクりものを無数に出しています。「シャークネード」というヒットシリーズもあるようです。
今回のも「Haunting 震!悪魔の棲む家」として日本盤ビデオソフトが発売されてますから、わが国でも一定の市場があるってことですね。その健闘ぶりを褒めていいのかどうかよくわかりませんけども。

そういった背景からするとさもありなんというようなしつらえの映画で、おそらく制作費は二百万円か三百万円くらいです。森の中の一軒家の住み込み管理人としてやってきた子連れ夫婦が遭遇する恐怖を描く “呪われた家” ものですね。ここに心霊研究家がやってきてエクゾーシストとして亡霊たちと対決します。
とにかく演出の安っぽさが際立っており、まさしく箸にも棒にもかからないようなEマイナス級映画です。亡霊はちょこちょこと画面に現れてくるもののまるでホラー要素に欠ける見せかたで、トホホ…と笑う気にもなりません。

終盤になってウィンチェスター未亡人の亡霊の真の目的が明らかになり、いったんハッピーエンドふうに一連の出来事は(矛盾だらけながら)解決します。
ところが最後の最後にどんでん返しが盛り込んであって、ばらしてしまうとこの一家は映画の冒頭ですでに事故で死亡しており、実は自分たちも亡霊だったというわけなんですね。「シックスス・センス」方式です。
これのブルーレイ3Dは日本盤が当然出てませんから、レンタルDVDでまずせりふを確認してから3D版を見ました。そうすると図らずも、ということは…という流れの見直しとなり、初めからそのところを確認しながら見ると、なあるほどという感じがして意外にも楽しめたんですね。なにが好機となるかわからないもんです(笑)。

少し突っ込むと、当初はティーンの娘も実は幽霊だったという設定で撮影していたのかもしれません。しかし製作が進行するにつれてそれには無理があることがはっきりして、結局娘は実在するキャラクターとして描くことに方針転換したというようなところも見てとれます。途中で、カントクそれつじつま合いませんよ誰かが気づいたんでしょう。

それで3Dのほうは、やはりおそまつとしか言いようのないレベルです。おそらくビデオカメラを二台くっ付けただけの単純なステレオ撮影なんだろうと思います。なにしろ室内シーンでもCG合成されているほどですから、立体感を出すシークエンスがあまり無いんですね。
はじめに日本盤DVDを見ていた時から、この撮りかたじゃ奥行きのある3Dはまず期待できんだろうなと思った通りでした。もうこういうのにもだいぶ慣れましたけど(笑)。





220220

Natalie 나탈리 2010
「ナタリー~絡みつく愛の記憶」

これも韓国映画で、先週見た「ミスターGo」(2013)が同国初の3D映画だと書いてあるのをなにかで見たんでそのつもりしてたら、どうもこちらのほうがほんとの初の3D映画です。変換ではなくステレオカメラで撮影してあります。
ただ規模としては低予算の小ぢんまりしたドラマで、エロティックファンタシーサスペンスといったところでしょうか。ピンク映画の範疇ではないものの、セックスシーン(ソフトコア)を売りものにしてあるには違いありません。

登場人物は四人だけで、彫刻家とそのモデルを務めた女性をめぐる三角関係が描かれています。しかし話はわりと薄っぺらですから舞台劇としては成り立たないだろうという感じで、やはりベッドシーンありきの企画でしょうね。
そこそこ評価の高そうな彫刻家先生の個展に、謎の男が訪ねてきます。彫刻家がこれだけは売れないと大切にしている「ナタリー」と題した裸像をぜひとも売ってくれと食い下がってくる若い男に、少し興味を持ったのか話を聞くことに。

やがてこの謎の男はかつて彫刻家が講師を務めていた美術学科の生徒だったことがわかってきます。二人の会話から徐々にミステリーが解き明かされるんですが、話は微妙に食い違っています。
ナタリーのモデルだった女性は、やはりそのクラスの生徒の一人だったんですね。彫刻家はモデルに志願してきたと言うし、男のほうは彫刻家が教員の立場を利用して無理やりモデルをさせたと主張、はっきりしているのは、どちらもその女性を自分のものにしたかったということです。

