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2017年に聞いた/買ったレコード・CD






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【先月買ったレコード・CD】

■Elvis Costello My Flame Burns Blue 2006

コステロのアルバムは1994年の「Brutal Youth」がCDしか発売されず、ああやっぱりそういう時代になっていくんだなと当時はがっかりしたものです。しかしその後何枚かの企画ものぽいアルバムをおいて96年の名作「All This Useless Beauty」でまたLPがプレスされ、その後もだいたいにおいてLPも同時発売されるという状況が続いてきました。

結局LPが出なかった主なアルバムは「Brutal Youth」と「Kojak Variety」(1995)、「Painted from Memory」(1998)、それと「My Flame Burns Blue」です。「主なアルバム」という曖昧な形容になるのは、この時期クラシックやジャズのミュージシャンとのコラボレイション企画もいろいろやっているためオリジナルアルバムとの線引きが難しいからなんですけどね、まあ上記のタイトルで妥当でしょう。

それが最近のアナログ盤人気で数年前から初LP化されてきて、現在ではいずれも発売済みです。ただちょっと値段が高いので、安いのが出たときだけ買うようにしています。
「My Flame Burns Blue」はグラモフォンから出したクラシックオーケストラとの共演ライヴですね。ブルーヴァイナルの二枚組ですがサイドCまでのスリーサイデッドです。やっぱりLPはいいなあ。

■Nick Lowe Untouched Takeaway 2004

ニック・ロウのライヴ盤が出ているというのを知ったのはつい最近のことでした。なんでも当時アメリカのオフィシャルサイトのみの通販でしか買うことができなかったものらしく、すぐに完売してレア盤になってしまったんだとか。
こりゃ入手はなかなか難しかろうと思いつつオークションで気長に探すかと思っていたところが去年末になんと日本のみで再発売されることになり、こりゃラッキーと喜びました。

それでこれが五百枚限定プレスということなんですね。たったそれだけですぐに売り切れるのかちょうどそのくらいで希望者に行き渡るのか、いったい五百という数字がどういう見込みなのか見当がつきません。
今度はすぐに動いて買いそびれの無いようにしようとリリース情報を見てみると、3240円というちょっと高めの価格です。この値段なら五百枚ははけるはずというような読みなんでしょうかね。

ところがアマゾンで見てみたら、マーケットプレイスに2004年のオリジナルというのが中古で出ていて、これが送料込みで4500円くらいなんですね。千円ちょっと高いだけか…と思うと、これはオリジナル盤を持っていたほうが後悔しないで済みそうだと素早くカート投入。
届いてみたら2004年盤はカードボードのミニLP仕様でシングルカヴァー、インサート無しという簡素な造りが私好みです。やはりオリジナルを入手できて満足しておるところです(笑)。

■Let's Spend the Night Together 1983
■Rolling Stones Ladies & Gentlemen 2017

ローリング・ストーンズのライヴ映像では最も好きなのが「Let's Spend the Night Together」です。劇場用映画でちゃんと撮影してあるし、長いツアーの中から選りすぐりの演奏をセレクトしてあって最高のフィルムです。若かりし頃の私がリアルタイムで接したというところも大きいと思います。
当然映像ソフトも追いかけてきました。VHSからDVDときて、やはり今度はブルーレイディスクの鮮烈な映像で再体験したいですね。

「Ladies & Gentlemen」のほうは古いライヴで1972年のアメリカンツアーです。音楽的に最も充実していたころですが、その記録映画として制作されたこちらはなぜかお蔵入りとなってしまいました。理由はよくわかりません。それが2010年になってビデオソフトとしてようやく発売されました。
実は最近になってようやくブルーレイディスクを買って、まだ見てないんですよ。「Exile on Main St.」のデラックスエディションを聞いてから見ようと思いながら沙汰止みになってます(笑)。

それで今回買ったのはCDですね。オーディオ版はビデオと同時には出てなくて去年発売されました。曲目は同じだけ記載されていますが、映画が110分でCDは一枚ものですから、演奏部分だけ取り出して編集してあるんでしょう。
まずCDで繰り返し聞いてから最後にビデオを見るといういつものパターンでいきましょうかね。

■Bonzo Dog Doo-Dah Band I Should Koko! 2016

再結成ボンゾー・ドッグ・バンドはライヴ盤まで出してしまいました。五十周年記念ライヴインロンドンという副題も付いてます。
スタジオ盤の「Pour L'amour Des Chiens」(2007)のボーナスディスクにそのころのライヴ映像も少し入ってました。やはり芝居がかった、というかほとんどコメディショウ的な公演で、今回のライヴもそんな感じなんでしょう。

■Frank Zappa Little Dots 2016
■Frank Zappa Chicago '78 2016

ザパの死後リリースものもなんだかどんどん出てきます。前のようにアメリカのオフィシャルサイトから通販で入手するしかなかったころと違って、アマゾンでも買えるようになったので楽です。値段が安いのが出るのを待ってちょこちょこ買っています。
これは#108と#109ですね。内容は片方はライヴですけど「Little Dots」のほうはよくわかりません。まあ聞くのはたぶん五年以上先のことになるので(笑)、そのときよく見てみます。

■Todd Rundgren An Evening with Todd Rundgren 2016

トッド・ラングレンもまた、未発表音源が次から次と出てきます。しかも複数のレーベルから散発的にリリースされるので、オフィシャルなのかどうか判然としませんけどまあいいやと。
これは2015年のライヴで2016年発売ですから、公式ライヴアルバムといっていいものですね。主体はビデオのほうで、DVDにCDがボーナスディスクとしてセットになっているというパターンです。

DVDが二十六曲、CDがそれから十八曲抜粋してあります。2010年の「Johnson Live」のときと同じメンバーでホールも同じ場所ですから、気に入っているところなのかもしれません。コネティカット州のリッジフィールド・プレイハウスといって、「Johnson Live」のDVDを見るとなかなかいい感じの劇場です。

■Elvis Presley Girl Happy 1965

サントラ盤の探索が続いています。以前入手した当時の日本盤は日本独自のジャケットに替えてあって失敗しました。そしたらオークションにわりと新しいプレスのUS盤が出ていて、送料込みで千円以下で買うことができました。
ジャケットやレーベルの「Victor」のロゴ部分に黒いシールが貼りつけて隠してありましたので、ジャケットからは剥がしました。レーベルは黒レーベルに黒いシールをきれいに貼りつけてあって目立たないのでそのままにしときます(笑)。Victorロゴとニッパーを消してあります。

このVictorロゴを消して輸入されたRCAのレコードは、三十年くらい前には大量にあったものです。ひどいのになるとカッターナイフで周りを切って紙の表面を剥がしてあるような乱暴な処理をしたものまでありましたし、黒マジックで塗りつぶしたのも当然ありました。
今回買ったもののようにシール貼りなら簡単に剥がせますからいいですね(ダイソーのシールはがしがお薦めです)。さすがに切り取りや黒塗りはあんまりだということになって、最後のほうではソフトな方法に替えたってことでしょうか。そうすると80年代に入ってからのものでしょうかね。

■The Day 2015
■仲井戸麗市 雨上がりの夜空に 2017

仲井戸麗市のウェブサイトを見たら、2015年にザ・デイなるグループで一枚ミニアルバムを出していることがわかりました。ドラムズをブランキー・ジェット・シティの人が叩いている以外は知らない若いメンバーで五人編成です。
かなりロック志向のサウンドだそうで、単発のセッションバンド的な形で四曲入りのミニアルバムというのはいい企画ですね。
厚手のボール紙でひと回り大きめに作ってある紙ジャケットです。

もう一枚のは7インチシングルです。知らぬ者とて無い名曲をチャボ・バンドで再演したものを配信シングルとして発売していますが、7インチはHMVの限定販売です。レーベルは「HMV Record Shop」になってます。
気がついたら売り切れていて、しかたなくメルカリに出ていたのを買いました。定価より千円くらい高かったけど、まあいいです。
いっぺん聞いてみました。なかなかいい感じのヴァージョンになってますね。ほとんどストレイトに原曲をカヴァーしてあり、共作者である仲井戸のヴォーカル版もいい味出してます。




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【今月聞いたレコード・CD】

■Van Morrison Keep Me Singing 2016

ニューアルバム「Roll with the Punches」が九月に出たので、去年の前作「Keep Me Singing」をもう聞かないとな…と思っていたら、今月また新作の「Versatile」がリリースされました。すごいですねー。後者はジャズのスタンダード集になっているようで、完全オリジナルというわけではないにせよまったく精力的です。
「Keep Me Singing」にしてもその前の「Duets」が2015年作ですから、年に一枚以上出していることになります。プリンスじゃないんですから(笑)。早く聞いていかないと後がどんどんつかえてきそうです。

実は最近のモリソンのアルバムは今ひとつ乗り切れなかったところがあったんですね。ブルーノートから二枚出したジャズぽいものなどは私のタイプではなく、今後このスタイルになってしまったとしたら嫌だなと思ってました。
でも実際はRCA・ユニヴァーサルといった大手やその傘下レーベルでの単発リリースが多く、ひとつのところと長期契約せずにいろいろやりたいことをやっているような感じです。

それぞれのアルバムの印象があまり強くないというのも、やはりこの人多作なんですね。毎年ってわけではないですが三年に二枚くらいのペースでしょうか。いくつものレーベルから出しているのでそれができるんでしょうけど、たいへんなものです。
そのかわり、次から次に聞いていくとそれぞれのアルバムがどうだったか記憶があいまいになってくるところがちょっと困ったところです。つまりガツンとくるような強力なアルバムが節目節目にあるわけではないということで、多作のアーティストの場合聞くほうとしてはこれはしかたありません。

それで今回の「Keep Me Singing」、これはかなり気に入りました。なんというか期待したとおりのモリソンとでもいいましょうか、こんなモリソンが聞きたかったのよと言いたくなってくるようなサウンドなんですね。
まあガツンとくるものがあるというわけではありません。言ってることがつじつま合ってませんけど(笑)、地味ながらこれまでのモリソンのいいところがいくつもあって聞きごたえがあります。
曲がいいんでしょうね。これはというような目立つ曲があるわけではなし、しかし心地よいサウンドにモリソンの衰えを知らない歌声が乗り、単純にああいいなあと思わせてくれます。こういうアルバム、いいですね。

■Prince HitnRun Phase One 2015

プリンスのラスト作である同年の「Phase Two」と対になっているものです。二枚組でなく三カ月くらいの間をおいて続けて発売されました。この前のアルバムというと2014年に「Plectrumelectrum」と「Art Official Age」を二枚同時に発売しています。やはり二枚組でなくばらにしたのはサウンドがそれぞれ違うアルバムだったからですが、これから推すとフェイズワンとフェイズツーは趣向が違ってるんでしょうか。三カ月後にフェイズツーを聞いてみます(笑)。

それでこのフェイズワン、とてもポップで聞いて楽しいアルバムになっており、最近のプリンスのアルバムでは一番気に入りました。ただなにが気に入ったかといってもどこがどうと指摘するのが難しいんですね。ヴァン・モリソンの「Keep Me Singing」といっしょで、聞いていてただ心地よく「いいね!」て感じなんですよね(笑)。全体のバランスがうまくできてるってことでしょうかねー結局。

基本的にファンクで、これにロックンロールありディスコあり美しいバラードありで。ヴァラエティに富んでいながらあまりそれを感じさせないという上手い聞かせかたです。全体には明るくアッパーな雰囲気を演出してあります。
女性シンガーを複数フィーチュアしてあるところはいつもの手法ですね。クレジットを見るとジョシュア・ウェルトンという人物と共同プロデュースになっていて、ギターとベース以外の演奏はこのウェルトン氏がやっているように書かれてますけどほんとでしょうかね。プリンスの変名で二重人格的なパフォーマンスかと思ってネットをちょっと調べてみたらこのウェルトン氏はどうも実在の人物のようです(笑)。

■Paul Simon So Beautiful or So What 2011

2006年の意欲作「Surprise」の次のアルバムがこれで、五年ぶりに出したものです。サイモンはずっとコンスタントにアルバムを出していたような印象がありますが、改めてディスコグラフィを見てみると五年くらいのインターヴァルはわりと何度もあるようですね。
ソロの代表作「Graceland」(1986)に見られるように、アフリカ音楽をうまく取り入れたサウンドがこの人の代名詞のようになっています。「Surprise」はなんとイーノにサウンドデザインを託しタイトルどおり意外な音響で意表をついてきましたけど、さすがにこの路線で行くわけもなくまた軌道修正されました。

ところが今回聞いた2011年作はアフリカのテイストだけでなく、ワールドミュージック的な幅広いジャンルからいろいろなエッセンスを吸収しています。そういうところは近年のライ・クーダーの音楽を彷彿とさせます。
このアルバムを出した直後のコンサートを収録したビデオとCDのセットを先に聞いてしまったので、その雰囲気はあらかじめ知っていました。スタジオ盤を聞いてみると、クーダーの活動ぶりに大いに触発されている部分が見てとれます。

どこの国のどの音楽とは特定できないような、さまざまな要素が聞こえてくるところが面白いですね。しかし曲自体は昔ながらのサイモンのメロディであり、歌声も変わらぬメロウさです。
これを雑多な珍しい楽器でアレンジして聞かせ、インドのリズムのスキャットなど印象的なフレーズをちりばめてあります。映画のせりふのような声をサンプリングしてサウンドコラージュするといった手法もクーダーに倣ったものでしょう。
いい出来ばえのアルバムで、さすがはサイモンと感心しました。このとき七十歳、衰えを知らぬ創作ぶりです。次回作「Stranger to Stranger」(2016)もすでに入手しているので楽しみです。

■Joni Mitchell James Taylor Phil Ochs Amchitka 2009

1970年に開催されたグリーンピースのためのチャリティコンサートの模様です。見慣れないタイトルの単語「アムチトカ」はアラスカ州の島の名称で、ここで核実験が行われたことに対するグリーンピースの抗議活動を支援する目的です。
ジョイントコンサートがどれだけの出演者で行なわれたのかはわかりませんが、フィル・オクスとジェイムズ・テイラーそれにジョニ・ミッチェルの演奏が二枚組CDに収められています。
おそらく当時ライヴ盤として発売する予定の無かったものだろうと思います。テープの保存状態があまり良くなくて、テープにしわが寄って音が歪んでいる箇所がいくつかあるし、演奏の途中でフェイドアウトするところはたぶんテープ切れですね。録音自体はちゃんとしていて音質はいいです。

なんといっても聞きどころはジョニ・ミッチェルということになります。CD1にオクスとテイラーの独演が七八曲ずつ、そしてCD2が一枚全部使ってミッチェルをフィーチュアしてあります。最後の二曲ではギターでサポートしていたテイラーとデュエットします。
ミッチェルのライヴレコードは1974年に「Miles of Aisles」、80年に「Shadows and Light」として公式に出てますけど、いずれもジャズにシフトした時期のバンド編成のサウンドです。初期のアコースティックギターの弾き語りスタイルでのライヴは非常に珍しいというか、初めて聞きました。
達者なギター演奏と可憐な歌声で初期のヒット曲をたくさん歌います。興味深いのが「Big Yellow Taxi」の途中で突然「ボニー・モロニー」を歌いだすんですね。これがなかなかいいです。間奏で観客にUCLAの社交ダンスサークルで好きだった曲ですみたいな説明をします。

ミッチェルは終始ごきげんで、楽しげに客席に語りかけながら演奏しています。反対運動を掲げて怒りをぶつけてくるようなところはぜんぜんありません。それはテイラーもオクスも同様です。
フィル・オクスは名前とフォークシンガーだということしか知識としてなくて、歌は初めて聞きました。ほんとに “フォークシンガー” なんですね。私はアメリカのフォーク・リヴァイヴァルの流れについて詳しく知らないんですが、1970年でこの歌いかたということは、オクスはウディ・ガスリーらのスタイルをずっと守り続けていたアーティストなんだろうと思います。いい声をした昔ながらの歌手ですね。

いっぽうテイラーのほうは、最近聞いたキャロール・キングのカーネギーホールでのゲスト出演とほぼ同時期ですから偶然です。こちらはオクスと違ってまったく新しいスタイルの “シンガー・ソングライター” の歌いかたですから、その対比が面白いですね。私はテイラーはほとんど聞いてこなかったので、ちょっと聞いてみたくなってきているところです。アップル盤から聞いてみますかね。


■Jimi Hendrix People, Hell and Angels 2013

エクスペリエンス・ヘンドリクスから発売されたレガシーシリーズの一枚で、すべて未発表のスタジオ録音から成ります。どういう趣旨で編まれたコンピレイションなのかははっきりしないんですが、ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンスから離れてさまざまなミュージシャンと自由なセッションをしていく過程で録音されたマテリアルということじゃないでしょうか。
私はヘンドリクスの死後にいろいろ発売されたLPはあまり熱心に聞いてきたわけではないんですけど、それらに入っていた聞き覚えのある曲名がちらほらと見られます。あの曲の別ヴァージョンが! といったようなマニアックな聞きかたには関心が無くて、普通にスタジオアルバムとして聞いてみました。エクスペリエンス・ヘンドリクスからリリースされるアルバムはきちんとした制作態度で音もいいですから安心感があるってものです。

バックはビリー・コックスとバディ・マイルズのバンド・オブ・ジプシーズのメンバーが多くの曲で演奏してます。ミッチ・ミッチェルも何曲か入っていますね。
やはりヘンドリクスの音楽性が広がりだけでなく深みを増していっている時期ですから、未発表テイクといっても完成度が高いですね。なによりヘンドリクスのギターがとにかくすごいんですよ。「Hear My Train a Comin'」などはほとんど「Voodoo Chile」のような鬼気迫るソロを聞くことができます。ラストの短いインストゥルメンタルはなにか聞いたことがあるなと思っていたら、ウッドストックでのラストで、アウトロ的に物悲しく演奏されたあの曲でした。

それでこのアルバム、非常に聞きごたえのある優れたコンピレイションだということは間違いないです。ただ、じゃこれをいいアルバムだとして人に勧めることができるかというとちょっと微妙なところですね。オリジナル盤は全部聞いたし有名なライヴもあらかた押さえた。さあ次に何聞こうかというような奇特な人がいれば自信をもって推薦できますけど、やっぱり未発表テイク集には違いないわけですからね。
エディー・クレイマー印のエクスペリエンス・ヘンドリクスの新譜として聞く、というのが一番正しい向き合いかたということになるでしょうか(笑)。

■Who Greatest Hits Live 2010

タイトルどおりの編集盤です。選曲はグループのキャリア全体からピックアップしてありますが、さすがにキース・ムーン以後のアルバムからは「Eminence Front」と「Endless Wire」(2006)に入っている「A Man in a Purple Dress」の二曲だけです。でもそれでいんじゃないでしょうか。
これに先立って同じタイプのライヴコンピレイションが出ています。2007年にオフィシャルサイトのメンバーに入会特典として配布された二枚組CD「View from a Backstage Pass」は素晴らしい内容でした。それと比較すると少々見劣りのするものになっているのが残念です。

両者の違いは、「Backstage Pass」が1976年までの音源に限って編集してあるのに対し「Greatest Hits Live」はCD1が76年までの録音ですけどCD2が89年と2000年代に入ってからの新しいものばかりで構成されている点です。つまり昔のヒット曲を最近の演奏で聞かせる、ということですね。
76年までというとキース・ムーン存命時の演奏であり、やはりここが大きなポイントになってきます。2000年代のは四トラックあり、最後の二曲を除けばジョン・エントウィッスルがベースを弾いています。

やはりどうしても、76年までのツアー音源と再編成後のものとでは雲泥の差なんですよね。CD2の途中までを76年以前のものにして、全体の四分の一か五分の一くらいが新しいツアーバンドのものというくらいの構成ならいいかもしれません。しかし二枚目が丸々ムーン以外のドラマーが叩いている演奏となるとちょっとがっかりです。ケニー・ジョーンズの演奏さえ含まれてません。
もっとも、フーは現在も精力的に世界ツアーを行っている現役バンドですから、そんな古いマテリアルばかり入れた後ろ向きな内容じゃ今のファンにはアピールできません。本人たちとしても不本意なところはあるでしょうけども、ビジネス面から考えた戦略商品としては妥当な内容といえるでしょうか。

実はCD1はその「Backstage Pass」を一枚にまとめた内容になってるんですね。特に有名な曲ばかりピックアップして、さらにBBCセッションズを一トラックとリーズからも「Magic Bus」をセレクトしてあります。テープの逆回転が聞こえてくるからすぐわかります。リーズからカットするのなら「Young Man」か「Shakin' All Over」または「Summertime Blues」となるはず…とも思いますが、あのライヴ盤はA面ばかり聞いていたという人が多いんじゃないでしょうかね(笑)。そこで七分以上に及ぶ「Magic Bus」にスポットを当ててみたということかもしれません。改めてこの長尺版を聞いてみるとなかなかエネルギッシュな演奏なのが再確認できました。LPサイズよりもこうしたライヴコンピレイションのほうがうまくハマった感じです。

■Wilko Johnson Red Hot Rocking Blues 2003

ウィルコ・ジョンソンは一時、癌で余命わずかとさえ言われていましたが闘病がうまくいってカムバック中です。最近作はロジャー・ダルトリーとの共演作が好評のようで、めでたいことです。今回聞いたのは2003年のもので、だいぶ長いこと棚にしまったままでした。
ドクター・フィールグッドを辞めてからはソリッド・センダーズを結成するなど精力的に活動しLPもわりと充実してました。しかしその後はだんだん規模が縮小していって、レコードもマイナーレーベルから単発でちょぼちょぼと出てくるような感じでした。ミニアルバムも多くて、とてもメインストリームを行っているという一流の雰囲気じゃなかったんですね。
とはいえやはりビッグネームには違いないしで自主制作というほどでもない。なんだかどんな活動ぶりなのかとらえどころの無いまま、来日公演はよくやってました。

そうやってリリースされるレコードはわりと即席で制作されたようなものが続いて、ちょっと面白くなくなってきたんですね。スタジオ録音作でも基本的にバンドの三人だけの演奏で、一発録りに近い感触です。ヴォーカルもギター弾きながら同時録音したんじゃないかと思えるほどです。
前作の「Going Back Home」(1998、ダルトリーとの共演盤と同名)もそんな感じのアルバムでした。いかにも低予算のプロダクションになっていて、B級で気ままなところは本人の人柄なのかもしれません。でもそれに続く「Red Hot Rocking Blues」がまたショボい体裁になってたんですよね(笑)。
なにしろ日本の独立レーベルから発売されているところも「?」と思えるし、ジャケットデザインもほとんどやる気なし。そんなふうだったんであまり聞く気がしないまま何年も経ってしまいました。いや十年以上か(笑)。

ようやく聞いてみたこのアルバム、しかしやはりほとんどデモテープのような粗い代物で、これじゃワールドワイドのリリースが無理なのは納得いきます。
日本盤なのでライナーノーツが付いてます。これを読むとなんとこのCD、デモテープみたいな演奏なんじゃなくてデモテープそのものだったんですね(笑)。なんでもヴァン・モリソンのツアーバンドとして雇ってもらえそうな話があり、そのためモリソンの曲を多く演奏しています。またディランのカヴァーも二曲あるなど、その場の思いつきで好きな曲をいろいろ録音したセッションだったようです。

タイトル曲(ロウエル・フルソン)や「Help Me」(サニー・ボーイ・ウィリアムソン)、「Casting My Spell」(ジョニー・オーティス)などのリズム&ブルーズは理屈抜きにかっこ良くてドクター・フィールグッドさながらなんですが、本来メインであったはずのモリソンのカヴァーがなぜかちっとも良くないんですよ。やはりスタイルの違いか、神経症的なジョンソンのヴォーカルが曲を台無しにしてしまってます。ツアーの話が実現しなかったのは当然でしょう(笑)。でもラストに配された九分近くに及ぶ「Listen to the Lion」は意外と聞かせます。

■瀬川洋 ピエロ 1972

ダイナマイツのシンガーのソロ作です。名盤として知られていて、再発盤LPが出ていたので手に入りました。
内容はカントリーロックだとなにかに書いてあったので、英米のロックの潮流にいち早く呼応してのことなんだろうと少し期待してました。しかし聞いてみるとカントリーロックというよりはやはりブリティッシュロックの系譜ですね。演奏は手堅くてなかなかいいです。

雰囲気としては、フリーが「スティッキー・フィンガーズ」をやったというような感じです。なにしろベースが山内テツです。たしかにカントリーブルーズのような趣もあるわけですけど、しかしなりきれてません(笑)。根底にあるのがブルーズのフィーリングではなくて、なにやら歌謡曲的フォーク的になっているところが日本独特と言えます。
ローリング・ストーンズばりのロックンロールでは、1972年の日本としては最先端のサウンドを展開しています。ギターが石間ヒデキです。

アルバムとしては出来は悪くないんですが、他のアルバムももっと聞いてみようという気にまではさせてくれませんでした。またジャケットのあまりに自虐的なセンスはどうかと思います(笑)。





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【先月買ったレコード・CD】

■Kinks Anthology 1964-1971 2014
■Ray Davies Americana 2017

CD五枚プラス7インチシングル一枚という体裁のベストものです。箱のサイズは7インチよりひと回り大きくて8インチくらいあります。
三年前に出たものですが、ただの編集ものだろうと思って特にチェックもしてなかったところが、先日吉見くん宅に行ったときに実物を見たら未発表曲が二十五曲とけっこう入っていることがわかりました。ボーナスディスクの7インチも未発表ライヴが二曲収録されてました。
キンクスのボックスセットでは2008年に出た「Picture Book」が六枚組で、ラスト作のライヴ「To the Bone」からもちゃんと収録してあるという、グループの全キャリアを総括する内容でした。これがもう決定版に違いなかろうということで、この後出てきた編集ものはあまり意識してなかったんですね。ちなみに「Picture Book」に入っている未発表曲・ヴァージョンは二十四曲です。

でこの「Anthology」の内容はというと、デビューの1964年から始まり1971年までの音源ですから中途半端ですけども。71年までというのはすなわちパイでのレコーディングに限定してあるわけですね。この年RCAに移籍してます。
なんでもリマスターの成果で音質が格段に良くなってるんだとか。たしかにキンクスの初期の録音は音が悪いんですよね。私が音が悪いというくらいだから、それは相当悪いということです(笑)。
しかしリマスターだリミックスだといろいろ加工してオーディオ的には向上したとしても、曲の本質は変わるわけじゃないですからねー私は以前の音源でもいっこうにかまいません。

あとCDではすでに入手していたレイ・ディヴィーズの最新ソロ作のLPも遅ればせながら買いました。二枚組です。

■Flamin' Groovies Fantastic Plastic 2017

これがフレイミン・グルーヴィーズのニューアルバムなんですねーすごいですね。1993年に出した「Rock Juice」以来の新作です。
「Rock Juice」が出ていたことは長いこと知らずにいてわりと最近イーベイで入手しました。アマゾンには出ていないくらいすでにレア盤になってしまってるってわけです。オリジナルのニューレコーディングだということで驚いてたんですが、その後また新作がこうして出るというのはまったくめでたいことです。

さらに今回はアナログレコード人気をうけてLPもプレスされました。おそらく本人たちが一番喜んだことと思います(笑)。なにしろCDしか出ていない「Rock Juice」の曲目表示がサイド1・サイド2に分けて書いてあったくらいですからねー(笑)。
それで私も当然ながらLPのほうを買いました。やはりというか、60年代風のヴィンテイジな感じにデザインしてあって凝ってます。カヴァー画はシリル・ジョーダンの手によるものです。この人さては美術学校出身ですね。

■Beatles Eight Days a Week 2017

ようやく価格が下がってきて四千円ちょっとのが出たので買うことにしました。ブルーレイディスクのスペシャルエディションという商品で二枚組です。これよりグレードの高いコレクターズエディションという三枚組もあり、それには本編ディスクとして「日本公開ヴァージョン」と「インターナショナルヴァージョン」の二枚が入っています。その違いは、来日のときの模様を採りあげた箇所が日本での劇場公開ヴァージョンのほうが二分長い(笑)そうで、なるほどという感じですかね。単に二分継ぎ足しただけなのか、国際ヴァージョンからなにがしかを削って日本でのエピソードを拡大したのかは不明です。

まあそんな程度の違いで三枚組を買うほどのことはありませんから、「日本公開ヴァージョン」と特典映像ディスクの二枚組で充分です。3パネルのディジパックにわりと厚いブックレットが付いてブック式の箱に収納されています。
音楽だけのフィルムなら輸入盤のほうが安いですけど、さすがにドキュメンタリーだと日本語字幕が付いてないと厳しいですよね。監督がロン・ハワードですから、映画としてもきっと面白くできているだろうと思います。

■吐痙唾舐汰伽藍沙箱 溶け出したガラス箱 1970

西岡たかしと木田高介、斉藤哲夫の三人が吐痙唾舐汰伽藍沙箱というユニットを組んで出した単発ものです。アルバムタイトルが「溶け出したガラス箱」で、どちらも同じ読みです。
五つの赤い風船ともまた違ったアシッドフォークになっており、非常に興味深いアルバムです。実質的には西岡のソロアルバムで、編曲が木田、斉藤はヴォーカルで参加しただけというところでしょう。他には加藤和彦や細野晴臣、竹田和夫も何曲かでサポートしています。

カルト作として知られており、オリジナルのLPはとても買えるような相場価格じゃありません。それでしかたなく再発CDを買って聞いてみたところえらく気に入ったので、なんとかLPも欲しいものだわいと思っていました。
そうしたら昨今のアナログ人気で今年になってLPで再発売されたんですねーこれはありがたい。ポニーキャニオンの「URCアナログ復刻シリーズ」というプロジェクトで、十二枚のアルバムがセレクトされ七月から来年五月にかけてリリースされます。はっぴいえんど・加川良・遠藤賢司・高田渡など人気アーティストの名盤ばかりですね。

それでまた復刻のしかたがマニアックなまでにオリジナル盤に忠実になっているところがいいんですね。このアルバムのオリジナル盤を手に取って見たことがありますけどそれと遜色のない仕上がりになっていて、こりゃすごいと感じ入りました。紙ジャケットCDの制作ノウハウが生かされているんだと思います。
厚手のアート紙を折って作ってあるダブルジャケットで、表面の控えめな光沢もオリジナルはこんな感じでした。懸念していた写真製版もいい色あいが出ていて安心しました。
このアルバムもかつてSMSが廉価盤で再発売しましたが、これはコストを抑えるためシングルジャケットになっていてがっかりなんですよね。それでも中古盤はなかなか出てこないほどで、見つかればこれでもいいやとまで思っていたところですから今回の復刻は素晴らしいの一言です。

■Elvis Presley It Happened at the World's Fair 1963

「ワールド・フェアの出来事」の邦題のサントラです。ペラジャケの日本盤をオークションで買いました。送料込みで千円ですから上等です。右下にパンチ穴が開いてますけど気にしないことにします。
表のジャケットアートはとてもいい色あいで、これは複写じゃなくてアメリカからネガを取り寄せたのかもしれません。しかしシングルジャケットで裏面が日本語ライナーと歌詞になっているところがちょっと残念です。
残るはあと七枚です(笑)。

■仲井戸麗市 早川岳晴 旅に出た二人 2016

チャボ・バンドや麗蘭のベース奏者と二人だけで演奏するライヴをときどきやっていたようで、その2016年のツアーの模様です。アコースティックギターとウッドベースらしいですから、きっといい感じなんじゃないですかね。





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【今月聞いたレコード・CD】

■Leon Russell Angel in Disguise 2006

リオン・ラッセルが自分のレーベルから出した自主制作アルバムの最後の一枚です。ラッセルは70年代まではメジャーレーベルから出してましたけど、ウィリー・ネルソンとの共演盤以降は日本盤も発売されなくなり、90年代の半ばからは通信販売のみという形でしか新作をリリースしなくなりました。
本人が望んでのことなのかそうでないのかはわかりませんが、この時代のものは十枚以上も出ています。いずれも基本的にラッセルひとりでディジタル楽器を操ってレコーディングされており、いささか粗製乱造的な印象はぬぐえません。
当然ながら中にはいい曲もあって、これがちゃんとしたプロダクションで録音されていたら聞きごたえもあったろうに、とも思えます。

ラッセルとしてはきっと、大手支配のミュージックビジネスに嫌気がさしていたんだろうと思います。それで完全に自分のコントロール下で制作し販売まで手がけてまっとうな利益を得たいということだったんじゃないでしょうか。これからの時代はそういうスタイルが主流になる…とまで見越していたかどうかはさておき、どちらにしてもあまり成功したとは言えません。
その後エルトン・ジョンが「最も不当に評価され忘れられているアーティスト」としてラッセルの名を挙げ、ジョイントアルバム「The Union」を制作するのが2010年。それからラッセルはメイジャー復帰を果たしますが、去年亡くなってしまいました。

この「Angel in Disguise」は「The Union」のひとつ前にあたるアルバムですね。自主製作盤もひとつずつ聞いてきましたけど、ちょっと前後してしまいました。
クレジッツは簡単なもので、演奏者についてはなにも書かれていません。バッキングヴォーカルとギターくらいは外部のミュージシャンだろうと思います。いかにもホームレコーディング的な軽い感触のサウンドになっていて、いわゆる打ち込みによるバックトラックにリード楽器とヴォーカルをダビングしたサウンドです。
やはりラッセルのヴォーカルも、かつてのような勢いはなくさらっと歌っている感じです。でもすべてラッセルによる書き下ろしですし、スワンプのかっこいい曲やいいバラードもあります。

昔からのラッセルファンとしては、やはり自主制作アルバムをたくさん出されるよりも、ちゃんとしたプロデューサーがあたり実力のある演奏者を使ってもっといいアルバムを作ってほしいとずっと思っていたものです。
そこでエルトン・ジョンの支援でカムバックしたことで期待はしていたんですが。結局このあとユニヴァーサルから「Life Journey」(2014)をトミー・リプーマのプロデュースで出し、ラストレコーディング集「On a Distant Shore」が遺作として今年発売されました。「Life Journey」は傑作らしいので、次に聞くのが楽しみです。

■Grimms Sleepers 1976

ニール・イネスはボンゾー・ドッグ・バンドの後でソロ活動をする間いくつかバンドを結成しています。ただグリムズはイネスのワンマンバンドというわけではなく、むしろマイク・マクギアのスキャッフォルドにイネスが合流したと言ったほうがいいかもしれません。けっこう馬が合ったのか、アルバムを三枚も出しています。
ファーストはライヴで、寸劇をステージで即興でやっているような、モンティ・パイソンのようなアルバムです。「Rocking Duck」(1973)はアヒルの被りもののジャケット(実際に被れる!)で有名ですね。

この前ボンゾーズの新作のほうを聞いてしまったんですが、考えてみたらイネスのソロ作をまだ何枚か聞いてなかったのでフライングでした。グリムズもファースト・セカンド共になかなか面白いアルバムだったものの、肝心のマクギアがなんと辞めてしまってこの三枚目には入っていません。そのため音楽的なイニシァティヴはイネスがとっていたと思われます。
実際、非常に洗練されたブリティッシュポップロックになっており、好アルバムだといえます。ただ全体に地味で、長く記憶に残るようなヒット性の曲が無いため印象が強くないところは惜しいですね。

曲調は軽快なポップスや美しいバラード、カントリーにトラッドフォーク、オールドロックンロールなどヴァラエティに富んでいます。わりと真面目にやっている感じですが、それでもやはり「House of the Rising Sun」などはカヴァーかと思いきや途中で一転ミンストレルショウみたいなノヴェルティになったり、フォーク調のアコースティックギター弾き語り曲では歌い手がだんだん失語症になってきて最後はへべれけで終わるというようなふざけた曲もいくつか入ってます。どうしても地が出てしまうんですね(笑)。
しかし1976年はパンクやディスコ全盛の世の中ですから、売れなかったでしょうねー。でもいいアルバムでした。

■Jim Capaldi Oh How We Danced 1972

さっそく聞いてみました。正直言うと、キャパルディてこんな声だったのねという感じが改めてしました。トラフィックでの、あーあの曲はキャパルディが歌ってたんだなという記憶は特によみがえってこないんですよねーなにかあるんじゃないかとは思いますが。
タイトル曲を除いた全曲が自作でどれもいい曲です。ただ四十分足らずのサイズで全八曲というのはちょっと物足りないところで、やはりトラフィックのほうにも曲を提供しなければならないため曲数が揃わなかったんでしょう。

バックはこの時期のトラフィック(リズムセクションとホーンズがマッスル・ショールバのミュージシャン)が全員ついていて、いわばキャパルディをリードシンガーとしたトラフィックのアルバムといっていいものです。デイヴ・メイソンも来てますし、ポール・コゾフもゲストでギターを弾いてます。
しかし聞いた感じでは、トラフィックというよりはマッスル・ショールズのハウスバンドとホーンズをバックに作ったソウルアルバムという趣です。キャパルディのヴォォーカルはウィンウッドとは違った、若干湿り気を帯びたような哀愁味のある声なんですね。なかなかいいですね。



■The Best of Rock and Roll Hall of Fame + Museum Live 2011

タイム・ライフ社から発売されたライヴコンピレイションCDで三枚組です。この前年には2009年に行われたロックンロール・ホール・オブ・フェイムの二十五周年記念コンサートのライヴ盤も出しています。
このベストものは “ロックの殿堂” の二十五年を総括する内容のはずですが、ブックレットにはそれぞれの収録曲がいつのコンサートからのものかというデータがぜんぜん書かれていないのでよくわかりません。二十五周年記念ライヴCDとは重複する音源は無さそうです。

やはり出演者が超豪華なのは当然ですね。いちいち挙げていったらきりがないくらいです。
チャック・ベリーが元気な声で歌う「Johnny B. Goode」に始まり、ジャフ・ベックとジミー・ペイジが共演する「The Train Kept A-Rollin」などこの手のお祭りイベントならではの企画も目白押しという状態です。ドアーズとクイーンもグループ名義で出演しています。それぞれエディー・ヴェダーとデイヴ・グロールが歌ってます。
私としてはキンクスとフー、クリームにトラフィック、さらにミック・ジャガーやポール・マッカートニーあたりが外せないアーティストですね。でも実際聞いてみるとこれらの演奏はわりと普通で(笑)、むしろ意外なところに聞きごたえがあったというのがこの手のオムニバスものを聞く楽しみです。

最も気に入ったもののひとつがロネッツ名義による「Be My Baby」です。実は私はロニー・スペクターのねっとりとからみついてくるような歌声はあまり好みじゃないんですね。しかしこのライヴではスペクターは元気いっばいでぜんぜん衰えの無い歌声なので驚きました。バックの演奏もスペクターサウンドにリスペクトフルだしで、素晴らしいパフォーマンスになっています。
やはりフィル・スペクター一派のライチャス・ブラザーズも出ています。二人とも健在だったんですね。曲はもちろん「You've Lost That Lovin' Feelin'」。私はライチャス・ブラザーズもまるで好みでないんですけども、すごいバリトンで歌い始めるとこれがなかなかいい感じです。

それから「While My Guitar Gently Weeps」です。オリジナルの演奏者はいませんが、これが素晴らしいんですよ。歌うのはトム・ペティとジェフ・リンです。どちらもジョージ・ハリソンに敬意を表してとても丁寧にカヴァーしています。
ギターがいいんですね。はじめ聞いたときはひょっとしてクラプトンかなとも思いましたけど、ユーチューブでビデオを見たら違う人でした。ジェフ・リンのバンドのギタープレイヤーのようです。ということは当然ビートルズフリークにしてクラフプトンフリークでもあるでしょうから、これがフレーズから音色から完全にビートルズ版をコピーしていて見事です。バックには息子のダーニもいます。
それだけじゃないんですよ。なんとプリンスもメンバーに加わっていて、後半のギターソロを受け持ちます。ここまでビートルズヴァージョンの完コピで盛り上がっていたところを、エンディングでものすごいギターソロを弾きまくってお株を奪ってしまいます(笑)。プリンスてギター上手いんですねー驚きました。

■美空ひばり 芸能生活25周年記念~美空ひばり14 1971

デビュー二十五年を記念して日本コロムビアが企画したビッグプロジェクトで、二枚組が十五セット発売されました。ベストものではなく、デビュー盤からの全オリジナル曲四百二十一曲を網羅してあります。民謡などの邦楽や英語曲などカヴァーものは除いてあるわけで、実質的にほとんどのシングルが両面とも収録されていることになります。
昭和二十四年から二十六年までを収めた第一集をオークションで入手して聞いてみたところそのすごさにびっくり仰天してしまい、これは全部聞いてみにゃいかんと第十五集までを買い集めました。

それが十年くらい前の話で、ひとつひとつじっくり聞いていたらだいぶかかってしまいました。しかしさすがに昭和四十年代のになると演歌調が増えてきて面白くなくなってきたので、ちょっと置いといたんですね。そういえばあとふたセット残ってたなと思い出し、久しぶりに聞いた次第。
そもそも美空ひばりを聞くきっかけとなったのが玉城くんから借りたCD「ヒット曲集」です。これはわりと普通のベストもので演歌調のヒット曲も多く含まれてますけど、「花笠道中」「車屋さん」など面白い曲もあってけっこう気に入ったんですね。

ディスコグラフィ本「地球音楽ライブラリー・美空ひばり」(Tokyo FM出版・1997)によるとこのシリーズ、記念事業として集大成アルバムを制作することになり、同時に過去のオリジナル音源をテープに移してマスターを作りアーカイヴ化することでその後の再使用に役立てようという一挙両得計画だったそうです。
ということは、デビュー曲「河童ブギウギ」(1949)からしばらくの間は、SPのスタンパーしか保存されていなかったということですね。元々はやはりテープ録音のはずですけど、それをマスターテープとして保存しておくという発想までは無かったはずです。当時は磁気テープも高価だったろうし、SP原盤さえ残しておけばレコードは作れるわけですからね。
記事には、ところがどっこい原盤を探し始めてみると行方不明のものが続出し日本コロムビアの原盤管理態勢のでたらめさが露呈…といった苦労話があって興味深いです。

さてそうやって発売された大全集ですが、昭和三十年代までのものはジャズを中心とした曲調が多く、そのほか民謡からラテンからあらゆるタイプの音楽を歌いまくっています。いわゆる演歌調の曲もこのころからちゃんありますけど、まだあまり大げさな歌じゃないんですね。
そのヴァラエティの幅たるやすさまじいものがあります。大衆の求めるものであればなんでも歌ったわけで、しかもそのどれもが上手いからやっぱりすごい歌手です。特にフルバンドをバックに歌うジャンプナンバーなどのリズム感は最高で、完全にノックアウトされました。

そういうわけなので、今回聞いた第十四集(昭和四十年~四十三年)ともなると演歌調の曲が多くを占めてきます。これらはやはり私には興の湧くところがなにもなく、特に古賀政男の曲はいやな感じです。大正琴がかき鳴らされる曲などはもういい加減にしてくれと言いたくなってくるほどです。有名な「悲しい酒」が入ってますけど、こんなしょうもない歌を美空ひばりに歌わせるなとこっちが悲しくなってきます(笑)。
もっとも演歌といってもさすがにこの大スターに色ものを歌わせるわけにはいかなかったようで、多くは義や道を説くような任侠ものです。東映の主題歌になっているものもいくつもあります。

いっぽうこれらの合間にはさまれる歌謡曲にはきらりと光るいいものがあります。神津善行と中村メイコ共作の「夾竹桃の咲く頃」は正統派のポピュラーソングで、いいですね。原信夫(シャープス・アンド・フラッツ)の書いた「むらさきの夜明け」はドラマチックで情熱的なヴォーカルとGSふうのバックもこの時代の感じがよく出ています。
GSといえば「真赤な太陽」も入ってます。ブルー・コメッツと共演したことで知られる曲ですが、てっきり井上忠夫が書いたものと思ったらこれも原信夫でした。当然完璧に歌いこなしています。おそらくこの昭和三十年代後半から四十年代初めまころでがシンガーとしての力量がピークに達していた時期なんじゃないでしょうか。

■頭脳警察3 1972

最近セカンドを二十年ぶりくらいで聞き返してみたら、初め聞いた時と違ってわりと気に入りました。当初は、パンタのヴォーカルがあまりにひどいので聞くに堪えないバンドだと思い一枚きりでやめてました。
で、そのセカンドは改めて聞いてもやっぱりヴォーカルは下手なままなのはしかたないとして、音楽自体はパンキッシュなフォークで、思っていたよりも良かったんですね。
そこで他のものも聞いてみるかと三枚目四枚目を買ってみました。ファーストは吉見くんによると音楽レコードとは言えないような内容だそうなのでやめときました。

それで今回サードです。まあーやはり傑作として人気の高いセカンドよりはグレードの落ちるところはありますね。一曲目の「ふざけるんじゃねえよ」はバンドを代表する有名な曲で、もしこれが入ってなかったらだいぶ地味な印象になってしまったんじゃないでしょうか。
それよりもやはり、パンタのヴォーカルがまったくのど素人のままで、聞くには少々つらいものがあります。バッキングは良くて、演奏・録音ともに迫力のあるサウンドになっています。ところがヴォーカルパートだけは、生々しさを強調しようとしたのか下手なのを下手なままにストレートに録ってあるんですね。それがプロデューサーの狙いなのかどうかは別として、やっぱり聞き苦しいことに変わりはありません。だいたいロック向きの声じゃないんですよ。

「ふざけるんじゃねえよ」をはじめとして、怒れる若者の勇ましい啖呵が歌詞や激しい演奏に込められています。でもどちらかというと、「時々吠えることがある」のようなのに静かな狂気が感じられていいですね。
おそらくマザーズの「Brown Shoes Don't Make It」みたいなのをやりたかったんだろうなと思わせるような複雑なコード進行の曲があるんですが、やはりぜんぜんさまになってなくてお遊びの域を脱していません。最後はTレックスふうの曲で終わります。






171105

【先月買ったレコード・CD】

■The Flaming Lips with Yoko Ono Plastic Ono Band 2011

このレコードのことは知りませんでした。2011年に出てたんですね。キメラミュージックから出ていればカタログを見て気づいたはずですがそうではなく、フレイミング・リップス側のレーベルから出ていたからです。
フレイミング・リップスというグループがどんなのかはまったく知りません。偶然ネットで見かけて30cmEP限定盤のみで発売されていたことを知り、これはちょっと入手困難かなと探してみたところ、イーベイにあるにはありました。ただ、一番安いものでもけっこうな値段していて、まあしょうがないとばかりえいやっとクリックしました。送料がえらく高くついたんですけど、届いてみたらフェデックスでした。普通のでいいんですけどねー(笑)。

レコードストアデイの商品だったのかもしれません。ターコイズグリーンのマーブルになっているカラーレコードでレーベルは貼ってありません。ジャケットの背中にタイトルが入っている以外は文字は書かれてなくて、透明の外袋に貼りつけてあるスティッカーにクレジットが載っています。なかなか美しいジャケットデザインです。
フレイミング・リップスは同じデザインのシリーズでいろいろなアーティストとの共演盤を出しているようで、このレコードもその一環ですね。
A面三曲B面一曲という構成のミニアルバムです。四曲とも作曲者がフレイミング・リップス/ヨーコ・オノ/ショーン・レノン名義になっています。

■Sparks Hippopotamus 2017

ライヴの会場でLPを買いました。始まる前にちらと見ると、購入特典でミニサイズのサイン色紙がもらえるようになってました。私はアーティストのサインにはまったく関心が無いため、それ欲しさに買ったわけではありません。でもまあもらえるのならもらっとこうくらいに考えて、コンサート終了後に買いに行ったら色紙は品切れになってました(笑)。

二枚組です。このアルバムのジャケットデザインは、手前のプールに浮かぶカバをメインにしてグループの二人は奥のほうに小さくしか写ってません。これがLPサイズだとものすごく精細度の高い写真であることがよくわかります。内側の見開きにはCDのブックレットには無かった写真が使われています。

■Jim Capaldi Fierce Heart 1983

にわかに買い集め始めたジム・キャパルディはまずファースト・セカンドと入手しましたので、次はサードを欲しいんですが日本盤はオークションにはなかなか出てきません。
今回買ったのは十枚目くらいのソロアルバムで、時代が時代だけにシンセサイザーアルバムみたいな感じらしいです。でもヒット作だそうで、売れただけに中古盤はたくさん出回っています。それならと状態が良くて手ごろな値段のを買っておくことにしました。

■Elvis Presley G.I. Blues 1960
■Elvis Presley Kissin' Cousins 1964
■Elvis Presley Roustabout 1964
■Elvis Presley Paradise, Hawaiian Style 1966

引き続きサントラ盤の当時もの日本盤です。いずれもペラジャケですね。
私は日本盤ペラジャケでシングルジャケットの場合、裏面はどれも日本語ライナーに差し替えられているものとばかり思ってました。ところが今回入手したものでは、「GIブルーズ」がシングルカヴァーなのに裏面もオリジナルのデザインを再現してあり光沢紙が使われています。中にはかなり薄手の紙の歌詞カードが入っています。

あとの三枚はいずれもダブルジャケットになっているため裏ジャケットもフルカラーのオリジナルデザインで美しいですね。アメリカ盤はすべてシングルジャケットだったはずで、日本盤は歌詞とライナーノーツを内ジャケットに掲載した豪華美麗版です。
グラフィックの製販は丁寧に修正が施されていて、複写でここまで再現できるというのは当時の印刷現場の技術の高さがわかります。特に「青春カーニバル」の色彩は素晴らしいです。

■麗蘭 磔磔2010盤~Love Love Love 2011

この前「2014盤」までのが揃ったと思っていたら、よく棚を見たら2010盤が抜けていることがわかりました(笑)。「La la La」という似たタイトルのがあるので混同していたのかもしれません。

■五輪真弓 風のない世界 1973

これは買ったレコードじゃなくてもらったレコードです。上京の際に久しぶりで旧友の吉見くん宅で話していたところ五輪真弓の話になりました。私は先月聞いたファーストの「少女」でもう打ち止めにするつもりしていましたけど、これも聞いてみたらと手渡されたのがこのセカンドです。ファーストと同じ陣容で海外録音されたもので、私はジャケットには見覚えがありませんでした。
くれるというんですね。間違って二枚買ってしまったとかで(笑)、それなら遠慮なくとジャケットの状態の良いほうを残して遠慮がちにいただいてきました。

初期のソニー盤で番号はSOLLです。吉見くんによるとCBSソニーの邦楽制作は、SOLで始まる初期のものはスタッフの士気も高く優れたものが作られていたものの、これが70年代半ばの25AHで始まる(25は定価の2500円を表すので価格によって変わります)番号体系になったあたりからは会社もやる気がなくなってつまらなくなっていくらしいんですね。
そう言われてみると、デビュー間もないシンガーに二枚続けてハリウッド録音させてくるなど、気概のあるプロデューサーが会社にいたんでしょう。





20171029

【今月聞いたレコード・CD】

■Bob Dylan Triplicate 2017

またか…という感じのスタンダード集です。「Shadows in the Night」(2015)、「Fallen Angels」(2016)に続くもので、まさかこのままジャズスタンダードのカヴァーシンガーを続けていくつもりなのかとも思えてしまいます。
制作は前回前々回と同じくツアーバンドとの演奏で、スティールギターを中心としたサウンドは独特です。ときおり管弦楽が加わっています。
三枚組のアルバムはそれぞれが独立したアルバムという体裁になっていて、「'Til the Sun Goes Down」「Devil Dolls」「Comin' Home Late」と名付けられています。それぞれのタイトルは収録された曲名ではありません。オリジナルなのか、あるいはそういうスタンダード曲があるのかは不明です。

三枚それぞれ十曲ずつ入ってるんですがいずれも三十分くらいですから通して聞いても一時間半。実質二枚組のヴォリュームです。
今回あれっと思ったのは、これまでが私なんかはまったく聞いたこともない曲ばかりだったのに対し、「Sentimental Journey」「These Foolish Things」「Stardust」といったベタな曲が採りあげられていることです。それが何を意味するのかはまったく見当がつきませんが、ひょっとするとこれでジャズスタンダードは打ち止めってことですかねー? それならいいですけど(笑)。前も書きましたけど、このバンドでカントリーやブルーズのカヴァー集をぜひ作ってもらいたいですね。

■Sparks Hippopotamus 2017
■FFS F・F・S 2015

来日公演の予習としていつもより前倒しで最新作を聞きました。そろそろひとつ前の「F・F・S」を聞こうかと思っていたタイミングに来日の報。普段は同じアーティストのアルバムは続けて聞かないようにしているんですが、今度は特例です。
まずはやはりコンサートでも多くの曲が採りあげられると予想される最新作の「Hippopotamus」から聞いてみました。

冒頭の短いプロローグ的な曲をおいて二曲目の「Missionary Position」からもうスパークスワールド全開です。「キモノ・マイ・ハウス」に入っていても違和感がないようなサウンドで、ちょっと驚くほどです。三曲目以降もシンセサイザー主体のバッキングに多重録音を駆使したヴォーカルが重層をなすというスタイルです。
曲はいずれも、先鋭的でありながらあくまでもポップといういつものスパークスなんですけど、なかなかできないことですよ? しかも曲の出来も粒ぞろいで上等なアルバムになっています。これだけのキャリアがあってなお上質なレコードを作れるというところ、素晴らしいです。

「F・F・S」のほうはスパークスの単独名義ではありません。フランツ・フェルディナンドとスパークスが合体したバンド、FFSのアルバムです。フランツ・フェルディナンドは吉木さんから借りて何枚か聞きました。わりとオーソドックスなロックバンドながらディジタルビート的なサウンドも採り入れていて、今ふうの60年代ビートバンドという感じです。キンクスを思い出させるところもあります。
それが選抜メンバーによる共演ではなくて全員参加です。ヴォーカルはFFのシンガーとSのラッセル・メールが分け合います。これがなかなか相性が良くてうまくいってるんですね。
サウンドもほんとにそれぞれの特性が一緒になった感じで、双方のファンが納得するんじゃないでしょうか。

一曲、コーラスで「ソウデスネ~ソデスネ、ジャアネ!」と繰り返し歌っているところがあって、こりゃとうとう空耳アワーのネタをつかんだぞと思いました。ひょっとしたら手ぬぐいくらいもらえるかもしれんなと期待しつつ曲目を見たら「So Desu Ne」とそのまんまです。歌詞はどうやら日本人の女の子のことを歌っていて、なんのことはない空耳じゃなかったんですねー(笑)。

さあそれで25日に見に行ってきました。バックはけっこう若いメンバーばかり五人で上手かったです。
メール兄弟のうちシンガーのラッセルはもう元気いっぱいで終始上機嫌。「アリガートウ」を百回くらい行ったんじゃないでしょうか。兄でキーボードのロンはおそらくいつものことなんだろうと思うんですがまったく微動だにせず、客席を物珍しそうに眺めながら弾いています。途中、これもお決まりのことらしいですけどロンが中央に出てきてニカーッと笑いながら子どもの体操みたいなぎこちないダンスを披露します。終わったとたんまた仏頂面に戻って淡々とキーボードを続けます(笑)。

ラッセルのスピーチでわかったんですがやはりこれ「ヒポポタマス・ツアー」と銘打っての巡業だそうで、しかもこの日がツアー最終日でした。
そのため曲目の多くは最新作からで、八曲も採りあげました。「F・F・S」からは意外と少なくて一曲だけ。「So Desu Ne」はありませんでした。あとはヒット曲のオンパレードです。ラッセルの声の調子は最高で、バックから三人のコーラスを得てまったく文句なしのヴォーカルでした。
前回の単独来日のときは行けなくて悔しい思いをしていたので、ようやく見ることができて良かったです。

■Randy Newman Live in London 2011

DVDとCDのセットで、双方同一の内容です。DVDのほうが主体の商品ですね。いつものようにまずCDを繰り返し聞いてから最後にビデオを見ました。
もっと広い会場かと思っていたら、なにかビール工場付属のビアホールのような建物で二百人くらいの観客の中で演奏している小ぢんまりとしたコンサートでした。二十人程度の管弦楽団との共演です。
オーケストラと共演といっても演奏の中心はニューマンのピアノ弾き語りです。オーケストラはかなり控えめなバックアップに専心しながら効果的なサウンドをもたらしています。スコアもニューマンが書いたんでしょうか。ここらは映画音楽を長く手がけてきた経験が生かされているのかもしれません。

私が最初に聞いたニューマンのアルバムはやはり「Sail Away」(1972)です。その次が「12ソングズ」(1970)。でもあまり感心するところが無くて、ここまで歌の下手な歌手が人気のある理由がどうもぴんとこないというのが正直なところでした。
それでも、「Sail Away」や「Mama Told Me Not to Come」、リンゴ・スターのカヴァーした「Have You Seen My Baby?」など、いい曲がいくつもあることはわかりましたけども。

その印象がくるっと変わるのが次に「Randy Newman Live」(1971)を聞いてからです。これがニューヨークのライヴハウスでの完全弾き語りで、観客に語りかけながらとつとつと歌う様子にすっかり魅了されました。おそらくかなり辛辣で皮肉に満ちた歌の数々は、こういう場でこそ真価を持つものじゃないかと思えるほどです。
その後のスタジオアルバムをいろいろ聞いても、このライヴに勝るものはまだありません。バックにバンドを付けるよりも、本人のピアノと歌だけというスタイルこそが本領だと思います。

そのことを、四十年ぶり二枚目のライヴアルバムである今回のロンドン録音を聞いて再確認できました。
自作の人気曲の数々を淡々と歌っていきます。ひとつ気づいたのは、この人歌が下手というわけではないなってことです。これはこの前聞いたキャロール・キングと比較して考えることでわかったことです。
ニューマンは声域は極端に狭く、つぶやくような歌いかたしかできないわけですね。ときおり高いキーになったり長く伸ばしたりするところは無理して絞り出すけどやっぱり出ないというような感じです。
そういう弱点はあるものの、しかし総体には歌声は安定しており無難です。聞いていて危なっかしくてこっちが不安になるようなところはありません。まさしく「下手ウマ」といっていいものであることが今回わかりました。

映像を見て、その雰囲気がまた気に入りました。観客一人一人の顔が近くに見えて、みんな楽しんでいる様子がわかります。オーケストラのメンバーも同様です。例の「Short People」を歌うときなどは、観客が全員にやにや笑ってるんですよ。
ピアノもなかなかいいです。上手くはないと思いますが、ホンキートンク調の伴奏に徹したピアノで、もしピアノが弾けるようになるなら、すらすらっとこんな感じのが弾きたいなと思えるようなタイプです。
このライヴはオーディオ版よりもビデオのほうがいいですね。


■Eric Clapton There's One in Every Crowd 1975

クラプトンも聞き返しているところです。この前「461 Ocean Boulevard」(1974)を久しぶりに聞いたんですが、やはりいいアルバムですね。ファーストや「レイラ」以降のいわゆるレイドバック路線をさらに洗練させ、レゲエ風味も加わって芳醇な音楽になっています。
それで今回「安息の地を求めて」は初めて聞きました。何枚かずつはしょって聞いてたんですよ元々は。で、このアルバムは雰囲気としてはやはり「461」と同じテイストです。ジャケットはなにやら不気味な写真が使われており、昔から内容とどんな関連があるんだろうとは思ってました。結局それはわからないままですけども(笑)。

レゲエが二曲あって、「Swing Low, Sweet Chariot」はステイプル・シンガーズもやっていたゴスペルです。それをレゲエにアレンジしており、これがかっこいいんですね。イヴォンヌ・エリマンのバックアップヴォーカルが全編で活躍しています。
おおむねA面がカヴァー曲、B面がオリジナルという構成になっています。オリジナルの「Better Make It Through Today」などはダルなダルな曲でなかなかいいですが、全体にはカヴァー曲のほうがいいですね。
かつての私がこのアルバムを飛ばしていたのも、なんとなく高い評価を得ているアルバムじゃないもののように感じていたからで、実際聞いてみてたしかに地味な印象を受けました。でも悪くはないです。
次はライヴの「E.C. Was Here」(1975)です。これも初めて聞くので楽しみではあります。

■The Jam Setting Sons 1979

「All Mod Cons」(1978)に続くアルバムです。これもまた久しぶりに聞きました。やはりファーストからのモッドロック路線であるところは変わりません。一曲、なんとストリングスのみをバックに歌う曲を入れてあります。人気バンドも四枚目ともなるとなんらかの変化球を出してこないとだめってことでしょう。
ただ全体に感じることは、曲の出来がもうひとつってとこでしょうか。繰り返し聞いてなじんでくるとキャッチーな部分も聞こえてはきますけど、初め聞いたときは、締め切りに追われてだいぶ苦心したんだろうなと思いました。四枚目ともなるといろいろ大変なんだなってとこです(笑)。

そのストリングスの入った「Smithers-Jones」は、「イエスタデイ」とはまた違ったヒップな曲になっていてキンクス的です。毎回入れているカヴァー曲はヴァンデラスの「Heat Wave」です。「バットマンのテーマ」に続く、フーのカヴァーのカヴァーです。
相変わらずギターは歯切れがよく、ベースはうなりを上げています。しかしこのバンドの弱点はドラムズの人が下手なんですね。いかにも最近叩き始めましたとでも言わんばかりの稚拙なプレイなんですけど、もしそれがほんとだったとしてももう二年もやってるわけですからねーまあ下手なんでしょう。あるいはその走り過ぎで性急なプレイに人気があるのかもわかりません。

■John Phillips John Phillips (John the Wolfking of L.A.) 1970

ママズ・アンド・パパズのメンバーのソロアルバムです。ママズ・アンド・パパズはアルバムも持っていないほどだしでほとんど興味ないんですが、このアルバムはカントリーロックの名盤としてつとに知られているもので、ちょっと聞いてみようと思いました。
しかし、繰り返し聞いてみたんですけどどうも全然耳に残るところがありません。音楽自体は悪くなくて、すがすがしい感じのカントリーロックです。曲もまずまずの出来ですからあまりけなすところは無いんですが、どうして印象に残らないのか考えてみると、やはりフィリップスの歌の弱さというところに思い当たります。

ママズ・アンド・パパズがどういうスタイルのコーラスだったのかは知りませんけど、「夢のカリフォルニア」を聞く限りでは四人で強力なヴォーカルハーモニーを展開してますよね。ソロの部分はわりと力強い男性ヴォーカルですが、あれがフィリップスなんでしょうか。
しかしこのソロアルバムを聞く限りでは、ほんわかした曲にほんわかとした歌が乗っている状態ですから、軽く聞ける好アルバムということはできますね。でも…私としてはもう聞くことは無いと思います(笑)。

■五輪真弓 少女 1972

海外録音盤、それもキャロール・キングとそのメンバーがバックアップしたということで有名なアルバムです。プロデュースは「Writer」のプロデューサーが担当しています。日本からは木田高介が付いていってますね。タイトルからして十七八歳のころかと思ったらこのとき二十一歳でした(笑)。
それにしても、その才能はまったく疑う余地はありません。一曲だけ人の詞を採用した以外はすべて自作の曲で出来はいいです。
またサウンドがすごくて、さすがにハリウッド録音ということで迫力のある演奏を聞くことができます。

ただちょっと気になるのが、全体を通じてなにか非常に生真面目すぎるというか、硬いんですね。私は初め、一曲目の「なわとび」で、縄跳びに「参加しませんか」という詞になっているところにまず引っかかったんですね。縄跳びに参加しませんかとは言いませんね普通。まあそのくらい…という向きもあるでしょうけど、私としてはそんなところの端々に若さというか青さ固さを感じてしまいました。
ヴォーカルも声がよく伸びていて悪くないです。でも、やはりその歌いかたには融通のきかなさがちょっとあるように思えました。

実際、このファースト以降のアルバムはロック/フォーク的な見地からはほとんど顧みられていないですから、アーティストの資質としてはポピュラーシンガーであり、その活動も歌謡曲路線のほうに向かっていったんだろうと思います。
上京の際、久しぶりで会った吉見くんにセカンドの「風のない世界」のLPをもらいました。なんでも間違って二枚買ってしまったんだとか(笑)。セカンドも一枚目と同じ布陣で海外録音したものらしく、これも聞いてみようと思います。






20171001


【先月買ったレコード・CD】

■Sparks The Seduction of Ingmar Bergman 2009
■Sparks Hippopotamus 2017

スパークスのCDでこれまで入手困難だったものが一枚だけあって、それがこのヨーロッパのラジオドラマのためのサウンドトラック的なアルバム「Seduction of Ingmar Bergman」です。スウェーデンの著名な映画監督イングマール・ベルイマンを記念した放送のようで、ベルイマンは2007年に亡くなってますから回顧企画ということでしょう。
もとはスウェーデンのレーベルから千枚限定のCDとして出て、英米では自身のレーベルLil' BeethovenからLP四枚組ボックスという形でリリースされました。
もちろんこれらオリジナル限定盤はとても手に入りませんから、2011年になってLAフィルムフェスティヴァルに合わせてスペシャルリミテッドエディションとして再発売されたCDを探してたんですね。

HMVでは輸入盤で4LPボックスが購入可能になっていたので喜び勇んでチェックアウトしたんですが、いつまで経っても「まだ商品手配ができません」のメールが繰り返し届くだけで、結局数カ月後に自然キャンセルになってしまいました。HMVはこの手が多いんで困ります。
いっぽうアマゾンのほうはLPボックスは無いものの再発CDはカタログに載ってます。五年くらい前に見たときはわりと手ごろな値段であったんですけど、もうちょっと安くなってから買うかと高をくくっていたらいつの間にか品切れに。その後はずっと「再入荷見込みが立っていません」の表示が続いていて、ええそりゃ焦りましたとも(笑)。

それでも虎視眈々とチェックを続けていたところ、先日ディスクユニオンに入ったようでマーケットプレイスに五千円で出ました。五年前に比べるとだいぶ高いですけどもうこれ無いですからね、まあしかし無事手に入って良かったです。ジャケットは布張りのブック式でいい感じです。
LPボックスが四枚組というヴォリュームなのは、これにだけスウェーデン語ヴァージョンも収録されてるんですよね。これ欲しいですけどねーさすがに無理でしょう。

さてスパークスは2001年に初来日して以来、わりと頻繁に日本公演を行っています。しかし福岡でのライヴなどあるはずもなく、でもわざわざ東京まで見に行くのもちょっとね…と今までは「見たいけど諦めていたアーティスト」のひとつでした。
それがこの前聞いた初のライヴアルバム「Two Hands One Mouth」(2013)がことのほか素晴らしかったので、十月に決まった東京公演のニュースを知ってこれは見逃せないとさっそくスカイマークのチケットを手配しました。
そうなるとついこの前出た新作「Hippopotamus」を聞いていかないとだめですのでこれも速攻ゲットです。今度のはLPもプレスされてますから、LPも欲しいですね。

■Jim Capaldi Whale Meat Again 1974

ジム・キャパルディの二枚目も手に入りました。これもヤフーオークションで、日本盤です。「鯨肉賛歌」というすごいタイトルがついてます(笑)。「Oh How We Danced」(1972)はキングから出てましたけどこれは東芝です。アイランドの配給がこの二年の間に替わったんですね。
白レーベルのサンプル盤ですが盤は申し分のないコンディションです。これで帯無し千円と願ってもない買い物でした。
あとはとりあえずサードの「Short Cut Draw Blood」(1975)の日本盤が手ごろな値段で出てこないかなというところです。

■Stranglers The Raven 1979

これはジャケ買いです(笑)。前から気になってはいたものの今ひとつ買う気になれずじまいだったところが、ある事実を知って急に舵を切りました。
ストラングラーズは特に好きなグループでもなく、ファーストからライヴ盤までの四枚を持っているだけでした。このころまではけっこう人気があったと思うんですが、次のこの「レイヴン」はぜんぜん売れなかったはずです。出たときはレンチキュラー3Dのジャケットでおおすげェと思ったんですけどね、これが見てみるとあまり立体感が無かったんでがっかりしました。アルバム自体聞く気にもなれなかったので、その後は長いこと意識の外でした。

「レコードコレクターズ」誌の連載でレコード会社の洋楽担当ディレクターのインタヴュー記事があって毎回面白いんですね。その中でキングの人が出てきたときにこの「レイヴン」の3Dジャケットについての話がありました。
これを読むと、イギリスからカラスの剥製が送ってきてこれで3D写真を制作するようにという指示だったというんですよ。私もそのときはあまり深く考えずに、なんだあの3D写真は各国で独自に作ってたのかと。じゃ日本盤のはUK盤とは違うニセ物じゃないかと思ってしまいました。
ところがつい最近になって、きっかけはなんだったか思い出せませんがこの3Dジャケットについて改めて調べたところ、なんとUK盤の3Dジャケットも同じものが使われていることがわかりました。クレジットに「3D Cover Photo - Toppan」と記載されてます。

つまり、UKサイドが初めから凸版印刷にレンチキュラー写真の制作を発注してきていたわけですね。向こうではちゃんとしたレンチキュラー3Dの撮影システムが無かったんでしょう。おそらく凸版印刷はできあがったレンチキュラープリントのみをイギリスに納品、これをジャケットに貼りつけて初回限定盤として発売したということだと思います。UKと日本以外で3Dジャケットが出たかどうかはわかりません。
ということであれば、まさしく日本盤LPの3D写真は「本物」です。それを知るととたんに欲しくなりました。どうせ安く出てるに決まってます。もしこれが人気のレアアイテムで五千円くらいするような代物だったら要りませんけどオークションで千円で買えました。

これの通常ジャケットは日本では発売されたんですかねー私は見たことありません。おそらく3Dの初回盤プレスのみで終わったと思います。
試しにレンチキュラープリントをはがしてみたら、下は通常版のカラスの写真になってました(笑)。

■Todd Rundgren Live at the Warfield, San Francisco, 1990 2012

チェリーレッドから出ている「The Todd Rundgren Archive Series」のひとつでCD二枚組です。1990年のニアリー・ヒューマン・ツアーのサンフランシスコ公演を収録してあります。
ラングレンというと多重録音ですべての楽器を一人で演奏するスタイルを思い浮かべますが、その反動かビッグバンド編成での演奏も好んで行ってきました。1989年のアルバム「Nearly Human」は、前作「A Cappella」(1985)で一人多重録音、しかも基本的に自分の声だけを使い自在にイフェクト処理して作り上げたものから一転、十二人編成のバンドで作ったものです。

その直後の1990年1月には来日公演をしていて、これは私も見に行きました。演奏は良かったんですがメンバーは知らない人たちばかりで、なにか芸能プロダクションのパッケージツアー的な印象を受けたことを覚えています。たぶんそれは意図したもので、ソウルレヴュー的な演出を狙ったんだろうと思いましたけども、やはりユートピアで来てほしかったなあとため息が出ました(ユートピアの再結成来日公演はこの二年後に実現します)。
この発掘音源CDは、日本ツアーの二カ月後くらいですね。同じメンバーでのショウです。

■'69第一回中津川フォークジャンボリー 1979

SMS「幻のフォークライブ傑作集」も一枚また一枚と集まってきてます。二十五種すべて揃えるつもりはないもののまだあと何枚か欲しいものがあるので引き続き探していきます。今回入手したのは1969年の全日本フォークジャンボリーですね。

この第一回大会は文献によるとまったくの手弁当で、満足な設備など無い中で行われたようです。その録音が残っているというのはすごいことですけど、家庭用のテープレコーダーで録音されたものだそうですから音はかなり悪いんだとか。まだ聞いてないのでどのくらい悪いのかわかりませんが、まあビートルズのスタークラブのライヴを聞くと思えばなんてことありません。
収録アーティストは岡林・高石・高田・遠藤・中川五郎・五つの赤い風船です。このとき解散したジャックスの演奏は入ってません。

これがイベントとしては成功というか注目されたことで、翌年の第二回からはちゃんとした運営で行われています。そのためライヴレコーディングもレコード会社が手がけて、編集盤が複数のレーベルから出ています。キングから出た二枚組「自然と音楽の48時間・1970全日本フォーク・ジャンボリー実況盤」と「自然と文化の72時間・1971年全日本フォーク・ジャンボリー実況盤」はいずれも優れたドキュメンタリーになっていて聞きごたえがありました。






20170924


【今月聞いたレコード・CD】

■Nick Lowe The Old Magic 2011

最近のニック・ロウはつまらないんであまり真剣に聞いてない感じです。1998年の「Dig My Mood」あたりからだったと思うんですが、ロックンロールじゃなくなって軽いポピュラーソングをさらりと歌っているものばかりになってますね。まあそれも年季の入ったシンガーならではの技量ですから、真似しようとしてすぐできるものではないでしょう。こんなのが好きな人もおおぜいいるでしょうね。
今回のもクルーナースタイルであくまでも軽く歌うポップスの数々で、ジャズありフォークありマンボありというところです。

■Can Ege Bamyasi 1972

ドイツのグループ、カンです。ジャーマンロックなどというともう完全にプログレの世界だから私とは無縁なものとばかり思っていました。ただバンドは有名だし、なんでも一時期は日本人シンガーが在籍していたということくらいは知ってました。
BBCのピール・セッションズのコンピレーションのひとつで「Before the Fall」という、1967年から77年までの音源を収録したCDを以前聞きました。これにカンが一曲入っていて、初めて聞いたらこれがかっこいいんですよ。「Geheim」という曲で、クールなリズムで人力テクノみたいな演奏です。
これはいいとさっそくその曲の入っているアルバムを調べたら、この曲はオリジナルアルバムには入ってませんでした。

それで俄然カンに興味がわき、ちょうどそのころ知り合ったプログレ好きの人に聞いたら「どれもいい」とのことでした(笑)。それじゃってんでファーストからずらっと買い集めて聞き始めました。たしかにどれも面白い出来です。ファンクなんですよ。たしかに前衛的な音楽ではありますが、多くの曲がリズムに重きを置いた構成にしてあるんですね。
ファーストの「Monster Movie」(1969)、続いて「Soundtracks」(1970)、「Tago Mago」(1971)と聞いてきました。二枚組の「Tago Mago」ではダモ鈴木がヴォーカルで、無茶苦茶な歌いかたですがこれがなかなかハマってます。

今回聞いた四枚目は、「これが最高!Critics' Choice Top 200 Albams」(1979・クイックフォックス社)の184位に入っていて、ふーん…と思いつつ、気難しい顔つきのホルガー・シューカイの顔写真と共に缶詰のジャケットは記憶に残ってました。
全体に「Tago Mago」の続篇的なサウンドです。一曲目の「Pinch」から強靭なリズムとフリーキーなフィードバックギターが炸裂します。続く何曲かはやはりファンクなんですがクールな感覚が一貫しており、このへんがヨーロピアンの特徴でしょうか。「Vitamin C」がかっこいいです。
10分の大作「Soup」は、途中からアヴァンギャルドになるんですけどこれがまた中期マザーズとそっくりのムードなんですね。「Uncle Meat」あたりに入っていてもピタッとはまりそうな感じで、やはりザパを意識していたんでしょうか。
ラストの「Spoon」はリズムボックスが使われてます。この曲、当時ドイツでヒットしたそうです。
次のアルバム「Future Days」も傑作らしいんで楽しみです。

■Theme Time Radio Hour Season 2 with Your Host Bob Dylan 2009

去年の十月にこれのシーズン1を聞きました。英エイス編集による二枚組の、シーズン2です。やはり五十曲入りです。内容は第一集とまったく同じ方針の選曲で、古今東西の実に様々な音源をコンパイルしてあります。東西はアメリカ大陸の東西です念のため。古今東西白黒としたほうがよりリアルですかね(笑)。
今回のもやはり、非常に興味深いものばかりで楽しめます。こんな機会でもないとまず聞くことは無いであろうというような珍しい曲が目白押しです。知っている名前もあれば、聞いたこともないシンガーの戦前のブルーズやカントリー。レゲエやヨーロッパの歌手の歌も少し混ぜてあります。