傑作「ナタリー」を制作した後は彫刻家は女性との愛欲にまみれ、創作のほうはすっかりスランプになってしまいます。それを察した女性は自ら身を退き、十年後の再会を約して彫刻家の前から姿を消します。
いっぽう若い男のほうは、後ろ髪をひかれつつ彫刻家と別れてきた女性と、そうと知りつつ一緒になり子どもももうけます(どちらの子かは不明)。ところがすでに女性は子宮がんを患っており、若い男と生まれたばかりの子を残したまま死んでしまいます。
このあたりの描写は非常に幻想的であり、映画のすべてが両者の回想ですから、真相はわからないままです。

実は男との結婚生活中も女性は密かに彫刻家と文通しており、それが「イル・マーレ」みたいな郵便受けを介してなんですね。男は女性の後をつけてそのことを知り、十年後の約束は果たせなくなったと記した最後の手紙を隠匿してしまいます。
個展に男がやってきたその日が、十年目の約束の日だったというわけで、最後にそのことを明かされた彫刻家は愕然とします。ラストシーンも、なにかどこかの観光地に実際に建ててあると思われる巨大な郵便ポストの中に彫刻家が逃避していく…という意味ありげな描写です。

ほとんどがせりふとセックスシーンだけで構成された映画です。主演の男二人はわりと芝居のできる役者でいいんですけど、肝心の運命の女性がなんとも凡庸でどうしようもありません。ぼーっとしていて身のこなしもぎこちなく、ファム・ファタルとしての存在感がひとかけらも無いのが致命的です。そのうえ明らかな豊胸手術の特徴が出てますから興ざめも甚だしいってものです(笑)。

さて3Dのほう、これはまずまずの出来というところで、もう少し工夫があればもっと奥行きのある立体映像にできたんじゃないかと思います。
多くの彫像を立ててあるギャラリーでは、奥の奥までしっかりパンフォーカスで撮ってあるんですね。しかしステレオカメラの調整が不充分だったのか、もっと奥行きが出ててもいいのになあ…と思える映像になってます。
結局、3Dの見せ場となるシークエンスが作れないままで終わってしまっているところは惜しいですね。





220213

Mr. Go 미스터 2013
「ミスターGo!」

韓国映画です。同国初の3D映画という触れ込みで、ということは以前のフィルム映画時代には立体映画を作ったことが無かったということなんですかね。
それはともかくこのコメディ、プロ野球にゴリラの選手を起用しての騒動を描いたドタバタです。そうなるとすぐさま思い浮かぶのが水島新司の「野球狂の詩」で、その中の一篇にやはりゴリラをスカウトして野球をさせようと画策するエピソードがありました。
調べてみると映画の原作は韓国まんがの「第七球団」というので、これがゴリラ選手が出てくる話らしいです。まったくの憶測ですが、このまんがが「野球狂の詩」をヒントに、おそらく「アストロ球団」や「群龍伝」みたいなストーリーに仕立ててあったんじゃないでしょうか(笑)。

映画の筋立ては、朝鮮近くの中国辺境でテントを張っているサーカス団が経済的に困窮、借金返済のために人気動物の野球をするゴリラを韓国野球界に送り込みひと稼ぎさせようというものです。
ところがこれがえらく中途半端な演出になっていて、バカコメディに徹すれば良かったものを、受けを狙ってか人情ドラマふうの方向にいくもんだからぜんぜん笑えません。ドタバタ度数も低くて退屈です。

その要因のひとつが、ゴリラのCGがよく出来すぎていることなんですね。非常にリアルに描かれており、動きも悪くありません。
ベイブのように言葉を話すわけでもなく擬人化してありませんから、キャラクターとしての存在になっていないわけです。愛嬌が無くて何を考えているのかわからない、でも主人公の女の子には従順だという正体不明な感じです。最後は無理やり涙を流してハッピーエンドの情話にしてあるものの、結局この女の子と意思疎通を図ることは無いままです。

それでCGはハイレベルですけど撮影もわりといいんですね。コメディが面白くないのはもうしかたないとして、映像は注目に値するところがありました。
全編ではないもののステレオカメラを使って撮影されています。初めのサーカス団でのエピソードでは、大きなテントの中という絶好の3D向きのセッティングなのに、まるで立体感が出ていないのでがっかりしました。あーこりゃカメラマンぜんぜん3Dのこと知らないよ…と思いながらがまんして見ていると、中盤からの野球場での場面になると一転して素晴らしい3D大空間が描かれます。いったいどういうことなんでしょうねー(笑)。

ボーナス映像のメイキングで撮影の模様を見ることができます。実際の野球場で撮影されており、ここでスカイウォーカーシステムという無人カメラが使われているんですね。かなりの距離を渡したケーブルにカメラを吊るして、滑らかな移動撮影ができるというものです。
それも単に一直線だけでなく複雑なカーブ軌道で動かすことが可能で、試合中のシーンでけっこう迫力のあるアングルからスピード感のある映像が撮影されています。これに重量のある3Dカメラを載せる工夫をしたとのことで、その成果が出ています。

考えてみたらスポーツもので本物の3D映画はほとんど無いというか、私は初めて見たといっていいですね。「トロン」の競技シーンは完全にCGなわけで。
その意味では貴重な映画です。ただし面白くないですけどね(笑)。





220123

Make Your Move 2013

韓米合作のダンスもので、これはわが国では劇場未公開のうえビデオディスクなども発売されていません。名前だけはなんとなく聞いたことのあるBoAというのがヒロインです。それだけでも多少は売りものになるだろうから日本版のビデオくらい出ていてもよさそうなのがそうなっていないのは、見始めたら理由が少しわかりました。
まず、ダンスの種類がタップなんですね。やはりわが国では受け入れる土壌がありませんから、「コットンクラブ」のような話題作でもない限り売り上げは難しいでしょう。そのうえBoAは日本人の和太鼓奏者役で違和感が大きいです。当然ながら太鼓の演奏はひどいものだし、タップダンスと和太鼓を融合させたパフォーマンスは奇妙奇天烈です。

全体にダンス自体はそれほど劣悪ではなく、主演のあんちゃんは少しは踊れる人のようでBoAもがんばってますという感じです。しかし先週先々週と見たダンス映画に比べるとレベルの差は歴然としており、演出の稚拙さも併せて低予算映画の限界が出てしまっています。
日本語版が無いのでストーリーはなんとなくつかんだ程度です。気のきいたせりふくらいはあったかもしれませんが内容はありふれた青春ラヴストーリーであって、しゃんしゃんと迎えるハッピーエンドには、まあこんなもんだろとしか言いようがありません。

ニューヨークの、ライバル関係にある二つのダンスショウクラブが主な舞台です。それぞれを経営する黒人と日本人は実はかつて義兄弟のような仲だったのが、なんらかのいさかいがあって袂を分かったようです。主人公の若い二人は、この黒人オーナーと里親を同じくする弟と日本人オーナーの妹で、「ロミオとジュリエット」を下敷きにしてあるわけですね。二人は両者の抗争を通じて知り合い、タップダンスで交わり互いに認め合うことに…というわりと安直なラヴロマンスです。
これが人気クラブだという様子がまるで演出できておらず、とても最先端のクラブカルチュアには見えない安っぽさはB級アクションものならまだ笑って許せるところ、B級ラヴロマンスだと陳腐そのものです。おそらくセット撮影が主でニューヨークの街の雰囲気もぜんぜん出せてません。

しかも3Dがまた致命的にまずいです。先週見た「バトル・オブ・ザ・イヤー」も3Dはダメでしたけど、今度のはそれに輪をかけてダメダメです。カメラマンは3Dの理屈をほとんど理解できてません。変換ではなくステレオカメラを使って撮影してあるのに、ここまで映像に奥行きが出ないというのも珍しいくらいで論評に値しません。

ドイツ盤のブルーレイ3Dを買ったらタイトルが違ってました。ドイツでは「Born to Dance」という題で公開されたようです。





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Battle of the Year 2013
「バトル・オブ・ザ・イヤー~ダンス世界決戦」

これもダンス映画です。3Dのダンスものはけっこういろいろ出ているとはいえ、だいたい興味なかったんで(『フラッシュダンス』や『フットルース』も見てない)、教則ビデオぽいドキュメンタリーかなにかだろうと思いよく調べてませんでした。ところが先週見た「ステップ・アップ」シリーズを始め、その多くが青春ドラマ的な味付けの劇映画になっているということがわかりました。
「ステップ・アップ」は、労働者層の若者たちがフラッシュモブのダンスパフォーマンスを通じてコミュニティの連帯を訴えるというような話だったのが、この「バトル・オブ・ザ・イヤー」はほぼスポ根ものといっていい内容です。

同名のダンス選手権は実在しており、毎年ドイツで開かれ盛り上がっているんだとか。ダンスのタイプはブレイクダンスに特化したもののようです。ブレイクダンスについての知識は無いんですが、ヒップホップ文化の中から出てきたダンスの一種のはずです。背中や頭を付けて逆立ちでくるくる回ったりするアクロバティックな技を競うものですね。
それがなんでアメリカではなくドイツで開催されているのか、ちょっと奇妙な感じがします。映画を見ても、全世界から代表チームが集まっていて、わが国も強豪とされているらしく韓国などは常勝チームのひとつだそうです。へーえというところです。