軸になっているのはジャズ/リズム&ブルーズとカントリーですね。ところがこれらも複雑に絡み合って進化を遂げてきたということがわかるサンプルがいくつか収められています。はじめに音を聞いただけでは黒人のジャズバンドだとばかり思っていたのが実は白人のカントリーバンドだったり、逆に黒人の歌うカントリー曲もあります。こういうところがポピュラー音楽のダイナミズムになっているんですよね。白人の女性コーラスグループだろうと思っていたら写真を見ると黒人だったりとか。雑多なオムニバスならではの面白さです。
しっかりしたブックレットが付いていて、ほぼ全員の写真が掲載されているところがいいですね。解説も一曲ずつ書かれてるんですけど、英文なので解読する気にはなれません(笑)。

おっと思ったのはジェイムズ・ブラウンで、「Three Hearts in a Tangle」という聞いたことの無い曲が入ってます。これがなかなかいかすダンスチューンで、独特の軽めのリズムは白人聴衆向けでしょうか。この曲が四枚組ボックス「Star Time」に入ってないのは、この軽さが原因かもしれません。
ミシシッピ・ジョン・ハートの「The Chicken」は一分くらいの短いギター弾き語りですが、これが初期のディランとそっくりな感じなんですね。ハートのレコードは持ってなくて知っている曲も思い浮かばないんですが、やはり若きディランはハートの模倣もしたんでしょうか。

「Hunting Tigers Out in India」というエキゾチック趣味のコメディ曲があって、これはハル・スウェインという人のバンド名義のノベルティです。ところがブックレットにはこの曲の解説部分にボンゾ・ドッグ・バンドの写真が載ってるんですね。なにかと思ったらボンゾズが「Tadpoles」(1969)でこの曲をカヴァーしてたんですねーぜんぜん気がつきませんでした。確認したら確かにこの曲でした。
もっとも印象深かったのがサン・ラーです。初めて聞きました。1967年の「Rocket Nine Takes Off for the Planet Venus」という独創的なアレンジの熱狂的な曲です。モダンジャズの世界では、これは異端なんでしょうかそれともジャンルとしてあるんでしょうか。ほかにもなにか聞いてみるとしたら、なに聞けばいいんでしょうかね。

■Fairport Convention Liege & Lief 1969

フェアポート・コンヴェンションを聞くのはこれが二枚目です。トラッドが特に好きというわけではないので、ペンタングルとフェアポート・コンヴェンションくらいをちょっと押さえとこうかというところです。
あらかじめリサーチしてみた結果、サードの「Unhalfbricking」(1969)から六枚目の「Angel Delight」(1971)までの四枚にあたりを付けてLPを買ってみました。解散と再結成を繰り返しメンバーの流動も激しいグループなんですが、六枚目以降はオリジナルメンバーがいなくなるまでに入れ替わってますから、まあここまでが入門編というところでしょう。

しかしまず聞いてみた「Unhalfbricking」が正直いってそれほど感心するところが無かったので、続くアルバムをしばらく放置してました。
ところがこの前ディランのベースメントテイプスを聞いたときに、これがロック界のさまざまに影響を及ぼしたことを改めて考えました。この動きはイギリス勢にも波及し、そのひとつの表れとしてエレクトリックトラッドフォークが出てくるわけですね。
それでフェアポート・コンヴェンションのレコードをまだ聞いてなかったのを思い出して棚から引っ張り出しました。なにごとにもきっかけというものがあるわけです(笑)。

そんなわけでこの前に聞いた「Unhalfbricking」がどんな感じだったかうろ覚えのままでこの四枚目「Liege & Lief」を聞いてみました。編成はロックバンドで、エレクトリックヴァイオリンが入っているところが特徴ですね。実際全編でヴァイオリンが鳴っており、ブリティッシュトラッドの雰囲気があります。パイプなどの管楽器は使われていません。
少し意外な感じがするのは、歌うのが完全にサンディ・デニーひとりだけなんですね。トラッドフォークに和声は使われないものなんですかねーそんなこと無いと思いますが、とにかくこのアルバムでは独唱だけです。
また、曲がとても単調なことにも気づきます。ほとんど一つか二つのメロディラインでこれを繰り返すだけの曲ばかりです。フォークといえばやはりバラッドということになるでしょうから、物語性を重視してメロディはむしろ単調なほうがいいのかもしれません。童謡もそうですね。

私はイギリスのトラッドフォークについての知識が無いため、このサウンドがブリティッシュといってもアイリッシュなのかスコティッシュなのか、はたまたイングリッシュかウェルシュかとそういったムードがまったくわかりません。おそらくそれらのミクスチュアになっているんじゃないかと想像しますけども。
要は、ロックバンドがトラッドフォークを演奏したということが新しかったわけですね。アメリカのカントリーロックと一緒で、当時は一般的には理解されにくかったんじゃないでしょうか。わが国でいえば民謡のロックバンドが登場…というところですけど、キビしいでしょうなあ(笑)。

アメリカ人にとってはカントリーは骨の髄までしみ込んだ、それこそソウルミュージック、ホワイトソウルですね。いっぽうイギリスにあってはどんな感じなんでしょうか。そういえば思い出すのが、マッカートニーがバグパイプで郷愁を誘うメロディを奏でた「Mull of Kintyre(夢の旅人)」を出したらモンスターヒットになったんですよね。やはり英国人の心の琴線に触れるものには違いないんでしょう。
あと二枚あるんで追い追い聞いていきます。



■Carole King The Carnegie Hall Concert June 18, 1971 1996

私はキャロール・キングの熱心な聞き手というわけではありません。持っているのは「Rhymes and Reasons」(1972)までの四枚だけで、シティのアルバムも持ってはいますが再発のモノクロのジャケットのほうだというところからもその程度が知れようというものです。
それだけしか聞いていないということは、それ以上に聞き込んでみようという気に結局なれなかったということですね。しかし代表作の「Tapestry」(1971)だけはまったく素晴らしいアルバムです。今回これをひさしぶりに聞き返しましたけども、時代の空気というのか、ある記憶の風景がフラッシュバックしてくるような特別な力を持っています。
そのため1996年に発売されたこの発掘ライヴ音源のCDは、五枚目以降もたくさん出ているオリジナルアルバムを差し置いても、ぜひとも聞いてみたいと思ったわけですね。1971年、「つづれおり」がリリースされて半年くらい後のニューヨークのカーネギーホール公演です。

コンサートはキングのピアノ弾き語りです。途中からスタジオ盤のレコーディングでもバックを務めたギターのダニー・コーチマーとベースのチャールズ・ラーキーが加わります。ドラムズは無しで、あくまで控えめなバックアップにとどまっています。
CDには十七曲が収められており、これがコンサートの全曲だろうと思います。このうち十曲が「つづれおり」からです。やはりこの時すでに大ヒットを記録していた出世作ですから、観客の期待もひとしおなのが初めの歓声からもわかります。
ほかの曲は、前作であるファーストソロ「Writer」(1970)や、間もなく出ることになるサード「Music」(1971)からもピックアップされています。さすがにアイドル歌手時代の持ち歌は歌ってません(笑)。
作曲家時代の有名曲はどうかというと、自身のアルバムでもセルフカヴァーした「Will You Love Me Tomorrow」(シレルズ)、「Up On the Roof」「Some Kind of Wonderful」(ドリフターズ)、「You Make Me Feel Like a Natural Woman」(アリサ・フランクリン)をやってます。

ピアノけっこう上手いんですね。スタジオ盤でもメインで弾いていたのかもしれません。ただし声は非常に不安定です。歌手として捉えればプロの水準に達していないといっていいわけですけど、そこがシンガー・ソングライターという新ジャンルの強みで(笑)、ランディ・ニューマンに比べればずっとましで可憐な歌声です。
むしろ親しみのある雰囲気があって、ダニー・クーチが加わっての「It's Too Late」では、クーチのソロでのフレーズをいたく気に入ったようで、チョークダウンのときに「ウィヨ~ン、ウィヨ~ン」と口真似したりするんですね(笑)。きっと天然系の朗らかな人なんだろうと思います。

アンコールではゲストでジェイムズ・テイラーが出てきます。どうやら観客にはまったく事前の情報が広まってなかったようで、会場はたいへんな驚きようです。
テイラーはスタジオ盤の録音にも参加しており、その「You've Got a Friend」と上記のセルフカヴァー曲のメドレーをデュエットします。やはりここがこのコンサートのハイライトということになりますね。
「You've Got a Friend」はスタジオ盤ではデュエットにはなってないし、またテイラーは自身でもこの曲をレコーディングしてシングルがヒットしていますから、夢のデュエットというわけですね。もう大喝采です。

さてこれで、五枚目以降のアルバムも聞いてみる気になったかというと…それはちょっと無いでしょうな(笑)。

■Fripp & Eno (No Pussyfooting) 1973

ブライアン・イーノのレコードもいろいろ訳のわからなさそうなのが昔から出てますから、どうもとっつきにくい印象がありますね。特にアンビエントものなどはどう考えてもつまらないに決まってますから、まともに付き合おうという気にはなかなかなりませんでした。
でもすごくいいアルバムもあるんですよ。有名な「Taking Tiger Mountain by Strategy」(1974)を聞いてみたら、おっこりゃかっこいいといっぺんで気に入りました。ロックンロールです。それでロクシー・ミュージックを辞めた後に出したファーストソロの「Here Comes the Warm Jets」(1973)も次にいってみました。これも良かったです。
結局あと「Another Green World」(1975)、「Before and After Science」(1977)まで聞いて、いったんそれっきりになってました。きっと他にもなにかいいのがあるだろうなとは思いつつ、ひとつひとつ当たっていく余裕はかつての私にはありませんでした。

それが最近は心のゆとりも出てきたからか(笑)、昔ちょっと聞いてみたかったけどその暇がなかったというものどもをいろいろ聞き始めたわけですね。そこでイーノの扉を再び訪ねることにしました。
そうすると、順番にいけばファーストソロの次に出したロバート・フリップとの共作です。中古盤屋でも飽きるほど見てきたジャケットです。でもクールなアルバムカヴァーは好きでした。
ただしフリップとの共作ともなれば、これはもう退屈なコンセプト音楽になっているに違いありません。曲目を見ても、A面一曲B面一曲だけです。さまざまなレコードガイド本でもこのアルバムが採りあげられることはありませんから推して知るべしですね。

果たして今回初めて聞いてみたら、やはりというかなんというか、いかにも理論派の音楽家同士が手すさびにコンセプチュアルな「作品」を提示してみましたというような感じです。二曲ともインストゥルメンタルです。
アボリジニの吹く管楽器のような低い通奏音がずっと鳴り続ける中、フリップのフリーフォームのフィードバックギターが縦横無尽に響くのがA面です。バックのドローンはギターシンセサイザーかもしれません。
ジャケット裏には使用楽器が書かれており、それによるとA面はギブソン・レスポールとフリップ・ペダルボード、二台の改造テープレコーダーとなっています。フリップ・ペダルボードには「The」が付いてますから、特注のイフェクターのコンポーネントなんでしょう。

B面は少しきらびやかな音色で、山手線の発車メロディみたいなのにやはりフィードバックギターがからんできて延々と二十分間続きます。テープの逆回転音がキュルキュル鳴ってます。
これもレスポールと、「Frizzbox」という謎のアタッチメント、今度はテープレコーダー一台。さらに、VCS3シンセサイザーはディジタルシークエンサーでオペレーションしてあります。もうこのころからあったんですね。

まあそんなような音楽で、二回目を聞くころにはすっかり飽きてしまいました(笑)。

■Frank Zappa Joe's Corsage 2004

ザパの死後リリースものをひとつずつ聞いていってます。これまではライヴものが続きましたが、今回のは初期のデモ音源集です。これがデビュー直前くらいのレコーディングのようで、さすがにザパ先生、ちゃんとテープ保存してたんですね。生前に本人がリミックスまで済ませていたようですから、蔵出しするつもりだったんでしょう。

内容はなかなか興味深いもので、完全にリズム&ブルーズです。マザーズのファースト「Freak Out!」(1965)はリズム&ブルーズナンバーとアヴァンギャルドの折衷となっている過激なもので人気が高いわけですが、これのアヴァンギャルド部分をすっぱりオミットしたようなものです。
もともとマザーズが持っていた性格がどういうものだったのかはわかりません。純粋に黒人音楽好きが集まったバンドだったのか、やはりザパ以下が前衛音楽やフリージャズにも同時に傾倒していたのか。いずれにせよ、このデモ集を聞く限りでは田舎のリズム&ブルーズ志向のガレージバンドとしか思えません。

でもこれが聞くほどにいい感じになってくるんですね。音もステレオでけっこういいです。初期のマザーズを好きな人なら、特に「Cruising with Ruben and the Jets」(1968)を好む人はこのデモ集を聞いて、やっぱり基本はここにあるんだなということがきっと理解できるはずです。
曲目は半数以上が「フリーク・アウト!」の一枚目から。セカンドの一曲目「Plastic People」と、「We're Only in It for the Money」(1968)収録の「Take Your Clothes Off When You Dance」の歌詞タイトル違いの原曲もあります。名曲「Go Cry On Somebody Else's Shoulder」と「How Could I Be Such a Fool?」はデモで聞いてもやっぱりいい曲です。
意外なところでは中盤にカヴァー曲を配してあってこれがライヴ録音です。ライチャス・ブラザーズの「My Babe」、マーヴィン・ゲイの「Hitch Hike」なんてのもステージでやってたんですね。

メンバーはオリジナルマザーズです。ヴォーカルのレイ・コリンズ、ベースのロイ・エストラーダ、ドラムズのジミー・カール・ブラックとの四人で、初めの何曲かだけヘンリー・ヴェスティンという知らないギタープレイヤーがいます。このあとエリオット・イングバーに交代するんだと思います。
なんといってもレイ・コリンズのヴォーカルが聞けるのがいいですね。哀愁を帯びた歌声は素晴らしいもので、そのためか次第に先鋭化していくザパの音楽にあってはだんだん居場所がなくなっていくわけですね。コリンズの録音があればもっと聞きたいものです。

■フライド・エッグ グッバイ・フライド・エッグ 1972

成毛滋とつのだひろのバンドで、「ドクター・シーゲルのフライド・エッグ・マシーン」(1972)というオリジナルアルバムをこの前に出しています。意外と面白いアルバムでした。
当時どのくらい人気があったのかはわかりませんけど、こうして解散コンサートのライヴ盤が出るくらいですから、成毛やつのだの一定のネームバリューはあったんだろうと思います。ストロベリー・パス時代には「メリー・ジェーン」のヒット曲もあります。
とはいえ、構成は前半のライヴと後半はスタジオ録音という数合わせ的なものですから、単なる契約消化のためのアルバム発売だったのかもしれません。
「ドクター・シーゲルの~」は、LPが高いのでCDで買いましたから、それだったらもう一枚出ている「グッバイ」もついでに聞いてみようということで廉価盤を買ってみました。CDが出ていなければ聞いていないアルバムです。

LPのA面にあたる四曲が日比谷野音でのライヴです。成毛のギターはおそらく当時の日本にあっては最先端のサウンドです。ジミ・ヘンドリクスばりのハードなギターで、さすがに上手いですね。
つのだひろのドラムズはとにかくパワフルで迫力があります。ただ派手なフレーズを叩きまくってはいるんですが流麗とはいえず、スティックの当たる音がカチカチカチカチかなり耳に付くんで、この人上手いんだかそうでないんだかよくわかりません。
ベースは高中正義でまだ十代のはずです。インストゥルメンタルではベースソロも披露します。

B面の五曲目からはスタジオ録音です。セカンドの製作途中で頓挫したとかいうところかもしれません。しかしデモという感じではなく完成したトラックです。
五曲目はゲストの柳ジョージが歌ってます。六曲目は高中の曲で、ここではギターも弾いてます。歌っているのは誰かと思ったら高中です。歌も歌えるんですねこの人。
綜合すると、決して悪い出来ではないアルバムといえます。日本のロックファンよりも、むしろ海外の日本ロック愛好家から評価されているんじゃないでしょうか。





20170903


【先月買ったレコード・CD】

■Rolling Stones From the Vault: Hampton Coliseum (Live in 1981) 2014

リーズ、東京ドームエクストラ版に続いて三セット目です。ブルーレイディスク一枚とCD二枚なんですが、ケースが初めに買った二つに比べてやけに薄くて、36ページもある日本語版ライナーが入るとちゃんと閉まりません(笑)。

1981年のツアーで、翌年のリーズとは内容もよく似ているようです。ただこのハンプトン・コロシアム、なんとハル・アシュビーが監督してるんですよ。アシュビーといえば劇場用のツアー記録映画「レッツ・スペンド・ザ・ナイト・トゥゲザー」の監督ですから、同じタッチの迫力ある映像になっているはずです。
「レッツ・スペンド~」はその81年北米ツアーを追ったもので、ハンプトンは最終日の公演です。ということは、「レッツ・スペンド~」にもハンプトンの演奏が含まれているのかもしれません。

説明書きを少しめくってみるとこのハンプトン公演、当時ケーブルテレビで生中継されたそうです。アメリカで普及し始めていた視聴方式のひとつであるペイ・パー・ヴューは主にスポーツ番組だったのが、このときのローリング・ストーンズ公演が音楽ものでの初の試みだったそうな。
生中継となるとフィルムでの撮影はできませんから、放送用の映像は当然すべてビデオカメラです。そうなると、このとき生中継で配信した映像が「レッツ・スペンド~」にそのまま流用されたとは考えにくいですね。今と違って当時のビデオカメラで撮った映像はとてもフィルムの画質には及びません。しかし同時に映画用のフィルムカメラも回していたはずです。

そういういきさつのハンプトン公演の発掘映像ビデオですから、映画用に撮影されたフィルムと生中継用のビデオ映像とを混在させて編集してあるのか、それとも生中継番組を再現してあるんでしょうか。でもそれじゃまるで海賊版ですからねーいったいどんな感じになっているのかなかなか興味深いです。
「レッツ・スペンド・ザ・ナイト・トゥゲザー」はロードショウで見に行きました。中洲の川沿いにあった松竹ピカテリーだったと思います。演奏はいいし映像も素晴らしいしで、ローリング・ストーンズのライヴ映像ではこれがいちばん好きです。もっとも「ヤング・ミュージック・ショー」でいっぺんだけ見た76年のパリ公演がもしソフト化されてまた見ることができたら、順序は入れ替わるかもしれません(笑)。

■仲井戸 "Chabo" 麗市 Chabo 2015

「Time」以来十三年ぶりのソロアルバムという触れ込みですが、その間も企画ものの「Poetry」(2008)やライヴ盤「I Stand Alone」(2010)、また麗蘭名義での各種CDを絶え間なくリリースしていますから、久々という感じはまったくありません。このあともチャボ・バンドのベースプレイヤー早川岳晴との共演ライヴ「旅に出た二人」(2016)も出ているし、麗蘭のスタジオ盤、年末恒例ライヴCDと旺盛です。

デビュー四十五周年だそうで、そういうときには個人名義のアルバムを出して存在感をアピールしたいというのはアーティストとして当然の欲求でしょうね。
チャボ・バンドをバックにたっぷり十四曲入ってます。これに、弾き語りやライヴなどの三曲入りボーナスCDがセットになっています。これにはビートルズへのアンサーソングと思しき「Now I'm 64」という曲もあります。

■渡辺真知子 ときの華 2016

こちらは四十周年記念で、独立してからは初のシングルですね。自作曲ですけど、まああまり期待はしてません(笑)。

それよりこのCD、メルカリで買ったんですよ。新品を普通の値段で買うほどのものでもないし、中古で五百円くらいで出ないかなとオークションやアマゾンをしばらくチェックしてたんですが、そもそもあまり売れてないでしょうからほとんど出品されません。
そんな折スマートフォンを使った売買システムが人気だというのをテレビで見てさっそく調べてみたところ、PCからでも利用できることがわかりました。もっとも利用者はマニアやコレクターなどではありませんから、言うなれば「普通の」CDなら不通に出品されるはずです。値付けにしても、少なくとも今のところは人の足元を見るようなものはありません。

そうしたら案の定、このシングルも五百五十円で出てすでに売れたものがありました。こりゃきっとまた出るなと思い見ていたら、うまい具合にすぐ新品が六百円で出品されたので即購入。送料込みの即決価格という簡便さが、こういった商品にはぴったりですね。
オークション、アマゾンマーケットプレイスに次ぐ第三のツールとして期待できそうです。

■Elvis Presley Elvis Is Back! 1960
■Elvis Presley Something for Everybody 1961

このところエルヴィスのLPづいてます。サントラもの以外のオリジナルアルバムで最後に残っていた二枚を相次いで入手することができました。いずれもヤフーオークションです。

前者は除隊後のLPでこれが初のステレオアルバムです。RVCの73年再発日本盤ですね。やはりジャケットは製版が良くなくてピンぼけの感じですが、まあ許せる範囲です。背文字が日本語縦書きです。
後者はアメリカ盤なんですね。珍しいです。わが国ではエルヴィスの中古盤はほとんど日本盤しか流通していない印象で、それだけ日本盤がよく売れていて輸入盤が入ってくる余地があまり無かったんじゃないでしょうか。70年代のプレスのようで薄茶色のニッパーのいないレーベルです。





20170827


【今月聞いたレコード・CD】

■Ry Cooder My Name Is Buddy 2007

「Chavez Ravine」(2005)の次のアルバムです。今度のもなにかの物語に沿って進んでいく形式のようです。ハードカバーのディジパックジャケットにはわりと厚い挿絵入りのストーリーブックが付いています。
スーツケースを持ってヒッチハイクをしている猫のジャケット画はなんだか笑えますね。バディというのはこの猫のことみたいです。挿絵を見るとネズミと一緒に旅をしていて、他にも擬人化したブタやらカエルやらも出てきます。ストーリーはちんぷんかんぷんですけど、「J・エドガー」という曲がありますから、なにか近代アメリカを風刺したような寓話になってるんじゃないでしょうか。

前作はチカーノ風味のサウンドでしたが、今回のはほぼフォーク/カントリーで占められたオーソドックスなものになっています。ゲストではピート・シーガーやフラーコ・ヒメネス、ヴァン・ダイク・パークスなどが著名人ですね。一曲チーフタンズのパディ・モロニーがパイプとホイッスルを吹いてます。
他のシンガーが歌う曲が一曲あるものの、他はすべてクーダーが歌っていますから、ソロアルバムの感じがいっそう強いですね。これは考えてみたらかなり久々に基本的なスタイルで作ったものといっていいかもしれません。
1987年の「Get Rhythm」以降はさまざまなミュージシャンと交流したグローバル路線を進めてきたわけですが、ここでいよいよ個人に戻ってこれまでの研究の旅の成果を披瀝していこうということでしょうか。

でも正直言うと今回のクーダーのヴォーカルアルバムよりも、複数のシンガーを使って多彩な音楽スタイルをミクスチュアした90年代の作品群のほうが面白いんですよね。原点回帰しないままいろんな音楽アドヴェンチャーを続けてくれたほうがいいんですけども(笑)。
このアルバムでも一曲へんてこなのが入ってるんですよ。「Cardboard Avenue」という曲で、これが琉球音階なんですね。演奏自体はフィドルやマンドリンも入ったフォークスタイルですがメロディが沖縄ふうというもので、かつて喜納昌吉のアルバムにスライドギターで参加したこともあるクーダーですから、こんな芸当もできるんですね。

■Neil Young + Promise of the Real Monsanto Years 2015

毎年二枚ずつくらい新作を出しているニール・ヤングの、2014年の「Storytone」に次ぐアルバムです。タイトルのモンサントーというのはアメリカの遺伝子組み換え作物の商社だそうです。もちろん褒めてるんじゃなくて攻撃しています。「A Rock Star Bucks a Coffee Shop」という曲もあったりして、たぶんスターバックス商法を揶揄してるんだろうと思います。まあ私としては、おっさん相変わらず怒ってるねーという程度で、歌の内容に関しては興味ないので特に調べてません。
アルバムとしては佳作といっていい出来です。曲もどれも良くて、「People Want to Hear About Love」などは高揚感に満ちておりいい感じですね。

バックはクレイジー・ホースではなく若いバンドのプロミス・オブ・ザ・リアルというのが付いてます。アルバムの名義も連名になっているので、気に入ったんでしょうね。メンバーにウィリー・ネルソンの息子がいるそうで、フーがザック・スターキーをツアーメンバーに雇っているようなものでしょうか(笑)。
聞いてみると非常にオーソドックスなロックサウンドのバンドです。私は1990年代以降の英米の若手バンドをほとんど聞いてませんから、プロミス・オブ・ザ・リアルが現在どういう位置づけにあるのかは見当がつきませんけど、音だけ聞くとクレイジー・ホースと区別がつきません(笑)。
実際、ヤングがクレイジー・ホースをバックに作った近作というと「Greendale」(2003)、「Americana」(2012)、「Psychedelic Pill」(2012)ということになりますが、感触は変わらないですね。

録音は古い映画館を借りて仮設スタジオに仕立てたようです。ボーナスDVDはレコーディングの様子を撮影したもので、全曲のフル演奏を見ることができます。
基本的に一発録りのようですね。メンバーによるバックコーラスなどのオーヴァーダビングもありますし、劇場のトイレにスピーカーを置いて反響音を録るなどのサウンドプロダクションは施してあるようです。ヤングは昔からこういったスタイルでの録音を好んだようで、音楽スタイルからもやはりスタジオでもライヴに近い演奏をレコーディングするのが一番ということなんでしょう。歌が上手い人だったらヴォーカルだけしっかりと別録音にするでしょうけど、ヤングにはそんなことは必要ありません(笑)。

■XTC White Music 1978
■XTC 3D EP 1978

だいぶ前に入手済みだったものですが、なかなか聞く機会がなくて放置してました。最近「Black Sea」のグリーンの紙バッグ付きを買ったことで思い出しLP棚から引っぱり出して埃を払いました。
これはXTCのファーストですね。私はパンク/ニューウェイヴには詳しくないので、ロックシーンにおける1978年というタイミングがどういうものかよくわかりませんけど、パンクからニューウェイヴに移行していく次期には違いありません。

それでXTCのこのデビューアルバム、一般的には名作と言われるほどのものではありません。最初に聞いたのはサードの「Drums and Wires」(1979)で、シングルの「がんばれナイジェル」のビデオをレコード店で見た記憶があります。
そのころのことを思い浮かべると、わが国においてはまだパンクとニューウェイヴの違いもはっきりしないまま、まさしく玉石混交の混沌とした売られかたをしていたような気がします。レコード会社自身がわけわからずやっていたような感じでしたね。

今回初めて聞いたXTCのファーストですが、もうかなりトンガってますねーパンクというよりニューウェイヴです。ディーヴォを思い出させるような雰囲気さえあり、これが新しさだと言わんばかりに変てこでエキセントリックな感覚を演じているようです。若気の至りというものでしょう(笑)。はつらつとしているといえば言えなくもないですね。
曲はアンディ・パートリッジとコリン・ムールディングがそれぞれ書いていて交互に並んでいます。ひきつったような感覚のもあるとはいえ、多くは曲自体はわりとポップなんですね。このへんすでにのちの姿が現れています。
一曲ディランの「All Along the Watchtower」を採りあげているのもへそ曲がりなところですね。当然ながら大幅にアレンジを変えてありますけど、これはあまりうまくいっているとは思えません。

XTCは初めからキーボードがいて、ファーストとセカンドではケヴィン・スペイシーみたいな人が弾いてます。この人どうして辞めたのか知りませんけど、演奏は上手いしビザールなプレイが得意なようです。サードからプレイヤーが替わってバンドのサウンドが変化したのかどうか、「Drums and Wires」がどんなふうだったのかを覚えてませんからまた聞き直しですね。
その前に聞くのがセカンドの「Go 2」です。これには日本盤には付いてなかったボーナスディスクがあって、これがダブアルバムなんですね。クラッシュが「ハマースミス宮殿の白人」を出した直後くらいですから、当時最先端のサウンドをさっそく採り入れたわけです。これがちょっと楽しみです。

ファーストと同時期に出した30cmEP「3D EP」もついでに聞きました。三曲入りでえらく短いし、曲の出来もまあ普通です(笑)。タイトルは単に三曲入りに引っかけただけだろうと思います。ジャケットデザインを赤青式のアナグリフィック3Dのように見せかけてありますが水平にずらしてないので赤青めがねで見ても立体にはなりません。
アナグリフィック3Dのジャケットアートというと、グランド・ファンクの「Shinin' On」が有名ですね。ジャケットの真ん中に赤青めがねを組み込んであり、買った人は切り離して立体写真を楽しむことができます。これを真似たのが荒井由実の「ユーミン・ブランド」ですね。他にはシックのナイル・ロジャーズのソロアルバムがあり、これは本物の立体写真です(グランド・ファンクのは平面写真を重ねてあるだけ)。クランプスも出してました。

■Grand Funk Railroad Grand Funk 1969

グランド・ファンクを好きか嫌いかと問われると答えに窮してしまうところがあります。ヒット曲で好きなのは何曲もありますし、アルバムも何枚か持っているし、トッド・ラングレンとフランク・ザパがプロデュースしたアルバムがあることでも知られていますから、とっかかりはいくつもあるわけですね。
しかし、なにかもうひとつ全面的に好きなバンドだと宣言するには気恥ずかしさを覚えるところがあり、私にとってはわりとビミョーなバンドです。この点ディープ・パープルと共通するものがあります。ではそれに決着を付けるためにはどうするかというと、ひととおり聞いてみるしかありません。

というわけでファーストから入っていってこれがセカンドアルバムです。1969年の暮れですね。早いですね。イギリスではレッド・ツェッペリンもセカンドを出した頃で、ディープ・パープルはまだ「イン・ロック」をリリースしていません。アメリカのほうはというと、マウンテンとカクタスがデビュー直前くらいです。

ファーストの「On Time」はセカンドのわずか四カ月前に出たばかりのもので、最初は売れなかったらしいんですね。それですぐに次のを出せってことになったんでしょう。ファーストには井上陽水が「傘がない」でパクったことで知られる「Heartbreaker」が入ってます。
サウンドはかなり激しいハードロックになってるんですが、録音が非常にクリアでいわゆる音圧に乏しい感じがします。極端なステレオミックスで、ドラムズとギターが完全に左右に分離しておりその間からヴォーカルとベースが聞こえてくるという、まだ60年代なんだなと思わせるところがあるし、アメリカのエンジニアはこの手のロックをどういうサウンドにすればいいのかまだよくわかってなかったのかもしれません。

これがセカンドになっても同じやりかたで作ってあります。ただファーストと違うところはベースの音にディストーションがかかってぐっと強力になってるんですね。ここでようやくメル・サッチャーのパワープレイがはっきり聞き取れるようになりました。すごいんですよ。
それでも各パートはきれいに分離していて、リヴァーヴもかけられていない素のままのサウンドですから、スタジオの録音ブースで汗を飛ばしながらプレイしている様子が目に浮かぶようです。ヴォーカルにもリヴァーヴがかかっていないしダブルトラッキングにもなってないので、リハーサルのテープそのままを聞いているような、かえって特異な印象です。

曲はどれもまずまずの出来ですね。ほとんどがマーク・ファーナーの作です。ブラック・サバスとは同名異曲の「Paranoid」や「Mr. Limousine Driver」が有名で、ハイライトとなるのがアニマルズのカヴァーの「Inside Looking Out」です。十分近くの熱演でまったくエキサイティングです。
しかしそれでもまだ当時のファンからは、ステージでの熱気をとらえきれていないというような見かたをされていたんじゃないでしょうかね。


■Electric Light Orchestra Live 2013

エレクトリック・ライト・オーケストラはジェフ・リンが何度か復活させています。いったん1986年に活動休止して以降リンはさまざまなアーティストのプロデュース業で成功します。
それから2001年になって突如として再結成しアルバム「Zoom」をリリース、ツアーも敢行しますがこれはいったん終了。その後またグループ名を冠したCDを2012年から出し始めます。

まずベストものの「Mr. Blue Sky: The Very Best of Electric Light Orchestra」が発売されるんですけどこれがなんと全曲新録音です。その次に出したのが今回聞いたライヴアルバムで、内容は「Zoom」ツアーのときの録音なんですね。続いてジェフ・リンズ・ELO名義で正真正銘新作の「Alone in the Universe」を2015年に出してます。たぶんこれで終わりでしょう。
ややこしいことに1989年には他のメンバーがリン抜きで独自に再結成したELOパートIIというバンドも短期間活動してアルバムも出してますから、事情を知らない人がアルバムのリストを見ると混乱するでしょうね。

それでこの二度目の活動再開ですが、実際にはほとんどリンが一人でやってます(笑)。新録音のベストものもソロアルバムと同様ひとりで多重録音して作り上げたものですし、「Alone in the Universe」も同様です。
ライヴ盤に関しては「Zoom」のときのツアーですからこの時点から十年も前の音源ですね。オリジナルメンバーのリチャード・タンディがキーボードで参加しておりチェロも二人いますから、最初の再結成はわりとちゃんとしたバンドを再編成したんですね。

そんなふうで二度目の場合はグループの再結成じゃありませんから、なにか疑問符が湧いてくる感じなんですよ。だいいちベストものとライヴ盤は大手からじゃなくて聞いたこともないようなマイナーレーベルから出ており、スーパーのワゴンセールで売っているようなパチもの的な雰囲気が漂っています(笑)。どちらもいつどこで録音したかというようなクレジットが書いてなくて怪しげな感じです。
ジャケットは例によってUFOのイラストで占められ、ステージの様子はすごく小さな写真がちょびちょびくっつけてあるだけですから、ライヴアルバムの体裁じゃないですね。

でまた演奏がまとまりが良すぎるんですよ。ライヴには違いないんだろうけど客席の歓声を消したらスタジオヴァージョンとほとんど変わらない感じなんじゃないですかね。このへん、最近のロックの生演奏全体に言えることですね。おそらくステージ上でも完全にコンピューターで制御され寸分の違いも無くプレイされる。スタジアムクラスの会場でもピタッと合った音が、これまたスクリーンの画像と時間差なく客席の隅々まで届くというところまでコンサートのテクノロジーは進歩したわけですけど、考えてみたらそれちょっとおかしいですよ(笑)。

まあなんだか愚痴ばかりになってしまってしょうがないですけどねーあまり面白くはないライヴ盤ですなというのが感想です。スタジオ録音の新曲が二曲ボーナストラックで付いてます。
順番で行くと新録音ベストをまず先に聞くべきところだったところを、なんだかがっかりさせられそうな気がしてライヴのほうを先に聞いてしまいました。もしかしたら新録音のほうは聞いてみたら良かったなんてこともあるかもしれません。

■五つの赤い風船 ゲームは終わり 1972

これがラストアルバムです。といっても解散コンサートのライブですから、記念品的な感じですけどね。LP三枚組というヴォリュームです。人気あったんですね。
ひとつのコンサートを収録したのではなくて、一枚目と二枚目が72年7月30日の「みおさめコンサート」、三枚目が8月31日の「追い出しコンサート」となってます。わりとお祭り気分です。まさかこの後もだらだらやってたわけじゃないでしょうけど。
「追い出しコンサート」のほうは交流のあったフォークシンガーたちが駆け付けて合同コンサートの様相です。山本コータローが式辞を述べ、続いて斉藤哲夫、中川イサト、加川良、さらに岡林や加藤和彦まで出てくるなどそうそうたる顔ぶれなのはさすがです。中川イサトはオリジナルメンバーですね。

ひとつ前の「ボクは広野に一人居る」(1972)もライヴだったんですね。これは初めてアメリカに渡ってコンサートツアーをしてきたときの記録で、当時アメリカでレコーディングやコンサートなど夢想だにしないような話ですから、レコード発売は当然と言えます。
ただ、最後にライヴ盤のそれも活動記録的な意味合いのものが続くとちょっと立つ鳥跡を濁すの感ありですね。実質的なラストアルバムは71年に二枚同時発売した意欲作「New Sky」と「Flight」ということになります。

コンサートの演奏ぶりはやはりというか、心なしか覇気がないんですね。西岡たかしの曲間の語りの部分では相変わらずの軽口で客席の笑いを誘うんですが、その口調からは少し白けたところが感じられます。
一曲目が始まると、なにやら講談の口上のようなのが聞こえてきます。ステージでは寸劇かなにかをやったんでしょうか。この語りと曲がオーヴァーラップするように編集してあるところが少し遊びがありますが、全体にはストレートに作ってあります。

■ニューエスト・モデル Senseless Chatter Senseless Fists 1988

デビュー盤の45回転六曲入りミニアルバムを聞いてみました。これはなかなかいいですね。演奏はタイトで力強いですし、ほぼモノラルのモコモコしたサウンドも自主制作らしくてかえっていいです。
曲はすべて中川敬が書いてます。単純な構成の曲ばかりですが、勢いがあって一気に聞かせます。ラモーンズとフーとクラッシュですね。パンクここにありって感じの不敵さがあって気に入りました。
このバンドもキーボードがいます。でもXTCとは違ってオルガンのプレイはあくまでアンサンブルを下支えするようなタイプで、音の塊の厚みを増すのに寄与しています。

バンドは同じ年にファーストフルアルバム「Pretty Radiation」をインディーズから出し、翌89年にキングからメイジャーデビューとなります。「Pretty Radiation」は当時買って聞いたんですけど、そのときはそれほど感心しないまましまい込んでました。久しぶりで聞き直してから、次に最近入手した「Soul Survivor」に行きますかね。

■タージ・マハル旅行団 一九七二年七月十五日 1972

このグループのことはまったく知りませんが、しかし日本のロック名盤ガイドの類には必ずといっていいほど採りあげられるアルバムなんですね。説明を読めば現代音楽で即興のライヴレコーディングであることはわかりますから、何度も聞くようなものではないだろうと想像はつきました。オリジナルのLPはやはりとても買えるような値段じゃありませんから紙ジャケCDで買いました。