これは門外漢である私の推測ですけど、本場アメリカではすでにブレイクダンスは流行遅れになってしまって、黒人たちはそんなものには目もくれないというようなことなんじゃないでしょうか。
ヒップホップなどのサブカルチャーは移り変わりが激しく常に新しいものに交代していきますから、ダンスの内容もどんどん細分化していっているはずです。しかしヨーロッパやアジアに伝わったブレイクダンスは人気が出てスタイルとして定着していったということなんですかね。アメリカの黒人オリジネイターからすれば、まだこんなことやってんのかヨという感じかもしれません。

この映画では、大会で十五年の長きにわたってアメリカが優勝から遠ざかっているのはけしからんということが出発点になっています。ところがじゃあどうするかというと、これが本物のブレイクダンスだというのを見せてやろうではなく、各地から最高のメンバーを集めてドリームチームを結成し起死回生を狙うのだという必勝プロジェクトがスタートするわけですね。発想自体が体育会系です(笑)。

かつてBボーイのトップだった人物は今では中堅エンターテインメント企業の社長です。自社お抱えのダンスチームはどうも今ひとつで大会での成績もぱっとしません。そこで今年こそアメリカが優勝すべきと発奮、昔なじみを指導者として招聘し新チームで一旗揚げようとします。
この新コーチが白人の元Bボーイで、バスケットボールチームの育成でも実績のあるところを認められての登用です。
オーディションで全米から選りすぐられた精鋭による即席チームを残りわずか三カ月で世界大会優勝まで持って行けるか…というサクセスストーリーです。

そのトレーニング風景は完全にスポーツもので、軍隊式の厳しい訓練が始まります。劇中「ダンスは芸術なのに、これじゃまるでスポーツだ」とぼやく者もあります。コーチはこれに対し「マイケル・ジョーダンのプレイは芸術そのものだ」というわかったようなわからないような説明で(笑)、チームもそれで納得してしまいます。
これはブレイクダンスをアートか競技かどちらととらえるかによって話は違ってくるわけで、ともかくこの映画では勝つことだけに全力を集中していきます。
ドイツ大会では司会者が「勝ち負けにこだわらずダンスを楽しもう」とアナウンスします。これが本来の趣旨であることは明白ながら、やはり人は手段を選ばず頂点を目指すようになっていくわけですね。商業主義に堕したオリンピックを鏡に見るようです。

映画ではダンスのシーンがふんだんに盛り込まれ、多様な上級テクニックが演じられます。ただこれが、見ていてもあまり面白くないんですね。好きな人が見ればおおスゲぇとなるに違いありませんけど、私などはまるで楽しめません。単なるアクロバット大会にしか見えないんですよ。
それはサーフィンやスケートボードなんかも同様で、これこれこういう高等テクニックだなどと説明されても、興味無いとほんとぜんぜん面白くありません。

そのぶんドラマがよく出来ていればまだ良かったところが、こちらも通り一遍のストーリー展開と演出で退屈です。途中野郎ばかりじゃあまりにもむさ苦しいからか紅一点が振付師として登場します。しかしここもぜんぜん生かせてなくて、いてもいなくても一緒でした。
ラストの決勝、韓国チームとの大バトルの結果は果たして一票差による銅メダルとなるところがかろうじて紋切型を脱するところで、これが見事優勝などとなっていたら鼻白むところでした。

そのうえ3Dもまるでだめなんですよ。変換のショットもあるものの基本的にステレオカメラで撮影されてはいます。しかし普通の2D映画と同じ撮りかたをしていて、多くのショットで背景をぼかしてありますから立体空間ができていません。
ステージ上でチームでシンクロナイズするところなどは奥行きがあって悪くありません。でも肝心のドラマ部分での立体感がぜんぜん演出できてませんから、3D映画としては無価値といっていいでしょう。
さてこれで3Dダンス映画は一勝一敗です。後のやつはどうでしょうかねーあまり気は進みませんが(笑)。





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Step Up Revolution 2012
「ステップ・アップ4~レヴォリューション」