でまあ、一回聞いてはいサヨウナラです(笑)。民族音楽系か神秘路線のどっちかじゃないかと想像していたところ後者のほうでした。なにかの映画のサウンドトラックにそのまま使えそうな感じです。
現代音楽といってもアカデミックなオーケストラ楽器で編成してあるわけではなく、六人のメンバーがいろいろな楽器を使って幻想的な音を作り出していきます。
ジャケットのクレジットにはエレキヴァイオリンやらヴィヴラフォン、トランペットなどそれぞれの担当楽器が書かれてはいますけど、おそらくステージでは全員がいろんなオブジェクトを駆使して演奏を繰り広げたものと想像できます。電子楽器はテルミンとは考えられないのでシンセサイザーだろうと思います。全員がエコーマシンを操作したように書いてあります。

ノイズといえばノイズという感じのフワーッというかモワーッというか、わりとゆったりと響き渡るサウンドを構築してあり、さながら薬物を介さないサイケデリック音楽という印象です。即興演奏だそうですが目茶苦茶にやっているようなところはなくて統制は取れておりちゃんと音楽になっています(笑)。けっこう心地よいサウンドといってもいいかもしれません。
それにしてもこの手の音楽は、たまに(五年に一度くらい)聞くというか接するぶんにはいいんですが、レコードとして繰り返し聞くようなものじゃないですよね。愛好家もいるんでしょうけど、どんな聞きかたしてるんでしょうかねー。このライヴ盤はレコードが擦り切れるくらい聞いたなんて人いるんでしょうか(笑)。





20170806

【先月買ったレコード・CD】

■Bob Dylan Triplicate 2017

初の三枚組です。内容は今回も、最近熱心に取り組んでいるスタンダード曲のカヴァーですね。三枚組とはいっても演奏時間はCD二枚に収まる長さですからいかにも上げ底です。しかしタイトルを「三つ重ね」としてある以上二枚組にするわけにもいきません(笑)。三枚それぞれにタイトルをふってあって十曲ずつ入っており、LPはサイド1からサイド6と記載されているのではなく一枚ごとにサイド1・サイド2となってますから、三つのアルバムをセットにしたという考えかたのようです。

近年のディランはもっぱら戦前のレコードのファッションを採り入れていて、古いコロムビアのレーベルデザインなどをよく使ってるんですね。そこでSP時代のアルバムの装丁を再現しようとして、無理やり三枚組という企画を通したんじゃないかと想像しています。レコード会社としてもなんといってもノーベル受賞者ですから、その意向を無下にするわけにもいかなかったんじゃないでしょうか(笑)。
CDのほうは4パネルのディジパックですが、LPのデラックスエディションがそのSPアルバム仕様になってるんですね。なかなか重厚感があって、手に持ってもずっしりときます。

多くの曲を集めたLPを「アルバム」と呼ぶ習慣は、SP時代にその起源があります。SPは25cm~30cmサイズで、収録時間は片面で3分ないし5分程度しかありません。つまりシングルレコードです。一枚で両面二曲入りという商品ですが、人気アーティストともなると多くの曲をまとめて聞くことができる組ものが発売されるようになります。
また交響曲やオペラなどの長尺曲をレコード化しようとする場合は、どうしても曲の途中で切ってパート1~パート2~とかけ替えていくしか方法が無いわけで、そのため大作になると八枚組だの十枚組だのといったサイズになっていきます。

それでその場合のパッケージの手法としてボックスセットというのもあったでしょうけども、より簡便に出し入れしやすいようにフォルダーをブック形式に綴じた形が一般的になります。これを写真アルバムになぞらえてアルバムと呼ぶようになったんですね。
媒体がLPに進歩して一枚に十曲以上入れることができるようになると、それまでのSPアルバムひとセット分がそのまま一枚に収録されてしまうことになり、呼び名も「一枚でもアルバム」というやや矛盾した表現が以後も通用していくことになったというわけです。

さてSPアルバムを再現したディラン新作のLPデラックス版です。左側に綴じしろがありますから少しだけ横長になってます。ほんとはディラン先生、12インチシングルの十枚組でアルバムにしようかなどと当初は考えたに違いありません。しかしそれではちょっと酔狂に過ぎますよね。あるいは10インチ盤の四枚組? いいですね。しかしそれでもやはりコスト面で折り合わないと思われます。となるとどうしてもLPにせざるを得ない。今ならアナログ盤人気でLPの需要はある程度見込めます。

でもそうなると二枚組にしたとしても、わざわざSPアルバムのバインダーを再現するには不足です。最低でも三枚は必要でしょう。内容はスタンダード集だから三十曲くらいレコーディングするのはわけありません。でもCDなら二枚組になってしまい、その流れでLPも二枚組でいいだろうとレコード会社から寄り切られかねません。
そこで、そうだタイトルを「トリプルなんとか」とかにしてしまえばいい、それならレコード会社も三枚組にせざるを得んだろうというようなことを思いついたんじゃないでしょうか。素晴らしいです(笑)。

■Jim Capaldi Oh How We Danced 1972

これまでトラフィック以後のジム・キャパルディはまったく聞いてませんでした。しかしこの前キャパルディのトリビュートコンサートのライヴを聞いて、なかなかいい曲があったりしたので気になりだしました。
ソロのディスコグラフィを見ると、ファーストからサードまではトラフィックと並行して出しており解散後の活動というわけでもありません。そのうえバックのメンバーはほとんどトラフィックと同じ状態ですから、今まで聞いてなかったことがそもそも間違ってました。

さっそくオークションをチェックすると、タイミングのいいことにファーストの当時の日本盤が千円くらいで出ていて速攻ゲットです。70年代くらいからのロックのアルバムは、どちらかというと日本盤のLPのほうがいいですね。製品としてきちんとしているし、なにより盤の状態のいいものが多く残ってますから。私はオーディオ的な面にはあまりこだわりが無いので、埃や傷のノイズさえ無ければいいというほうです。

この「オー・ハウ・ウィー・ダンスト」はキングレコードで、ちゃんとダブルジャケットになっておりレーベルもピンクのパームトゥリーアイランドです。歌詞はもともと裏ジャケットに「サージェント・ペパーズ」みたいに掲載してありますから、インナーは解説と日本語訳詞ですね。帯は付いてませんけど私は気にしません。アーティスト名は「ジム・キャパルディとトラフィック」になってますよ(笑)。

セカンドとサードもイギリス盤がわりと手ごろな値段で出品されてますが、日本盤が出るのをしばらく待ってみることにします。

■Alice Cooper Goes to Hell 1976

アリス・クーパーは代表作は持ってますけど、やはりひととおりは聞いておこうとファーストから聞き始めました。まあとりあえず70年代までのものでいこうということになると、観音開きジャケットで有名な78年の「Fron the Inside」までですね。
中古盤は潤沢に市場に出回ってますから、それまで持っていなかったものも買い集め始めればすぐに手ごろな値段で揃いました。

ただし76年の「地獄へ行く」がなぜかなかなか入手できなかったんですね。あまり売れてなかったアルバムなのかもしれませんし、こちらとしては五百円くらいまでしか出す気はありませんから意外と難関でした。
オークションにはときどき出てきますけどけっこう高めの値段が付くんですよね。私としては日本盤でなくてもいいくらいで、80年代プレスのアメリカ盤で充分という感じです。

そうやって一年以上探し続けてましたが、ようやくオークションに百円で出品されました。US盤のカットアウトですから、こちらの望んだとおりのものです。果たしてこれが複数の入札があり、結局予算オーバーしましたけどもういいやって感じで千百円で落札することができました。
レコードはたぶんWEA盤もあると思うんですがそこまではいってなくて、ベージュ地の上部にWBロゴが付いているレーベルです。ヤシの木通りのレーベルの初期プレスではありません。

■ニューエスト・モデル ソウル・サヴァイヴァー 1989

最近になって自主制作のファーストミニアルバム「Senseless Chatter Senseless Fists」(1988)を入手しました。そうなると持っていないのはメイジャー移籍第一弾の「ソウル・サヴァイヴァー」だけってことになるんですね。
時期的にレコードからCDへ移行していたころです。この次のアルバム「クロスブリード・パーク」(1990)は当時ちょっとした話題になりましたから二枚組LPを買いました。CDも同時発売されてましたけど、ほおまだLPも出すんだ、と少し珍しい気持ちもあって買ったものと記憶しています。

それでこの「ソウル・サヴァイヴァー」を新たに買おうということになると、これだけCDってわけにもいきませんよね(笑)。「クロスブリード・パーク」をCDで持っていたとすればもちろんCDでいいわけですが、そうではありません。
しかしこれがLPとなると今となってはなかなか。一万円以上でオークションに出品されているものもあるにはあるとはいえそこまでして欲しいものでもないしで、長期戦を覚悟していました。

少し前に安い価格でスタートしたLPがあって、様子を見ていたら結局六千円くらいまで上がったんですね。うーむ六千円が相場か…と悩むことしきりです。
そして先月、千円スタートのLPがまた出品されました。これは帯が付いてませんからちょっと狙い目です。少し奮発した結果、四千八百円で買うことができました。ちょっと高いですね。まあしかたありません。

■Elvis Presley Girls! Girls! Girls! 1962
■Elvis Presley Fun in Acapulco 1963
■Elvis Presley Girl Happy 1965

とうとうサントラものに手を出してしまいました(笑)。エルヴィスのサウンドトラック盤は、最初の「Loving You」(1957)と「King Creole」(1958)は重要アルバムとして、続く「G.I. Blues」(1960)、「Blue Hawaii」(1961)あたりまではなんとかオリジナルアルバムとしての体裁は保っている感じです。
しかしこれ以降のものはいずれも安易な作りのスーベニア的な性質のレコードばかりのようで、その音楽の質についてはまともに語られることはまず無いようなものでした。これが60年代を通じて続き、全部で十数枚出ています。

1992年から95年にかけて発売されたエルヴィスのCDボックスセットがあり、50年代・60年代・70年代と区切って「The King of Rock 'n' Roll: The Complete 50's Masters」と「From Nashville to Memphis: The Essential 60's Masters」、さらに「Walk a Mile in My Shoes: The Essential 70's Masters」という素晴らしい内容の決定版アンソロジーになっています。
この60年代篇には、サントラものから出来のいい曲だけピックアップした「Command Performance」という二枚組も追補篇として出ています。私としては、この二枚組があればサントラ盤は制覇したも同然、くらいに考えていたわけです。いや今でもそうですが(笑)。
しかし、サントラ以外のものをLPとしてひととおり集めてしまうと、サントラったってせいぜい十何枚くらいか…とだんだんこれが視野に入ってきて、ものはついでだと勢いに乗ることにしました。これでまたしばらくは楽しめそうです。

しかし集めてみようとするとこれは意外とハードルは低くないんですよね。こちらとしては予算を割くつもりは毛頭ありませんから、一枚あたり五百円くらいで買えるならって感じです。
ところがそうやってオークションなどを見ていると、サントラものはそもそもあまり多くは出品されていませんし、あっても当時リアルタイムで出た日本盤がわりと多いんですね。これはいわゆるペラジャケというやつで、当時は厚手のアート紙でジャケットが作られていて、イギリスのLPと比べるとちょっと安っぽい手応えのものです。
ところがこのペラジャケLPはけっこうマニアに人気のようで二千円以上にまでなることはざらですし、帯が付いていようものならものによっては一万円超えです。冗談じゃないって感じです。

まあそもそも音源としての価値を求めているわけではありませんし、ついでに勢い余って集め始めただけなので、この時代のペラジャケものでも、もし安く手に入るようならそれでもいいか…と考えを改め、オークションのチェックを始めました。でもやはり希望通りのものはめったに出ないんですね。私としては80年代プレスのUS盤でもいいくらいですが、これは逆に日本市場ではまず見ません。eBayでサントラ盤のセットセールでも出れば意外といいかもしれませんけども、送料はかなりかかるはずです。

そんなわけで気長に行こうという気持ちで取り組み始めた矢先、三枚のセットセールが出ました。いずれも日本ビクターのSHP5000番台です。帯無しでこのうち一枚にはジャケット隅にパンチ穴があけられているというところが嫌われたか、あまり高値にはならずに二千円で買うことができました。
届いてみたらなかなかコンディションは良くて、懸念していたジャケットの色あいも非常にいい感じです。写真は鮮明で、だいぶ修正は施してあると思われるもののその仕事ぶりがとても丁寧で見事な仕上がりです。70年代以降のRCAビクター/RVCの再発盤の製版はそれはひどいものですから、こっちのほうがずっといいことがわかりました。
ただし裏ジャケットはすべて日本語ライナーに書き換えられていて、オリジナルデザインは完全にオミットされているというところが残念ですね。

ところで、三枚のうちペラジャケではないものがあったんですよ。「フロリダ万才」の邦題の「Girl Happy」は、のちの一般的な日本盤LPでスタンダードとなる厚手のボール紙のタイプよりもさらに厚い紙が使ってあるんですね。表面は上質の光沢アート紙を貼りつけてあります。ペラジャケとばかりは言えなくなってきました。
もうひとつ、これは買ってから気がついたんですがその「Girl Happy」、なんとこれジャケットデザインが日本独自のものだったんですねー。たしかにオリジナルのアメリカ盤のジャケットは今ひとつパッとしない感じではありますけども。困った(笑)。


20170730

【今月聞いたレコード・CD】

■Bob Dylan and the Band The Basement Tapes Complete 2014

ブートレッグシリーズの本丸ともいえる音源がついに登場、と大きな話題となったセットです。なにしろブートレッグすなわち海賊盤が初めて世の中に出てきたのは60年代の終わりですが、そのきっかけとなったのがこのいわゆるベースメント・テープス・セッションズなわけですからね。
ビートルズ同様過酷なコンサートツアーに疲れて隠遁生活に入った1967年のディランが、レコード発売を前提としない自宅やビッグピンクでのセッションを録音、これが大量のテープとして残されました。家庭用のテープレコーダーで録ってあるんで音は良くないものの、このコピーを入手した人物が勝手にレコード化して裏ルートで売りだしたのがかの有名な「Great White Wonder」です。

当時すでに、引きこもっていた時期にデモ録音をしていたらしいということはファンの間でも知られていました。というのもこのときのデモを元に出版登録したディランの新曲が多数のアーティストによって採りあげられていたんですね。マンフレッド・マンの「マイティ・クイン」が大ヒットしたほか、ジュリー・ドリスコールやイアン&シルヴィア、ピーター・ポール&メアリー、バーズなどなど枚挙にいとま無しです。
いずれもディラン自身のレコードとしては未発売でしたから、当然ファンはオリジナルヴァージョンを聞きたいということになってきます。しかし当の本人はもう次の段階に移行していて、他のアーティストが歌った曲の再レコーディングなどするわけがありません。

そこでレコード会社は「話題のレア音源集」を海賊盤対策として発売できる状態にするため、ロビー・ロバートソンにテープの編集を命じます。おそらく条件として、自分たちの曲もこっそり混ぜてもいいよということになったんじゃないでしょうか。
その結果できあがって1975年に発売されたのが二枚組の「The Basement Tapes」で、正規盤としてベースメント・テープス・セッションズを垣間見ることのできる音源は長らくこれだけでした。
しかし実際にはロバートソンはオーヴァーダビングや音質の加工を大幅に施し、さらには自分たちの曲(ディラン不参加)はベースメント・テープス・セッションズからのものではないまったくの新録音だったりと、かなりオリジナルに手を加えます。

そういう経緯がありますから、「本当の本物」であるベースメントテープスがいかなるものだったのかはよくわからないまま、ファンにとっては依然としてさまざまな形でリリースされ続ける海賊盤のみがソースだったわけです。
1991年に出たディランのブートレッグ・シリーズ第一弾で何曲かだけお披露目されていたので、やがて全貌は明らかになるのではないかと思われていたところ、いよいよ2014年になって発売されたこのシリーズ第十一弾、そのコンプリートボックスセットはCD六枚組というヴォリュームになりました。曲として聞けるレベルの演奏はすべて入っているらしいです。

当然ながらオーヴァーダビングを排した素の音源ですから、ドラムズも入ってないようなテイクも多かったりして本当にデモ録音そのものですね。いちおうほとんどはステレオで録られていますが、音質面では正規発売できるレコードのレベルには達していません。
ほんとはここで、しかしながらディランの生の魅力が堪能できる最高の録音集だ…と言いたいところなんですが、まあはっきり言ってそこまでのものではありません(笑)。たしかに資料的価値という意味では世界遺産級といいますかノーベル賞級といいますか。まあこれはすごいものには違いありません。
これ以降のロックの世界の流れを大きく左右するほどのきっかけとなったセッションであることもまた事実であり、最大級の価値を持った記録であるのは確かです。

ただ、音楽として、レコードとして聞いてみてこれがエキサイティングかそうでないかというと、まあーこれがなんともビミョーといいますかね(笑)。実際、ディランもまだ方向性を手探りしている状態のようで、ホームレコーディングということもあって和気あいあいとしたユルさもあるし、でもやっぱりピリッとくるところもあるしで、玉石混交です。しかしその後のロックの原点回帰の流れの発火点がここだったのかと思うと、ファンとしては感慨があるってものです。
その意味では、ひとつ前に出た「アナザー・セルフ・ポートレイト」(2013)のほうが、目指すところがはっきり見えてきて確信をもって演奏しているのがわかり、ずっと聞きごたえがありました。

数カ月にわたったベースメントテープスセッションズの最中に一時現場を離れて、ザ・バンドとはまったく違うメンバーで製作したのが「ジョン・ウェズリー・ハーディング」(1967)です。探求半ばでの最初の成果というところですね。ところがベースメントテープスセッションズではこのアルバムの収録曲をまったく演奏してないんですよ。ニューヨークからナッシュヴィルに単身移動して三日で作ったアルバムだというからすごいです。いつ曲を準備したんですかねー。
1967年といえば時代はまだサイケデリック真っ只中。そこにあろうことかカントリー音楽とのミクスチュアを試みたディランの大胆さは驚くべきことです。それがものになるかどうかをビッグピンクでのセッションで試行錯誤していたわけですね。やっぱりこの人の展望するところは常人とはかけ離れています。

■Released!: The Human Rights Concerts 1986 A Conspiracy of Hope 2013

国際人権団体でNGOのアムネスティ・インターナショナルが主催して1986年に開催された大規模なチャリティコンサートのライヴです。アムネスティはロックアーティストとのつながりが深くて、シークレット・ポリスマンズ・ボウルというチャリティイベントでも知られています。
この86年のコンサートは同時期にあったライヴ・エイドなどとも比肩されるもので、本当に破格な出演者たちのパフォーマンスがこれでもかというくらい収録されています。なんとこのCD、日本盤のみボーナストラックが三十六曲も追加されて五枚組というヴォリュームになってるんですね。
オリジナルの欧米盤は二枚組で三十二曲入りですから、なんでまた日本盤だけそんな大盤振る舞いになったのかよくわかりませんけども、ボーナストラック付きというよりはもう完全にエクスパンデッドエディションです。

おかげでルー・リードが当日演奏した六曲をすべて聞くことができます。それだけでも日本盤の価値は大きいのに、ジョニ・ミッチェルやジャクソン・ブラウン、ジョーン・バエズとネヴィル・ブラザーズ、ピーター・ゲイブリエル、U2、さらにこの日のために再結成したポリースなど、ほとんどのアーティストの演奏が数曲ずつ追加されていますから、このアルバムは聞くとしたら日本盤じゃないとちょっと意味ないって感じです。ヨーコ・オノは日本盤のみ収録で、「Walking on Thin Ice」が入ってます。

演奏はさすがに一流アーティストらしく熱のこもったものです。やっぱりチャリティイベントとなるとこの人たち、俄然張り切るんですね(笑)。ピーター・ポール&メアリーは元気な歌声を披露してますし、ギター一本で堂々と歌うジョーン・アーマトレイディングもなかなかいいです。
ディスク2はジャクソン・ブラウンが六曲で倍増です。私はブラウンはあまり好きなアーティストというほどではなくて、スプリングスティーン同様その真価に(おそらく)気づかないまま来てました。いちおうひととおりのアルバムは聞いたんですけどね。しかしこのライヴを聞くと、優男ふうの風貌からはイメージしにくい強靭なメッセージの主張が感じられました。ブラウンもまた改めて聞き直したいものです。

次のディスク3が聞きごたえ満点です。ジョニ・ミッチェルが一曲プラスで二曲収録。もっと聞きたかったですけどね。続いてフェラ・クティがネヴィル・ブラザーズやカルロス・サンタナとジャムを二曲演じるんですがこれもすごい。
クティはディスク2でもルベーン・ブラデスのステージにサンタナと共に加わって、サルサ+メキシカン+アフリカンというクロスオーヴァージャムを演じていますし、サンタナはマイルズ・ディヴィスの演奏にも飛び入りして三面六臂ですね。こういったジャンル横断のセッションが繰り広げられるところもこのコンサートの素晴らしいところです。マイルズ・ディヴィスはもう完全にファンキーです。

ハイライトがジョーン・バエズなんですね。フェラ・クティからの流れでネヴィル・ブラザーズがそのままバックアップしますから演奏はファンクネスあふれるものです。まず初めにバエズの独唱で「時代は変わる」。いきなり震えるほどの感銘を受けるような力強いパフォーマンスで、やはりこの人凄いんですね。ネヴィルズが加わると、意外な選曲でティアーズ・フォー・フィアーズの「シャウト」のカヴァーです。これもかっこいいし、次の「ノー・ウーマン・ノー・クライ」、「レット・イット・ビー」、「アメイジング・グレイス」と続きいずれもカヴァー曲を歌います。自分の曲を採りあげるよりも、メッセージを訴えるためにそうしたんだと思います。
ディスク3の締めくくりがルー・リードのフルステージ。「Mistrial」のときのバンドで、ベースはフォルナンド・ソウンダーズです。なにかこういったチャリティイベントとリードはあまり結びつかないというか、どうもピンとこないですよね。でも熱演なんですよやはり。

このライヴ盤は当時は発売されなかったんですね。やはり権利関係が難しかったんでしょう。ズバッと全アーティストが全収益を寄付というような「ウィー・アー・ザ・ワールド」みたいなわけにはいかないでしょうね。そういえば「ライヴ・エイド」もリアルタイムでレコード化されたわけじゃありませんでしたね。
それが2013年になって、アムネスティコンサート関連のCDやDVDがシリーズで何種類か発売されました。1988年の「ヒューマン・ライツ・ナウ」というイベントから二十五周年という記念の年に、当時の業績を総括しようという動きになったようです。

■Robbie Robertson How to Become Clairvoyant 2011

五枚目のソロアルバムです。前作からは十三年ぶりという久々のもので、これは現在も最新作です。
今度のも実に渋いロックアルバムになっていて、いいですね。三作目の「Music for the Native Americans」(1994)や前作の「Contact from the Underworld of Redboy」(1998)ではけっこうプログレッシヴな方向性を見せてましたけど、今回はストレートな大人のロックという感じで、ファーストとセカンドにちかい感触です。

ひとつ特筆されるのがクラプトンがゲストで参加していることです。三曲をロバートソンと共作しており演奏にも七曲参加してますから、単にゲストというにとどまらず全面バックアップに近いですね。デュエットもしてます。
しかしロバートソンとクラプトン、仲良かったんですね。ちょっとピンときませんけども。「ラスト・ワルツ」に出演はしていたとはいえ、あとなにかつながりがあったかなあと思い起こしても他の共演は知りません。
面白いのは三曲ある共作曲ですね。これがもうほとんどクラプトン節で(笑)。当初は発表の目的なく二人でデモ録音だけしたのが、しばらくして聞き直したら意外と良かったので採りあげることにしたというようなことをロバートソンは語っているそうです。クラプトン色の強い曲になったんでお蔵入りさせるつもりだったのが何年か経ったら気が変わったということでしょう。
スティーヴ・ウィンウッドも三曲でオルガンを弾いています。

ロバートソンは相変わらず歌はぜんぜん上手くないですけど、そう感じさせないような歌いかたを工夫していて、ソロアルバムの成功はその部分が大きいように思います。バンド解散後は期待されたソロアルバムをなかなか出さなかったというのも、そこをどうするか苦心したんだろうと思います。
過去の偉大な業績のわりにはあまり目立った活動ぶりではなく話題作があるわけでもありません。しかしいずれのアルバムも聞きごたえのある力作であり、外れはありません。

■Jimi Hendrix Hendrix in the West 1971 Expanded Edition 2011

内容を少し差し替え十一曲入りに拡張してエクスペリエンス・ヘンドリクスが再発売したものです。元はヘンドリクスの死後にいろいろ出された編集盤のひとつなんですが、バンド・オブ・ジプシーズを除けば初めてのライヴアンソロジーとして待望されていたうえ演奏も良かったために、名盤として知られていました。死後の各種アルバムは粗製乱造されたせいで評判のいいものは他にほとんど無くて、こうしてエクスペリエンス・ヘンドリクスがエディー・クレイマーにリマスターさせて再発売したのはこのアルバムくらいじゃないでしょうか。
もう一枚、死後に出た編集ものでは「Cry of Love」も名作として有名で、これもいちおう数年前にリイシューされてはいます。ただしこのアルバムの全曲は「First Rays of the New Rising Sun」(1997)にすでに収録済みです。

さて内容を少し替えて、というのはどういうことかというと、元のLPは八曲入りで三カ所のコンサートからの音源を集めたものでした。これに単純に三曲加えて十一曲入りにしただけというわけでもないんですよ。
このアルバム、もとの八曲のうちLPのジャケットにサンディエゴだとクレジットされていた二曲は、実はロイヤル・アルバート・ホールでの演奏だということが後に判明しました。このへんどうやら権利関係が複雑で、ロイヤル・アルバート・ホールのライヴは記録映画も存在するためポリドールはレコード化できなかったみたいなんですね。それでわざと間違えたふりして別の場所とクレジットしたのかそれともほんとに誤記なのか、そこは定かではありません。

それで結局ロイヤル・アルバート・ホールの「Little Wing」と「Voodoo Chile」が差し替えになったわけですが、もとのLPに親しんだファンからはオリジナルとは似て非なるものというそしりを受けることとなってしまいました。二曲ともサンディエゴになったのではなく、「Voodoo Chile」はサンディエゴですけど「Little Wing」はウィンターランドです。サイディエゴでは「Little Wing」やってないんですね(笑)。
腑に落ちないのは、ロイヤル・アルバート・ホールのソースが依然として使えなかったかというとそうでもないはずだというのが、2000年にエクスペリエンス・ヘンドリクスから出た紫色の四枚組ボックス「The Jimi Hendrix Experience」にはちゃんとこの音源が入ってるんですよ。おかしいですよね。このボックスのみ収録を許可するというような契約だったんでしょうか。

しかし、似て非なるものといえば確かにそうなんですが、2011年版がぜんぜんダメかというともちろんそんなことはなくて、ヘンドリクスのライヴ音源からピックアップしたものですから演奏はいずれも素晴らしいです。「Little Wing」のほうはウィンターランドでの演奏はほんの少しだけテンポが遅くて、若干もたついた感じがするのは確かですね。ロイヤル・アルバート・ホールの「Little Wing」はもう完璧です。まあそりゃオリジナルLPを繰り返し聞いたという人にしてみれば、同じタイトル・ジャケットで出すなどとても納得のいくものではないでしょうけどね。
私としては、リイシューのしかたとしてちょっと中途半端な企画になってしまったなという感じがするんですね。実際、買ってみてちょっと失敗したなと思ってるところなんですよ。というのも、いろいろ調べたり聞き比べたりした結果、未発表音源は無くてすべてこれまで持っていたCDに入っているものばかりだったからです。

それぞれの曲についてチェックすると、(1)「The Queen」と(2)「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」の二曲はワイト島で「Blue Wild Angel」(2002)に入ってます。
(3)「Little Wing」はウィンターランドで同名の2011年盤から。
(4)「Fire」、(5)「I Don't Live Today」、(6)「Spanish Castle Magic」、(7)「Red House」、さらに(11)「Voodoo Chile」はサンディエゴで、1991年に出た四枚組ボックス「Stages」の一枚にすべて収められています。これは69年5月24日のコンサートで、「In the West」2011年盤のジャケットには5月25日と書かれていますが間違いで同一録音です。ただしリマスターによって音質は格段に良くはなってます。
残りの(8)「Johnny B. Goode」、(9)「Lover Man」、(10)「Blue Suede Shoes」はバークレイです。(8)と(10)が紫ボックスに、(9)が「Live at Barkeley」(2003)に収録されています。

というわけで、私にとってはサンディエゴがリミックスとリマスターで音が良くなっただけということになり、ちょっとがっかりですね。こういう形で出すくらいなら、早くなんとかしてロイヤル・アルバート・ホールの完全版をきちんと出してほしいものです。これはすべてのヘンドリクスファンが求めていることでしょう。

■Bonzo Dog Doo-Dah Band Pour L'amour Des Chiens 2007

実に三十五年ぶりの新作ということで祝着です。こんなのが出ていることをついぞ知らず、最近CDを入手したばかりです。
再結成ものというと、オリジナルメンバーのほとんどいない空虚なリユニオンだったりすることがありますけど、このアルバムは現存するメンバーがすべて揃っているという稀有な例ですね。ただ実に惜しいことに創始メンバーで重要人物だったヴィヴィアン・スタンシャルが1995年に亡くなってますからフルラインナップではありません。

しかし聞いてみるとなかなか力作になっていて、往年のボンゾズ流を彷彿とさせるしゃれのきいた楽しいアルバムです。こちらは英語がわからないんでその半分も意味がわかってないわけですけどね。イギリス人にしか理解できないネタも豊富に含まれていると思われます。
なんといってもスタンシャルと双頭ともいえるリーダーのニール・イネスが老いてなおかくしゃくとしていますから、急ごしらえのレコードという感じがしません。イネスはずっと現役で活動しているので、やはりイネスが中心となってまとめたものと思われます。

基本的にボードヴィル調のサウンドですね。複数の管楽奏者を含むメンバー構成ですから、おのずと普通のロックバンドとは違うテイストです。ブラスをフィーチュアした曲はけっこうな迫力です。
ところがそこはボンゾズですからわけのわからない曲が突然始まったりします。パンク調の「I Predict a Riot」というハードな曲は作者名に見覚えがないので調べてみたら、カイザー・チーフスという最近のバンドのカヴァーでした。
かと思うとロジャー・ラスキン・スピアーの「My Friend's Outside」はなんとテクノポップで、これ見よがしに電子ドラムがピコピコ鳴ったりしています。ライナーノーツを見ると、我々は80年代にまったく活動していないのでもし当時バンドが続いていたらこんな曲をやったであろう…といったようなことが書いてあってまったくふざけています。

一方でイネスの曲などは、普通にいいメロディのものも少なくなくて、さすがという感じです。レッグス・ラリー・スミスも小品の「Sweet Memories」を提供してますし、スタンシャルの未発表曲「Now You're Asleep」も採りあげてあるなど、昔からのファンへの目配りが利いています。
ブックレットの初めに「もしこのディスクを見てなにかずいぶん小さいんじゃないかと思ったアナタ! これはCDというものです」という注釈が付いているからケッサクです。
リミテッドエディションはDVD付きで、再結成コンサートの模様とインタビューで構成されています。ライヴは十曲くらいで、ほとんどコメディショウですけど演奏はいいです。

■Downliners Sect The Sect 1964

イギリスのビートバンドのうちカルトな人気があるののひとつです。まあはっきり言ってこりゃカルトだわなという感じです(笑)。しかし耳を澄ませてきちんと聞いてみれば演奏はしっかりしてますしカヴァー中心の選曲も悪くないです。64年ということを考えれば水準以上の出来といえるでしょう。EMIコロムビアですから録音もけっこう良くて、キンクスのファーストなんかより数段いい音してます。

ただ決定的なのがヴォーカルの弱さです。メインのシンガーはちょっとデイヴ・デイヴィーズに似た感じの耳障りながなり声で、これがなんというか今ひとつやる気があるのか無いのかよくわからないところがあって、褒めていいものかどうか躊躇してしまいます(笑)。その点を除けばローリング・ストーンズのファーストとほとんど変わらない雰囲気といっていいほどです。
ブルーズやリズム&ブルーズ好きが高じてバンドを始めたというよりは、なんか最近人気があるロックバンドをやると女の子にもてるらしいぜ、というようなノリで刹那的にこの世界に飛び込んできたというようなやくざな感じがありますね(笑)。

私の持っているLPはごく新しい再発盤で、マンスターというスペインのリイシューレーベルが出したものです。220グラムヴァイナルのずっしり分厚い盤で、それはいいとしてもジャケットのリプロダクションがひどくて、見かけはほとんど海賊盤まがいです。
いちおうファーストアルバムのデザインを再現してはあるんですが、色は悪いし写真はモアレが出てるしで。このへんラテン民族の国民性でしょうか。

■Santana Welcome 1973

サンタナはこれまで断片的にしか聞いてませんでした。アルバムはファーストとセカンド、それに「キャラヴァンサライ」くらいしか聞いてなかったんですね。まああまりそれ以上の興味も持てずに終わっていたというわけですけど、ここ最近になって70年代までのものくらいは聞いておこうとひとつひとつ進めているところです。

この「ウェルカム」は、1972年の代表作「キャラヴァンサライ」の次作にあたります。その間にカルロス・サンタナとジョン・マクラフリンの共作名義のアルバム「Love, Devotion & Surrender(魂の兄弟たち)」が出ています。この頃すでにこの二人はなにかの新興宗教にはまっていて、邦題はそれを意味してるんですね。
サンタナはどこの中古レコード屋でもかなりの枚数の在庫があって、幅広く売れていたことを示しています。CBSソニーも力を入れてましたからね。そのため私も聞いていないアルバムでもジャケットだけは飽きるくらい手にしています。

しかし、この「ウェルカム」はあまり印象に無いんですよね。シンプルな文字だけの白いジャケットなので単に記憶に残っていないだけなのかもしれません。それに、さまざまなレコードガイド本の類でも採りあげられることはないため、イメージとしては取るに足らない泡沫アルバムという感じを抱いてました。
ところがいざ聞いてみると、非常に聞きやすいサウンドで悪くないんですね。また、どこかで聞いたことのある曲が入っていて、それが大ヒット曲かというと曲名を見ても知らないというような、なにかちょっと不思議な既視感を覚えるところがありました。
聞いたことのある曲というのが「Love, Devotion & Surrender」と「Samba de Sausalito」です。前者は前作のマクラフリンとの共演盤のタイトルですけど、そのアルバムには入っていない曲です。

サウンドは全体にソフィスティケイテッドで、ハードな演奏もあるもののファーストのようなぐいぐい押してくるファンクではありません。
曲はインストゥルメンタルが中心です。何人かのシンガーが交代で歌うヴォーカル曲が何曲か入ってます。「Samba de Sausalito」を除けばすでにメキシカンロックという感じは薄れていて、ジャズ的な感覚を漂わせたフュージョンテイストです。
厚みのあるバンドアンサンブルとファットなディストーションギターによる熱いロックサウンド、でもハード過ぎずけっこう耳に心地よい…というような、それまでにはあまり無かったタイプの音楽だったんじゃないでしょうか。特にサンタナファンというわけではないリスナーからも、BGM的な聞きかたをされていたのかもしれません。

この次はいよいよ武道館公演を収めた「ロータスの伝説」です。横尾忠則がデザインしたとんでもないジャケットで有名な三枚組ライヴですね。楽しみです。

■古井戸 オレンジ色のすけっち 1972

これはセカンドですね。ダブルジャケットに入った一枚ものですが、どういうわけか十五曲も収録されていて五十分以上あります。二人でそれぞれ曲を作ってますからストックがたくさんあったんでしょうね。
出来のいい曲をたくさん使ったファーストと同じ年に続けざまに作られてますけど、比べてもさほど遜色のない感じで、物足りないことはありません。ただ演奏は必要最小限くらいのシンプルさですから、やはり「さなえちゃん」の大ヒットを受けてとにかく新作を早く出せとチャチャッと制作されたアルバムのようです。

どちらかというと仲井戸麗市の曲のほうがキャッチーなメロディを持っていて、シンガーの加奈崎芳太郎が書く曲は節まわしを重視しているように思えます。仲井戸の「ポスターカラー」がいいですね。
一曲、仲井戸と忌野清志郎が共作した「バスケットシューズ」はまさにこの二人による曲というメロディになっていて面白いです。前作に比べて仲井戸のヴォーカル曲が増えています。


20170702

【今月買ったレコード・CD】

■Rolling Stones From the Vault Extra: Live in Japan Tokyo Dome 1990.2.24. 2017

先月リーズのを買いましたけど、最新盤が中古で手ごろな値段で出たのでさっそくゲットです。日本のみ発売というふれこみの、DVDとCDのセットです。ブルーレイディスク版は発売されてません。というのもこのライヴ、テレビ放送用に撮影された1990年2月26日のその前の公演を収めたもので、放送本番に向けてのカメラテスト映像だということです。そのため画質が良くなくてVHSで見ているようだという声があります。いや私もまだ見ていないので確認してませんが。まあそれでも正規リリースされて日本語字幕。解説も豊富とのことなのでいつか見てみることにします。

■Pretty Things Live at Rockpalast 2014

ロックパラストのシリーズでプリティ・シングズのがマーケットプレイスに安く出ました。これはDVDとCDのセットになっていて、DVD二枚・CD一枚ですね。
ビデオは合わせて三公演が収録されています。1998年、2004年、2007年とわりと最近のライヴです。CDは98年の分が全曲収録されています。

■Elvis Presley Pot Luck 1962

エルヴィスのLPはサウンドトラックものを除けばあと数枚でひととおり揃うというところまできているんですが、意外と安く出ているものが無くて停滞しています。あとは「Elvis Is Back」(1960)と、サントラではありますけど「G.I. Blues」(1960)があればいいかな…と思っていたところが、ディスコグラフィをよく見てみたら「Somethinf for Everybody」(1961)と「Pot Luck」の二枚はオリジナルアルバムであることに気づきました。ジャケットの風情からしててっきりサントラだとばかり思ってたんですね(笑)。