ダンス映画です。それもアメリカ下層のストリートダンスでジャネット・ジャクソンみたいな、隊列を組んで変てこな振り付けを軍隊みたいにびしっと決めるというような感じですから、見る前から気は進みませんでした。しかしこれがちゃんとステレオカメラで撮影された3D映画だもんで、ひょっとしたら3Dだけでも良く撮れているかもしれないと見るだけ見てみました。
そうしたら、意外と映画としてもけっこう面白く作られていたんですね。主人公はマイアミの下町に暮らす移民系の若者でストリートダンスチームのリーダー。こいつと偶然知り合い互いにダンスの力量を認め合うヒロインは皮肉にも、この界隈を潰して再開発しようと目論むホテル企業の社長(ピーター・ギャラガー!)の娘というおとぎ話です。

開巻いきなり、目抜き通りを占拠する改造車とチンピラたちがぞろぞろ出てきて、こりゃ間違えて「ワイルド・スピード」のディスクをかけたかと思ったくらいです。それがまたヒップホップに乗せてブレイクダンスやらなんやらよくわかりませんけど下品極まりない腰の動きで踊り始めるもんだから、最初からいやーな予感がしてきました。
それが公道上で予告なしに突然パフォーマンスを行う、いわゆるフラッシュモブのスタイルなわけですね。これをビデオに撮ってユーチューブに流したのがたちまち大反響となり、どんなもんだとメンバーたちが喜び合うのが導入部です。

なにかコンテスト形式になっているらしく、何百万回か再生されたら巨額の賞金が出るという設定には、わりとリアルな浅ましさがあります。まあそれでも、次々と企画される新たなダンスゲリラは大いに話題となり、「ザ・モブ」と名乗る謎のグループはいったい何者…と世間からは好意的に受け止められます。
実際、第二第三のパフォーマンスはそれぞれスタイルを違えてあり、美術展会場を乗っ取って行ったものはコンテンポラリーバレエになっていてなかなか見ごたえがあります。さらにメンバーたちは新たに抗議の意味も持たせようと、再開発会議があっているオフィスビルのロビーで決行したプロテストの演舞も見事です。

出演しているダンサーたちはやはり本物を集めてあるようで、どれも動きに切れがあってすごいんですね。このへんは低予算とはいえアメリカ映画だけのことはあって、人材の層の厚さを感じさせます。
メイキングを見たら、主演のあんちゃんはモデル出身でダンスは素人、でもヒロインはダンサーだそうで、劇中フィーチュアされるのがヒロインのダンス中心なのもなるほどという感じです。
やはりダンスの文化のある国柄ですから、単なる若いモンのお遊び悪ふざけと片づけようとするのではなく、それが優れた芸であれば許容するという度量のある社会のありかたが感じられます。もちろんそれは映画の絵空事に過ぎないとはいえ、見ていてそう思える雰囲気があるんですね。

この集団がバンクシーのように謎のままで人々の前から忽然と消えてしまうという結末ならクールだったんですが、ラストは結局スポンサー企業が現れてウチと契約しないかというオファーに、やったぜベイビーと軽く乗ってしまうところがなんとも現実的です(笑)。まあそうでもしないと話がまとまらない流れではあったんですけどね。
これが四作目というからヒットシリーズのようです。でもわが国では二作目以降は劇場公開されておらずビデオ発売のみです。

さてそれで3Dの出来はというとこれまたかなり上等だったんでちょっと驚きました。日本語字幕の無い北米版のブルーレイ3Dを見る前にレンタルのブルーレイディスクでせりふを確認した際、いかにも3Dバえしそうな構図のシークエンスが多かったんですね。これはカメラマンが3Dを知っているということを示していて、きちんとステレオ撮影されていれば立体効果がよく出ているはず…とちょっと期待しました。
そしたら3D版は予想以上の立体効果で、「おおーいいね」と思わず声を上げたシーンがいくつもありました。近距離のシチュエイションから遠景まで綿密に撮ってあります。また群舞シーンで地上近くの低い位置にカメラを置き、パースペクティヴを強調したハイパーステレオで先頭のダンサーをとらえるなど多彩な撮影手法です。

夜の下町の、グループが拠点とするキューバンクラブでの場面などは、奥の奥・さらに向こうの資材置き場までパンフォーカスになっていてすごい3Dですから、カメラだけでなく照明も優れているんですね。
カメラマンやステレオグラファーの経歴をIMDbで調べたら、どちらも一般映画よりも音楽ビデオで活躍している職人でした。長編ドラマに比べてフリースタイルを重視する音楽もので培った柔軟さが功を奏したということかもしれません。
本作は3D映画としては掘り出しものといっていいと思います。






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