で、今回オークションに出ていたのが日本盤LPで、RVPナンバーの77年再発盤です。このとき出てたんですね。この新しいRVC盤は私はわりと好きで、裏ジャケットはオリジナルどおりの英語表記で復刻してあり、背文字も英文です。表のデザインは色があんまり良くないとはいえ、我慢できる範囲です。
RVP6000番台以前のエディションは背文字が縦書きの日本語表記だったり、さらに古いいわゆるペラジャケ盤になると裏ジャケットが日本語解説になっていますから、こんなの嫌なんですよね。

■休みの国 Fy Fan 1989

URCから発売された休みの国のファーストは、岡林信康とのカップリング盤つまりLPの片面だけというものです。その後企画されたフルアルバムは結局当初予定されていた内容ではない形で1972年に「休みの国」というタイトルで発売されます。ラクダのジャケットのがそれで、新曲五曲とファースから一曲削った七曲を混ぜた内容です。本来は新曲ばかり十一曲で「Fy Fan」というタイトルで出すつもりだったものが、レコード会社が独自の采配で上記の内容の編集盤として発売してしまったといういきさつです。

その後、1989年にキティがオリジナルどおりの内容でCDとして発売したものがこれです。
実は未発表音源の発売プロジェクトはこの前年の1988年に起こっていて、LPが自主制作盤として同じタイトル・同じジャケットで発売されました。ただし内容は少し変えられていて、1972年のラクダ盤に収録されなかった六曲と未発表ライヴ音源六曲の混成盤になっています。ラクダ盤の五曲と併せて完全版で出そうとしたとは思うんですが、権利関係がうまくいかなかったんでしょうね。

それで翌年に、今度は諸問題がクリアできたのかオリジナル通りの内容でようやくCD発売ということになったようです。結局オリジナルに即したLPは出ずじまいということです。
私としてはやはりLPで欲しかったしラクダ盤は当然持ってますので、88年の自主制作LPをなんとか入手できないものかと狙ってましたけども、ごくまれにオークションに出るとかなりの高値が付いてます。なにしろ五百枚だけしかプレスされていないらしいです。

それでもうLPはあきらめてCDでもいいや、となるとこれは入手はそれほど難しくはありません。今回はオークションで89年のキティ盤を二千円ちょっとで買うことができました。





20170625

【今月聞いたレコード・CD】

■Beatles Sgt. Peppers Lonely Hearts Club Band 1967 Deluxe Edition 2017

「ロック界に燦然と輝く不滅の金字塔」…なんとも陳腐な言い回しではありますが、これで合ってるんだからしかたがありません。ただこれがビートルズの最高傑作であるかどうかについて異論のあるのは確かですし、それももっともとも思います。しかしとにもかくにも空前のインパクトをポピュラー音楽の世界にもたらしたことは事実ですから、さまざまな観点から綜合すれば、これを最高傑作としてなんの問題もありません(私としては、音楽の出来でいえば『リヴォルヴァー』が最高作と考えます)。
なにが凄かったのかをひと言でいえば、やはり1967年にあってその破格のスケールでしょう。半年かけて録音されたゴージャス極まるサウンド。アルバムをひとつの作品として聞かせるという新たな手法。さらに、大がかりな写真をあしらった美しいアートワークの見開きジャケットなど、ハリウッドの大作映画を思わせるような桁違いの規模を感じさせるものだったに違いありません。ただのポピュラー音楽のレコードが「作品」として認知された転換点です。

当然これは同時代のアーティストたちにも影響を与えずにはおきません。ここまでやってもいいんだという事実をポップ音楽のリーダーが示したことで、以降メイジャーアーティストたちも次々とその表現法を拡張していきますし、商業面でも成功を収めたことでレコード会社も商機ありと見てその路線に力を入れ始めます。
これがアメリカではなくイギリスで起こったというところが、ある種歴史の必然を感じさせます。アメリカでは軽音楽のレコードなどほとんど使い捨てというか、ちょうど雑誌感覚で消費されていたものだったんですね。ところがイギリスではレコードはわりと高級品でLPともなるとなおさらです。これはわが国でも同様でしたね。
ジャケットは格調高いデザインで表面にはヴィニールコーティングが施されたような贅沢品だったわけで、もともとそういった下地があったわけです。その感覚が理解できないアメリカ市場では、こんな豪華なアルバムを商品として作り出すという発想は出にくかったでしょう。「サージェント・ペパーズ」を見て最も大きな羨望を抱いたのはブライアン・ウィルソンだったかもしれません。

さて今回のデラックスエディション、売りものは初のステレオリミックスです。これまでビートルズのCDは、1987年の初CD化と2009年のリマスター版の二種類のヴァージョンがありました。それで今回はジャイルズ・マーティンがリミックスを手がけることになり、父の偉業を尊重しつつ今の時代に求められるサウンドに作り直すという難題に取り組みました。
さっそく聞いてみたところ、まあひとことで言って悪くない出来という感じで、なるほどここはこう直しましたねと納得のいくリミックスです。60年代半ばまではモノラルが基本ですし、録音機材もまだマルチチャンネルになってませんから、ヴォーカルやドラムズが片方のチャンネルだけから聞こえてくるような極端なステレオが多かったものです。ビートルズにしても、このアルバムくらいまではそういう曲がいくつもありました。
トラック数の制約からこれらをセンターに定位させることが、したくてもできない曲もあったでしょうし、二チャンネルの新規性をアピールするためにわざとそんな極端な定位にしたとような側面もあったかもしれません。

例えば一曲目のタイトル曲はヴォーカルが完全に右チャンネルに寄せられています。これが今回のリミックスではヴォーカルトラックを中央に定位させて、普通こうだよねというかたちに直っています。
私はこのリミックスの手法について、今となっては分離できなくなっているマスターテープの音を音響解析のディジタル技術で抽出した、一種の疑似ステレオのようなものなんだろうと思ってました。ところが実際聞いてみるとそんなレベルの話ではなく、各パートの音は完全に分かれていますから、これは四チャンネルマスターテープ以前の録音の断片をどこかから探し出してきたということになるでしょうね。きっと「アンソロジー」プロジェクトの過程でいろいろな素材が明らかになったんだろうと思います。

当時の制作関係者の一致した意見として、モノラルこそが作品としてのアルバムであり、ステレオミックスは付け足しでやっただけ、というのがあります。実際ビートルズのメンバーはモノラルミックスにだけ立ち合い、ステレオの作業には関わっていないんだそうです。たしかに図太いギターやホーンズ、ストリングスなどで迫力のある分厚いサウンドになっています。
しかし私はこのモノラル至上説にはあまり納得がいきません。メンバーやプロデューサーが心血注いで作り上げたものがモノラル版だとすれば、どうして「グッド・モーニング」と「リプライズ」のつなぎ目がぜんぜんうまくいってないのか。その直後の拍手の音がフェイドインではなくテープの立ち上がり音がそのまま入っているのか、説明がつきません。
要するに「完璧な出来」とは言えないということです。瑕疵があります。いっぽう、作業順としてはその後に作られたステレオミックス(エンジニア任せ)のほうは、この部分は「完璧に」修正してあります。

この現象を私なりに推理すると、結局メンバーもプロデューサーも完璧な音作りを目指したわけなどではなく、私の指摘したような些末な部分は別段どうでもいいことだったんでしょう。あくまでも音楽それ自体の持つ情熱をこそ優先して、効果音などの部分は単なる遊びと考えたんだと思います。
これがエンジニアの視点からすると(特に録音マニアックであるアビー・ロードの職人からすると)、こんなみっともないところはきちんと直さなければならない、だから俺がやる。ということになったんじゃないでしょうか(笑)。その気持ちはよくわかります。
そういう点もありますし、またこのアルバムに顕著なリヴァーヴのかかった広がりのある音像という特徴から、やはりこれはステレオで聞いたほうがより楽しめるんじゃないかと思います。

音質の点ではどうかというと、2009年のリマスターや今回のリミックスによってレコードと比べて格段に向上したか…というとそうでもありません。元々ものすごくいい音で録音されているからです。
ひさしぶりに70年代のプレスのUK盤LPを引っぱり出してきて聞き直してみましたし、87年版CDと2009年のも聞き比べてみました。どれも素晴らしい音質であって最新盤とまったく遜色ありません。それぞれの楽器やヴォーカルの音はほとんど歪み始めているようなギリギリのピークで、まったくラウドです。本当に迫力満点のすごいサウンドなんですよ。

今回このアルバムを十回以上集中して聞き込みましたけど、今さらながらにして気づいたことがあります。使われている楽器類は意外なほどシンプルなんですよ。とにかくギターをメインにベース、ドラムズで骨組みを作ってあるというのはロックンロールとして当然とはいえ、それが考えていた以上にサウンドの多くの割合を占めていたといいますか。
つまり、キーボード類や変わった楽器を多用しているかというとそうでもないということです。ああそうだったんだと思ったのは、メロトロンがほとんど使われてなかったという事実です。テルミンはまったく使われていません。

とにかく派手できらびやかなシンフォニックサウンドというようなある種の印象を長らく持っていたというのも、「Being for the Benefit of Mr. Kite!」のマジカルなサウンドによって全体のイメージを誇張して記憶してしまっていたのかもしれません。たしかにこの曲だけは(ほんとにこの曲だけです)、効果音を重ねに重ねて過剰な音作りがなされています。
マジカルなサウンドといえばやはり「Lucy in the Sky with Diamonds」を連想しますけど、実はこの曲もけっこうシンプルだったんですねー。イントロに使われている電気ハープシコードのような音、これはロウリーという電子オルガンらしいです。ギター、ベース、ドラムズ以外の楽器は、このロウリーオルガンと効果音でちょろっと出てくるタンブーラだけなんですよ。

では肝心の曲の出来はどうかというと、これがどれも名曲ぞろいというにはちと弱いかなというところが、このアルバムの評価を今ひとつ微妙にしているところなんですね。
まずは一曲目のタイトルナンバーから、メドレーで続く「With a Little Help from My Friends」のワンツーパンチがきて、さらにフィニッシュブロウの「Lucy in the Sky」で最初の1Rノックダウンです。「青盤」にもこのままの三点セットで収録されています。
ところがこれに続く「Getting Better」「Fixing a Hole」は、なかなか魅力的とはいえもうひとつビートルズの最も著名なアルバムの曲としてはなにか物足りない感じがあるんですね。どちらの曲もギターのサウンドはすごいですけども。

次の「She's Leaving Home」はとても美しい曲ですが、さらに続く「Mr. Kite」、B面に移ってハリソンの「Within You Without You」、ほかに「Lovely Rita」「Good Morning, Good Morning」と、はっきり言って多くの曲がほんとにもうひとつ決定的な何かが欠けてるんじゃないかという感じのばかりなんですよね。
ただし、それらのビートルズとしてはやや凡庸な曲も、練りに練ったアレンジと演奏そして優秀なレコーディングによって一段か二段くらいレベルを上げてある、そういう構造です。

しかしそれらの今いちな部分も、やがて最後に至ってすべて帳消しになります。四曲目以降の流れは、どれもラストの「A Day in the Life」を聞くための前奏曲だと思えばなんてことないんですよね(笑)。いやほんとです。
結局このアルバムは、いきなり最高潮という感じで魅力爆発の導入部から多少の中だるみを経て、ラストでまた生きのいいタイトル曲のリプライズを鳴らしておいて最後の最後に壮大なアンコール曲をどかんとぶちかまし終了…という起承転結ができあがっているところが強力なんですね。実に、祭りの後の喪失感を感じさせるようなところがあります。

えーっとそれからボーナスディスクもありますね。まあこれらは…なかなか面白いです。「アンソロジー」でも聞くことができたデモ音源も含まれていますけど、細かいところの比較は面倒なのでしてません(笑)。二~三回聞けば充分って感じです。
ビデオの「メイキング・オブ・サージェント・ペパーズ」は一般向けの内容で、期待したほどのものはありませんでした。
ジョージ・マーティンの言葉に「Strawberry Fields Forever」と「Penny Lane」をアルバムに入れなかったのは最大の失敗だったというものがありました。では、この二曲を入れたとしたら? 曲順はどうなってたんでしょうねー。

■Todd Rundgren's Johnson Live 2013

この前聞いた「State」と前後して発売されたライヴ盤で、2011年の企画もの「Todd Rundgren's Johnson」と連動しています。ライヴ自体は2010年のテレビ用の収録なので、ひょっとしたらこのテレビ番組のほうが最初にあって、放送後にラングレンがスタジオ録音し直したものが先にCDとしてマイナーレーベルから発売されたという経緯なのかもしれません。
CDとDVDの二枚組です。DVDは二十曲入りで、CDはこれから四曲カットしてあります。例によってまずCDのほうを繰り返し聞いた後でDVDを見てみました。

演奏はギター二本とベース、ドラムズだけで非常にシンプルです。ベースはカシム・サルトンです。千人くらいの小規模な劇場で、なかなかいい感じですね。やはりコンサートはこれくらいの会場でないとダメですよ。もうお客さん大喜びで。
二十曲中十曲がロバート・ジョンソンのブルーズです。それはロックアレンジのブルーズになっていて、クリームみたいな感じですね。
やはりラングレンはもともと、黒人ブルーズそのものを模倣しようとしたんじゃなくて、イギリスのブルーズロックのスタイルを採り入れたアーティストだったといえるんじゃないでしょうか。単純に、ロックとしてかっこいい演奏になっています。

残りの曲はナズ時代の「Open My Eyes」はじめ、新しい曲まで幅広く自分の曲も織り交ぜて演奏しており、ジョンソンのトリビュートコンサートというまでのものでもありませんから、やや中途半端な印象は残るところがありますね。

■Sir Douglas Quintet Mendocino 1969

サー・ダグラスことダグ・ザームのレコードは、だいぶ前に「Doug Sahm and Band」(1973)を買ったのが最初です。ザーム本人には興味が無いどころかいったい何者なのかも知りませんでしたが、ディランやドクター・ジョンがゲストでフィーチュアされていて、中古盤LPも容易に入手できたためとりあえず…という感じでした。内容はほとんど記憶にありません(笑)。カントリーロックというよりはカントリーそのものに聞こえたからです。

そののち徐々に、60年代には自身のバンド、サー・ダグラス・クインテットを率いてヒット曲も出したというような知識を多少得ましたし、ガイド本「これが最高!」にも「メンドシーノ」が下位にですが入っていたので気にはなっていたというところです。
サー・ダグラス・クインテットはブリティッシュインヴェイジョンに呼応する形で多く輩出したアメリカンバンドのひとつですね。ファーストアルバムの「The Best of the Sir Douglas Quintet」はなかなか面白いガレージロックになってました。ベスト・オブといってもヒット曲集でもなんでもないというテキトーさです(笑)。

この「Mendocino」はサードアルバムで、すでにアメリカンロックになっています。いわゆるテックスメックスと称されるサウンドなんですけど、ちょうどこのころエルヴィスがメンフィスのアメリカン・サウンド・スタジオで繰り広げたセッションで作り上げた音楽を、荒くれどもがガレージサウンドで再現したというような感じです(笑)。ファーストにも入っていたヒット曲「She's About a Mover」の再演ヴァージョンもあります。なかなかいいです。

■The Staple Singers Be Altitude: Respect Yourself 1972

ゴスペルはほとんど聞く機会がありません。持っているレコードといえば、サム・クックのいた時期のソウル・スターラーズと、中村とうようの編集したCD付きの本(オーディブック)「ブラック・ゴスペル入門」くらいのものです。やはりクリスチャンミュージックですから、その真価は皆目つかめません。

ひさかたぶりでゴスペルのグループのレコードを聞いてみました。ステイプル・シンガーズは活動範囲が広いため有名ですね。ザ・バンドの「ラスト・ワルツ」にも出演していました。
このアルバムはスタックスから出したもので、グループのもっとも有名なヒット作です。日本盤がビクターから出ているほどですから、わが国でも売れたんでしょうね。クレジットによるとベーシックトラックはマッスル・ショールズで録音されています。

リードシンガーのメイヴィス・ステイプルズの歌声は力強いですし、なによりサウンドがファンキーでかっこいいです。
歌詞の内容はよくわかりませんけど、純粋にゴスペルなのかある程度は世俗音楽になっているのか。しかしたしかに広いポピュラリティを獲得しただけのことはある出来ばえです。




【今月聞いたレコード・CD】

■Iggy and The Stooges Raw Power 1973

イギー・ポップのアルバムとしては三枚目で、ストゥージズのラスト作ですね。イギー・ポップにはこれまであまり関心が無くて数枚しか聞いてません。でもひと通りは聞いてみようということでファーストから聞き直しているところです。
ストゥージズの1969年のファーストはわりと気に入りました。意外とシンプルな演奏でストレートなガレージサウンドです。これが70年の「Fun House」になると俄然ダウナーなハードロックになっていて、まさにパンクの源流という感じです。

今回聞いた「Raw Power」はポップがプロデュースしていますが、どういう経緯か知りませんけどデイヴィッド・ボウイがミキシングを担当しています。ところがこのときミキシングの出来に関して両者に意見の隔たりがあり、結局ポップの意に沿わないボウイのミキシングによるアルバムが発売されます。
それで二人は仲たがいしたかというとそうでもなくて、のちの1977年にはポップのソロアルバム二枚をボウイがプロデュースしてヒットしています。映画「トレインスポッティング」に使われた「Lust for Life」がボウイ制作によるものですね。

そのボウイ・ミックスの正規発売ヴァージョンを聞く限り、ポップがどこに不満があったのかは不明ながら、若干サウンドが軽いかなという感じはします。ポップのヴォーカルを前面に出してバックの演奏はちょっと引っ込み気味で、スカスカというか隙間のある音響です。それがボウイのどういう意図だったのかは私も知識としては持ってませんが、でも決してダサい感じはしません。セックス・ピストルズのレコードの分厚い音などと比べると、クールなサウンドに思えます。

最近このアルバムのレガシーエディションがCDとして出ていて、これにイギー・ポップが自分でミックスした別ヴァージョンが入ってるんですね。おそらく当時ボウイの仕上げたテープを聞いて腹を立てたポップが、すぐさま自分でミックスし直してレコード会社に持ち込んだというようなものなんでしょう。予想としてはもっとダンゴ状に固まったパンクなサウンドだろうと思いますけども、しかしわざわざCD買ってまで聞くのもなあ…(笑)。

■The Allman Brothers Band Seven Turns 1990

二度目の再結成で出したアルバムですね。最初の解散のアルバムまでは以前に聞いていましたが、最初の再結成となる1979年の「Enlightened Rogues」からのものはどうも聞く気がしなくてまったく切り捨ててました。
しかし二度の再結成を経てまた人気を盛り返し、若いデレク・トラックスを加えてますます順調といった近年の様子を見るにつけ、じゃあその道のりをちゃんとたどってみようと思い直しました。

二度目の解散のときの「Brothers of the Road」(1981)はさすがにぱっとしないアルバムでした。それから八年後に再々結成となって出したのが「Seven Turns」で、グレッグ・オールマン、ディッキー・ベッツ、ジェイモー、ブッチ・トラックスがいます。前作まではLPが出てましたけど、このアルバムからはCDのみです。ありがたみががたっと落ちますね(笑)。
それでも出来が良ければOKなんですが、どうも今ひとつという感じです。曲が平凡なんですね。まあー1990年ころというと、70年代から活動しているアーティストたちは生き残りをかけて試行錯誤していた時期ですから、オールマン・ブラザーズだけのことではありません。

この後のアルバムをざっと見ると、スタジオ盤が四枚とライヴが三枚あります。2004年の「One Way Out」を最後に2014年までグループとして活動し、デレク・トラックスらが脱退して実質的に終わってます。今年になってブッチ・トラックスとグレッグ・オールマンが亡くなってますから活動再開はもう無いでしょう。

■ラフィータフィー 夏の十字架 2000

忌野清志郎の前作「冬の十字架」はリトル・スクリーミング・レビュー名義でした。「君が代」の収録をポリドールが拒否したためインディーズから発売したといういわくつきのアルバムです。これの続編ということでいいんでしょうか、ラフィータフィーとして出したこのアルバムには「君が代」の武道館ライヴバージョンが収められています。

けっこうハードロックだったリトル・スクリーミング・レビューの前作とすこし違って、ラフィータフィーはわりといろいろなタイプのサウンドを柔軟に盛り込んであります。「北国の少女」や最後に入れてある隠しトラックはアヴァンギャルドなアプローチですね。昔と違ってシステムが硬直化してきたライヴハウスを皮肉った「ライブ・ハウス」だけでなく、自分の境遇さえも自嘲気味に綴った「快適な暮らし」など歌詞も相変わらず面白いです。嬉しいことに一曲、スティーヴ・クロッパーがいかすギターを弾いてます。

このCDはたしかオークションで買ったと記憶してますが、前の持ち主がどこで買ったのか知りませんけど忌野清志郎のサインが入ってるんですね。印刷ではなく手書きのようです。もちろん本物かどうかは不明です(笑)。

■野沢亨司 白日夢 1972

日本のフォーク/ロックのガイド本にはよく出てくるアルバムなんですが、まったく知らない名前のシンガーでした。オリジナルのLPはかなりのレア盤でとても買えませんけど、CDで復刻されているので聞くことは容易です。
ジャケットのポートレイトの風貌からはロックシンガーのような印象を受けます。実際聞いてみるとバンカラな四畳半フォークではなく、イギリスのトラッドフォークを好む人なんだろうと思わせるところがあります。ドノヴァンを連想させるような感じですね。すべて自作曲で、けっこうプログレッシヴな曲調もあります。

ただ、ひとつ問題があります。歌は下手というわけではないんですが高いキーの声がぜんぜん出なくて、しばしば鶏を締めたときの悲鳴のような声でわめくところがまったく不愉快です。しかも本人それを妙味ととらえているような節があり、臆するところなくその調子でぶってくるので困ったもんです。
もう少し歌える人だったらもっと人気も出たか…というとそれもちょっと微妙ですけどね(笑)。というのも、独特のひねったセンスは大衆受けするとは思えませんので、やはり一部のフォークマニアに支持されただけだったかもしれません。ユニークなのは確かです。またギターの腕前はたいしたものです。





20170604

【先月買ったレコード・CD】

■Beatles Sgt. Peppers Lonely Hearts Club Band 1967 Deluxe Edition 2017

先月は五点しか買うものがありませんでした。でも合計金額はいつも十枚くらい買っているときよりも大きいんですねーどうしてでしょうか(笑)。
さて今回初めて予約注文で買いました。日本盤なんですがアマゾンだとけっこう割安に思えたからです。映像特典の「メイキング・オブ・サージェント・ペパーズ」というドキュメンタリーのプログラムがあるため、字幕付きの必要がありました。届いたのは発売日の翌々日くらいでした。

LPサイズのボックスです。アウターカヴァーにはレンチキュラー3Dのジャケットアートが貼ってありますけど、ぜんぜん立体効果出てません(笑)。内容はCD四枚とDVD・ブルーレイディスクが各一枚です。箱を開くとオリジナルLPのダブルジャケットを再現したものが出てきます。これを広げると内側に六枚のディスクが並べてあるというなかなかしゃれたフォルダーになっています。
ほかにLPサイズのハードカヴァー本とポスター二枚、もちろん当時の初回盤に付いていたカットアウトも復刻してあります。Tシャツだのバッジだの、私には理解不能なおまけが付いていないのはいいところですね。それより日本盤のみ付属している「立版古(たてばんこ)」というやつがナイスです。

立版古という語は初めて聞きました。説明によると江戸時代に普及していたペーパークラフトのことだそうで、芝居の書き割りのような感じのジオラマを自分で組み立てて遊ぶものです。浮世絵版画の制作システムが流用できたわけですね。これは面白そうです。
おまけの立版古はジャケットの写真をジオラマにしたものです。12センチ角のディスプレイボックスの中に、アルバムアートの撮影風景を再現することを目指したんでしょう。でも実際にパーツが印刷されたペーパーシートを見てみると、予想以上に細かいんですね。切り込みが入っているわけではないので、すべてデザインナイフでフリーハンドで切っていくしかありません。とても一日二日でできるような代物じゃないですね。

肝心の内容のほうは、歴史的なアルバムの発売五十周年を機に初めてリミックスが施されています。これまで出ていたCDはいずれもリマスターのモノとステレオでした。
この時代ですから元々のというか現存するマルチトラックテープが4チャンネルしかありません。四つのトラックそれぞれに、あらかじめダビングを繰り返したさまざまな音のミックスが入っていますから、以前はこれを自由にミキシングすることは不可能だったわけですね。それが音声解析の技術が進んで、かなりの音の成分をコンピュータライズによって抽出分離することができるようになったようです。

四枚のCDのうちCD2とCD3がレアトラック集です。「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」などのデモトラックや編集前のテイクなどがたくさん収録されています。けっこう消化不良気味だった「アンソロジー」とは違って、大盤ぶるまい状態のようです。これは以前のビートルズでは決して無かった売りかたですね。
アップルもさすがにタネが残り少なくなってきているということでしょうか。この調子で出し惜しみ抜きでばんばん出してほしいものです。とりあえず「Let It Be」のビデオ早く発売してください。

■Valerie Carter Just a Stone's Throw Away 1977

吉見くんのもっとも好きな女性シンガーだそうで、聞いたことがなかったので一枚買ってみました。もともとバックアップシンガーとしてキャリアを積んでいた人で、ソロ名義のアルバムは何枚かしかありません。ハウディ・ムーンというグループでも一枚出しています。
吉見くんに聞いたら、好きなのはセカンドの「Wild Child」(1978)だが一般的にはファーストのほうが人気とのことでしたので、ここは素直にファーストアルバムを聞いてみることにします。

オークションで当たってみましたが、あまり出品されてません。しばらくチェックしていたら日本盤とUS盤が同時期に出品され、数日早く終了したUS盤は三千円以上で落札されたんでこりゃー意外とレア盤なのかなあと驚きました。
私としては日本盤のほうが良かったんでその次のオークションに賭けたわけですけども、これまた意外にも競争入札者無し。出品価格の千五百円くらいですんなり買うことができました。送料も冊子小包ですから合わせて千八百円です。ラッキーです。

■Rolling Stones From the Vault: Live in Leeds 1982 2015

ライヴアルバムというより形としてはビデオが主体の商品です。数年前にローリング・ストーンズは昔のライヴ音源をダウンロード販売するというアーカイヴシリーズを始めました。70年代から90年代までわりと幅広く、初来日の時の東京ドームもあります。
CD発売なしでダウンロードのみのリリースというのが、私なんか一番困惑するところなんですよね。ダウンロードしたmp3に価値などあるのか? という素朴な疑問がふつふつと湧いてきます(笑)。
結局六公演の音源が配信されました。いずれも海賊盤では知られていたコンサートだそうで、ブートレグ対策の一環という側面が強そうです。

しばらく経ったら、そのコンサートの模様のビデオとCDがセットになったものが商品として発売されました。DVD + CDもしくはブルーレイディスク + CDという発売のしかたです。残された映像の画質がそれほど良くないものについてはブルーレイディスク版は発売されていないものもあります。
そのうちのひとつが今回買ったもので、ブルーレイディスク一枚とCD二枚です。収録時間131分でコンサートが丸々収められており、なんでもオーヴァーダビングは無いとのことです。「Still Life」のときのツアーですから曲目も基本的に同じなので、聞き比べてみると面白いでしょうね。
ちなみにリーズといってもフーの「Live at Leeds」や、「スティッキー・フィンガーズ」のボーナスディスクのリーズ大学ではなく、同じリーズ市内の公園で行われたコンサートです。

そういういきさつで発売されたシリーズなので、なんだかもうひとつ手が出なかったといいますか。もともと配信のみだろ? と思うとなにかありがたみに欠けるところがあります。それに、それぞれのセットは意外と高いんですよね。
ところが今年になって、東京ドームの別音源がエクストラ版として追加発売されたんですね。初めにリリースされた公演の前日に収録したもので、これが日本のみ発売ということになっています。もちろんダウンロード販売もこれまでされていなかった音源ということですね。

となるとちょっとだんだん無視するわけにもいかなくなってきた感じで(笑)、これを機に買い集める方針決定です。それでも可能な限り安上がりに済ませたいので、アマゾンのマーケットプレイスで手ごろなのが出るまで辛抱強く取り組んでいきます。今回はリーズのが三千円くらいで出ましたので手始めに。

■David Bowie No Plan EP 2017

遺作の「★」に続いて発売された四曲入りです。アルバム発売の少し前に上演されたミュージカル「Lazarus」のオリジナルキャスト盤にボーナスCDとして付けられていた未発表曲を単独で発売したものです。
「Lazarus」のミュージカルは、ボウイの過去の曲を出演者が歌ったカヴァーヴァージョンですから、なにもそんなのまで聞く気はありません。といって「★」に未収録のボツ曲「No Plan」などが収録されている以上、入手しないわけにはいかずで。まあそのうち安い中古盤が出てからでいいや…と思っていたら、ボーナスCDと同内容のEPが発売されることになって問題解決です。

■矢沢永吉 E' 1984

去年の十二月に一度買ったんですが、やはり紺色のカヴァーのやつがいいなあ…とその後もオークションをチェックしてました。するとときどき出品されることはされるものの、やはり希少価値からかけっこう値段が上がるんですね。三千円以上までなったこともあります。
こっちはそこまでして買おうという気は当然ありませんから、こりゃ諦めるしかないかなと思いつつチェックはしつこく続けてました(笑)。

そうすると出ましたちょっとコンディションの悪いのが。アウターカヴァーに少し擦れがあるのと、なんといっても歌詞カードが欠落しているのがいいですねーこんなことで喜ぶのは私くらいでしょう(笑)。
案の定ほかに入札は無く、スタート価格の五百円で落札です。ただしこの出品者は送りかたを宅配便でしか受けておらず、佐川急便で割安とはいえ結局送料込みで千二百円くらいでした。
初めに赤いのを買った時と同じくらいの金額になり、無駄遣いしてしまいました。赤いほうはいずれ売るとしても、歌詞カード無しじゃ二束三文でしょうね。




20170528

【今月聞いたレコード・CD】

■Rolling Stones Sticky Fingers 1971 Deluxe Edition 2015

ライヴに続いて「スティッキー・フィンガーズ」のデラックスエディションを聞いてみました。けっこう大きなボックスに入っていて、CD三枚とDVD一枚、7インチシングルが一枚というセットです。CD1はリマスターされたオリジナルアルバム、CD2とCD3が未発表ヴァージョンやライヴ音源を収録したボーナスディスクです。
目あては当然ボーナスディスクのほうです。まずCD2はエリック・クラプトンがゲストでギターを弾いている「ブラウン・シュガー」から始まります。こんな録音があったんですねー。私は海賊盤まったく聞かないので未発表音源についての知識に乏しく、おそらくマニアの間では常識であろうこういったものを初めて聞いて感心できるので幸せ者だといっていいでしょう(笑)。

イントロからフィーチュアされるスライドがクラプトンなのか短い間奏のリードがそうなのかはちょっと不明なんですね。スライドは全編で響き渡りますけど間奏のリードパートはほんのちょっとだけです。やはりここはスライドがクラプトンだと思いたいところですけども、実際はこれはミック・テイラーでクラプトンはちょこっと弾いただけなのかもしれません(笑)。しかもクレジットを見るとアル・クーパーもギターを弾いていることになってます。
ほかにはエレキギターをダビングする前の「ワイルド・ホーシズ」のアコースティックヴァージョンや「ビッチ」の別テイクなど五曲のレアヴァージョンがあり、続いて71年3月のUKツアーから、ラウンドハウスのライヴを五曲聞くことができます。

CD3は丸ごとライヴで、ラウンドハウスの前日のリーズ大学でのコンサートです。かの有名なフーの「Live at Leeds」と同じ場所です。コンサートを全曲収録しているそうで、BBCが放送用に録音したものですから正規品並みの音質ですね。
これがなかなか聞きごたえがあっていいんですよ。この二年前のツアーを収録した「Get Yer Ya-Ya's Out」と比べると、ひと味違う演奏なんですね。ボビー・キーズとジム・プライスによるホーンズがバックに付いているのが大きな違いで、実際ブラスによってサウンドの色あいは大きく変化します。しかしそれよりも、バンドの演奏自体が1969年とはなにかが違うんですね。

「Get Yer Ya~」のときもすでに、60年代的ロックの残滓を払拭するような、時代はもう変わりましたという感じのステージングだったわけですが、それでもまだなにかもうひとつ60年代だったんですね(笑)。どう説明すればいいのかよくわかりませんけど、まだその空気が感じられたんですよ。
しかし今度のボーナスディスクで聞く1971年のコンサート、これは完全に新時代に入ってます。新加入のミック・テイラーがバンドになじんできたというところが演奏にはっきり表れているし、自らの興したレーベルからの第一弾となる新作「Sticky Fingers」で最高のアルバムをものにしたという自信もあるでしょう。

コンサートはそのニューアルバムの発売一カ月前くらいで、観客は知らない曲を何曲か聞かされます。よくそんなタイミングでツアーを打つもんだと思いますけど、興行のしかたも今とはだいぶ違ったんですね。
ミック・ジャガーが珍しく曲名を紹介します。「次の曲は…ビッチ。」というと、観客席はどっと笑うかというと一瞬しーんと引いてしまうんですねー。大学の講堂だからなのかどうか、やはりまだこの時代にあっては衝撃的なタイトルだったのかもしれません。しかし演奏はホーンズが炸裂してこれが最高なんですよ。ほとんどスタジオヴァージョンにも引けを取らないような熱気です。
だいたいこの曲、何枚も出ているライヴ盤にはなぜかぜんぜん入れられてないんですよね。私の最も好きな曲のひとつをライヴで聞くことができて良かったです。

それにしてもミック・テイラーはギター上手いですね。まったく流麗で伸びのあるプレイを聞かせます。この布陣で勢いをつけたバンドは、翌年に「Exile on Main St.」を制作します。キャリア初の二枚組で十八曲、最も実り多い創作の記録で、やはり頂点と言っていいでしょうね。
このアルバムはひと足早く2010年にデラックスエディションが出ました。これもまだ聞いてなかったので来月いよいよひも解くことにします。ただ、内容はそれほど豊富ではなくボーナスディスクはCD一枚だけ、それも未発表テイクが十一曲でライヴ音源などは無いみたいです。

■Prince Indigo Nights/Live Sessions 2008

このCDを聞くのを忘れてました。CD棚ではなく本棚に入っていたからです。2008年は時期としては「Planet Earth」と「Lotusflow3r」の間ですね。発売のしかたは「21 Nights」という写真集のボーナスCDという形です。
プリンスの写真集なんかいらないよという感じですけど(笑)、これにしか付いていないCDですからしかたありません。ハードカバーの大型本で、ほんと大きいんですよ。写真集のほうはいっぺんパラパラとめくればそれで充分です。
2007年にロンドンで行った同一会場での二十一日間連続公演という、ギネス記録かなにかを狙ったイベントの模様をオフィシャルカメラマンが撮ったもののようです。

それでライヴCDはその公演の録音かというと、終演後に行ったアフターショウを収録したものらしいです。アフターショウてなに? という感じですが、プリンスはツアーの際にしばしば、大会場での公演の後、深夜に地元のナイトクラブなどでギグをやっていたそうなんですね。あらかじめ予定しておくのか行き当たりばったりなのかわかりませんが、まあなんともすごいとしか言いようがありません。
80分近くたっぷり入っていて十五曲。さすがに「パープル・レイン」などはやってなくて、コアなファン向けの選曲です。

バックはフルバンド連れてきているようで、鉄壁の演奏です。後半にはバックアップシンガーのひとりシェルビー・Jという人をフィーチュアして二曲ソロで歌わせ、「さあみんな、スター誕生だァー!」なんてお褒めのコトバをプリンスが投げかけます。プリンスは気に入りの女性シンガーをプロデュースして売りだすのが好きみたいで、かつてはシーラEやマイテに力を入れてましたね。「Lotusflow3r」はブリア・ヴァレンテというシンガーのアルバムをカップリングして購買者に強制的に聞かせるという強引な手もとったし(笑)。そのシェルビー・Jのアルバムもやはりプロデュースしたらしいです。

プリンスの公式のライヴアルバムは2002年に出した三枚組のボックスセット「One Nite Alone... Live!」くらいしかなくて、ほかにはダウンロードのみでニュー・パワー・ジェネレイションのライヴもあるのと、あとはこの写真集のおまけという形。スタジオで膨大な量の録音を続けてきたためライヴ盤を出す機会もあまりなかったってことでしょうね。
そのライヴ録音はいずれも優れたものではあるんですが、この「Indigo Nights」にしても、何度も繰り返し聞きたくなるような傑作ライヴというほどのものではないです。やはり実際にコンサートを体験したかったですねー。
日本にもけっこう来てたんですが、結局いっぺんも見に行ったことが無いんですよ。ちょっと後悔もしてますけど、東京ドームなんかで見てもしょうがないしなあ…という思いで行かなかったんですよね。

■Allen Toussaint The Bright Mississippi 2009

買ってからだいぶ放置してました。インストゥルメンタル集だというので、なにか今ひとつ手が出ないままだったんですが、本人亡くなってしまってこの後の遺作も出ましたから、ようやくトライです。
レーベルがノンサッチなんで当然ジャズぽいサウンドになっています。でもピアノソロなんかは、ドクター・ジョンの私の愛聴盤である「Dr. John Plays Mac Rebennack」(1981)の感じです。一曲だけヴォーカルを入れてあるところも似ています。ニューオーリンズ風味のリズム&ブルーズ・ピアノで、やはりアラン・トゥーサンですから非常に洒落た感覚ですね。

バックが付く曲がジャズふうです。私はジャズぜんぜん知らないので、これがニューオーリンズジャズの純正なのかどうなのか。聞いた感じではやはりディキシーランドジャズぽいですけど、ジャンプナンバーではなくゆったりとした曲調が多いです。どことなく葬列曲を思わせるものもあります。
私なんかディキシーランドジャズといったら子どものころに見たドルーピーのアニメで、ノミの楽団をドルーピーが指揮するというエピソードくらいしか思い浮かびません(笑)。

曲はすべてカヴァーです。トラディショナルもあればジェリーロール・モートン、ジャンゴー・ラインハルト、デューク・エリントン、セロニアス・モンクあたりの名前は私でも知っています。
全体には軽いタッチで、ムード音楽あるいはラウンジミュージックといっても差し支えないくらいです。モダンなニューオーリンズ・リズム&ブルーズの世界を開拓してきたトゥーサンですから、そのキャリアにおいてジャズ的なアプローチに取り組むことも課題のひとつだったんでしょう。

■Pretty Things Savage Eye 1975

スワン・ソングからの第二弾です。前作「Silk Torpedo」(1974)と同様、完全に70年代ハードロックになってます。オリジナルメンバーとしてただひとり残っているシンガーのフィル・メイは変わらず元気です。ただし、曲の出来がどれも今ひとつなんですね。演奏はさすがにいいですけど、印象に残る曲が無いのは致命的です。
また、前作と比べるとかなりアメリカ市場を意識したサウンドになっていて、ハイキーのコーラスを多く採り入れています。たしかにこのころのアメリカンポップスの流行がこんな感じだったような。

以前はこのヒプノシスのジャケットの中古盤はどのレコード屋でも見られたものです。70年代の半ばというと、グループの60年代のオリジナルアルバムはいずれも廃盤状態で、ベスト盤すらろくにありませんでしたからね。その伝説的な名前だけ知っているロックファンは、新作として出たこれらスワン・ソング盤を聞くしかなかったわけで、あーこんなもんかとすぐに売ってしまったというのもわかる話です(笑)。

私も当時は、75年にサイアーが出した二枚組LP「The Vintage Years」をだいぶ聞き込んだものです。ボウイが「Pinups」(1973)でカヴァーした有名な「Rosalyn」と「Don't Bring Me Down」など初期のヒット曲が網羅されており、優れた編集盤だとジュークのプライスカードに書かれていた通りでした。


【今月聞いたレコード・CD】

■John Cale Paris 1919 1973

ジョン・ケイルをひととおり聞いてみようということで、ファーストから聞き始めてこれがソロのサードです。このアルバムはだいぶ前に聞いていて気に入ってました。私の二十代を通じてレコード購入の手引きとしていた「これが最高!英米篇」(クイックフォックス社・1979年)の155位に入っていたからです。ザパの「Hot Rats」やTレックスの「Electric Warrior」よりも上です。

実際聞いてみるとこれが聞きやすくポップな内容で、ヴォーカルの下手さもあまり気にならないような感じです。隠れた名盤とはこういうものだなと思いました。
今回三十年近くぶりに聞き返したわけですが、一曲目のイントロの四音が鳴った瞬間に「おーっこれいいなあー…」とため息が出てしまいました。だいたいこのくらい前に聞いたレコードだと内容は具体的にはほとんど記憶に無いものですけど、このアルバムはどの曲もすぐに思い出しました。どれもいい曲なんですよ。

意外なことに全編でギターを弾いているのがローウェル・ジョージで、一曲目をはじめとしてすごいスライドが聞けます。プロデューサーはクリス・トーマスだったんですねこれ。
バンドスタイルのロックンロールもありますが、ストリングスを効果的に使った曲が多く、ケイルもヴィオラを弾いています。クラシカルなムードになるのではなく、ポップさの中に狂気をはらんだ先鋭的なアレンジになっているのがいいんですよ。
ケイルはオノ・ヨーコやミシェル・ポルナレフと同様に、「ポップとはなにか」を理解している人のひとりだと思います。

■Stephen Stills 2 1971

スティーブン・スティルズのセカンドソロ作です。クロズビー・スティルズ・ナッシュ&ヤングの「デジャ・ヴ」(1970)と同じ年にファーストソロを出して、ライヴの「4ウェイ・ストリート」(1971)の次にこのセカンドが出ています。わりと豪華なゲストで話題となったファーストと比べるとこちらは地味なバックアップメンバーです。でも一曲クラプトンが参加してます。メンフィス・ホーンズとドクター・ジョンもいますね。

ゴスペル調のヴォーカルアレンジが目立ち、ソウルフルなスティルズの歌を聞くことができます。この後スティルズはマナサスを結成することになります。さすがにここでもギター上手いですね。アコースティック曲でもギター巧者ぶりを披露します。
一曲目の「Change Partners」がいい曲です。CSNY解散のことを歌っているんでしょうか。ソウルありトラッド調ありロックンロールありで、全体にバラエティに富んだ内容でそつなくまとめてあって、そのため特別に名作というほどではありませんけど、次回作も聞きたくなるような好感の持てるアルバムになってます。

■ドレスコーズ 1 2014
■ドレスコーズ The Hippies E.P. 2014

ドレスコーズというバンド名義になっていますが、実態は志摩遼平のソロプロジェクトとのことです。毛皮のマリーズが解散ということになったときは残念に思いましたけど、その後のレコードを聞いてみるとたしかに志摩の音楽性はすでにガレージバンドの枠には収まりきれないものに拡張してました。
毛皮のマリーズのラスト二作くらいがもうそんな感じで、続くドレスコーズのファーストとセカンドも、気鋭のシンガーソングライターによるロックアルバムという印象です。

今回聞いた「1」は三枚目ですね。実は現在すでに五枚目までアルバムを出しており、創造性を発揮しているようです。ただ、多作なのはいいとして、どれも水準の出来ということになると(四五枚目はまだ聞いてないですが)ちょっと物足りないですね。私としては、寡作でもいいから一発どんとくるようなのがあるほうが嬉しいです。しかし向こうも商売ですからそういうわけにもいかないでしょうしね(笑)。

曲はどれもいい出来です。それぞれ少ない人数で録音しておりシンプルながらよく練られています。中にオールディーズ調の「妄想でバンドをやる」という曲で吐露しているとおり、本当はバンドで景気よく活動したいという理想はあるものの、現実には上記のような理由でそれもままならないという大いなる悩みが本人にはあるようです。

「The Hippies E.P.」はアルバムに先立ってリリースした五曲入りです。このサイズだと構成も考えずにばらばらっとその時ある曲で出しましたという感じがありますね。EPの良さはそこらへんで、実際アルバムよりこっちのほうが面白いんですよ。
タイトル曲はソウルだし、インディーズ時代のようなパンクもあるし、ラップにも挑戦しています。といってもブラックマナーのヒップホップではなくディジタルポップで、プログラマーの三浦康嗣という人とデュエットしています。でもやってはみたものの志摩のラップぜんぜんダメ(笑)。

■春一番コンサート・ライブ! 1972

大阪で毎年開催されていたイベントの第二回の実況録音です。ベルウッドから出ていて二枚組です。もともとは素人が集まって自然発生的に始まった合同コンサートみたいで、フォーク喫茶「ザ・ディラン」の常連が多数出演したとのことです。
高田渡・中川五郎・友部正人・ディランII・遠藤賢司・小坂忠・あがた森魚といったところが主な収録アーティストです。いずれもビッグネームですけど1972年5月の時点では、高田と中川を除けばレコーディングアーティストとしてはみんな駆け出しですね。ほとんどアマチュアに近い感じだったんだろうと思います。

フォークだけでなくロックバンドも肩を並べていて、あがた森魚のバックははちみつぱいだし、小坂忠はフォージョーハーフで出ています(レコードのクレジットはホージョハーフとなってます。レコードの担当者は四畳半のしゃれだということを知らなかったんですね)。また短期間で解散したごまのはえの「とめ子ちゃん」が収められています。

どれもまあ悪くないんですけど、特別これはというのが無いというのも正直なところです。あがた森魚はやっぱり下手ながら独特の雰囲気はここでも醸していますね。意外にも一番気に入ったのは中川五郎です。「ミスター・ボージャングル」の日本語訳詞をとつとつと歌うその誠実さはなかなか心打つものがあります。
ただコンサートの最後は武蔵野タンポポ団が出てきて、おそろしく退屈な「あしたはきっと」をやるんですね。良くも悪くもごった煮です。






20170507


【先月買ったレコード・CD】

■Night of the Proms 2005

このシリーズで私のひいき筋が出演しているものとしては2005年・2010年・2011年の三枚です。2010と2011はこれまでに入手していて、残る2005は長期戦を覚悟していたんですが意外にも格安のものがマーケットプレイスに出ました。
一時は一万八千円という話にならないような価格も付いてましたけども、ある日ポコッと千五百円というが出たのであっけなく解決しました。

この2005年のにはロジャー・ダルトリーが出ています。ただ一曲だけしか入ってなくて、それ以外はマンフレッド・マンやミッジ・ユーロは知った名前としても、あとはぜんぜん聞いたことも無い名前のヨーロッパのアーティストたちです。
しかしこういったレアなライヴコンピレーションというのはコレクター心がけっこう燃えるんですよね(笑)。

■Fuji Rock Festival 20th Anniversary Collection [2007-2016] 2016

上下巻のライヴコンピレーションで、前半の[1997-2006]のほうは先月入手しました。コステロとジョー・ストラマーが入っており外せないところですが、後半は私にとってはプライマル・スクリームくらいしか食指の動く出演者がおらず、安く出たら買ってもいいけどね…という程度でした。それが送料込み千二百円でマーケットプレイスに出ましたから、買わない手はありませんよね?

■渡辺真知子 Amor Jazz 2 Show-Wa 2014

CBSソニーを離れて独立系からCDを発売し始めたのが2012年の「腕の中のスマイル」。次いで「Amor Jazz」(2013)、「Amor Jazz 2」(2014)と毎年ペースで新作を出してますから、独立して個人事務所をやっていくにはこのくらいワーカホリックに走り続けないとだめなんでしょうね。
そのためか、最初のが新曲二曲プラス過去のヒットの再録音とカヴァーという内容、ジャズものの第一弾はラテンジャズのカヴァー集(書き下ろし一曲あり)、そして今回購入したジャズ続編は「リンゴ追分」「蘇州夜曲」「また逢う日まで」といった昭和歌謡のラテンジャズアレンジという、いずれも企画もの的なアルバムばかりです。物足りなさを感じますが、まあ新作出るだけでもたいしたものです。

実をいうと上記三作はまだ聞いてないんですよね。ソニー時代の全アルバムをリマスターCDにしたボックスセット上下巻「Machiko Premium」には、けっこう貴重な音源のボーナスCDが付いているため買い揃えました。それをファーストから聞き直してから、続けて独立後の新作に取りかかろうという計画を立てたんですけども、諸事情により(笑)二枚目か三枚目くらいで頓挫してしまっている状態です。
これがローリング・ストーンズだと意気込みが違ってくるというところがどうにも。これを機に再起動させますかね。新曲のシングル「ときの華」というのも去年出たところです。

■キングギドラ 空からの力 1995

先々月聞いたオジロソーラスのがなかなか良かったので、かねてから聞くつもりしていたキングギドラのアルバムを買い求めました。ジーブラのソロ「The Rhyme Animal」(1998)はLPで持ってるんですが、さすがにもうこだわらなくていいだろうということでCDに。そうするとこんな昔の中古盤ならアマゾンで百円くらいで出てますから、送料込みでも五百円以下です。いいですね。

■麗蘭 磔磔2012盤 麗蘭Vol.20 2013

京都のライヴハウス磔磔で毎年末に行っている公演はインディーズからシリーズで発売されています。2005年から十年以上続いているというのは立派です。もとはオフィシャルサイトからの通信販売のみだったんですが、最近はアマゾンでも買うことができます。
それでできるだけ安い中古盤が出たら買うようにしているので、ぽつりぽつりと歯抜けを埋めるようにしてひとつずつ集めてます。今回2012年版が手に入ったので2014年までの十枚が揃いました。この調子だと2015以降のを入手する頃にはまた新しい年のが二~三枚加わってるんじゃないでしょうかね(笑)。

■五つの赤い風船ライブ・中津川フォークジャンボリー 1979

このシリーズのLPも毎月のようになにかしら購入できてます。今度買ったLPはヤフーオークションには前から出品されてはいたんですね。ただ七千円近い価格を付けられていて、当然ながらずっと入札無しのまま更新され続けています。
他にはなかなか新たな出品が無かったところへ、先月ようやく出てきました。それも開始価格千円です。帯は付いてないみたいですが、私は帯にはなんの価値も見いだせないほうなので、問題ないどころかそれで安く買えるのなら歓迎です。
他の入札者もあるにはあったものの、ありがたいことにそれほど強い動機のある人ではなかったみたいで、私の入札額よりも下でリタイア。結局千三百円で落札です。他のもこうありたいものです。

レコードの音源は1970年の第二回フォークジャンボリーです。当時はキングとビクターからそれぞれ別内容で発売されたフォークジャンボリーのオムニバス盤に数曲ずつ収録されていたわけですが、五つの赤い風船のセットの完全版として十二曲入りでLP化されています。


【先月買ったレコード・CD】

■Ray Davies Americana 2017

レイ・デイヴィーズのソロ最新作です。「アメリカーナ」というタイトルからして、アメリカのルーツミュージックに取り組んだんでしょうか。それとも歌の内容がもっと大陸的な歴史を語ったものなのかもしれません。アルバムについての事前の知識はまったくありません。ニール・ヤングは2012年に同じタイトルでアメリカの古いフォークソングを集めたアルバムを出しています。

デイヴィーズはキンクスが自然消滅してしまったあとは、意外と何枚もソロアルバムを出してますね。これは素晴らしいというような突出した傑作はまだ無いんですけども、どれも聞きごたえのある一定の水準のアルバムにはなっています。
2007年の「Working Man's Cafe」の後は聖歌隊との共演やデュエットアルバムなどの企画ものが続きましたから新曲集は久しぶりです。そういえば先々月スモーキー・ロビンソンの記事で、ロック系のデュエットアルバムはエルトン・ジョンとヴァン・モリソンくらいじゃないかなどと思いつきで書いてしまいましたが、デイヴィーズも出してましたねそういえば(笑)。

■Allen Toussaint American Tunes 2016

うっかりして生前最後の二枚をまだ入手してなかったんですよね。先月「Songbook」を千円くらいで購入、続いて残るラストアルバムを千百円で買うことができました。前者はプラケースですが、これは紙ジャケットでした。

■Willy Deville Live at Rockpalast 1995 & 2008 2014

ドイツのテレビ音楽番組「ロックパラスト」のライヴ音源シリーズでは、去年ロニー・レインのを入手しました。ほかにもデイヴ・エドマンズやロックパイル、プリティ・シングズのをアマゾンのマーケットプレイスで狙ってるんですがなかなか安いのが出なくてチェック継続中です。
このシリーズではミンク・デヴィル名義のものも出ているウィリー・デヴィルのソロ篇が送料込み千五百円くらいのが出たんで速攻ワンクリックしました。

■Alison Moyet Minutes and Seconds Live 2014

近作の「The Minutes」を聞いて、あーやっぱりアリソン・モイエいいなあとその後の動きを調べてみたら、このアルバム直後のツアーを収めたライヴが出ていたことを知りました。ヤズーの再結成ライヴを除けば、初のソロでのライヴアルバムです。
さらにダウンロードのみのライヴミニアルバム「Live at Bush Hall」というのも四曲あるんですね。ダウンロードのみ音源というのはレコード好きにとって最も不愉快な代物なんですけども(笑)、まあしかたありません。
今年六月にはニューアルバムも出るようです。

■Neil Young Peace Trail 2016

現時点での最新作です。わりと安い価格で出て送料込み千四百円で買いました。
これも紙ジャケットですね。CD一枚ですがポスター式の歌詞カードが折りたたんで入っているため内容物はかさばります。それで五ミリくらいの厚みを取った “薄い箱型” のスリーヴになっています。

■XTC Black Sea 1980

それほど入れ込んでいるグループでもないので、評判のいいアルバムやトッド・ラングレンがプロデュースしたようなものだけ選んで聞いてました。でもラスト作あたりの「Apple Venus」(1999)が思いのほかいいアルバムだったんで、やっぱり全部聞いてみようと持っていないものを買い集めました。ファーストやダブアルバム付きのセカンド、円型ジャケットの「The Big Express」などですね。

そうするとラスト作の「Wasp Star」(2000)までLPで持ってるもんですからやはりすべてLPで揃えたいところですが、ひとつ障害が出てしまいました。92年の「Nonsuch」は、すでにCD時代に入っていたためLPのプレス枚数が少ないんですね。それで今では非常に高値が付いていて、とても買えるようなものではありません。といってこれだけCDというのはいかにもみっともない。なんとか再プレスしてほしいんですけどねー。

で、今回買ったというか買い直したのは1980年の「ブラック・シー」です。XTCの出世作ですね。このアルバム、ジャケットにはグリーンの紙袋がアウターカバーとして付いているんですね。レッド・ツェッペリンの「In Through the Out Door」と同じです。
私がこれまで持っていたのは外袋なしの通常ジャケットのヨーロッパ再発盤で、別にこれでいいやという感じでした。しかし正直いうと以前から気にはなっておったわけですね(笑)。ひと揃いともなってくるとますます画竜点睛を欠くの感ありです。まだ「ノンサッチ」が足りないとはいえ。

しかし今さら何千円も出して紙袋だけのために買い直すというのも酔狂です。ところが「Nonsuch」のためにアラートをかけていたヤフーオークションに、日本盤のアウターカバー付きのが格安で出品されました。まあダメもとでと入札したところ意外にも競りにならずに千円で落札してしまいました。
実際手にしてみると、やっぱ紙袋付きじゃないと意味無いよなという気がしてくるから現金なものです(笑)。



【今月聞いたレコード・CD】

■Alison Moyet The Minutes 2013

2007年の「The Turn」以来のアルバムでわりとインターヴァルあったんですね。まあ今どきは五~六年の間隔はなんでもないですけども。
今回も新しいプロデューサーで作っていて、ディジタル楽器の得意な人みたいで全体にエレクトロポップです。といってもヤズーのときからそうですが、バックトラックはエレクトロニックでもヴォーカルはあくまでソウルフルなんで、テクノを聞いているような人工的な感覚は全然しないです。

相変わらず素晴らしいヴォーカルで、曲も粒ぞろいですから文句なしですね。軽快なアップテンポからドラマチックなミドルテンポの曲、かげりのあるバラードまで自在な歌を聞くことができます。
バックはかなり作り込んであって、ちょっと耳に残る効果音などの使いかたがうまくて非常にこなれたポップロックアルバムになっています。

ヤズーは2010年に一時的に再結成してライヴCDも出したんですが、これが素晴らしいんですよ。観客の盛り上がりかたもすごくて、やはり人気あったんですね。ヤズー時代とその後のモイエのソロまで、来日したことは無いんじゃないかと思いますが、またヤズーの再結成ツアーをやって今度はぜひ日本にも来てほしいものです。

■The Beach Boys That's Why God Made the Radio 2012

ビーチ・ボーイズ再結成スタジオ録音新作です。再結成といってもいつ以来のことになるのかというのはよくわかりません(笑)。スタジオ盤としては1996年に多数のゲストシンガーを招いて作った「Stars and Stripes Vol. 1」が前作のはずです。
発売に合わせてコンサートツアーも敢行しているんですが、そのメンバーとして1963年以来だというデイヴィッド・マークスという人が参加しているところがウルトラCです。

ブライアン・ウィルソンは好調を維持していますから、単なる企画商品というようなものではなくちゃんとしたアルバムになっています。徹底してポップヴォーカルハーモニーで構成してあり、まさしくビーチ・ボーイズですね。
ほとんどの曲をブライアン・ウィルソンが書いてますが、リードヴォーカルをメインの四人で均等に回していっている感じです。昔のアルバムのように、こりゃ一体どうなってるんだというような疑問を感じるところが無くて、ほんときれいにうまくまとまってます。

■Flamin' Groovies '70 1984

去年聞いた「Flamin' Groovies '68」の姉妹盤でフランスのEvaというレーベルから出たLPです。ライナーノーツによると1970年にサンフランシスコのマトリックスというナイトクラブに出演した際のリハーサルの模様を録音したものだそうで、おそらくラジカセで録ってあり、レーベルにはモノと書いてありますがステレオで録音されています。
リハーサルですから当然一発録りで、それも一気に流したものだと思います。非常にプロフェッショナルな熱気あふれる演奏です。

チャック・ベリーの「Carol」、ボー・ディドリーの「I'm a Man」、キングズメンの「Louie Louie」、ジョニー・キッド&パイレイツの「Shakin' All Over」など、これをやりたくてバンドやってます的なごきげんなカヴァーを聞くことができます。
さらにニューオーリンズものもやっていて、ヒューイ・ピアノ・スミスの「Rockin' Pneumonia and the Boogie Woogie Flu」をロックアレンジで。ただこれはやはりなんだかちょっと場違いな感じがしてしまうのはどうしてですかねー好きなんでしょうけどね。ドクター・フィールグッドもセカンドでヒューイ・スミスやってますけど、やはり少し変てこです。好きなんでどうしてもやりたいんでしょう。
オリジナル曲では15分にも及ぶファンク「American Soul Spiders」がすごいです。

■The Who Live from Toronto 2006

フーの発掘音源もので1982年のカナダでのコンサートですね。たしかこれ当時はビデオソフトとして発売されたんじゃなかったですかね。なぜか2006年になってCD化されました。

キース・ムーンの死んだ後ですから、元フェイセズのケニー・ジョーンズがドラムズです。ジョーンズはそれほどテクニシャンでもなければパワーヒッターというわけでもないので、やっぱりそれまでとは見劣りがするとしか言いようがありません。しかしキース・ムーンの代わりなんて誰にもできないわけですから、逆にジョーンズのような “普通の” ドラマーのほうが適していたでしょうね。
それでも結局ムーンのいないフーは、パンク~ニューウェイヴの時代ということもあって活動自体が行き詰まってしまい、82年にいったん解散します。
こちらとしては、ああやっぱりだめだったかという気分でしたし、しばらくして出たラストツアーのライヴ盤もあまり聞き込むこともなく過ぎてしまいました。

それでこの発掘ライヴCDですが、録音されたのはそのラストツアーのときなんですね。当時出たライヴ盤「Who's Last」とは収録日が少し違います。「WHo's Last」の内容はもちろんぜんぜん記憶にありませんから比較できませんけど、だいたい同じ演奏と考えていいでしょう。
おそらくレコードとして出した「Who's Last」のほうはスタジオでのオーヴァーダビング作業を施してあるだろうと思います。いっぽうこちらの「Live from Toronto」はどうでしょうか。ビデオ収録でしょうから、わりと生のままの演奏じゃないでしょうかね。

そう考えると改めて聞くこのツアー、けっこういい演奏です。幾度かの再結成を経て今も続いているフーと比べても、なんといってもまだジョン・エントウィッスルがベース弾いてますからそこは大違いです。
「I Can't Explain」「My Generation」など初期の大ヒット曲から「Tommy」「Quadrophenia」などの大作、またムーン死亡後の新しい曲までまんべんなく選曲してあります。
少し前に「View from a Backstage Pass」という素晴らしいライヴコンピレーションを聞きましたが、これでの全盛期の充実した演奏とは同列には語れません。しかし決してやる気の無い感じはしないですし、今から考えるとこのときメンバーはまだ四十歳にもなってないですからバリバリで当然ですね。でも当時は若いパンクスからは爺と呼ばれていたわけで(笑)。

もっともこの二枚組CD、フーをこれから聞いてみる人に勧めるようなものではなく、全部聞いてもう他に聞くものが無いというようなコアなファン向けですね。あっでも私はまだ何枚かありますね2014年の「Quadrophenia Live in London」とか(笑)。






20170430


【今月聞いたレコード・CD】

■Rolling Stones Get Yer Ya-Ya's Out!
40th Anniversary Deluxe Edition 2009

少し前に聞いたモノボックスには1969年の「Let It Bleed」まで入ってます。その後グループはデッカを離れて自分たちのレーベルを新しく作り、有名な「Sticky Fingers」を出します。
その間にデッカとの契約消化のため出したのがこのライヴ盤です。初めからステレオミックスしか発売されなかったためモノボックスには含まれていませんでした。

このライヴ、2009年に発売四十周年記念のデラックスエディションボックスセットが出たんですが、あまり好きなライヴ盤でもなかったので買ったきり棚にしまってました。それがモノボックスでデッカ時代のアルバムを改めて通しで聞いて、その流れでこのCDボックスを聞くという絶好の機会が到来しました。
でもって聞いてみるとなかなかいいライヴだったことがわかり、しまい込んでいてかえって良かったなあとタイミングの妙に感じ入っています(笑)。

デラックスエディションの売りものは、当時グループが出そうと目論んだ形でのリリースが実現したという点です。当初このライヴはLP二枚組で発売しようというアイデアがあったそうです。それも、ローリング・ストーンズの演奏をダブルアルバムのヴォリュームにするのではなく、二枚目にはサポートアクトであるBBキングとアイク&ティナ・ターナーの演奏をカップリングするという大胆な企画でした。

フェスティヴァルなどの合同コンサートではなく、単独アーティストのライヴ盤に前座の演奏も収録するなどというのはまったく前代未聞です。だいいちレコードの名義をなんとすればいいのか。もしその形で出たとすれば、「ローリング・ストーンズ/BBキング/アイク&ティナ」の三者連名とするよりほかないでしょうし、レコード会社としてはそれはとても無理ってもんです。
ミック・ジャガーとしては、前座に招いたBBキングやアイク&ティナ(自分たちよりも格は上と認識していたでしょう)の演奏が素晴らしかったのでぜひレコード化したいと素直に考えたのかもしれませんし、あるいは無理難題をデッカに突き付けて困らせてやろうといういたずら心だったとも考えられます。

結局当時はローリング・ストーンズの演奏だけの一枚もののLPとして発売されます。まあそうだろうなとは思いますが。出たばかりの新曲「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」をはじめとした、60年代の人気ビートバンドの姿からはひと皮むけたニューロック的な感じになっており、時代そのものが転換期だったことがうかがえます。
新メンバーのミック・テイラーが達者なギターを聞かせ、会場のマディソン・スクウェア・ガーデンの雰囲気もロック興行の大規模化を予感させます。

私がこれを初めて聞いたのは三十五年くらい前ですね。そのときはなんだかあまりにユルい演奏に乗れなくて、その後出た「ラヴ・ユー・ライヴ」や「スティル・ライフ」のほうがずっといいと思ってました。
なんといってもチャーリー・ワッツのドラムズがもたついてもたついて、締まりのないこと甚だしいものがあります。それは今回のリマスターCDを聞いても同様で、よくこんな適当な編集にしたもんだとあきれます。ローリング・ストーンズはライヴ録音にもわりと後からオーヴァーダビングをするらしく、このアルバムでもヴォーカルやギターがだいぶ修正してあるそうです。でもドラムズのワンテンポ遅れて入るフィルインはそのまま(笑)。

しかし今回改めて聞き返してみると、当時のロックの新しい潮流であるルーツロック回帰という指向性にたしかに合っているというところが見えてきました。「ベガーズ・バンケット」や「レット・イット・ブリード」、大ヒット曲の「ホンキー・トンク・ウィメン」などのテイストがそうですね。
このライヴを聞くと、そのあたりまだ手探りでなんとか身につけようとして模索している過程であることもまた感じます。やがてそれは1972年の「メインストリートのならず者」で見事に結実するわけです。

さてそれで、今回初公開となった問題の前座公演です。これが聞きごたえ充分ですっかり気に入ってしまいました。若い白人の大観衆を前にしたBBキングとアイク&ティナ・ターナー。どちらも初めての経験だったでしょうし、観客もまた両アーティストを初めて見たという若者ばかりだったんじゃないでしょうか。しかしいずれもプロ中のプロといえるエンターテイナーですからまったく動じず、あくまで自分のペースで熱演を繰り広げ甲乙つけがたいです。

ボックスセットはCD三枚とDVD一枚となっています。CD1はオリジナルアルバム、CD2がコンサートからの未発表音源のボーナスディスク、CD3がBBキングとアイク&ティナですね。DVDにはどんな映像が入っているのかと期待しましたけど、これは当日のライヴの模様は少ししか入っておらずぜんぜんたいしたこと無かったです。
CD2のボーナスディスクは五曲しかなくて物足りないものの、非常に興味深い演奏を聞くことができます。コンサートの途中でミック・ジャガーとキース・リチャーズが二人だけで椅子に腰かけアコースティックギターで演奏するんですね。つまりアンプラグドの先駆けというところで、エルヴィスの68年のTVスペシャルでの「シット・ダウン・セッション」に着想を得たものでしょう。
リチャーズがドブロのスライドで「Prodigal Son」と後に「スティッキー・フィンガーズ」に入れる「You Gotta Move」を伴奏します。これはなぜオリジナルアルバムに入らなかったんでしょうねー。曲の流れの妨げになったのかもしれませんけども、これは大きな聞きどころでした。

スーパーデラックスエディションも出ていて、これにはLPも付いています。ただ、LPはCDのアナログヴァージョンという考えでやはり三枚になっていて、すべてをひとつの箱にまとめて入れてあるようなんですね。
もしLPが、オリジナル・アルバムのLP1+BBキング/アイク&ティナのLP2をカップリングしてダブルジャケットに収納した形にまとめてあったとしたら、ゼッタイ欲しいです(笑)。それは素晴らしい二枚組ですよ。今からでも単品として出してくれないものでしょうかね。

■Mott the Hoople Live at HMV Hammersmith Apollo 2009

2009年に行われた再結成コンサートの模様です。インスタントライヴCDのレーベルであるコンサートライヴが制作したもので、予約購入者はコンサート当日の帰りにCD-Rを受け取ることができたわけです。つまりオーヴァーダビングなど無しの100%ライヴ音源ということですね(私はアマゾンで買いましたけど)。
そのため曲の頭出しのチャプター信号がだいぶ早めに入っていたり、続けざまに次の曲が始まったときはイントロの一、二秒後に入ったりしてます(笑)。
またアンコール待ちの時間もそのまま収録されていて、生の雰囲気そのままですね。音はサウンドボードからですから当然すごくいいです。

さて演奏のほうは意外としっかりしてます。現役のイアン・ハンターは別として、あとの人たちはほとんど引退状態だったでしょうからちょっと心配でしたけどね。ドラムズのデイル・グリフィンはどうもヘロヘロだったみたいでサポートとして元プリテンダーズの人が叩いてますから、リズムの柱がしっかりしているところが良かったです。
オリジナルメンバーではキーボードのバーデン・アレンがはりきっていて、全体を引っぱってます。肝心のミック・ラルフスはどうかというと、この人ぜんぜんダメ(笑)。ギターのキレも悪いし「Ready for Love」などの自作曲でのヴォーカルもテキトーです。

そういえば2010年にバッド・カンパニーの再結成ライヴが福岡でもあったのでゼップ福岡に見に行きましたが、予定されていたラルフスの出演は当日キャンセルでしたね。まあ使いものにならない人出てきてもしょうがないし、ポール・ロジャーズ最高でしたから問題ありませんでしたけどね。

それはさておき、曲目は当然グレイテスト・ヒッツです。結局B級バンドのまま終わったモット・ザ・フープルですけどヒット曲はたくさんありますから、二時間はあっという間です。
初期のアイランド時代のヒットもだいたいおさえてあるし、「すべての若き野郎ども」以降の主要な曲はほとんど聞くことができます。ベースのオヴェレンド・ワッツもいいノりしていて、自作の「Born Late '58」を歌います。この曲かっこいいんですよ。

この後2013年にも同じメンバーで再々結成コンサートをやったみたいで、やはりライヴCDも出てます。これはまだ手に入れてなくて、この後のハンターのソロアルバムを聞いてから順番にこなしていくことにします。

■Sue's Rock'n'Blues: The UK Sue Label Story Volume 2 2004

以前聞いてみて気に入ったオムニバスCD「The UK Sue Story: The World of Guy Stevens」の続編です。ロッキン・ブルーズと副題が付いていて、たしかにそんな感じの曲が多いですけど、第一集と編集方針はほぼ同じです。
モッズ好みのリズム・アンド・ブルーズやソウル、ロックンロールばかり二十六曲入っていてレッツハヴァパーティ!って感じです(笑)。

まったく聞いたことの無いような名前のアーティストから、BBキング、エルモア・ジェイムズ、ジェイムズ・ブラウンといった有名どころまで実にさまざまなんですね。中にはライチャス・ブラザーズやポール・リヴィア&レイダーズなんてのまであって奔放です。
ただいずれも曲自体はほとんど知られていないようなレアなものばかりで、オーティス・レディングの「Shout Bamalama」というのは初めて聞きました。調べてみたらこれオーティスの初レコーディング曲だそうで、ヒット曲を出すまではリトル・リチャードのフォロワーだったという話をようやく確認することができました。

ガイ・スティーヴンズが制作していた英スー、有名無名問わず曲がかっこ良けりゃOKだということでレコードを発売していたんだろうと思います。それでおそらくこういったマイナーな曲を掘り起こして、より安い版権料でヒットを飛ばしひと儲けしてやろうという目論見だったんじゃないでしょうかね。
このあと第四集までありますから楽しみです。

■野音唄の市 1972

エレックの企画コンサート「唄の市」の中でもっとも大規模だったという1972年5月の日比谷野外音楽堂でのコンサートで、一万人の観客が集まったそうです。ライナーノーツによると第一部にはマギーメイ、ピピ&コット、野沢亨司、斉藤哲夫などが出演したようですが、このレコードにはピピ&コット以外は収録されていません。
メインは第二部からで、生田敬太郎、佐藤公彦、古井戸、泉谷しげるの人気アーティスト四組の演奏が二枚組LPの各面に五曲ずつ入れてあります。
これにさらにボーナスディスクとして17cmEPが付いている変則三枚組なんですね。EPにはアンコールとして全員で歌った「さなえちゃん」と、ピピ&コットの二曲を収録しています。

生田敬太郎はファーストの「この暗い時期にも」を出したばかりで、バックのマックスと共に出演しています。アルバムの一曲目でもあった「僕の唄」で始まりますけども、曲も演奏もすごくいいんですが歌詞がダメなんですよねこの人。二曲目に佐藤公彦の「生活」を歌うところなどはレーベルメイトとは仲がいいのは当然として、やはりヴィヴィッドな詞を書く佐藤に対する憧憬が見て取れます。

中ではやはり古井戸がいいですね。仲井戸麗市若いですねーほとんど高校生くらいに見えます。
トリは泉谷しげるです。絶大な人気はそのキャラクターによるところが大きかったであろうとは思えますが、なんといっても「春夏秋冬」のヒットがありますからね。ところが意外にも、このコンサートの時点ではまだこの曲はシングル発売されていなくて、セカンドアルバムでしか聞くことができなかったんですね。このあと発売されたシングルは、この野音のライヴヴァージョンです。















20170402


【先月買ったレコード・CD】

■Rolling Stones Havana Moon 2016

この前CDとブルーレイディスクのセットを買って、ついでにLPも欲しいが高いしなあ…と思っていたところが、アマゾンのマーケットプレイスでなんと三千円ちょっとで新品が出たので速攻ワンクリックです。海外の出品者だったんで届くまでに日数はかかりますけどぜんぜんかまいません。ミシェル・ポルナレフのオランピアのライヴLPもこのくらいで出るといいんですけどねーなかなか。

■Allen Toussaint Songbook 2013

アレン・トゥーサンの最近のものは、2006年にコステロと共演した「The River in Reverse」までしか聞いてませんでした。その次のソロアルバム「The Bright Mississippi」(2009)は買ってはみたもののインストゥルメンタルアルバムらしいんでなんとなく放置したままになってたんですね。

残念なことに2015年に亡くなってしまいました。先日ふと思い出してその後のアルバムを調べてみたら、2013年に「Songbook」、そして生前最後に録音していたという「American Tunes」が 2016年に出てました。
さっそくウォントリストに登録してチェックしていたらまず「Songbook」がえらく安い価格で出ました。これはタイトルどおり自身の有名曲を再演したもので、ライヴのようです。あともう一枚はそのうち買うとして、まず「The Bright Mississippi」を聞かないと。

■Kinks Everybody's in Show-Biz 1972 Legacy Edition 2016

「マスウェル・ヒルビリーズ」に続いて「この世はすべてショービジネス」も新デラックスエディションとして出ました。CD二枚組で、一枚目がオリジナルのアルバム音源(LP二枚組)を全部収録。ボーナスのCD2がすごくて、オリジナルLPの二枚目のライヴの完全版です。
メンバーを増やしホーンズも付けてのアメリカツアーですが、熱演というよりはけっこうダルな感じの演奏だったように思います。

権利関係でごたごたがあっていたようで一時デラックスエディションのリリースがストップしていました。その後クリアになったんだかどうだかわかりませんけど、ユニヴァーサル傘下のサンクチュアリが「マスウェル~」を出した次のこれは、元々のレーベルであるRCAから発売されました。
しかしRCAは現在はソニー傘下なんですねー。それでシリーズ名が「レガシー・エディション」。もう最近はレコード会社の業界再編でなにがなにやらわかりません(笑)。

■Night of the Proms 2010

少し前にこれの2011年版を入手したところです。2010年のは値段が下がるのを待っていたら二千円弱までなりました。
出演者の中で私のひいき筋はボーイ・ジョージで二曲歌っています。でもあとはあまり触手の動くところが無くて、クリフ・リチャードにキッド・クリオール&ココナッツとか、他は知らない人たちです。
あと欲しいのは2005年版だけですけど、依然として入手困難が続いています。気長に取り組んでいきます。

■フジロック・フェスティバル 20thアニヴァーサリー・コレクション [1997-2006] 2016

去年出たコンピレーションで上下巻あります。これは前編で、後編は2007年から2016年までの音源を編集してあります。てっきり国内アーティストのオムニバスかと思ったら海外アーティストだけを集めてあります。
全体に新しいバンドが多いのは当然なんですが、コステロとジョー・ストラマーが入っている以上無視するわけにはいきません。
後編のほうは興味の無いのばかりで、唯一プライマル・スクリームが一曲入ってるので安かったら買おうかなというところです。

同フェスティヴァルのライヴCDというと1998年のが当時出てますね。これは二枚組で一枚目が国内アーティスト、二枚目が海外というもので、忌野清志郎が出ているので持ってるんですけどたしかこれまだ聞いてません(笑)。

【先月買ったレコード・CD】

■Elton John and His Band Live from the Main Stage at Bestival 2013
■Elton John and His Band Live 2009
  30 Jun 2009 Bowling Green
■Paul Rodgers Live 2011
  15 Apr 2011 Blackpool Opera House
  21 Apr 2011 Manchester Apollo
  28 Apr 2011 Birmingham NIA

このエルトン・ジョンとポール・ロジャーズのライヴCDは、イギリスのコンサート・ライヴというレーベルから出ているものです。このレーベル、大手のレコード会社とは違った独自の制作手法をとってるんですね。アーティストやプロモーターと提携して契約アーティストのコンサートを録音し購買者に手渡すという「インスタント・ライヴ」方式です。
あらかじめ申し込んでおくと、コンサート終了後にCD-Rの形で手渡され記念品として当日持って帰ることができるというからすごいです。

通信販売でも買えるようになっていて、エルトン・ジョンは2009年の三つのツアー「Live 2009」「The Red Piano」「Live 2009 featuring Ray Cooper」でけっこうたくさんリリースされました。ひょっとすると全日程がCD化されたのかもしれません。
出た当時は全部買うのはちときついので、曲目がだぶっているコンサートを除く形でピックアップして入手しました。でも限定盤なので次第に売り切れていき、入手困難になった日付のも出始めると、やっぱりがんばって手に入れときゃよかったなあという気もしましたけどね(笑)。

先日、このレーベルがまだ継続していることを知って久しぶりでウェブサイトを見てみました。そうすると、その後知らないうちに何枚か新しいものが出ていることがわかり少々慌てました。
エルトン・ジョンは2013年にベスティヴァルというイベントに出たときのライヴが単発で出てました。またポール・ロジャーズは2009年のハマースミス・アポロのライヴと再結成バッド・カンパニーの2010年UKツアーのインスタントライヴCDを買いましたけど、その後2011年にも三日間の録音が出てました。

さてそれで、これらも出てすぐ買ったら10ポンドくらいしたはずですが、すでに在庫品の見切り価格になっていて一枚2.99ポンド(笑)。五百円くらいですね。エルトン・ジョンの「Live 2009」からは持ってなかった6月30日のボウリング・グリーンでの録音が売れ残っていたのでこれもついでに。五枚で14.95ポンド、送料12.5ポンドで合計三千八百円ってとこですか。

■ドレスコーズ オーディション 2015

毛皮のマリーズ解散後に志磨遼平が作ったバンドで、早くもこれが四枚目です。セカンドの「バンド・デシネ」までしか聞いてなくて、新しいのが出たみたいだからそろそろサードの「1」を聞こうかなと思っていたところが、先月もう五枚目が出てしまいました。好調のようです。

毛皮のマリーズに比べるとストレートなロックンロールになっており、面白味は後退したような印象があります。これから三枚目を聞きますけども、新展開を期待したいところです。

■'71ロック・アウト・ロックコンサート 1979

SMSの「幻のフォークライブ傑作集」シリーズの一枚です。1971年に日比谷野外音楽堂で行われた企画コンサートですが、オークションで買った盤には解説も書かれているライナーが入っていなかったためどんなコンサートだったのかはよくわかりません。
当時は「ロックとフォークの合同コンサート」というような打ち出しかたをした催しがよく行われていたようで、このロックアウトロックコンサートという語呂の悪いネーミングのイベントもそのようなものだったんだろうと思います。

出演者のすべては不明ですけども、この盤に収録されているのはディランIIと遠藤賢司、はっぴいえんど、加川良の四アーティストです。
ディランIIが珍しいですね。このシリーズでは唯一の収録です。はっぴいえんども岡林信康のバックバンドとして出演したときのものが出ており、その中で自分たちの曲を二曲演奏しているのと、このロックアウトコンサートの二枚だけです。






20170326


【今月聞いたレコード・CD】

■Rolling Stones Blue & Lonesome 2016

さっそく聞きました。全編ブルーズのカヴァーで構成されているというのはローリング・ストーンズとして初の企画です。満を持してと言うべきか、あるいはもうまともな新曲が書けなくなったんでなにかカヴァー集でもやるかとなったのかはわかりませんが(笑)、しかしきっとデビューして以来ずっと「いつかやりたいこと」のひとつとして考えられていたには違いありません。また、ファンの誰もが望んでいたものでもあるわけです。

内容はもう文句の付けようがありません。円熟した演奏で、連中もまだまだいけるぞと思いを新たにしました。
サウンドは初期のブルーズカヴァーとはやはりぜんぜん違っていて、面白いことにその感触はブルーズ・ブレイカーズやピーター・グリーンのフリートウッド・マックのレコードを聞いているような錯覚を覚えます。違うのは両者のようにすご腕のギタープレイヤーがいないことで(笑)、その分ミック・ジャガーがリトル・ウォルターになりきってほぼ全編でハープを吹きまくってます。

選曲はかなり渋いというか、有名な曲はほとんど採りあげてません。私はブルーズあまり詳しくないので本当に有名なものしか聞いたこと無いからですけど、曲目見て知っていたのはオーティス・ラッシュの「I Can't Quit You Baby」だけでした。
まあしかしブルーズて演歌と同様に同じようなパターンの曲が多いですから、有名曲でもそうでない曲でもそれほど変わらないとも言えますけどね。

1960年代に英米で起こったブルーズリヴァイヴァルのブームのときは、それまで行方不明だったブルーズシンガーたちの居どころが次々に明らかになり、いわゆる再発見ブルーズメンが再び脚光を浴びるという出来事がありました。
そのときの彼らの年齢が60代70代だったわけで、くしくもローリング・ストーンズのメンバーがその時と同じくらいになってるわけですね。ひょっとするとミック・ジャガーは若いときに目の当たりにした再発見ブルーズシンガーたちと自らを重ね合わせて歌っているのかもしれません。

さてそうなると今度は、全曲チャック・ベリーのアルバムでもやってほしいものです。近年のディランはスタンダード曲のアルバムばかり出してますけど、それと同じでいいじゃないですか。チャック・ベリー集の次は今度はカントリーブルーズ集とか。
それで実は、僭越ながら次回作の企画を考えてみました。全曲チャック・ベリーではちょっともたないかもしれないので、「前半チャック・ベリー、後半はリズム&ブルーズの名曲集」という趣のカヴァーアルバムです。ひとつこれでお願いします。

1. Maybellene [Chuck Berry]
2. Wee Wee Hours [Chuck Berry]
3. Too Much Monkey Business [Chuck Berry]
4. Havana Moon [Chuck Berry]
5. School Day (Ring! Ring! Goes the Bell) [Chuck Berry]
6. Oh Baby Doll [Chuck Berry]
7. Johnny B. Goode [Chuck Berry]
8. Nadine (Is It You?) [Chuck Berry]
9. Promised Land [Chuck Berry]
10. Who Do You Love [Bo Diddley]
11. 634-5789 [Wilson Pickett]
12. See-Saw [Don Covay]
13. Blue Monday [Fats Domino]
14. Every Little Bit Hurts [Brenda Holloway]
15. This Old Heart of Mine [The Isley Brothers]

■Rolling Stones Charlie Is My Darling: Ireland 1965 2012

こないだのモノボックスの勢いで、放っておいたローリング・ストーンズものを思い出しました。これは1965年のイギリス~アイルランドツアーを撮影した記録映画のビデオディスクのデラックス版ボックス仕様です。ビデオだけでなく、そのサウンドトラックと関連する未発表音源のCD・レコードをパッケージしてあります。
はっきり言って映画のほうは貴重度は高いものの内容には乏しく、映像資料的といっていい代物です。当時ごく限られたかたちで公開されたのみで、その後はいわゆる幻のフィルムとなっていたわけですけど、見てみるとそりゃそうだろうなという感じです。

ところがボーナスディスクのオーディオのほうがこれが抜群で、要するにイギリス盤EP「Got Live if You Want It」の完全版なんですよ。これはすごいです。
去年吉見くんが、こいつが最高だと言っていたんで早く聞こうと思っていたんですね。いやほんとでした。
未発表だった五曲が追加されており、中でも「Little Red Rooster」が興味深いです。このライヴでも、ブライアン・ジョーンズが渋いボトルネックを披露します。「The Last Time」も入ってます。オリジナルのEPの曲目にはヒット曲は無い代わりにハンク・スノウのカヴァーなどがあって、イギリス特有のアーティスト志向が感じられる選曲でした。残念なことになぜか「サティスファクション」は収録されていません。

グリン・ジョンズが3トラックで録音したそうで、これを素材に五曲入り7インチEPとして65年に出した「Got Live~」はツアーの熱気が伝わる初ライヴ盤だったものの、当時のEPはかなり音が悪かったんですよね。もっともその音の悪さも雰囲気の一要素でしたが。
今回のリストアでは観客席の歓声をステレオにして広げてあり、演奏は中央にまとめたことで聞きやすくなりました。そのため決していい音質ではないんですがEPのモノよりもいい音に感じるわけです。ビートルズと一緒で演奏中もひっきりなしですからね。

ただこのセット、同じ内容のブルーレイディスクとDVDが同梱されていたり、ライヴCDと同内容の10インチのレコードも付いているなど、無意味な水増しで構成されているところが気に入らないですね。映画の音声をそのままCDにしたサウンドトラック盤なんか要らないですよ(笑)。まあ最近はこの手合いはよく見られますけどね。
付属の写真集は文字が大きくてまるで絵本みたいだし、上下左右に展開するギミックの装丁も面白いのは面白いけどやっぱり余計な工夫で、映画のひとコマを拡大したスライドフィルムの裏に白い紙を一枚当ててあるところなどはなんともこなれていないアートディレクションです。アブコの手がけるものはどれもデザインがしゃれてないんですよね。

■Beatles Live at the Hollywood Bowl 2016

さっそく聞きました。「And now, here they are... the Beatles!」というエド・サリヴァンのMCから始まるこのレコード、1977年の発売当時はもう繰り返し聞いたものです。それまで海賊盤でしか聞くことのできなかったビートルズのライヴ音源の公式発売ということで大きな話題にもなりました。
今回初のCD化となった新装リイシュー版を改めて聞いてみると、新たな発見もいくつかありました。

発売された当時は、海賊盤と比べると格段に音が良いのは当然としても、ジョージ・マーティンの「音質が良くなかったのでリアルタイムでの発売を見送った」という回想には納得がいきませんでした。充分なハイファイレコーディングがなされていると思えました。
そのころはハードロック全盛ですから、ビートルズ=下手という認識が一般的でした。だからそのころの私も、実際は録音の良し悪しじゃなくて生演奏が下手なのがばれるからライヴ盤を出すことを認めなかったんじゃないかなどと勘ぐってました。

しかしそれからいろいろなレコードを聞いていくに従い、実際はやはり相当過酷な条件下でのライヴレコーディングであり、そのうえでのこれだけの演奏はなかなかできるものじゃないということが次第に実感できるようになりました。
またひとつには、同時期のロックのライヴ録音自体が非常に少なくて、他と比較するのが難しいということもありますね。ビーチ・ボーイズやキンクスがありますが、やはり比べるとするとローリング・ストーンズのEP「Got Live if You Want It」でしょう(アメリカ盤のLPはヴォーカルを全部スタジオで録り直してあるから論外です)。
前項に書いた「Charlie Is My Darling」のボーナスCDで明らかになったその全貌を聞いても、演奏はいいですがやはり音は良くないんですね。ビートルズのはこれらと違ってものすごくいい音で録音されています。

このハリウッド・ボウルでのコンサート、なにしろ喚声がすごいです。実際その場ではどうだったかは想像つきませんけど、演奏しているビートルズが自分の出している音がよく聞こえなかったという話も決して大げさじゃないでしょう。
昔はこの歓声がいやでですね。もう完全にアイドルグループのイベント状態だし、当時レノンが語ったという「五万人のわけのわからない観客よりも、自分たちの音楽をわかってくれている百人の前で演奏したい」という言葉もよくわかります。キャヴァーンがきっとそうだったんでしょう。

私も若いころは、ベイ・シティ・ローラーズじゃあるまいしこんなキャーキャーいう声は要らんなどと思っておったわけですが、今聞くとこれはこれで趣もあるってものです(笑)。実際こうしたおおぜいのファンに支えられていたわけだし、この少女たちの巨大なエネルギーが発現した背景にあるのは何だったんだろうなどと思うこともありますしね。
このクラウドの大きくうねり渦巻く中で、その鳴動にかき消されながら流れていたのが実は、百戦錬磨のビートバンドのプロフェッショナルで高度な演奏だったというのはこれはすごいことですよ。

最初の発売当初からマーティンが明言しているように、このライヴ盤はオーヴァーダビングはされていません(違う日の演奏をつなげてある部分はあり)。ということは、大歓声の中モニタースピーカー無しで合奏しリズムがばっちり合っているということです。さすがにボツになった演奏には、ほんとに互いの音が聞こえなくなってばらばらになってしまっているものもあるらしいですけども。

今回聞いてみて気に入ったところをいくつか挙げてみます。
「オール・マイ・ラヴィング」はスタジオヴァージョンでもレノンのリズムギターが大きな聞きどころなわけですが、このライヴでもやってるんですね。レノンが真面目に演奏しているのを聞くことができるというのは意義深いですし(笑)、しかもぴったり合っていて見事です。
「ディジー・ミス・リジー」はかなりパンクな感じの演奏でかっこいいですね。ギターの歪んだサウンドとレノンの迫力のあるヴォーカルが素晴らしいです。
ボーナストラックでは「ユー・キャント・ドゥ・ザット」ですね。演奏は完璧なんですがバックコーラスが途中まで録音されてないミスがあったため選曲から漏れたようです。

■Dear Mr. Fantasy: Celebration for Jim Capaldi 2007

トラフィックのドラマーのジム・キャパルディは2005年に癌で亡くなっています。これはその追悼コンサートの模様を収録した二枚組です。おおぜいのゲストが参加しており、生前の交友関係が広かったことがわかります。
演奏される曲はトラフィック時代の自作曲(キャパルディが詞を書いてスティーヴ・ウィンウッドが曲を書くというパターンが多かったようです)のほか、多くのソロアルバムからピックアップされています。

私はトラフィックのメンバーではウィンウッドばかり追いかけていたので、それ以外のソロアルバムなどはぜんぜん知らないんですよね。したがってこのコンサートのライヴでも初めて聞く曲が多かったです。
デイヴ・メイソンはトラフィックを抜けてソロとして活動し最も成功したアーティストといえますが、それでもあまり聞く気が起きずで。キャパルディのほうも中古レコード店などで見てレコードけっこういろいろ出してるなあと思うくらいで、いずれも買ったことはありません。

そんなふうで、キャパルディのキャリアについてはほとんど知らない私がこのライヴを聞いてみたというのも、もちろんゲスト目あてです。盟友のウィンウッドは当然ながら出演してますし、どういうつながりか知りませんけどピート・タウンジェンドも出てます。また若い世代からはポール・ウェラーも参加していたりということで、まあ大々的に行われて広く知られたイベントというわけではないため私もつい最近このCDのことを知ったくらいです。

キャパルディのソロアルバムからの曲は70年代のものから2000年に入ってからの晩年の作までまんべんなく採りあげてあります。
2001年のアルバムに入っている「Love You 'Til the Day I Die」や、キャパルディとポール・キャラックが共作してイーグルズにプレゼントしたという「Love Will Keep Us Alive」といったバラードになかなかいい曲があったりします。
ソロのディスコグラフィをちょっと調べてみると、最初の三枚くらいはトラフィックと並行して作っていて、演奏もマッスル・ショールズ期のトラフィック全員がバックアップしているなど、ほとんどトラフィック同然というような感じなんですね。ロッド・ステュアートとフェイセズみたいなもんでしょうか。その三枚は聞いてみることにします。


【今月聞いたレコード・CD】

■Smokey Robinson Smokey & Friends 2014

先月はヴァン・モリソン、今度はスモーキー・ロビンソンのデュエットアルバムを聞きました。別に流行しているというわけではないでしょうけどね。考えてみれば多くのゲストを呼んでデュエットアルバムを作るという贅沢な企画は、名実ともに超一流の大スターでなければできないことですし、またどちらかというとポピュラーシンガー的な趣向ですから、アルバム単位ともなるとロックシンガーはあまり手がけてませんね。モリソン以前はエルトン・ジョンくらいですか? ロッド・ステュアートがそのうちやりそうな感じです(笑)。

スモーキー・ロビンソンともなれば、その資格は十二分にあります。おそらく、アメリカのシンガーに「一生に一度でいいから共演したいアーティストは誰」というアンケートでもとったら、間違いなくトップの十人に入るであろうと思えます。
その幸運な人選に受かったのは比較的新しい世代のアーティストたちです。あまり大物ばかり選ぶと、スケジュールがつかなかった人たちから恨まれることになって後が大変とプロデューサーは考えたんでしょうか(笑)。

全十一曲、ミラクルズ時代からソロまで、きらめく宝石のような名曲がずらりと並びます。一曲に複数のゲストが加わっている場合もあるので全部で十一人というわけではないんですが、黒人シンガーとのデュエットが六曲、白人とが五曲とバランスには配慮の跡があります。
白人シンガーはエルトン・ジョン、スティーヴン・タイラー、ジェイムズ・テイラー、シェリル・クロウ、ゲイリー・バーロウ。唯一の人選ミスが一曲目のエルトン・ジョンで、これはぜんぜん声の相性が良くなくてダメですね。しかし意外にもスティーヴン・タイラーと歌う「You Really Got a Hold On Me」は悪くないです。ジェイムズ・テイラーとの「Ain't That Peculiar」、いいですね。

黒人シンガーはベテランは一人もいなくてみんな若い人たちです。基本的にゲストが先に歌って二番からロビンソンが歌いだすというスタイルをとっています。わりと自由に歌わせていて、ロビンソンの度量の深さを表しているようです。
ジョン・レジェンドとの「Quiet Storm」とメアリー・J・ブライジとの「Being with You」が抜群ですね。
一枚ものじゃちょっと物足りないですから、第二弾もあるんじゃないでしょうか?

■NRBQ Atsa My Band 2002

面白いバンドなんですが最近はちょっとごぶさたしていて、いつの間にか聞いてないアルバムが何枚かたまっていることに気づきました。手許に四枚CDがありました。で、まずは2002年のこのアルバムです。
まあこのバンドはいつもそうなんですが本気でやってるのかふざけてやってるのか、おそらくその両方だろうと思われますけども、今回の「Atsa My Band」、なんだかとぼけたセンスのカヴァー曲が半数を占めています。中には「ビューティフル・サンデー」なんかもやっていて、真面目でないことは確かです。

演奏はいつものように手練れですが脱力ぎみでもあり、楽しめることは間違いないです。二分台の曲ばかり十四曲入りで気軽に聞けるようになっています。気軽に聞くことのできないNRBQはありませんが(笑)。
ちなみにタイトルの「Atsa」はイタリアなまりの英語で「That's a」のことだそうです。

1994年にアル・アンダーソンが脱退してからのNRBQはだめになったという人もいるんですが、そうでもないと思いますよ。テリー・アダムズは健在なわけだし。でも現在はスパンピナート兄弟まで抜けてるんですね。最新のものはどうでしょうか。
手許にあってまだ聞いていないあとの三枚は、2004年のオリジナルアルバム「Dummy」と発掘ライヴの「Live from Mountain Stage」「Live at the Wax Museum」ですね。さらにまだ買っていない2011年以降のアルバムもすでに何枚か出ていますから、これからせっせと聞いていきます。

■オジロザウルス Rhyme & Blues 2006

ラップはほとんど聞かないんですが、日本のラップには一時ちょっと期待していたんでいくつか聞いてみたことがありました。しかし結局どれもこれもしょうもないものばかりで興味を無くしてしまいました。その中で気に入ったのはジーブラというラッパーとこのオジロソーラスです。

これは三枚目のアルバムで、MCのマッチョのソロプロジェクトみたいになってしまったようですね。二枚目までのものはマッチョのラップよりもバックトラックの情緒のほうがむしろ聞きどころでした。
それでサードではDJが替わってますけど、聞いてみるとこれまでのものと音楽的な感触は変わってないんですね。ということは、当初からバックトラックに関してもマッチョが大きく関与していたと考えるべきでしょうか。

がなるようなマッチョのラップは耳に心地よいとはいえませんが、ひたむきであり悪くはないです。私もラップあまり知らないんで他との比較はできないんで上手いのかどうかはよくわかりません。
それよりもバックトラックがいい感じで、単純にポップミュージックとして楽しめるアルバムになっています。ゲストも入れ代わり立ち代わり出てくるところがヒップホップ式ですね。ヴォーカル音楽じゃないから、こうしないと単調になってしまうんでしょうね。その中にジーブラも出てきます。やはりこのおっさんなかなかいいですね。ソロになる前にいたキングギドラというユニットのアルバムを聞いてみようかなとかねてから思っていたところで、今度ちょっと探してみますかね。

■乱魔堂 1972

印象的なジャケットで有名なアルバムですが、しかしこのバンドのことはあまり知りませんでした。日本のロックアルバムの中ではマストアイテムというほどの名盤ではなさそうだしで、聞くのが後回しになってたんですね。オリジナルのLPは高いんでCDを買いました。
調べるとやはりこれが唯一のアルバムで、その後のメンバーも目立った活動はしていないようですから、ジャケットとグループ名以外のことは知る機会が無かったわけですね。

一曲目二曲目を聞くとはっぴいえんどのフォロワーかと思えるような感じで、初めて聞いたときは少し失笑してしまいました。ところが三曲目以降になると調子が変わり、だいたいこのバンドはブリティッシュハードロックを志向していたことがわかります。演奏は上手いですし、リードシンガーがなかなかいいです。名前わかりませんが。
LPが欲しくなってきましたけど、再発盤でも二千円くらいじゃ無いだろうなあ…。









ローリング・ストーンズの「モノ・ボックス」からシングルヒット曲をピックアップして「Big Hits」モノラル版のCD-Rを作ってみました。なかなかいいものができたと喜んでいるところです。モノボックスをお持ちのかたは作ってみてはいかがでしょうか(笑)。

一枚には入りきらなかったので二枚に分けましたが、分割ポイントを1966年の「マザー・イン・ザ・シャドウ」にしたため十六曲と十曲の少々アンバランスな二枚組になってしまいました。しかし分けるとすればここしかないでしょう?

選曲はイギリスで発売されたシングルのA面を出た順にすべて入れるというのが基本です。さらに「19回目の神経衰弱」のB面の「アズ・ティアーズ・ゴー・バイ」、同じく「夜をぶっとばせ」のB面「ルビー・チューズデイ」、「この世界に愛を」とカップリングの「ダンデライオン」、「ホンキー・トンク・ウィメン」のB面「無常の世界」は外せないところです。

このうちCD1の6・7・13・14、CD2の5・6・8はアメリカでシングルカットされた曲でイギリスではシングルとしては出ていません。あくまでイギリスでのリリースに絞った形にしようか少し悩みましたけども(そうすれば一枚に納まります)、LP版の「ビッグ・ヒッツ」にもこのへんはやはり入れてありますので、これに倣って特に重要な曲をセレクトしました。

CD-Rの書き込みにあたっては曲間のプリギャップを二秒挿入してちょっと昔ふうの編集にしました。
それからひとつ大事な点があって、「シーズ・ア・レインボウ」にはちょっと手を加えなければなりません。というのもこの曲はモノボックスでは「サタニック・マジェスティーズ」にしか入ってなくて、このLPヴァージョンでは冒頭に街頭の物売りの声のようなSEが十数秒入ってますから、これを音声ファイルの編集ソフトでカットしないとシングルヴァージョンになりません。幸いクロスフェイドは無いので単純にちょん切るだけで出来上がりです。

さてあとはCDレーベルです。モノボックスのCDのレーベル面をスキャンして少し加工しました。CD1をデッカ、CD2をロンドンにするという手もありますが両方デッカにしました。
「Big Hits 1963 - 1966」「1967 - 1969」「MONO」の文字を適当な位置に加えます。この手の作業で苦労するのがフォントの選択です。適切な書体にしないととたんにダサく見えてしまいますからね。選ぶのにだいぶ時間がかかりましたけど、まあこれならよかろうというところに決まりました。Impactというフォントで、この書体は初めて使いました。
「THE ROLLING STONES」は元のCDにあったもので、これと書き込んだ文字との色あいが若干違ってしまったもののもういいやって感じです(笑)。スキャンするとまったくオリジナルどおりには再現できませんから、元の文字でも大きさによって色味が変わります。「DECCA」のほうをサンプルとして色を選択したためにこうなってしまったんですね。


[CD1] Big Hits 1963 - 1966
1. Come On 1:50
2. I Wanna Be Your Man 1:44
3. Not Fade Away 1:48
4. It's All Over Now 3:26
5. Little Red Rooster 3:06
6. Time Is On My Side [Guitar Intro Version] 3:00
7. Heart of Stone 2:50
8. The Last Time 3:41
9. (I Can't Get No) Satisfaction 3:42
10. Get Off of My Cloud 2:54
11. 19th Nervous Breakdown 3:58
12. As Tears Go By 2:45
13. Mother's Little Helper 2:45
14. Lady Jane 3:08
15. Paint It, Black 3:23
16. Have You Seen Your Mother, Baby, Standing in the Shadow? 2:34
(46:34)

[CD2] Big Hits 1967 - 1969
1. Let's Spend the Night Together 3:25
2. Ruby Tuesday 3:13
3. We Love You 4:35
4. Dandelion [Single Version] 3:50
5. She's a Rainbow 4:10
6. 2000 Light Years from Home 4:43
7. Jumpin' Jack Flash 3:38
8. Street Fighting Man [Single Version] 3:08
9. Honky Tonk Women [Single Version] 3:01
10. You Can't Always Get What You Want [Single Version] 4:50
(38:33)


20170305


【先月買ったレコード・CD】

■Rolling Stones Blue & Lonesome 2016
■Rolling Stones Havana Moon 2016

買いました。ブルーズ集の新作のほうは、CDが三面ディジパック、LPは二枚組です。全十二曲で四十分くらいしかないのに二枚に分ける必要あったんですかねー。
それにしてもあまりにも何の変哲も無さすぎのカヴァーアートで、何年か前に出たベストものの「Forty Licks」のただの色違いというだけです。しかしミック・ジャガーのやることですから、単なる手抜きというはずはありません。

これについて、なにかに書いてあるのを見てなるほどと思ったんですが、今の多くのリスナーがアイポッドなどで聞くときに、アルバムのカヴァーアートは曲名の頭に小さなアイコンとなって表示されるわけですね。それで複雑な絵と違ってこんな単純なデザインならわかりやすいと。電車で隣に座っている人のをちらっと見てもあっローリング・ストーンズ聞いてる、とパッとわかるというんですね。

これはたしかに説得力のある解釈だと思います。新しもの好きのジャガーの意向だったとしても不思議はありません。しかしそうすると、ゴリラの顔やらベロマークの色違いだけやら、今後の新作はそんな感じになってしまうんですかねーシカゴみたいですね。CDならまあまだいいんですけども、LPとなると手にしてもこれはちょっと悲しいものがあります(笑)。

「Havana Moon」はライヴビデオで、去年アメリカと国交を回復したキューバの首都で行なわれたフリーコンサートの模様です。私が買ったのはブルーレイディスクとCDのセットのほうで、解説が充実しているということだったので、それならとちょっと高めですけど日本盤にしました。
ハイドパークでのコンサートの「Sweet Summer Sun」と同じ仕様でBD + CD + LPのスーパーデラックスエディションが出るなら良かったんですが今回はそれはなし。で、LPは別に買おうかどうかちょっと悩んでいるところです。四枚組とはいえ八千円くらいしますからちと高すぎです。だいたいビデオがメインのものですから公式のライヴアルバムととらえるかどうかはビミョーなところなんですよね。

■Beatles Live at the Hollywood Bowl 2016

はい買いました。こちらはディジパックではなく紙ジャケットになっていて、ブックレットはポケット式のフォルダーに収まっています。
LPはこっちは一枚ものですね。オリジナル盤の十三曲にボーナストラック四曲が追加されてますから、サイド1とサイド2を分ける箇所が変更されています。このへんはもともとが解散後に出た発掘音源ものですから、こだわる必要は無いでしょう。

それより、カヴァーアートががらっと変わったことが今回の大きなポイントですね。1977年のオリジナル盤のデザインはまるでお粗末なもので、当時高校生だった私でもこれはいくらなんでもあんまりじゃないかと思ったものです。
そうなると今回のように出し直すとすれば新しくデザインするのは当然のことで、出来あがったのはかなりアメリカンナイズされた感覚だとはいえなかなかいいタッチです。LPは光沢のあるダブルジャケットになっていて、30cmだと迫力があります。

ただちょっと気になるのは、アルバムタイトルと並行して同時公開のドキュメンタリー「エイト・デイズ・ア・ウィーク」の名称も大きく表示されている点です。映画のほうはなにもこのハリウッドボウル公演のライヴフィルムというわけではないし、当然アルバムも映画のサウンドトラックではありません。
それでも、ロン・ハワードの力作ドキュメンタリーの公開に合わせて初CD化リリースという話題性をぶつけてくるのは商売としてはうまいところです。逆に、こんな機会でもないとリマスター再発売はできなかったということかもしれません。

となるといよいよ次は「レット・イット・ビー」ですか? 何年か前に出たビデオ集「1+」に入っていたアップル屋上シーンなどは、おっと思うくらい高画質にリストアしてありましたからねー期待できそうです。

■Utopia Redux 1992 Live in Japan 2011

ユートピアの再結成日本ツアーのライヴです。見に行きました。このころラングレンはソロでしょっちゅう来日してましたけど、ユートピアでということで大いに期待したものです。ただ演奏自体はわりと普通な感じで、まあがっかりはしませんが再結成だしこんなもんで良しとしよう、と自分に言い聞かせてました(笑)。

ユートピアはもとはラングレンがプログレタイプのサウンドを志向していたときにバックバンドとして作ったものです。最初はキーボードが何人もいるような大げさなグループだったのがだんだん精鋭メンバーだけ残って四人に。
やがてラングレンとしてはこのバンド自体が面白くなってきて、ソロ活動と並行してユートピア名義のレコードも何枚も出すことになります。演奏する音楽もプログレから離れてなんでもやるようになり、ビートルズのパロディアルバムまで出す始末です。

それはやはりメンバーが良かったからですね。ドラムズのウィリー・ウィルコックス、ベースのカシム・サルトン、そしてキーボードのロジャー・パウエルとでまさにバンドのマジックが生まれました。ビートバンドのスタイルで作った「Utopia」(1982)はまったくごきげんなポップアルバムで、同時期のライヴビデオ「An Evening with Utopia」がもう最高なんですよ。何度見たか覚えてないくらいです。

今回買った再結成ライヴ盤は再発売ものです。オリジナルはコンサートの翌年にすぐ出たんで持ってたんですが、2011年になってリマスターされDVDとセットでリイシューされました。急ぐこともないしで値段が下がってから買おうと様子を見ていたらこの前ようやく千円くらいでマーケットプレイスに出ました。
DVDはCDと同じ日に収録された五反田でのコンサートの模様で、曲目はビデオのほうが少し削ってあります。ただCDには入ってない「Just One Victory」がラストにありますね。当時Wowowが放送したものらしいです。


【先月買ったレコード・CD】

■Bruce Springsteen Nebraska 1982

二枚組「The River」の次、「Born in the USA」の前という位置です。ソロ録音だそうで地味なアルバムというイメージを持っていたんですが、ヒットはしたみたいです。私小説的な内容の歌が中心で、今ではスプリングスティーンの重要作のひとつと目されているとのことで聞くのが楽しみです。
一律350円で出品している業者からで、また五枚ほどまとめ買いしました。このレコードは結局四百円くらいで落札です。

■Stephen Stills 2 1971
■Crosby & Nash Whistling Down the Wire 1976
■Crosby Stills & Nash Daylight Again 1982

スティーブン・スティルズのソロは競りにならずに350円で落札しましたが、あとの二枚は他に入札者が来ました。どちらも六百円くらいまで上がって、七百円が限度かと思っていたのでなんとかそれで納まってやれやれです。

■唄の市~組曲 男・男・男 1972

これもまとめ買いの一枚で、わりと珍しいレコードなので高騰するかと思いきや650円で落札しました。
エレックからではなく日本ビクターから当時出たものです。URCやエレックのアーティストのライヴはビクターもいろいろ出していてわかりにくいんですよね。権利関係がいいかげんだったんでしょう。
出演者は古井戸・なぎらけんいち・生田敬太郎の三組で、タイトルの「男・男・男」と題した組曲形式の歌を共演しています。

■音搦大歌合~武道館ライブ 1979

SMSの「幻のフォークライブ傑作集」シリーズの一枚です。1972年に武道館で行われた企画コンサートで「おとがらみだいうたあわせ」と読ませるそうです。
二枚組で五つの赤い風船と三上寛、加川良、武蔵野たんぽぽ団がそれぞれ一面ずつ収録されています。

これは単独でオークションで買いました。写真で見てもジャケットがけっこうボロボロで、商品説明では「ジャンク品」となってます。
でもこれはめったに出ないレコードなんですよね。ずっと前から出品されているものもあるにはあるんですが、六千円くらい付けてあるんで当然売れないままそいつは今も出品中です。

今回のはジャンク扱いでも三千円とわりと強気でした。逆にその出品価格からして、ジャケットはボロでも盤のコンディションはそう悪くないんじゃないかとアタリをつけて入札してみました。競りはありませんでした。
届いてみると思った以上にジャケットの状態は良くなかったんですけども盤は上等といってよく、狙いどおりでした。



20170226



【今月聞いたレコード・CD】

■Rolling Stones in Mono 2016

さっそく聞いてみました。もともとサードアルバムまではモノしかありませんからこれは耳に親しんだところです。しかしこれまでステレオでしか聞いたことの無かったのが1966年の「Aftermath」から以降のものですね。1980年代にすでにモノ盤のリイシューが始まったビートルズと違って、ローリング・ストーンズの「ステレオ時代のモノ音源」は聞く機会はまったくありませんでした。

「Aftermath」と「Between the Buttons」は演奏自体がわりとシンプルなサウンドですから、今回モノラルで聞いてもステレオとはさほど大きく印象が違って聞こえるということもありませんでした。
やはり面白かったのが次の「Their Satanic Majesties Request」(1967)で、もうサイケデリック期ど真ん中ですから過度な装飾に満ち満ちた音色です。これをモノラルで聞くとなかなか不思議な感覚ですね。「サージェント・ペパーズ」のモノラルを初めて聞いた時の違和感を思い出しました。

次作の「Beggars Banquet」(1968)はモノラルいいですね。まさにこれこそモノで聞きたいアルバムで、「Street Fighting Man」などは歪んだ迫力のある演奏が文字通りダンゴ状になって聞こえてきます。「Sympathy for the Devil」もやはりモノだと緊迫感がいっそう高まります。
最後の「Let It Bleed」は69年です。この年までまだモノ盤出てたんですね。時代はもうステレオLPが標準化していてミックスも安定し、バッキングとヴォーカルが左右に完全に分かれるような無様なステレオは無くなっていたころですから、言ってみればモノラル盤は惰性で発売されたようなものでしょう。それでもやはり、シングル曲の「Gimme Shelter」などはモノで聞くとパワフルな感じがします。

ボーナスディスクの「Stray Cats」と題された編集盤はいわばビートルズの「Past Masters」ですね。アルバムに入っていないシングル曲やEPなどを集めたものです。これがあると無いでは大違いで、今回のボックスにはアルバムとしての「Big Hits」第一集・二集が入ってませんから、シングル発売のみのヒット曲はこれでまとめて聞くことができます。
「We Love You」「Dandelion」「Jumpin' Jack Flash」「Honky Tonk Women」このもっとも重要な一連のヒット曲のモノヴァージョンがまた素晴らしいんですよ。やはりこの時代のシングルヒット曲はモノラルで聞くのが一番だということを確認できました。つまりラジオから流れてくる音そのものというわけですね。

フィル・スペクターの格言である「Back to Mono」の意味が、最近になってようやく実感として理解できるようになってきました。クラシックやモダンジャズのようなアコースティック楽器が中心の音楽は違うかもしれませんが、少なくともポップミュージックに関しては “ステレオである必要は無い” と思えるようになってきたんですね。モノでなければならないということでもありませんけど、モノで充分じゃない かってことです。

でも、ラジオで音楽を聞くという習慣はすっかり廃れてしまい、今ではダウンロードしたファイルをイアフォンで聞くのが最も一般的なスタイルでしょうか。そうするとモノラルのほうはちょっと分が悪いですよね。
なぜなら同じ曲でもステレオのほうがモノよりも情報量は多いですから、小さな音で聞くとステレオのほうがいい音に聞こえるわけですね。体感上の良い音ということです。となるとやはり、いくらこうしてモノラルのサウンドに注目が集まっているとはいえ、再びモノが主流となることは無いと言っていいと思います。

私はエアロスミスはあまり好きではないですけど、唯一気に入っている曲が1977年の「Draw the Line」です。スライドギターが炸裂するハードロックですが、これがモノラルにミックスしてあることに感銘を受けました。あの爆音の塊はモノだからこそ音圧を感じることができるんですね。
今度のローリング・ストーンズのも、ちょっとシングル曲だけピックアップしてモノ版「ビッグ・ヒッツ 1963-1969」をCD-Rに焼いてみますかね。

■Sparks Two Hands One Mouth: Live in Europe 2013

四十年目にしてキャリア初となるライヴアルバムです。どうしてこれまで出さなかったのかわかりませんけど、バンド形態として固まった時期が少ないため、その機会が無かったのかもしれません。
アイランド時代のアルバムのリマスターCDにはボーナストラックで当時のライヴ音源が何曲ずつか入ってるんですが、これがまたなんでこんな調子の悪い日の録音をボーナスで入れるかねというくらいラッセル・メイルの声が出てなくてがっかりしました。そんな音源を入れるしかないくらい、ライヴレコーディング自体ぜんぜん残していないということでしょうかね。

さて今回のライヴアルバム、タイトルが示す通り二人だけの演奏によるツアーの記録です。ステージ写真を見ても、ロン・メイルはローランドのキーボード一台だけですね。クレジットには「No Computers」と明記してありますから、ほんとに最小限の音で勝負したわけです。
これが物足りない演奏かというととんでもない。素晴らしいんですよ。キーボードはディジタルイクイップメンツを駆使したようなものではなく、そのほとんどがピアノだけで、少しストリングスの効果音が加えてある程度です。

弟のヴォーカルも好調で、オペラ唱法とも呼ばれた独特としか言いようのない歌いかたは健在です。普通に考えると、ライヴだとレコードのように何度もトラックを重ねた厚みのあるヴォーカルにはなりませんから、そこがネックになるのでは…とも思えますよね。ところが不思議なことにマイク一本とキーボード一台で完全にスパークスミュージックを再現しているんですね。

レコードのしっかりプロデュースされた重層的なサウンドもいいけど、それをシンプルな演奏で聞くのもまたいいね、ということではありません。このライヴ盤の演奏とそれぞれの曲のスタジオヴァージョンとは等価で聞くことができるんですよ。ぜんぜん遜色が無いんですね。
何度も聞きながら、これはどういうことだろうと考えたんですが、やはりこれは兄ロン・メイルの書く数々の曲自体が、それだけの力を持っているからだということじゃないでしょうか。

単に「いい曲」と言えるような曲はスパークスにはあまりなくて、それぞれがまったく独特のひねりを持ったメロディなんですね。しかし、ひねって捻じれていながらもとてもポップだというところがスパークスの真骨頂です。
そしてそれがまた、普遍的な力も持ったメロディだといえるということです。エルトン・ジョンの「Your Song」は、バンド演奏だろうとピアノの弾き語りだろうと、どう演奏してもいい曲だというのと同じです。

その証拠に、代表曲である「This Town Ain't Big Enough for Both of Us」を聞いてみるとはっきりします。グラムロックの名盤として知られる「Kimono My House」(1974)のヒット曲で、オリジナルはきらびやかでアッパーなハードロックです。これをピアノとヴォーカルだけの弾き語り状態で聞いても、会場のヨーロッパのファンたち同様ノリノリで聞けるんですね。ラッセル・メイルのファルセットが絶好調だというのももちろん大きいです。

■Led Zeppelin Presence 1976

レッド・ツェッペリンは昔からちょっと苦手で、高校生くらいのときに聞いた「II」と「IV」は、かっこいい曲もあるけど全体的にはなんだかよくわからないバンドだという印象が強かったものです。
ドラムズはパワフルでギターも迫力のあるサウンドですが、なにかもうひとつ、どこがどうと説明はできないものの私の好みのサウンドじゃなかったり、またいちばん気に入らなかったのはロバート・プラントの金切り声なんですね。そのため他のアルバムはあまり熱心に聞いておらず、たしか「Coda」はまだ聞いてません。

何年か前に全アルバムのリマスター盤が大掛かりにリリースされ、「レコードコレクターズ」でも特集されたりしましたから、この機会にちゃんと聞き直してみようと(リマスター盤を買ったわけではありません)ファーストから聞き込んでみました。そうしたら今度はえらく気に入ってしまって現金なものです(笑)。
おかしなことに以前はほとんど記憶に残ってなかったファーストと「III」、「Physical Graffiti」が特に良かったんですね。解説記事は大いに役立ちました。

それで今月は76年の「プレゼンス」です。当時も聞いていて、そのときはソリッドなサウンドが単純にかっこいいなと思いましたが、結局ブルーズの「Nobody Fault but Mine」くらいしか覚えてませんでした。
改めて聞いてみるとソリッドな音だというのも道理で、なんとキーボードが使われてません。最初からそういう方針だったのか、当時の対抗勢力のパンクを意識したのか。

しかし結論としては、このアルバムはやはり面白味がありませんでした。サウンドはストレートでも、曲のアレンジをこねくり回しすぎていてちょっと奇をてらい気味です。
ジミー・ペイジはスタジオでのレコーディングテクニックを駆使して音をかなり作り込んでいたようですね。若い頃に感じていた、なにかよくわからない奇妙な感じというのがこういった仕掛けの部分にあったのかもしれません。

■Leonald Cohen Songs from a Room 1969

レナード・コーエンを改めてファーストから聞いてみようと思ってます。これまで持っていたのは1967年のファーストと、77年の「Death of a Ladies' Man」の二枚です。後者のほうを先に買ったんですが、理由はフィル・スペクターがプロデュースをしているということとディランが一曲バッキングヴォーカルで参加しているという点で、コーエンに興味があったわけではありません。
しかし聞いてみると、まるで下手な歌なのに不思議な説得力があるというか、スペクターの過度に構築したサウンドの中に埋もれるのではなくちゃんと存在感をみせているところが気に入りました。

そこでもう一枚なにか聞いてみようということになるとファーストの「Songs of Leonard Cohen」が代表作と決まっているようです。たしかに素晴らしい内容でした。名曲「Suzanne」はどこかで聞いたことがあったし、他も魅力的なメロディとつぶやくような歌が相まって独特の世界を作っています。
ただ残念なのが、言葉がわからないことなんですよね。コーエンは詩人でもありますから、歌詞はきっと味わい深いものに違いありません。でもわからない。日本語訳を読んだところで、言葉の意味はわかってもそのニュアンス・語感・響きはどうしたって感覚としてつかめません。

日本語以外の歌を聞くということは、その要素の半分近くを最初から諦めなければならないものなんですよね。特にシンガーソングライターの歌となるとなおさらです。これはもうしかたがありません。
だから、コーエンの歌を気に入ったといっても、それはなんとなく気に入ったというだけのことに過ぎないかもしれません。まあでも、なにを言ってるのかわからないけど何かを感じる気はするんですよ聞いていると。

三十年ぶりくらいで聞いたファーストは、変わらず素晴らしいものでした。続いて今月聞いたセカンドアルバム「Songs from a Room」は、ほとんどファーストと同じタッチです。ファーストではギターは自分で弾いていたようですが、セカンドではほかのギタープレイヤーも入っています。しかし伴奏はあくまでもシンプルでアコースティック。コーエンの歌の引き立て役に徹しています。
曲の出来はファーストのほうが良かったですけども、セカンドには有名な「Bird on the Wire」が入ってます。


【今月聞いたレコード・CD】

■Van Morrison Duets: Re-working the Catalogue 2015

例によってひとつ前のアルバムを聞きました。新作が出てもすぐに聞こうというふうにはなかなかならず、次のアルバムが出てから「お、そういえば」という感じでようやく棚から取り出すということを昔から繰り返しています(笑)。

それはいいとして、このアルバムは過去の自作曲を多くのゲストとデュエットで再録音するという企画もので、もちろんモリソンとして初の試みです。
ベテランのアーティストともなると交友も広いでしょうし、気に入ったシンガーたちとデュエットしてみたいという気持ちはやはり誰にもあるんじゃないでしょうか。しかし一流どころが揃わないと格好が付かないし、それができる人となると一握りでしょう。ヴァン・モリソンならその資格は充分ですね。声をかけられて断る人などいないでしょう。

で、集まったのはやはり一流です。ジョージー・フェイムやスティーヴ・ウィンウッド、クリス・ファーロウにP.J.プロビーといった同世代でいわば同じカテゴリーに属する盟友たち、あるいはボビー・ウォマックやメイヴィス・ステイプルズ、タージ・マハルなど尊敬するリズム・アンド・ブルーズのシンガーたち。ジェス・ストーンにマイケル・ブーブレ、ミック・ハックノールら若い世代も起用しています。
少し意外だったのはナタリー・コールとジョージ・ベンソンという名前があることで、なにか畑違いな感じもしますけど、ミュージシャンにとってはそんなの関係ないってことですね。

デュエットの様子はというと、これはもう聞く前からわかったようなものですがまったく自由闊達に歌ってます。声をうまく合わせようなどという気は元から無いかのようで、ゲストたちもそれはよくわかってますからけっこう型破りです。
ラストの「How Can a Poor Boy?」のタージ・マハルとはもうアドリブ合戦で、演奏が終わった後もエキサイトした様子で歓談する二人の声が入れてあり、充実したレコーディングだったことがうかがえます。こりゃテイク2は必要ないだろみたいなことを言っているようです。

■Dave Edmunds ...Again 2013

スタジオ録音としては1999年の「Hand Picked: Musical Fantasies」以来となるアルバムです。ただクレジットを見ると全曲が新録音ではなく、91年と94年のレコーディング十曲に新録音五曲を加えた構成になっています。この後2015年には同じRPMレーベルから新作の「On Guitar」を出してますから、本格的な復帰という感じですね。

この「...Again」、自作のタイトル曲を含め多くの曲がチャック・ベリー・スタイルのブギで、声もぜんぜん衰えてないし昔ながらのエドマンズそのものです。80年代半ばくらいに制作されてお蔵入りになっていたアルバムだと説明されても真に受けてしまうかもしれないくらい、まったく同じ手応えなんですよ。
演奏はやはり一人多重録音のようで、ギターとキーボード以外は打ち込みで作ってあるみたいですね。

自分ではほとんど曲を書かないエドマンズ、今回は珍しく四曲も自作がありますが、どれもオールドタイミーなテイストのロック&ポップですね。よく知られた曲では「Georgia On My Mind」やエルヴィスの「Return to Sender」があり、リトル・リチャードの「Baby Face」はちょっと珍しい選曲です。

ギターインストゥルメンタルも二曲やっていて、相変わらず見事なカントリーピッキングを披露します。このうち一曲は珍しいことにエルトン・ジョンの「Your Song」なんですよ。

■Frank Zappa Halloween 2003

ザパの死後リリースもので「FZ/OZ」の次に出たものです。1978年10月31日、ニューヨークで行われたハロウィーンコンサートのライヴです。
これがCDではなくDVDオーディオなんですね。ザパの生前には無かったフォーマットですが、レコードの音質には厳しかったザパですから生きていれば間違いなくこれでも出していただろうと思います。
しかし私はDVDオーディオのプレイヤー持ってませんから、しかたなくCD-Rにコンバートして聞きました。DVDオーディオにはdtsの5.1チャンネルで記録してあるんですが、ちゃんとした装置で再生したらいったいどんな迫力のサウンドなんでしょうか。

コンサートのほうは78年後半ということで、アルバムでいうと「Sheik Yerbouti」のころのメンバーが中心ですね。ドラムズはテリー・ボッジオじゃない人がやってます。このころザパ・レコーズからアルバムを出したインド人のヴァイオリンプレイヤー、L・シャンカールもメンバーに加わっています。この人はクラシック出身みたいで、エレクトリックヴァイオリンを弾いても少々線の細い音ですね。ドン・シュガーケイン・ハリスのようなエグいプレイが聞きたかったものですけども。
この日のバンドは総勢九名で、まあ当然のことながら鉄壁の演奏です。ただ、かつてのように名物ミュージシャンがこれといっていないので、その点は面白味が少々減退しています。

この日のコンサートを丸ごと収録してあるというわけではなく、実際は他の日の演奏も何曲か織り交ぜて編集してありますが違和感はありません。わりと耳に親しんだような曲ばかりを選曲してあって楽しめます。

■よしだたくろう 元気です。 1972

当時ものすごく売れたアルバムです。なんといっても「旅の宿」が入ってます。独立レーベルのエレックから大手のCBSソニーに移籍しての初アルバムですね。
一曲目の「春だったね」がいきなりディランの「メンフィス・ブルーズ・アゲイン」の替え歌になっていて、またこれもディランの強力な影響下にあるレコードなのかと思いましたけど、全体にはそれほどのものではありませんでした。

やはり特筆されるのが、それまでの日本のポップスには見られなかった、メロディに対して言葉を多く詰め込んで歌う「字余り」の歌いかたですね。「春だったね」もそうですし、「親切」という曲もそれです。ほかにも何曲かそれっぽいのはありますが、むしろいろいろ変化に富んだ唱法を試みており一様ではありません。

日本語の歌は基本的に一つの音(音符)に一つのかな(発音)を当てますし、そのうえさらに小節を回していくのでメロディの数というか起伏に乗せられる言葉の数が少ないのが特徴ですね。これが西洋語の歌だと一音に一単語でいけるので、表現の幅は広いと言えます。なにしろ日本語は五七五七七ですべて言い表すような伝統がありますから、もともと饒舌は苦手なわけです。

このころ、音楽誌上などで「日本のロックは日本語で歌うか英語で歌うか」という論争が真面目に交わされていたらしいですけど、日本語はロックにはダメという発想は、そういう和歌のようなもっさりした感じから抜け出したいという願望が根底にあったはずです。
本来なら、ロックミュージシャンのほうが一音に一単語乗せて歌うような実験をしていくべきなのに、フォークシンガーに先手を打たれてしまったというところでしょうか。もっとも、この字余り唱法もすっかり吉田拓郎の専売特許みたいになってしまって定着はしませんでしたけども。

アルバムとしては、大手レーベルの制作らしくプロフェッショナルなサウンドにまとめてあるし、売れただけのことはあって非常に聞きやすいサウンドです。
吉田の歌う姿勢は少々おふざけ混じりのところがあってこれはいただけないものの、曲はどれもよくできています。モップスに提供した「たどりついたらいつも雨ふり」をカントリーテイストで自演したヴァージョンも入ってます。






170205


【先月買ったレコード・CD】

■Rolling Stones in Mono 2016

買うかどうかちょっと迷いましたけど、音は評判良さそうだし値段も手が届きそうにないほどではありませんから聞いてみることにしました。それでアマゾンでチェックしていたらある日、マーケットプレイスに一万円ちょうどで出たんですね。相場としては一万八千円くらいですからこれは安いと出品者情報を見ると、なんとこれが上海からの発送となってます(笑)。あからさまに怪しいにおいがプンプンですよね。ここでも少し悩みましたが、変なものだったらすぐ返品すりゃいいやと注文することに。ひょっとしたら噂のスーパーコピー品かもよと、もしそうだったらそれはそれで話のタネになるというものですから、届くまではどちらかというと楽しみにしてました(笑)。

果たして届いてみると、どっからどう見ても正規品です。私としても今回ばかりは微に入り細をうがって重箱の隅の隅まで検品してみましたが、結論としてはEU製の正規品で間違いなかろうというものでした。
このボックスセット、もともとEU製のものはジャケットの作りが乱暴で粗悪だという話がユーザーズレヴューに出ていました。製造国がチェコなんですね。箱の底の部分にちゃんと「Made in Czech Republic」と書いてあります。それぞれの紙ジャケットやCDには「Made in the EU」と表記されています。確かめてみたらチェコもEUの一員でしたから矛盾はありません。

たしかに紙ジャケットの貼り合わせはいいかげんで、ずれが大きいですね。日本人の感覚からすると不良品のレベルといっていいでしょう。私としてはそれほど目くじら立てるほどではないもので、ずれてるのなら直せばいいだけです。接着も甘かったので愛用のパレットナイフを使っていったん開き、正しい位置に貼り合わせ直しました。
ところがその中でひとつ、のりしろ部分に印刷現場での識別用と思しき表記で中国語があることを発見! 一瞬やはり中国製のコピー品かとも思いましたが、真相は不明のままです。チェコはもとは共産国ですから中国とも経済的なつながりがあったとしても不思議ではありません。紙素材は中国の安い印刷所で作って組み立てをチェコで行なったと考えることもできますし、チェコ国内に中国人がやっている印刷工場があるのかもしれません。
いずれにしても、もしこれがコピー品だとしたら、ここまでの精度で作ったんじゃ儲けは無いんじゃないだろうかというのが私の見解です。箱のふたのフラップを止める磁石もちゃんと入ってます。

■Bob Dylan The 1966 Live Recordings 2016

実はこれも同じ上海の業者からで、やはり一万円ちょうどでした。安いです。ローリング・ストーンズのと同じ理由で、これも正規品だろうと思います。こちらもEU製ですが製造国名は書かれていません。
箱のふたの合わせは良くなくて上下で絵柄がピッタリ合ってないし、中の紙ジャケットもかなりチープな作りです。でもやはり私としてはこれで充分な仕様かと思うんですね。どうせただのCDですよ? 日本盤みたいに病的に精巧なミニチュアにしたところで、フェティシズムであることに変わりありません。

それよりもこれ、三十六枚組なんですよね。CDが36枚も入ってるんですよ。すべてが正規の録音ではなく、大胆にも観客による海賊レコーディングまで収録してあります。1966年のディランの公演という歴史的に見ても大きな一節の、記録としての重要性を優先しての編集方針です。とにかく録音されたものを全て入れたらこうなったというわけです。そんな酔狂でも、値段を安くしてある(輸入盤の相場は一万四千円くらいです)なら許せるところです。どうせなら「The Cutting Edge」のコレクターズエディションをCDだけ今回のと同じような仕様で廉価盤として出し直してくれないもんですかねー。あっちはCD十八枚組で、EPなどもセットになっていたとはいえ十万円近くするようなべらぼうな価格でしたからね、とてもじゃありません。

さて今回の1966年実況録音集ですが、さすがにこれだけのヴォリューム、しかも音質もばらつきがあるようでは、何度も聞くようなものではありません。実際にはロイヤル・アルバート・ホールのを重点的に聞くことになりそうです。
ロック史上に知られるディランのロイヤル・アルバート・ホール公演のライヴですが、これは少々ややこしいいきさつがあります。この公演名がなぜ有名かというと、1970年代の初めに海賊盤で発売され、音が良くて演奏もいいということでディランのブートレグの “代表作” になってしまったからです。ただし、実際にはこの音源はロイヤル・アルバート・ホール公演ではなく、その十日ほど前のマンチェスターでのコンサートの録音だったことが後に判明します。

それだけで終わればいいんですが、98年にディランのオフィシャル・ブートレグ・シリーズとしてこの音源が正規発売されることになります。そのときのタイトルが「The "Royal Albert Hall" Concert」。つまり有名な海賊盤の正規発売だということを強調するためかっこ付きで表示してあるんですけど、事情を知らない人が見たらどう考えてもロイヤル・アルバート・ホールでの公演です(笑)。
今回のボックスセットにも、当然このマンチェスター公演は収録してあります。なんでもリハーサル録音を一曲追加してあるらしいです。

それで今回の目玉となるのが、本物のロイヤル・アルバート・ホールの録音というわけです。CD28~CD31が二日間を収録したもので、初日の分だけ「リアル・ロイヤル・アルバート・ホール」のタイトルでバラ売りもしてあります。海賊盤にはまったく手を出さない私としては初めて聞くことになりますけど、やはりマンチェスター同様素晴らしい演奏だそうです。どちらもCBSコロンビアが正規録音したものです。

■Michel Polnareff A L'Olympia 2016

2007年に突如としてコンサートツアーを行ったときは驚きましたけど、また十年近く経って再始動しました。2007年のツアー記録を聞く限りでは、残念ながら往年の実力は戻ってきてないと思えましたから、今回もあまり期待せずに聞くことにします。まあライヴとはいえ新しいのが出るだけでも嬉しいものです。
パリのオランピア劇場では全盛期の1972年にもライヴアルバムを出しています。伝統のある劇場で有名なところですね。

ライヴCDは二枚組で、デラックスエディションは同時発売されたベストアルバムとセットになった箱入り3CDになっています。ベスト盤なんか今さら要らないよという感じですが、一曲だけ去年の新曲が入っているのでしかたありません。
ボックスには小型のポスターとバックステージパスのレプリカがおまけに入っていて、なんだかアイドルのりですね(笑)。LPも出ていて欲しいんですけど値段がバカ高いんで様子見です。

■Elvis Presley Recorded Live on Stage in Memphis 1974

引き続き買い集めています。去年暮れに「ブルー・ハワイ」と「プロミスト・ランド」を五百円くらいで買うことができて、あとは「GIブルーズ」「エルヴィス・イズ・バック」、そしてメンフィスのライヴだけでした。
今回オークションに三百円で出ていて、これが吉塚にある古道具屋が出品者だったんで取りに行きました。送料もかからず言うことなしです(笑)。


【先月買ったレコード・CD】

■Neil Young + Promise of the Real Monsanto Years 2015
■Neil Young + Promise of the Real Earth 2016

精力的に新作を次々と発売しています。2015年の「モンサントー・イヤーズ」と翌年の「アース」はプロミス・オブ・ザ・リアルというバンドとの共演です。プロミス~というバンド名は初めて聞きましたけど若い人たちで、リーダーはウィリー・ネルソンの息子だそうです。
前者はCDとDVDのセットで、DVDではスタジオでの様子を見ることができます。「アース」は二枚組のライヴ盤です。スタジオ盤の曲を全曲演奏かというと十三曲中四曲だけで、ほかはヤングの持ち歌です。わりとヒット曲じゃないのを選曲してあります。

最近のヤングのCDはずっと紙ジャケットですね。私の持っているCDでは「Prairie Wind」(2005)が初の紙ジャケットですが、次の「Living with War」(2006)と「Chrome Dreams II」(2007)がプラケースです。これを最後に以降「Folk in the Road」(2009)からは全部紙製です。
CDの何がダメかというとあのプラケースですよねなんといっても。ジュウェルケースなどという呼び名もあるようですけどなにが宝石箱だよって感じです。蝶番の部分はすぐ割れるし、中心のCD留めが折れていたりしたら最悪です。ブックレットは取り外しにくいことこの上ないですしね。

ただメーカー側からするとこんなにコストパフォーマンスのいい容器はちょっと他に無いんじゃないでしょうかね。ソニーが考えたのかフィリップスか、まあーほんとぼろ儲けという感じでしょう。
同じ価格帯の他の商品と比較するとハードカバーの書籍あたりでしょうか。本と音楽では元手となる制作費もだいぶ違うとは思いますが、単純に二千円のCDと本とを見比べると、いかにCDが手抜きで作られたパッケージメディアであることかという印象を受けます。
それからするとディジパックや紙パッケージはコレクタブルなところがあって手にするといい感じですね。ときどきCD棚に数ミリ単位で入りきれなかったりもしますけど(笑)、紙パケはもっと増えていってほしいです。

■Paul Simon Stranger to Stranger 2016

ポール・サイモンは多作とはいえませんがコンスタントに活動しアルバムを作ってますね。これは最新作で、好評のようです。わりと手ごろな値段で出ていたので買っときました。その前に前作の「So Beautiful or So What」を聞かないと。

■高田渡 石 1973

それほど好きなシンガーというわけではないですが。「系図」(1972)までを持っていたので、この際ついでにもう一枚ベルウッドから出ている「石」も聞いてみるかとオークションをチェックし始めました。
ところがこのアルバムはわりとレア盤で、オリジナルは六千円以上付くんですね。さすがにそこまでは出すつもり無いしCDで聞こうというほどでもありませんので、キングが79年に千五百円で出した再発シリーズなら安かろうと思ったらこれもけっこうな落札価格になります。
再発盤はオリジナルと違ってシングルジャケットになってますからガタッとありがたみは落ちますけども、六千円七千円よりはましです。しかしその再発盤も帯無しで四千円くらいになることがあるんで、よほど人気のあるアルバムなんだろうと思ってました。

今回出品されたものは帯付きで開始価格も百円からでしたから、また高くなるのかなとまあだめ元で。こちらの予算はせいぜい三千円です。ところが結局千八百円で買うことができて拍子抜けです。ということは、再発盤の帯無しを高く買った人はそれがオリジナル盤だと思ってたのかもしれませんね。
今回のは帯に「ベルウッド1500シリーズ」と大きく書いてありますし、裏側から撮った写真も掲載されていてダブルジャケットではないことが明白ですから、それほど高騰しなかったんじゃないでしょうか。

■ジューシィ・フルーツ ドリンク! 1980

これはエルヴィスのライヴ盤と一緒に吉塚の店から買いました。やはり三百円です。そんなに積極的に聞きたかったものでもないんですけど、三百円なら文句ありません。
近田春夫がプロデュースして当時「ジェニーはご機嫌ななめ」がヒットしました。シンガーの女の子はガールズにいた人で、あとの三人は近田のバックバンドのメンバーです。完全に企画ものノリですね。

もうニューウェイヴ時代に入っていてイエロウ・マジック・オーケストラが大人気になっていたころですから、シングル曲のサウンドはテクノふうの歌謡曲です。アルバムでもたぶん全編そんな感じなんでしょう。意外と今の若い音楽ファンが好むような音かもしれませんね。
近田春夫はハルヲフォンを解散してソロアルバムを一枚出しヴィヴラトーンズを作ったあたりです。聞いてみたら案外聞きどころがいろいろあった…なんてことになればいいんですけども。




20170129

【今月聞いたレコード・CD】

■Primal Scream More Light 2013

去年新作を出しましたからひとつ前のアルバムってことになります。その前はライヴ盤で、これはなかなかいい演奏でした。たしか「Vanishing Point」が出た1997年ころだったと思うんですが福岡にもやってきて、ゼップ福岡に見に行きました。そのときはなんて下手くそなバンドなんだろうと思いましたけど、レコードが面白いからいいやとその後も聞き続けています。

この2013年のアルバムは「Riot City Blues」(2006)以降の流れで、ストレートでかっこいいロックンロールです。どの曲もいい出来で演奏も文句なしです。疾走感があって、車で聞くのにいいですね。
これまでグループが手がけてきたさまざまなタイプの音楽の要素も少しづつ盛り込んであるところも気に入りました。2000年代の最新モードのロックミュージックを聞くことができます。

デラックスエディションは二枚組になっており、ボーナスディスクは「Extra Light」と名付けられたミニアルバムになっています。六曲入りで、これもどの曲もよくできていて、併せて聞くとこれがまたいいんですよ。

■Simon & Garfunkel Live 1969 2008

発掘ライヴ音源もので、最初はスターバックス限定で発売されたようです。1969年のフェアウェルツアーの録音です。
このツアーがラストアルバム「Bridge Over Troubled Water」の発売直前で、タイトル曲や「So Long, Frank Lloyd Wright」を「新曲です」と紹介して歌っています。「The Boxer」はすでに先行シングルとして発売されてますから、観客の反応も微妙に違います。

曲目はそういう時期ですからすべてのキャリアからのベストヒット曲集になってるんですね。「Greatest Hits」の全曲が入ってるんじゃないかと思って比べたら、「コンドルは飛んでいく」や「セシリア」「アメリカ」など入ってないヒット曲もあるにはありました。
バックにはバンドも付いていますが、二人だけで演奏する曲が多くを占めています。「The Sound of Silence」はオリジナルどおりギターのみで歌われているところがいいですね。

ハイライトはやはり「Bridge Over Troubled Water」でしょう。観客もこの日初めて聞くはずで、ガーファンクルの完璧な歌唱に万雷の拍手が送られます。
一枚に十七曲も入っています。やはりホールでのコンサートのほうがサウンドもいい感じですね。再結成ライヴともなるとセントラルパークですからね、ちょっと規模が違います。発掘ライヴとしては1967年のニューヨークの録音も出ていますけど、曲目からいくと69年のほうが聞きごたえがあります。

■Alice Cooper Love It to Death 1971

アリス・クーパーも熱心には聞いてませんでした。そうはいっても71年から73年にかけての「Killer」「School's Out」「Billion Dollar Babies」あたりはさすがに持ってましたけど。
アリス・クーパーはザパが60年代末に作ったストレイト・レーベルの第一号アーティストのひとつということで以前から気にはなっていました。ただストレイトからのファースト・セカンドはザパがプロデュースしたり参加したりといったレコードではないため、聞いてみようというところまではなかったんですね。それにこの二枚は内容のほうも一般にあまり芳しい評価ではありません。

で、最近になってそれらを聞いてみたところ、やはりたいしたことありませんでした(笑)。まだ本人たちも何をやったらいいかよくわかってない次期という感じです。
ところがこの71年のサードアルバムでブレイクするんですね。レーベルもワーナーブラザーズに移籍して、ちゃんとしたプロデューサーが付いたからでしょう。なにしろボブ・エツリンが共同プロデューサーのひとりです。
センセーショナルな「I'm Eighteen」が大ヒットして一躍人気バンドになります。一発屋で終わらなかったのは、やはりフロントマンでバンド名にもなっているクーパーのキャラクターが受けたからでしょう。ミュージシャンとしての実力のほどはちょっとよくわかりませんけど。

このアルバムよくできてるんですね。ハードロックですけどゴリゴリのヘヴィメタルというわけではなくわりとバラエティに富んだ内容です。作曲者を見るとメンバー全員が手がけていて、決してクーパーひとりの力ではないようです。
いわゆるグラムロックのはしりですね。グラムロックといってもその語は音楽のスタイルを指すわけでもありませんから、アリス・クーパーの場合はさしずめシアトリカルロックといったところでしょうか。まあなんにせよゴシック趣味と過激な歌詞を売り物にしたキワモノ路線ですから、半分ジョークとして受け入れられていたんじゃないでしょうか。
これに続く絶頂期のアルバムをまた聞き直すのが楽しみになってきました。

■モップスと16人の仲間 1972

グループサウンズもすっかり廃れて、それぞれのバンドは身の振りかたを模索していたころです。モップスはデビュー当時から本格的なロック志向を持っていたためかそれほどメジャーなグループにはなりきれないまま終わっています。
このアルバムはラスト作だと思っていたんですが、ディスコグラフィを見るとライヴなどあと何枚か出して74年に解散してますね。タイトルどおり、ミュージシャンの友だちから提供された詞と曲で構成されています。

最も有名でヒット曲の「たどりついたらいつも雨ふり」はご存じ吉田拓郎ですね。ほかには忌野清志郎や泉谷しげる、井上陽水、遠藤賢司らの書き下ろしがあります。この顔ぶれからも想像できる通り、サウンドはロックでありながら曲調はフォークタッチです。全曲日本語です。

それで演奏はいいんですが、鈴木ヒロミツのヴォーカルがもうひとつなんですね。この人声はいいんですけど歌いかたがロック向きではなくて、ポピュラーシンガーとしてなら成功したかもしれません。しかしそれは本人のやりたい音楽とは違うでしょうから、結局解散後もシンガーとしては大成していません。六文銭の及川恒平・詞、小室等・曲の「くるまとんぼ・アンドロメダ」ではエンディングのシャウトで決めたかったんですが力及ばず。まあがんばったけどねという感じです。

モップスというとコミックソングの「月光仮面」が最大のヒット曲ですね。しかしこれ本人たちとしては不本意なレコード化だったようで、最後までコミックバンドだと思われていたパブリックイメージとのギャップに悩んでいたんだとか。
しかし皮肉なことにこのアルバムでも、つのだひろ・詞、加藤和彦・曲でTレックスふうの「大江戸冒険譚」のようなコミカルなもののほうがさまになってしまっているというところがあるんですね。遠藤賢司の「ねえ、ちょいとそこゆくお嬢さん」は半分ふざけてやっていたりして、実は本人たちもコメディタッチは嫌いではなかったはずです。

メンバーでもっとも成功を収めた人というと、ギターの星勝ということになりますね。解散後はアレンジャーに転身し、井上陽水や小椋佳などを手がけ第一人者となっています。


【今月聞いたレコード・CD】

■David Bowie ★ 2016

今ごろ聞いてます。2013年に十年ぶりのカムバックアルバムとして出た「The Next Day」からは三年というインターバルで登場し、発売と同時に本人あの世に行っちゃいました。劇的というよりは劇場型といってもいいようなボウイらしい幕切れです。内容も巷間言われているようにアグレッシヴなサウンドになっていて、死ぬまで美意識を貫いた人だったんだなと思えます。

全七曲ですがトータルタイムは四十分くらいのLPサイズです。しかもそのうち二曲は既発売のものの新録音ヴァージョンですから、新曲は五曲だけと少々物足りないですね。普通の場合だと手抜きとされてもしかたのないところですが、ここはやはり最後の力をふり絞って仕上げたんだろうと考えるべきでしょう。とにかくアルバムの形に作り上げたその執念やいかに。

しかし曲の出来自体は、ボウイとしては水準のものという感じです。いわゆるキラーチューンが無いですし、遺作としての位置付け以上の記憶は残らないんじゃないかという気はします。
そうはいっても、もし「The Next Day」やこのアルバムが出ないまま死んでしまったとしたら、評価はだいぶ違っていたでしょうね。ここまでやり抜いて真の遺作を残した人などなかなかいません。最期まで偉大なアーティストだった、ということです。

CDのジャケットは白地にブラックスターですが、LPは真っ黒です。星の部分がくり抜いてあって中のレコードが見えるようになってます。盤はクリアビニールの限定盤もありましたけど、通常のブラックビニールのほうが良くないか? と思いそちらに。レーベルもサイド2が黒一色にしてありますから、こっちを表に向けて入れればもうオールブラックです。レコードの内袋は当然透明度の高いものにしてあります。ピクチャーディスクなどによく使われる柔らかい厚手のビニール製ではなく硬いプラスチックフィルムで作ってあって、このスタイルは初めて見ました。

■Jimi Hendrix Valleys of Neptune 2010

未発表録音集で、有名な曲の別ヴァージョンや試作曲、また未発表曲も含まれています。どういうコンセプトでまとめたアルバムなのかはよくわからないんですが、エクスペリエンス・ヘンドリクスから出た例によってエディー・クレイマーによるリマスター盤ですから、音質は保証つきです。

いずれも1969年のスタジオ録音で、オーヴァーダビングはあまり無くて生々しいサウンドです。別ヴァージョンのは「Stone Free」「Fire」「Red House」などで、ツアーのためのリハーサルを録音したもののようです。「Fire」のコール&レスポンスはノエル・レディングが付けてますから、ステージのアレンジそのものです。それにしても、いくらリハーサルとはいえヘンドリクスのギターがキレまくっていてものすごいです。

■Grateful Dead Aoxomoxoa 1969

グレイトフル・デッドは苦手なバンドの一つで、人気があるのにその良さがどうもよくわからないんですよね。最初に聞いたのはもっとも有名なアルバムでライヴ二枚組の「Live / Dead」(1969)ですが、これがどうにもこうにもゆるすぎて、いったいこのわけのわからない演奏のどこがいいのかさっぱりでした。
あとから、グレイトフル・デッドも含めてそもそもサイケデリック音楽というのは大麻をキメてから聞いて初めてわかるものだというような話を聞き、なるほどそれじゃダメだと妙に納得したこともありました(笑)。

そうはいってもやはりアメリカンロックの最重要バンドの一つですから、遅ればせながらひと通り聞くだけ聞いてみようと、ファーストから洗い直ししています。
まずファーストは1967年。67年なんですね。まさにサイケデリック文化が花開いた年です。さすがにサウンドはちょっと古臭いですが、意外にもその音楽はブルーズを基本としたものです。しかし翌年のセカンド「Anthem of the Sun」もともに、やっぱりどうもユルユルで耳によくなじまないんですよ。やはりジェリー・ガルシアのヴォーカルがあまりにも下手すぎて親しみが持てないんですね。

ところが次の69年のサード「アオクソモクソア」は気に入りました。サウンドは相変わらずですが曲が粒ぞろいで、単純にいいアルバムだと思える出来ばえです。前に聞いたアルバムではもう一枚、1970年の「American Beauty」があって、実はこれは好きなレコードでした。これも曲が良かったんですね。
結局、ステージでの長いジャムが西海岸のヒッピーたちに受け入れられていたスタイルなんだろうと思うんですけども、それを記録したライヴ盤よりも、キャッチーな曲の入ったアルバムなら歌が下手でもそれなりに聞けるってわけです。

翌年に出る「Live / Dead」にも収録された「St. Stephen」、トラッドフォークの雰囲気の「Dupree's Diamond Blues」など、曲もいいですが演奏も多彩でアメリカンロックらしいです。一曲だけ8分を超える奇妙な曲があって、これがなんだかチベットの坊主がマントラを唱えているような代物です。無伴奏で延々と続きますから、ここはがまんがまん(笑)。この一曲を除けば、ラストの「Cosmic Charlie」までどの曲もポップでなかなかいけます。

■Sound City - Rael to Reel 2013

サウンド・シティはロスアンジェルスにある古いレコーディングスタジオで、かつては有名ミュージシャンが使っていたところです。1990年ころにニルヴァーナが「Nevermind」を録音したスタジオだということで再び脚光を浴びたものの、その後録音機材のディジタル化が進んで正真正銘の過去の遺物となってしまい、閉鎖寸前のところまでいきます。
そこで元ニルヴァーナのデイヴ・グロールが、アナログレコーディングの価値を見直そうとこのスタジオを記録映画として残すため自ら監督したのが「Sound City - Real to Reel」です。

肝心の映画のほうは見てないんですけども、サントラ盤に相当するCDが出たので音だけ聞いてみました。デイヴ・グロールにはなんの思い入れも無いんですが、一曲ポール・マッカートニーが参加している以上聞かないわけにもいきません。
ただほかの参加者は若いミュージシャンが多くて知らない名前ばかりです。ここで「噂」を録音したスティーヴィー・ニックスが一曲歌ってます。

曲はどれもニルヴァーナ以降のハードロックのスタイルです。この手はなんて呼ぶんですかねー以前はグランジロックとか言ってましたけど、今もそれで通用するんでしょうか。
サウンドはかなり激しいとはいえ基本的にどれも軽い曲調で、ハードなだけでヘヴィじゃありません。やっぱり最近の「この手」はぜんぜん聞く気になれないんですよね、面白くないですから。

そのマッカートニーが歌っている「Cut Me Some Slack」はこのアルバムのためにマッカートニーやグロールが共作した曲で、「Helter Skelter」ばりのシャウトが聞けます。でもライナーの写真を見るとマッカートニーはウクレレみたいなシガーボックスギターを引いていて、本気なんだか冗談なんだかよくわかりません(笑)。




















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